推しの悪役令嬢を幸せにします!

みかん桜

文字の大きさ
37 / 44

王女殿下、追放

しおりを挟む
「っ!! エレナ様! な、何が…何があったのですか!?」
「その前に、水で濡らしたタオルと、氷嚢を作ってきてもらえるかしら」

 悪いことなんてしてないのにコソコソと侯爵家の馬車まで戻り、熱湯紅茶をかけられた場所には冷たいタオルを、たんこぶには氷嚢で冷やそうと、ソフィーに厨房まで走ってもらうことにした。

「それで、どうされたのですか?」
「たんこぶも火傷も、お茶会の相手にやられたの。ねぇ、ソフィー? この火傷、痕に残るかしら?」
「そんなっ! 火傷痕は大丈夫です。料理人が愛用している火傷に効く塗布薬があるので、必ず治します!」
「ふふ。心強いわ。ありがとう、ソフィー」

 塗布薬がほしいのはもちろんだけど、ちょうど今お父様が王都に来ている。今日のことはできるだけ早く報告したかったのもあって、学園の寮ではなく侯爵家の王都邸へと馬車を走らせた。




 家令からの連絡で王都邸に到着したお兄様と共に、お父様の執務室へと向う今、お兄様のシスコンが炸裂中。

「許せない」
「あの、お兄様? ちょっと離れてくださいませ」
「エレナ! なんて酷いことを言うんだ。お茶会に行くと今日になって知らされ、また酷いことを言われやしないかとずっと心配していたんだよ? そんな日に緊急で呼び出された俺の気持ちが分かるかい? 痛みは? まだ痛むか?」
「それは…心配かけてごめんなさい。早めに冷やせたお陰で痛みはもうありません」

 でもね、後ろから抱きしめられながら歩くのってすっごく歩き辛いの。お兄様じゃなくルーク様なら……って、こんな時に私ったら何考えてるのかしら。

「エレナ? 顔が赤いよ? 熱が出てきちゃったのかな」
「だ、大丈夫です。それにもし熱があったとしても、報告を後回しにはできません」
「無理はしちゃダメだからね?」

 結局執務室の前までお兄様に抱きしめられてしまった。なんだかなぁ。

「ライナス…」
「なんです? 父上、エレナは熱があるので早く話を進めましょう。さぁエレナ、お兄様にもたれなさい」
「………」

 あーあ。お父様、呆れて頭を抱えちゃったじゃない。学園に入ってからシスコン具合が落ち着いていたのにコレだものね…。でも今日に関しては私も心配かけた自覚があるし、お兄様に甘えられるのもあと少しだから…ご希望通りもたれてあげよう。

 ……決して私がブラコンだからじゃないよ?


 報告を終え、お兄様と一緒に部屋に戻ると、早々にベッドに寝かされてしまった。どうやら本当に熱があったみたい。

 さすがお兄様ね、というべきなのか…。




 そして驚くことに3日間も熱が下がらず、私が寝ている間にここ数ヶ月の悩みが一気に解決していた。


 コンコン

「エレナ? 入るよ」
「っ!! ちょ、ちょっと待ってください」

 えっ!? えっ!? 今のってルーク様よね?

 待って待って。私、この3日間湯浴みをしていないのよ!? それに顔も髪もぐちゃぐちゃだし…ソ、ソフィーを呼ばなきゃ!!

「失礼いたします」
「ちょっ! ってソフィー」
「はい、ソフィーです。ルーク様には応接室でお待ちいただいていますのでご安心ください。準備が整い次第お呼びしましょう」

 せっかく来ていただいたのだし、私が応接室に行くよって伝えたら全力で拒否られてしまった。病み上がりだから私が移動する必要はないらしい。きっとお兄様の指示ね。

「とはいえルーク様にお会いする前に顔と髪を整えたいかと思いまして」
「さすがね」
「好きな人には可愛い姿で会いたいってやつですね」
「っ!! ソフィー気付いてたの?」

 ふふ、じゃないわよ。私ってそんなに分かりやすいのかしら?


 準備が整い、ベッドの上で起き上がって待っていると、慌てた様子で部屋に入ってきたルーク様。

「エレナっ!」

 私に駆け寄り、優しく抱きしめてくれるルーク様は、今まで見たことがないくらいに憔悴している。私の前髪や後髪を持ち上げ、額や顔、首に火傷の痕が残っていないかを確認し、ようやく安堵のため息を吐かれた。

「本当に良かった…」
「ご心配おかけしました」

 私の肩に隠すように顔を埋めたルーク様は……今にも泣きそうだった。こんな事になるなら、お茶会の招待が来た時点でお兄様かルーク様に相談すればよかったわ。

「ルーク様、目の下にくまができています。ちゃんと眠れていますか?」
「いや。心配で心配で…全く眠れなかったんだ」

 不謹慎だけど…こんなにも心配してくださるなんて、ちょっと嬉しいかもしれない。

「怪我をした上体調も悪くなったし、仕方ないと分かってはいるんだ。でもエレナに何かあった時、一番に俺を頼って欲しいと、今回のこともライナスではなくエレナから聞きたかったと、そう思ってしまう自分も許せなかったんだ」
「ルーク様…」

 ダメだわ。いつも頼りになるルーク様が弱っている姿を見て、可愛いなんて思ってしまう。

 しばらく抱きしめられたまま過ごし、落ち着きを取り戻したルーク様からあの後の話を聞かせてもらった。

「実はね、王女殿下が帰国されることになったよ。もちろん、我が国の第三王子殿下との婚約も白紙だ」
「えっ!!」

 どうやら王女であるサナ様を迎えに来た騎士が、あの後王太子殿下に報告をしたそう。なんでも侯爵令嬢である私が、王女とのお茶会の場で紅茶まみれになっているにも関わらず、その事が城内で一切話題にならないことを不思議に思ったようだ。

「あの騎士は王太子殿下付の近衛だったのですね」
「あぁ。それに学園在学中は友人として共に過ごしていたそうだよ」

 騎士からの報告があった直後にお父様から至急で謁見の申込みがあり、以前から相談を持ちかけていたこともあって、陛下も含めて話し合いを行い、結果王女殿下に沙汰を下すことになったそう。

「来国されたばかりの頃とは人が変わったようだ、と王族の皆様も思っていたそうだ」
「それはきっと、中々お兄様を手に入れられなかったからでしょうね」
「だろうね」

 本当はお兄様狙いだって事も詐欺行為に当たるけど、私の証言しかないから問題にできなかったみたい。録音や録画機器があればに立派な証拠になったんだろうけど、この世界にはカメラすらないものね。

「元々あちらの強い希望で結ばれた婚約だったし、侯爵令嬢への暴力も看過できない。婚約は問題なく白紙にできたから、エレナは何も心配することないよ」
「はい。お気遣いありがとうございます」

 王女との婚約がなくなったとはいえ、第三王子殿下の婚約者が元通りになることはないそう。

「何もしていないとはいえ、協力関係になってしまったことに変わりないからね」

 元婚約者の令嬢も第三王子殿下も可哀想だけど、これは声をかけられた時点で先に相談しなかった伯爵家の落ち度。自国より他国の王族の言う事を優先しちゃうのは良くないし、残念だけど自業自得。


 それにしてもサナさんさぁ…被害者の私が言うことじゃないけど、本当、もっと色々バレないように動こうよ。

 彼女には許し難いことをされたし国に帰ってくれて良かったとしか思わないけど、お米の存在を教えてくれた事だけは感謝するわ。国に帰ったら幽閉されちゃう可能性もあるけど、もっと王族らしく振る舞いなね。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は反省しない!

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。 性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

もふもふ子犬の恩返し・獣人王子は子犬になっても愛しの王女を助けたい

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
カーラは小国モルガン王国の王女だ。でも、小国なので何かと大変だ。今国は北の大国ノース帝国と組んだ宰相に牛耳られており、カーラは宰相の息子のベンヤミンと婚約させられそうになっていた。そんな時に傷ついた子犬のころちゃんを拾う王女。 王女はころちゃんに癒やされるのだ。そんな時にいきなりいなくなるころちゃん。王女は必死に探すが見つからない。 王女の危機にさっそうと現れる白い騎士。でもその正体は…… もふもふされる子犬のころちゃんと王女の物語、どうぞお楽しみ下さい。

折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!

たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。 なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!! 幸せすぎる~~~♡ たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!! ※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。 ※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。 短めのお話なので毎日更新 ※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。 ※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。 《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》 ※他サイト様にも公開始めました!

実家を追い出され、薬草売りをして糊口をしのいでいた私は、薬草摘みが趣味の公爵様に見初められ、毎日二人でハーブティーを楽しんでいます

さら
恋愛
実家を追い出され、わずかな薬草を売って糊口をしのいでいた私。 生きるだけで精一杯だったはずが――ある日、薬草摘みが趣味という変わり者の公爵様に出会ってしまいました。 「君の草は、人を救う力を持っている」 そう言って見初められた私は、公爵様の屋敷で毎日一緒に薬草を摘み、ハーブティーを淹れる日々を送ることに。 不思議と気持ちが通じ合い、いつしか心も温められていく……。 華やかな社交界も、危険な戦いもないけれど、 薬草の香りに包まれて、ゆるやかに育まれるふたりの時間。 町の人々や子どもたちとの出会いを重ね、気づけば「薬草師リオナ」の名は、遠い土地へと広がっていき――。

追放令嬢の発酵工房 ~味覚を失った氷の辺境伯様が、私の『味噌スープ』で魔力回復(と溺愛)を始めました~

メルファン
恋愛
「貴様のような『腐敗令嬢』は王都に不要だ!」 公爵令嬢アリアは、前世の記憶を活かした「発酵・醸造」だけが生きがいの、少し変わった令嬢でした。 しかし、その趣味を「酸っぱい匂いだ」と婚約者の王太子殿下に忌避され、卒業パーティーの場で、派手な「聖女」を隣に置いた彼から婚約破棄と「北の辺境」への追放を言い渡されてしまいます。 「(北の辺境……! なんて素晴らしい響きでしょう!)」 王都の軟水と生ぬるい気候に満足できなかったアリアにとって、厳しい寒さとミネラル豊富な硬水が手に入る辺境は、むしろ最高の『仕込み』ができる夢の土地。 愛する『麹菌』だけをドレスに忍ばせ、彼女は喜んで追放を受け入れます。 辺境の廃墟でさっそく「発酵生活」を始めたアリア。 三週間かけて仕込んだ『味噌もどき』で「命のスープ」を味わっていると、氷のように美しい、しかし「生」の活力を一切感じさせない謎の男性と出会います。 「それを……私に、飲ませろ」 彼こそが、領地を守る呪いの代償で「味覚」を失い、生きる気力も魔力も枯渇しかけていた「氷の辺境伯」カシウスでした。 アリアのスープを一口飲んだ瞬間、カシウスの舌に、失われたはずの「味」が蘇ります。 「味が、する……!」 それは、彼の枯渇した魔力を湧き上がらせる、唯一の「命の味」でした。 「頼む、君の作ったあの『茶色いスープ』がないと、私は戦えない。君ごと私の城に来てくれ」 「腐敗」と捨てられた令嬢の地味な才能が、最強の辺境伯の「生きる意味」となる。 一方、アリアという「本物の活力源」を失った王都では、謎の「気力減退病」が蔓延し始めており……? 追放令嬢が、発酵と菌への愛だけで、氷の辺境伯様の胃袋と魔力(と心)を掴み取り、溺愛されるまでを描く、大逆転・発酵グルメロマンス!

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...