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一歩進んで半歩下がる②
しおりを挟む翌日。
登校して早々玄関先で都合良く出会った高塚を空き教室へと連れ込む。
「あ、森ちゃんおはよ」
「ちょっと来い」
「え?ちょ、え!?森ちゃん!?」
いつもとは反対にオレが高塚を無理矢理に引っ張る姿は珍しかったらしく、じろじろと見られた気がしないでもないが気にしない。
ドアを開けてすぐ傍の壁に高塚の背を押しつけた。
「森ちゃん?」
「……動くなよ?」
「え?」
襟を掴み引き寄せ、同時に少し背伸びする。
こうしなければならない身長差が憎い。
「も、森?」
「……」
じっと見つめると段々と頬に赤みがさしてきた。
あ、やばい。
(ちょっとかわいいかも……)
昨日のでまだ気が高ぶっているのか、血迷った事を考えてしまった。
しかしまあ本当に整った顔してるなこいつ。
変態だけど。
そのまま顔を近付け
「……っ」
唇に触れ
「……」
「っ、も、森ちゃん?」
ようとしたのをやはり止めて、胸元に頭を寄せた。
途端に触れた先がびくりと震える。
「っ、あ、あのっ、ねえ、森ちゃん?」
「何?」
「こ、これってどういう……?」
「ん?ああ、確認」
「?何の?」
「……内緒」
「な、なにそれ、オレが今どんだけ我慢してると思ってんの!?」
「我慢?」
見ると、高塚は両手を後ろでしっかりと組んでいる。
高塚にとって今のオレは据え膳状態だというのに、ここにきて我慢か。
今までのあの強引さは一体どこへなりを潜めたのだろう。
といっても常に逃げ道を用意してくれた上での強引さだったけど。
「……ふはっ」
「――‥っ」
こみ上げてくる感情のまま口元を緩めると、息を飲み後ろで組んでいた腕に更に力が籠もるのを感じる。
早鐘のように打つ心臓の音が更に笑みを誘う。
「……高塚」
「な、なに!?」
「旅行の時のアレ」
「う、うん」
「オレ、気にしてねえから」
あの先輩と違って、高塚相手だと多少の抵抗はあるが気持ち悪さが全くない。
それが答えだ。
「だから、変に気使うな」
「……うん」
なんのことはない。
早い話、いつの間にかこいつに絆されていただけ。
まだ全てを受け入れるという事までは考えられないが、高塚の告白に対しての返事を、本気で悩んでみるのも良いかもしれないと思い始めた。
*
怒っていなかったのは嬉しいし、縁を切られる心配もなさそうでほっとしたが、キスに関しては少し気にして欲しかったかもしれない。
(……まあいっか、変に警戒されるよりずっとマシだもんな)
それはそうと暫くオレの胸に頭を預けている森はどうしたものか。
顔を寄せられた時も、もしかしたら、とありえない期待をしてしまった。
いつにない至近距離にどきどきする。
ていうか駄目だ。
これ以上我慢出来る自身がない。
「ああああの、森ちゃん」
「!」
がしっと肩を掴み森を離す。
「あの、あの……ぎゅってして良い!?」
「………は?」
考えなしに口から出た言葉にはっとする。
いやいやいや我慢出来ないから体離したのに何言ってんだ。
行動とセリフが合ってないよオレ。
森もぽかんと見上げている。
ほんと可愛いなそんな表情も。
「いや!あれ?そうじゃなくて、えっと、あの!えっと、あれ!そうだ!ほら、オルゴールのお返し!」
あれ、また何かが違う。
とっさに出た言葉だったが、この際だ、いつもみたいに拒否されるかもしれないけれどダメ元で言ってしまおう。
「は?」
「旅行の時お返し考えとけって言ったよね?だったら、今ぎゅってさせて?それだけで良いから!絶対変なことしないし!お願い!」
「……」
両手を合わせ拝むように頼むと、じとりとした視線を浴びせられ、やっぱり駄目かと思ったのだが。
「……そんなんでいいの?」
「えっ?う、うん!!」
「ふうん?安上がりな奴」
「!!!!!」
そう言って再びぽすりと身を預けてくる森に、心臓が口から飛び出るんじゃないかというくらいの衝撃を受け、一瞬固まってしまった。
え、いいの?いいの?
これっていいって事だよね?
ぎゅってしていいんだよね?
ほんとにいいの?
え?
これ夢?
オレまだ寝てる?
「……しねえの?」
「!!!します!させせていただきます!!」
いつまで経っても動かないオレを疑問に感じたのか上目にそう伺われ、これって夢なんじゃないかと思った。
(うわ……っ)
けれど、失礼します、なんて妙に緊張しながら回した腕から伝わる体の細さだとか暖かさ、鼻先をくすぐる森の髪だとかが今を現実だと教えてくれる。
(し、幸せ……!)
次いつ出来るかわからない触れ合い。
その感触を覚えるため、ぎゅうと腕に力を込め、強くその身を閉じこめた。
*
おまけ
すぐ後に、この雰囲気ならいけるんじゃないかと性懲りもなく唇を寄せたらあっさりと鉄拳を見舞われてしまった。
「森ちゃん酷い!」
「変なことしないっつったのはお前だろうが!調子に乗んな!」
いつも通り怒る森は、相変わらず物凄く可愛かった。
end
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