高塚くんと森くん

うりぼう

文字の大きさ
26 / 71

一歩進んで半歩下がる①

しおりを挟む



唇と唇が触れた。
所謂キスというやつだ。

生まれてこのかた、少し良いなと思う子はいても友達同士でわいわいしているのが楽しかったオレに経験なんてあるはずがなく、これからも暫くはないだろうなあ、なんて考えていたのに。

つい先日それを体験した。

したというのも憚られる程のほんの一瞬の触れ合い、それも事故に近い。
けれどオレを動揺させるには十分な衝撃だった。

いや、百歩譲ってキス自体は良いとしよう、良いんだよ別に夢も希望も抱いてなかったからしちゃったのは良いんだ。

問題なのは……

「なー、お前らなんかおかしくね?」
「「……!!!」」

修学旅行から帰ってきて早一週間。
いつものように昼休みを過ごしていた時の石野の言葉に高塚共々ぴしりと固まった。

「な、何言ってんだよそんな事ねえよ!」
「う、うんっ、全然!いつも通り!」

ぎくしゃくとどもりながら告げると、ますますこちらを見る目が疑わしいものになっていった。

実はあれがあってから高塚とはまともに接していない。
オレがなんとなく避けているのもあるし、ちょっかいを出してくる高塚の方もなんだかぎこちないのだ。
それは例えば以前ならば抱きついてセクハラかましてくる奴をオレが殴り蹴り撃退する、というのが常だった。
セクハラは変わらずあるけれども必要以上に体には触れない、目が合うと即座に逸らされる。

残念なわけでは決してないが、なんだか調子が狂ってしまう。

「……怪しいな」
「うっ」
「あ、オレ、トイレ行ってくる!」

じとりとした視線に堪えきれなかったのかさっさと逃げる高塚。

オイ待て逃げるな、つか逃げたいのはオレの方だ。

後を追い掛けて出て行くのはあまりにも不自然すぎるので、石野と目を合わせないようにする。
それでまた疑いの眼差しを受けてしまった。

「……森さあ、絶対あいつと旅行中なんかあっただろ」
「な、ない!」
「嘘つけ。バレバレなんだよ二人してきょどりやがって」
「き、きょどってなんか……」
「もしかしてちゅーでもした?」
「ぶほ……っ!?」
「え、あれ、マジ図星?」

さらりと言われたセリフに飲んでいたお茶を噴き出してしまった。

「そうかーやっちゃったかついに」
「いや、違……!」
「高塚があの様子って事は事故か」

あいつが自分からけしかけたならバカみたいに自慢して回るだろうし。
あれか、最後の夜にお前ら二人して固まってた時か、なんて。

一部始終を見ていたんじゃないかというくらいに言い当てていく石野。
なんでそこまでわかるんだこいつ。

「つか、な、なんでそんな冷静なんだよ石野!?」
「だって他人事だもん」
「でも、普通男同士でってなったら……」
「気持ち悪いと思う?」
「そんなの当たり前……」

今更何聞くんだと言おうとしたのだが。

「じゃあ森は気持ち悪かった?」
「え?」

重ねてそう聞かれ、思わず言葉に詰まってしまった。









結局なんの言い訳も出来ずに昼休みが終わり、授業内容なんてろくに頭に入らずあっという間に掃除の時間。
たっぷりとつまったゴミ箱の中身を捨てに行く最中ですらあの事を考えてしまう。

ここ最近頭がこんがらがって、自分の感情がわからない。
そもそも何故高塚まであんなに気まずそうなのかがわからない。
あいつの事だからデレデレと脂下がった顔で

『しちゃったね』

とか言いそうだったのにそれもない。

あんなに触れられるのが嫌で仕方なかったのに、いざそうなると少し寂しいと感じてしまっている。

(……っていや寂しくねえだろ!)

ちょっと待てオレ、と些か乱暴にゴミを捨てる。
なんだ寂しいってありえねえ。
寂しくねえよこれが普通だ、過剰なスキンシップなんてオレは求めてない。
そうだ断じて求めてないはずだと強く頷き教室へと戻る途中で。

「森、ちょっと良いか?」
「……?」

突然誰かに呼び止められた。









旅行最後の夜のあの出来事からまともに森の顔が見れない。
事故だったけれど確実に触れた唇が信じられなくて、オレ自身暫く固まってしまっていた。

(いっつもだったらやっちゃったー!とか言って喜びまくるのに……!)

なのに何故こんなにも森と接する時にぎこちなくなってしまうのかというと、単純に怖いから。

石野にお前らおかしいと言われてぎくりとした。
あいつの事だから、きっと何があったのかをなんとなく察しているだろう。
思わずトイレに行くなんて嘘をついて逃げ出してしまったけれど、後から質問責めにあうのは目に見えている。

キスなんて初めてじゃないのに情けない。

森だと何もかもが初めてのように感じてしまうのは、やはり本気で好きになった相手だからか。
そもそも散々セクハラかましてきて今更だが、露骨に迫って本気で拒否されたらと考えると怖くて堪らない。

(まあ、毎日気持ち悪いとかうざいとか言われまくってたけどさ)

それでもなんだかんだで普通に会話をしてくれるだけで嬉しかったのに。
今後それすらもしてくれなくなったらどうしよう。
と、悩んだのも束の間。

(……森の唇柔らかかったなあ)

森との初キスを思い出してにんまりと緩まり、しまりのなさすぎる顔を浮かべた。










(……誰だっけ?)

振り向いた先にいた男をじっと見る。
どこかで見た事があるような気がしないでもないが、思い出せない。
名前を知っているという事は、以前会った事があるのだろうか。
頑張って記憶を呼び起こすこと数秒。

(………あ!)

思い出した。
オレに告白してきた趣味の悪い先輩だ。
同時に前回の気持ち悪さもこみ上げてきた。
警戒しつつ一定の距離を置いて対峙する。

「……なんですか?」
「オレ、お前の事諦められなくて……」

なんて言われても困ってしまう。
オレにその気は全くない。
というかしつこいなこいつ一回断ったんだから諦めろよ。

「森……!」
「え?」

無言でそれを訴えていたらいつの間にかすぐ傍に寄ってきていた先輩にがしりと両肩を掴まれ……

「――‥っ」

鼻息荒く寄ってきた。

「ちょっ!?」
「好きなんだ、なあ、なんでオレじゃ駄目なんだ!?」
「てか近……!」
「あの後もしかしたら本当は高塚と付き合ってるんじゃないかと思ったけど、そんな素振り全然なくなったし!」
「いっ……やめ」

話している間に段々と迫ってくるのを避け、後退りしていくうちに壁に背が当たった。

(げ……!)

どう考えてもこれ以上後ろには行けない。

「逃げるなよ、なあ、オレでも良いだろ?」
「……っ」
「森」
「やめ」

ぐっと顔が近付き、唇が触れそうになった瞬間。

「……」
「っ、ろっつってんだろうがあああ!!!」
「ぐは……!?」

ゴミ箱で殴打し、前回同様、いやそれ以上の力でもって蹴飛ばし忌まわしいにも程がある男の腕から脱出。

「ふざっけんな!!」
「も、森……」
「うるさい!呼ぶな!高塚と付き合っていようがいまいが関係ねえ!誰がアンタなんかと付き合うか!」

そもそも無理矢理なんて最低だと、痛みに悶える先輩に怒鳴りその場から走り去る。

(気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い……っ)

なんなんだ一体、一回断ったんだから諦めろよ。

(クソ!)

触れてはいないがなんとなく気持ちが悪くて乱暴に唇を拭う。
嫌な相手に迫られるのがあんなにも鳥肌ものだとは思わなかった。

(ほんっと気持ち悪………って、あれ?)

はたと思い出したのは修学旅行での事。

(……あれ、高塚のときはこんなに気持ち悪くなかったのに)

石野に聞かれた時もそうだったけれど、気持ち悪いどころか先に恥ずかしさが湧いて出てきた。
少しぎこちなくなってはいたものの、あれで二度と話し掛けて欲しくないだとか目の前に現れて欲しくないだとか日の目を拝めないようにしてやりたいだとか、そういう事は思わなかった。

「……」

あの先輩との今の出来事がきっかけというのが何とも癪だが。

答えがみえたような気がした。




しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。 ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。 「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」 そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。 完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか? 初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。

【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。 そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。 「一緒にコラボ配信、しない?」 顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。 これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。 ※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

【完結】君の穿ったインソムニア

古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。 純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。 「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」 陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

処理中です...