高塚くんと森くん

うりぼう

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躊躇い皆無

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オレ達の通う高校では、行事の度に写真部の奴らが全校生徒の写真を撮りまくり、終わった後に掲示板へと貼り出して自分の欲しい写真を買えるようになっている。

携帯で簡単に写真が撮れるこの時代に、ましてや幼稚園児や小学生じゃあるまいし写真なんてと思っていたのだが、意外にも需要は高い。
かくいうオレも去年何枚か買ってしまった。
それに我が校には他校まで名を馳せている色男がいるからそれこそ爆発的な人気だ。
みんな携帯持ってるならそれで撮れよと思わないでもないが、それはそれで良いようだ。

そして、今日がその写真が貼り出される日。
今回は体育祭と修学旅行の分。
体育祭のは全校の掲示板朝、旅行のはクラスごとの廊下に貼りだされている。
HRで担任から配られた注文用紙を片手に、高塚らと共にまずは掲示板へと行ったのだが。

「うわ」

思った通り人が多い。
特に女子。
写真を探すその会話の中に飛び交う変態の名前は聞かなかった事にしよう。
カッコイイとかどうでも良い。
あいつが変態だって普段の生活見てわかってるはずなのに何故もてる。

(とりあえずあれと、あれかな)

一枚二枚と友達同士で写っているのを見つけ、番号を記入していく。

「37番59番62番……あ!70番もだ!」

ぶつぶつと耳に入る高塚の声。
あれもこれもと書いているが、一体何をそんなに買うものが、と奴の手元の番号と写真を見て絶句。

自惚れではないだろう、全てにオレが写っている。
中心にいるものもあれば、良く見つけたなと思うくらい端っこに小さく写っているものまで全部。

隣では石野が呆れた表情でそれを見ていて。

「……お前、躊躇いねえな」
「だって欲しいもん可愛いんだもん!」
「普通好きな奴の写真ってこっそり買わねえ?」
「何でこっそりしなきゃいけないのさ。うわっ、ちょっ、ほらあれ!すげえ良い笑顔森ちゃん超かわいい!」
「あーそうだなー」
「石野やる気ない!」

やる気も何も、なんかもうあんなのに付き合わせてごめんと妙に謝りたくなってしまった。
石野だってオレの写真ばっかり見たくないだろうに。

溜め息を押さえきれずに頭を抱えた。

「森、オレの写真買ってくれた?」
「買ってない」
「えー、じゃあオレが買ってプレゼントしてあげる!ツーショットいっぱいあるんだよ!」
「いらねー!」
「またまたそんな事言っちゃって……あれ?なんだ買ってるじゃんオレとの写真ー!オレ愛されてる!」
「ばっ、違っ、これは記念になるから買っておけって言われて……!」
「もー素直じゃないんだから!こないだはあんなに可愛かったのに」
「!!!」

最後にぼそりと呟いたのはつい先日の空き教室での事だろう。
あの時は気が高ぶりすぎていて、今思い返すと自分でも信じられない行動だった。

いやでもあの時は高塚がオルゴールのお返しとしてあれが良いと言うからああなっただけで決して自分から望んであんな事になったわけではない。
断じて違う。

誰に聞かせるでもなく一人心の中で言い訳大会。

「……ふうーん、こないだやっぱりなんかあったんだ?」
「!」
「そうなんだよー」

ニヤニヤとこちらを伺う石野が憎たらしい。
そして同じくニヤニヤするな高塚。

言うなよ、余計な事は何も言うなよ、という思いを込めて睨みつけると、わかってるよと笑まれた。
なんだそのちょっと大人の階段のぼっちゃった感じの落ち着きは。

「オレと森ちゃんの秘密だもんねー?」
「いちいち抱きつくな!」
「……へえ」

いつも通りのやりとりの中、石野が再び意味ありげに笑う。
何かを含んだそれが妙に怖い。

「な、なんだよ」
「いやー?」
「なんだよ!すごい気になるんだけど!」
「別にー?とうとう手も出さなくなったんだなって思って」
「!」

言われて初めてはっとする。
確かに言葉では拒否したものの、いつものように殴る蹴るの動作はしていない。

「ち、違!これは」
「いやいやいや、言い訳とかいらねえから。良かったなあ高塚」
「うん!」
「頷いてんじゃねえよ!」
「まあまあ森ちゃんったら照れないで!」
「照れてねええええ!!」

両サイドからやんややんやと言われ、結局いつものように怒鳴り返し肩に回った高塚の腕を叩き落とす。
それでも以前なら腹なり足なり顔面なりに手が出ていたので、甘くなったなあと更ににやにやとこちらを見つめていた石野に、オレは気付いていなかった。

後日、買った写真を引き延ばして各教科書に貼ろうとしていた変態に容赦なく拳を振り下ろしたのは言うまでもない。







end.

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