高塚くんと森くん

うりぼう

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私のために争わないで①

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「高塚くん」

トイレからの帰り道で呼び止められ、その人物に無意識に眉が寄る。
基本女の子には優しくしているが、この子は例外だ。
だって彼女はオレの可愛い可愛い可愛い森を陥れようとした上に平手をかましたあの女なのだから。
相変わらず派手だけれど隅々まで手入れされているのがよくわかる。

顔は覚えているが、残念ながら名前が思い出せない。

の、の、

「………ノジマさん?」
「野崎よ!」

当てずっぽうで言って合っていたのはたった一文字。
即座に言い直す野崎の表情はひきつっている。
野崎さんか。
まあまたすぐ忘れちゃうかもしれないけど。

それにしてもあれからもう何ヶ月も経っているというのに一体何の用なのだろうか。

「ちょっと話あるんだけど、良い?」
「……今?」

やだなあ、めんどくさいなあ、早く森のとこ行きたいのに。
そんな思いがありありと表情に出ていたのだろうか、野崎が更にひきつる。

「見て欲しいものがあるの」
「……」
「森くんに関係あるのよ」
「森ちゃんに?」

あからさまに食いついたのがわかったからか。
いらいらとしているように見えたのが一転、野崎は勝ち誇ったかのように唇を吊り上げた。

見せられた携帯電話の画面。
そこに写されていた画像に、目を見張る。
そして……

「あ、ちょっと!待ってよ!」

携帯を奪い、目的の人物を探しに走り出した。









「センパイ、ちょーっと良いですか?」
「え」

呼び止められた男は、目の前の人物に驚き目を見張る。
周りからきゃあきゃあとあがる黄色い声。
それもそのはず、普段立ち入る事のない三年生の教室が並ぶその廊下に姿を現したのは……

「た、高塚!?」

そう、学校一の色男と称される高塚である。

いつもなら二年の教室に行くか、移動の時や体育やイベントの時など何かのきっかけがなければお近付きになれない男が間近にいては、周りの騒ぎも頷ける。

だがしかし、呼び出された方はというと。

「おい羽島ー、何したんだよおまえ?」
「え!?」
「ちょっと!いつの間に知り合ったの!?紹介しなさいよ!」
「いや、し、知り合ってねえし!」

騒ぎたてる声に慌てて答える。

羽島と呼ばれたこの男。
確かに高塚とは知り合いではない。
だが、一方的にではあるが、よく知っている。
憎き憎き、恋敵として。

(なんでこいつが!?)

たまたま見掛けた森に一目惚れしてから何ヶ月か。
男相手に何考えてんだと悩んで悩んで悩んでいるうちに、この高塚という男がいつの間にか森に言い寄っていた。
これはいかんと焦って告白してはみたものの、先走り過ぎてふられ。
つい最近二度目の、しかもかなり強めの拒絶を受けたというのに、何が悲しくて元凶と向きあわねばいけないのか。

そんな事が、さながら走馬灯のように一気に駆け巡る。

「な、何の用だよ?」
「決まってんでしょー?森ちゃんの事」
「っ」

やはりそのことか。
なんとなく予想は出来たけれど、ここではしてほしくない話だ。
せめて二人の時なら良いものを。
どこかへ移動しようにも高塚は動く気配がない。
力には自信があるが、自分よりも上背がある上に人気者なこいつを無理矢理連れて行けるはずもない。

「これ」

す、と見せられたのは携帯電話の画面。
写っていたのは紛れもなくゴミ箱を持った森に迫っている自身の姿。

「どういう事?」
「あ……!」

口は弧を描いているのに目が全く笑っていないその表情に、羽島の背中を冷たいものが伝った。








※森くん視点


朝からなんだか調子がおかしくて、途中大丈夫具合悪い?なんて心配する高塚に何でもないと返したのは良いが、昼休みに差し掛かったところで段々と頭痛がしてきた。
病は気からというからひたすらに具合は悪くないと思いこもうとしたのにこのザマ。
食事をさっさと済ませた高塚が、トイレに行くけど一緒に行く?なんて誘ってきたのを瞬間的に拒絶。

ひとまず大人しくして様子をみるかと机に突っ伏す。
目を瞑ったらいくらか楽で、こりゃ良いなと夢の世界に旅立ちそうだったのに。

「森くんってどの子!?」
「……へ?」

突然名指しで呼ばれた。

慌てた様子でばたばたと乗り込んできたのはどうやら三年生。
第一声からもわかるように面識はない。
鈍い頭で一体何なのだろうと疑問符を浮かべると、多数の視線がこちらに向けられた。

「森くん?」

周りの視線が質問を肯定する。

「良かった!ちょっと来て!」
「え、え?」

訳のわからないまま近くまでやってきた彼女に腕をとられずるずると引き摺られてしまった。
嵐のようにやってきた先輩の行動を、ぽかんと見送っていたクラスメイト達だったのだが。

「……」
「……なんか」
「……うん」

面白そうな展開の予感がする。

皆の考えがぴたりと一致。
きらり、と一瞬にして目を輝かせ、ダッシュで二人の後を追いかけた。





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