推しの悪役令嬢を幸せにします!

みかん桜

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シスコン気味のお兄様

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 まずお兄様の婚約者情報をどうやって手に入れるかよね。いくら仲が良くたって5歳の私が婚約者の話を直接本人に聞くのはちょっとねぇ…。

 そうこうしているうちに起床時間となった。着替えて食堂に向かうのかと思っていたのに、今日は部屋というかベッドから出ちゃだめと。

「もう大丈夫なのに」
「絶・対・安・静ですっ!!」
「ソフィー、もしかして昨日のこと怒ってる?」 
「怒ってません…ただ…誰って聞かれてとてもショックでした」

 そうよね。今の私よりは年上だけどまだ10歳の女の子なんだもの。たとえ一瞬でも自分の事を忘れられるなんてショックよね。申し訳ない気持ちがあるのはもちろん、頭の中ももう少し整理したいし、今日は言うことを聞いておこう。

 食後ベッド住民になりつつ、前世の私が読んでいた、いくつかの悪役令嬢逆転ハッピーエンドの話しを思い出していた。異世界へ転生した日本人だったり、時間が戻ってるループものだったり…一貫して言えるのは常識を兼ね備えているから幸せになれたってことよね。

 常識を備えるのは最低条件として………あれっ? 私、悪役令嬢を幸せにするにしてはこの世界の事を何も知らなすぎるっ!

「って当たり前よね。私ってまだ5歳なんだもの」
「何が当たり前なの?」
「お、お兄様っ!?」
「勝手に入ってごめんね。扉の外でちょうどソフィーと会って入れてもらったんだ」

 さすが未来のイケメン様、幼い時から整った顔立ちだわ。

「エレナ? ずっと僕の顔を見ているけどどうしたの?」
「あっ、ごめんなさい。お兄様ってカッコいいなって思って見つめてしまいました」
「ふふ。エレナはいつ見ても可愛いよ」

 そう言って頭を撫で、チュッと頬にキスをしてから、ギュッと抱きしめてきたお兄様…

 ん? もしかしてシスコン疑惑………あり?
 お兄様に抱きしめられるのは日常茶飯事で、むしろそれが当たり前のように過ごしてきた…。

 今まで気付かなかったけど前世を思い出した今なら分かる。実の兄に見惚れた私も私だけど、その大半は無関係の前世の私。百歩譲って頭を撫でるところまでは良いとしよう。その後の行動はどう考えても……。

「お兄様、今日はお勉強お休みですか?」

 この国の貴族は5歳から家庭教師がやってきて勉強が始まる。
 
「時間をずらしてもらったんだ。だってもうすぐお医者様が来るからね。一人じゃ不安でしょ?」

 そういえば以前風邪をひいた時、医者が怖いとずっとお兄様に手を握ってもらっていたんだった。お父様もお母様も留守中で、頼れるのがお兄様しかいなくて…もちろん使用人はいたし2人きりで留守番をしていたわけじゃないけれど、うちは貴族家庭では珍しくかなり仲が良いから。

 でも何で医師を怖いと思ったんだろうか? 侯爵家お抱えの医師だから身元がちゃんとしているはずなのに。

「ずっと手を握っていてあげるからね」
「ありがとうございます」

 その理由はすぐに分かった。到着した女医は全員部屋の外に追い出し、兄の抵抗虚しく私と2人きりの状況を作り上げ、それまで無表情だったのに豹変したのだ。

「目が覚めてよかったわ。エレナちゃん、お母さんが診てあげるからね」
「…………先生は私のお母様ではないです」
「こらっ!! 2人きりの時は先生じゃなくてお母さんと呼びなさいって前にも言ったでしょう」

 この先生、前々から私にお母さん呼びを強要してくるんだったわ。正直意味が分からなかったけど、お母さんと呼ぶだけで機嫌が良くなりちゃんと診察してくれるので言うことを聞いていたんだった。

「お、お母さん」
「大丈夫よ、もうすぐずっと一緒に過ごせるからね。そしたらずっと側でお母さんが看病してあげるから」

 どういう意味?

「ここに住むの?」
「そうよ。だってエレナちゃんもライナス様もまだ小さいから、お母さんが必要でしょう」

 母親はいるんだけど…この女医は私だけでなくお母様も診ているはずだから、存在を知らないってことはありえない。もしかして母の健康状態がよくないのだろうか? だからってこの人とずっと一緒に過ごすことになる意味が分からないが。

「お母様は体調がよくないのですか?」
「これから悪くなるの」

 えっ!? まさか持病持ちで徐々に悪化しているの? お母様まだ若いのに…。

「そんなことより旦那様はいらっしゃるかしら?」
「? お父様のこと?」
「そうよ。昨日はお仕事で外出されていて、屋敷にいなかったでしょう?」

 お母様やこの屋敷に仕えている使用人が旦那様と言うのは分かる。この人は侯爵様と言うべきでは? それにそんなことって…。

「どうしてお父様に会いたいの?」
「私達の娘のことはちゃんと私から報告すべきだからよ」

 ん? 私達の娘…? 私やお兄様の金色の髪はお父様譲りで、碧い瞳はお母様譲り。この人の色は一切持っていないし、いくら恋愛に鈍い私でも分かった。

「お、お母さんは………」
「なぁに?」
「………お父様を好きなのですか?」
「…? 当たり前でしょう」

 やっぱり。

「だから私とお兄様は、お母さんの子供になるの?」
「そうよ。でもこの事はまだ2人だけの秘密よ。約束守れるわよね?」
「う、うん」

 こっわ…とても拒否できる雰囲気じゃない。この人やばい。これは幼い私が恐怖に感じてしまうわね。ここはやり過ごして後でお父様に相談しよう。

「お兄様…」

 お父様が執務室にいると知った医師が意気揚々と向かった後、お兄様が部屋に入ってきて手を握ってくれた。今はこの手の温もりが安心する。

「どうしたの? やっぱり怖かった?」
「うん…」

 お母さんと呼ぶように、今まではそれだけの要求だった。それでも怖くて、2人きりになりたくなくてお兄様を頼ったんだわ。

「内緒よ? 先生に2人の時はお母さんって呼びなさいって言われるの」
「えっ?」

 本当はそれだけじゃないけどね。出来るだけ早くお父様に話したいから、部屋から出るためにもお兄様を動かさなければ。

「お父様にお話した方がいい? お兄様一緒にいてくれる?」
「もちろんだよっ!」



 本当はすぐにでも話したかったけれど、医師は粘りに粘って昼食までこの屋敷で過ごし、お兄様も授業があったので夕方にお父様の執務室へと向かった。

「2人してどうしたんだい? エレナ、起き上がって大丈夫なのか?」
「はい。実は…」

 そこで医師との会話をお父様に話すと、かなりお怒りの様子。

「後はお父様に任せなさい。エレナ怖い思いをさせて悪かったね」
「大丈夫です。前の時はお兄様が側に居てくれたので怖くなかったです」
「エレナっ! これからも僕がエレナを守ってあげるからね」

 本当お兄様って抱きしめるの好きだなぁと思っていたこの時の私は、この一件から兄のシスコン具合が酷くなるとは露程にも思っていなかった。





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