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浴衣デート
しおりを挟む「祭?」
「そう!今度の土日にやるじゃん?一緒に行こ?」
目の前に差し出された、明らかにどこかに貼り付けてあったのを引っ剥がしてきたであろうチラシを見て顔をしかめる。
毎年やっている近所の神社での祭だ。
そういえば近所の人がそんな事を言っていたような。
小さい頃は親と一緒に行っていたので、懐かしいから行ってみたい気もするが……
「嫌だ」
「えっ、やだ!」
「は?」
嫌だというセリフに嫌だと返されてしまった。
「やだやだ一緒に行きたいー!」
「だからやだって!なんでオレが」
「森とだから行きたいんじゃん好きな人と一緒に行きたいじゃん一夏の思い出作りたいじゃん!?」
「まだ梅雨もあけてねえけどな」
「あけてなくても夏なの!夏っていったら祭なの!」
「意味わかんねえ」
確かに夏と言えば祭だけれども。
「とにかく嫌ったら嫌」
「なんで!?別に浴衣の森ちゃん楽しみだなとか、隙間から見えるうなじとか胸とか脚とか期待してないよ!?夜道だから道端でいちゃいちゃしてても目立たないかなとかうっかり人気のない場所に連れ込んじゃおうかなとか土曜日の夜そのままお持ち帰りしちゃおうとかも考えてないよ!?」
「絶対考えてんだろお前ええええ!!!絶っっ対やだ!誰がこんな危険人物と一緒に行くか!何されるかわかったもんじゃねえ!」
「……へー、期待してんの?」
「は!?」
相変わらず妄想垂れ流しな高塚のセリフに怒鳴ると、隣から石野にぼそりと呟かれた。
「期待ってなんだよ!」
「何かされるかもってちょっとでも思ってるから嫌がるんだろ?キスとか、期待してんじゃねえの?」
「な!?」
「マジで!?何それオレ攻めちゃって良いって事!?」
「ちが」
何目輝かせてんだこの変態本当に黙れ。
「そっか、シチュエーションって大事だもんね!雰囲気って大事だもんね!森がそんなの期待してたなんてオレ知らなかった!」
「だから違うっつってんだろうがあああああ!!!大体、何でオレがこんな変態相手にき、期待なんか……!」
「じゃあ行けるよな?なんも心配する事ないもんな?」
「行ってやろうじゃん祭くらい…………っ、あ!!」
言った後でしまったと口を押さえるが、当然もう遅い。
遅すぎる。
「だとよ、良かったな高塚」
「石野おおお心の友よ!!」
「抱きつくな鬱陶しい」
普段から助けてるんだか変態をけしかけてんだかわからない彼だが、今日の気分は後者らしい。
ニヤリと笑う石野に心底むかついた。
*
そして土曜日。
朝から腹が立つくらいの快晴で、夜どころか明日まで雨の降る確率はゼロパーセント。
夕方の今も綺麗な夕焼けが見える、まさにお祭り日和。
お天道様には悪いが今日ばかりは呪ってしまう。
ちくしょうなんて思いながら、迎えに行くから絶対待っていてねと釘をこれでもかと刺した高塚を待つ。
律儀に待たなくても逃げ出してしまえば良かったんじゃないか、なんてよく考えなくても出せる結論だが、それによって週明けにクラスメートから総攻撃を受けるのは嫌なので言われた通りにする。
来て欲しくなかった人物は、六時を少し回ったところでやって来た。
「………何その格好」
「似合う?」
玄関の扉を開けて出た一言目。
濃い藍色の浴衣を身につけ手に大きな荷物を抱えた高塚がにっこりと笑う。
似合ってはいるがそんな事を素直に口に出すオレではない。
「あらあ、高塚くん素敵ねえ。よく似合ってるわあ」
「ありがとうございますー」
背後から母が顔を出した。
高塚がお気に入りらしく、王子様みたいねかっこいいわね、連れてらっしゃいよ、としょっちゅう言われる。
母よ、あんたの息子はその王子様に貞操狙われてるよ。
「あ、それで、これが例のやつです」
「あら、あらー、可愛い!でも本当に良いの?」
「もちろん!」
「?」
和気あいあいと話し、抱えていた荷物を母に手渡す高塚。
そして母と共にこちらを見て再びにっこり。
「……な、何?」
嫌な予感がする。
そしてこんな時の嫌な予感は、得てして当たるものである。
*
※高塚くん視点
「嬉しいなあ森とデート!」
「デートじゃねえよ!」
うきうきと森の隣を歩く。
今日はいつも以上に気分が良い。
何故なら。
「なんで?デートでしょ、浴衣デート」
「お前が無理矢理着させたんだろうが!」
そう、森も浴衣を着ているから。
淡い緑色のそれは、オレが昔着ていたもの。
少し小さくなってしまっていたのだが、どうやら森にはぴったりな様子。
それを知った時のむっすりとした顔が物凄く可愛かった。
女の子ならまだしも、高校生男子が二人で浴衣を着てお祭りに向かう姿は結構目立つらしく、さっきからちらちらと多くの視線を感じている。
あんまり見ないで欲しいなあ、森はオレだけのもんなんだから。
それにしても本当に可愛い。
「頭おかしいんじゃねえの」
おっと口に出ていたらしい。
けっ、と吐き捨てられるのも一体何度目か。
「でもさーやっぱ浴衣っていいよねーうなじとかさあ、足首とかさいっこー」
「……」
「ってああああ待って森ちゃん!」
思わずはあはあと呼吸を乱すと、無言ですたすたと先を行かれた。
慌てて駆け寄る。
「酷いなあ置いてかないでよ」
「お前が変な事言うからだろ」
「変な事じゃないもん本当にそう思ってんだもん」
「きもい」
「こんなに愛してるのに!」
「はっ」
鼻で笑われた。
最近森って石野に少し似てきた気がする。
だからって可愛さは石野とは比べものにならないんだけど。
「あ、森ちゃんたこ焼き食べる?」
歩いていくうちにいつの間にか出店の並ぶ通りへと辿りついていて。
あちこちから漂う良い匂いに、そういえばご飯食べてないから腹が減ったなと思って言ってみると。
「……食う」
「……!」
少し考えた後に、ちらりとこちらを見てぼそりと呟く森。
なんでもないしぐさなんだろうけど何故かどきゅんと胸を打ち抜かれた。
(か、かかかかかわいいなんだこのこほんとかわいいどうしてくれようかわいい!)
再びはあはあはあと呼吸が乱れる。
鼻血出しそうになったけれど、ぐっと堪えてたこ焼きを買いに行く。
「はい森ちゃん、あーん。熱いから気をつけてね」
「ふざけてんのかバカにしてんのかそんな事すると思ってんのか思ってんならちょっと顔貸せ」
「や、やだなあほんの冗談じゃん」
九割本気だったけど。
殴られそうになって落とすところだったたこ焼きを死守。
ふーふーしながら食べてる口尖ってるよかわいいなあ。
ちゅーしたい。
食べた後に口の周りを舌で拭うのも相変わらずで、暑さからつーと首筋を流れ落ちる汗にごくりと喉が鳴る。
「……」
オレが舐めて綺麗にしてあげたい。
口の端っこから、唇、歯に歯茎、舌に至る隅々まで。
途中溢れ出てしまった涎も拭って、首筋に顔を埋めて森の匂いを肺いっぱいに吸い込んで。
浴衣の裾を割って両足の間に体滑り込ませて、襟を崩しながらしっとりと汗で濡れた肌を辿って段々と下へ下へ……
「……高塚?」
「!!!」
森の声にびくりと震える。
危ない危ない妄想の世界に旅立ってた。
あっちでも色っぽいから止まらなくなっちゃうよ。
「どうした?」
「えっ、あ、ううん!なんでもない!森ちゃんこそどうかした?」
「はい」
「ん?」
「ジュース。喉渇くだろ?」
「あ、ありがと」
いつの間に買ったのか。
紙コップを手渡されて飲む。
(………ん?)
見れば紙コップは一つ。
あれ、これはもしかして、
「あ、全部飲むなよ?オレも飲むから」
ああああああビンゴか!!!
ていうか、か……
(間接キス……!!!)
何これ誘われてんの!?
あんなに警戒してたのに間接キスとかありなの!?
ほんとのちゅーもして良いって事!?(作者注※ド勘違いです)
「っ、うわ!?」
「あっ」
テンションが上がって少しこぼしてしまった。
「ご、ごめん森ちゃん」
謝りながら森を見て。
「……」
固まった。
「いや、大丈夫。ちょっとかかっただけだし」
言いながら、滴が浴衣に付かないよう僅かに襟をはだける姿になんだかもう色々、本当に色々なものがぷっつりと切れた。
「浴衣も大丈夫」
「森」
「あ?何、もうちょっと飲んでもいいよ」
持っていた紙コップを森に持たせる。
「……高塚?」
「何?」
「な、何っつーか」
目が据わっているのだろう。
次いでがしりと腕を掴み、完全に逃げ腰の森にそのまま顔を寄せる。
「―――…っ!?」
そしてジュースの飛んだ胸元を、舐めた。
周りから悲鳴のような声があがるが、聞こえない。
そんな事より……
(やばいうまいもっと舐めたい)
ジュースがうまいのか森がうまいのかわからないが、もっともっと欲しくなる。
驚いた森がびくりと震え、その拍子にジュースが更にこぼれる。
「おまっ、何す……!?」
「またこぼれた」
「っ」
「うまそー」
「っ、っ」
と、今度は手に口を近付けたのだが。
「何してんだ変態いいいいいいい!!!」
「いっ……たあああああああ!?」
森が反撃しないなんてありえるはずがなく、紙コップを持っていた手で顔面にストレートを決められた。
頭からびしょびしょになったが、おかげで目が覚めた。
自分が今何をやらかしたのかを途端に自覚する。
こんな人目のあるところでオレってば何て事を……!(怒らせたのはそこだけじゃない)
「ごごごごめっ」
「ごめんで済んだら警察はいらねんだよ強制猥褻罪でぶち込まれてこい!」
「そんな!オレは森ちゃんにぶち込みた」
「黙れえええええ!!!」
この後、森から変態た痴漢だと呼ばれちょっと触ろうものならいつもの倍以上にぼこぼこにされ、生傷の絶えない日が暫く続いた。
end
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