29 / 71
私のために争わないで①
しおりを挟む「高塚くん」
トイレからの帰り道で呼び止められ、その人物に無意識に眉が寄る。
基本女の子には優しくしているが、この子は例外だ。
だって彼女はオレの可愛い可愛い可愛い森を陥れようとした上に平手をかましたあの女なのだから。
相変わらず派手だけれど隅々まで手入れされているのがよくわかる。
顔は覚えているが、残念ながら名前が思い出せない。
の、の、
「………ノジマさん?」
「野崎よ!」
当てずっぽうで言って合っていたのはたった一文字。
即座に言い直す野崎の表情はひきつっている。
野崎さんか。
まあまたすぐ忘れちゃうかもしれないけど。
それにしてもあれからもう何ヶ月も経っているというのに一体何の用なのだろうか。
「ちょっと話あるんだけど、良い?」
「……今?」
やだなあ、めんどくさいなあ、早く森のとこ行きたいのに。
そんな思いがありありと表情に出ていたのだろうか、野崎が更にひきつる。
「見て欲しいものがあるの」
「……」
「森くんに関係あるのよ」
「森ちゃんに?」
あからさまに食いついたのがわかったからか。
いらいらとしているように見えたのが一転、野崎は勝ち誇ったかのように唇を吊り上げた。
見せられた携帯電話の画面。
そこに写されていた画像に、目を見張る。
そして……
「あ、ちょっと!待ってよ!」
携帯を奪い、目的の人物を探しに走り出した。
*
「センパイ、ちょーっと良いですか?」
「え」
呼び止められた男は、目の前の人物に驚き目を見張る。
周りからきゃあきゃあとあがる黄色い声。
それもそのはず、普段立ち入る事のない三年生の教室が並ぶその廊下に姿を現したのは……
「た、高塚!?」
そう、学校一の色男と称される高塚である。
いつもなら二年の教室に行くか、移動の時や体育やイベントの時など何かのきっかけがなければお近付きになれない男が間近にいては、周りの騒ぎも頷ける。
だがしかし、呼び出された方はというと。
「おい羽島ー、何したんだよおまえ?」
「え!?」
「ちょっと!いつの間に知り合ったの!?紹介しなさいよ!」
「いや、し、知り合ってねえし!」
騒ぎたてる声に慌てて答える。
羽島と呼ばれたこの男。
確かに高塚とは知り合いではない。
だが、一方的にではあるが、よく知っている。
憎き憎き、恋敵として。
(なんでこいつが!?)
たまたま見掛けた森に一目惚れしてから何ヶ月か。
男相手に何考えてんだと悩んで悩んで悩んでいるうちに、この高塚という男がいつの間にか森に言い寄っていた。
これはいかんと焦って告白してはみたものの、先走り過ぎてふられ。
つい最近二度目の、しかもかなり強めの拒絶を受けたというのに、何が悲しくて元凶と向きあわねばいけないのか。
そんな事が、さながら走馬灯のように一気に駆け巡る。
「な、何の用だよ?」
「決まってんでしょー?森ちゃんの事」
「っ」
やはりそのことか。
なんとなく予想は出来たけれど、ここではしてほしくない話だ。
せめて二人の時なら良いものを。
どこかへ移動しようにも高塚は動く気配がない。
力には自信があるが、自分よりも上背がある上に人気者なこいつを無理矢理連れて行けるはずもない。
「これ」
す、と見せられたのは携帯電話の画面。
写っていたのは紛れもなくゴミ箱を持った森に迫っている自身の姿。
「どういう事?」
「あ……!」
口は弧を描いているのに目が全く笑っていないその表情に、羽島の背中を冷たいものが伝った。
*
※森くん視点
朝からなんだか調子がおかしくて、途中大丈夫具合悪い?なんて心配する高塚に何でもないと返したのは良いが、昼休みに差し掛かったところで段々と頭痛がしてきた。
病は気からというからひたすらに具合は悪くないと思いこもうとしたのにこのザマ。
食事をさっさと済ませた高塚が、トイレに行くけど一緒に行く?なんて誘ってきたのを瞬間的に拒絶。
ひとまず大人しくして様子をみるかと机に突っ伏す。
目を瞑ったらいくらか楽で、こりゃ良いなと夢の世界に旅立ちそうだったのに。
「森くんってどの子!?」
「……へ?」
突然名指しで呼ばれた。
慌てた様子でばたばたと乗り込んできたのはどうやら三年生。
第一声からもわかるように面識はない。
鈍い頭で一体何なのだろうと疑問符を浮かべると、多数の視線がこちらに向けられた。
「森くん?」
周りの視線が質問を肯定する。
「良かった!ちょっと来て!」
「え、え?」
訳のわからないまま近くまでやってきた彼女に腕をとられずるずると引き摺られてしまった。
嵐のようにやってきた先輩の行動を、ぽかんと見送っていたクラスメイト達だったのだが。
「……」
「……なんか」
「……うん」
面白そうな展開の予感がする。
皆の考えがぴたりと一致。
きらり、と一瞬にして目を輝かせ、ダッシュで二人の後を追いかけた。
1
あなたにおすすめの小説
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
サンタからの贈り物
未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。
※別小説のセルフリメイクです。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん
315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。
が、案の定…
対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。
そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…
三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。
そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…
表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる