高塚くんと森くん

うりぼう

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私のために争わないで②

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「絶対オレの方が好き!」
「!?」

手を引かれるままに連れてこられ、いつも以上に切れる呼吸を整える間もなく、三年生の教室から聞こえてきた声に驚く。
間違いない、高塚の声だ。

「いーや、オレだ!」
「オレだよ!ていうかもう森にはふられてんだから諦めろよ!」

中を見ると、高塚と対峙しているのは例のあの先輩だった。

何で高塚がここにいるんだ、とか。
何で先輩と話してるんだ、とか。
あいつら知り合いだったけ、とか。
色々と疑問に感じる事はあったのだが、真っ先に思ったのは、

(何の話してんだ……!)

好きだのなんだの言い争うのは勝手だが人の名前を出すな。
あれ、もしかして、いやもしかしなくても原因はオレか?

「うわちゃーやっぱ酷くなってる」
「あ、その子が森くん?」
「良かったー収拾つかなくて困ってたんだよ!」
「え?え?」

三年の連中に取り囲まれ口々に告げられる。
二人ともオレが来た事には気付いていないらしく、言い合いを続けていた。

「う、うるせえ!仕方ないだろ好きになっちゃったんだから!お前こそ何回も拒否られてるんだからいい加減森から離れろよ!」
「はっ、残念ながらオレと森ちゃんの距離は最近縮んでんの!」
「!」

自信満々に胸を張る高塚に嫌な予感がした。
おいまさか変な事言い出すつもりじゃないだろうな。

「はあ!?縮んでるって一体」
「そのまんまの意味だよ!なんだかんだでほとんど毎日一緒に帰ってるし、プレゼントだって受け取ってくれたし、ぎゅーってしたし、ちゅっ、いた!?」

皆まで言う前に黒板消しをその頭に投げつける。

「なに、わっ!?」
「!?」

そして馬鹿に背中から激突。

「森ちゃん!?ってあだだだだ痛い痛い痛い!!」
「お前ええ……!」

こんな衆人環視の状態で人の名誉を傷付ける発言をしようとするな。
いや、実際に起こってしまった事なのだけれどもでも隠しておきたい事だってあるじゃないか。
というか秘密だかと先に言ったのはお前だ馬鹿野郎。

そんな思いをこれでもかと込めて背中をつねる。

「っていうか何でいるの?」
「連れてこられたんだよ。何事かと思ったら変な言い合いしてやがるし」
「変じゃないよ!すっごく大事だよ!」

どっちがオレをより好きか言い合う事がそんなに重要か。

ぽんと出そうになった突っ込みの言葉を飲み込む。
これじゃあまるであれだ。
喧嘩はやめて二人を止めて私のために争わないで状態だ。
いや男三人で私のためも何もないけれど。

「あ、でも調度良いや」
「は?」

ぐい、と肩を抱かれ前へと押し出される。

「なに」
「オレとこの先輩と、どっちが良いか選んで」
「は?え、選ぶって?」
「付き合うならどっちかってこと!」
「は!?」

ほんとに何言い出すんだこの馬鹿は。

大体選ぶも何も高塚への返事は今悩んでいる真っ最中だし、先輩に至っては二度も拳に蹴り付きで断っている。
というか高塚はともかく何故に先輩までほんの僅かな期待を込めてこちらを見るんだ。

「森ちゃん」
「……森」
「どっちが良い?」

真面目な顔でこちらを見る二人に、興味津々で答えを待つ周りの面々。

(なんだこの状況!?)

オレは何か悪いことをしただろうか。
この状態が、とてつもなくいけない事をしたことに対する罰なんじゃないかと思えてきた。

ああ駄目だ。
目が眩む。
すっかり忘れていた頭の痛みまで蘇ってきやがった。
走ったせいもあるのか、ガンガンと激しく響き始める。

「……っ」
「?森?」

異変に真っ先に気付いたのは、当たり前といえば当たり前だが、すぐ隣にいた高塚。
無意識のうちに縋るようにぎゅうとその服を掴んだのだが、

「え!?ちょっ、森!?」

堪えきれず、ずるりと膝が崩れ落ちてしまった。









※高塚くん視点



オレの袖を掴んでそのまま崩れ落ちた森に慌てる。

「森!?」

同じようにしゃがみ込み顔を覗き込むと、真っ赤で涙が滲んでいた。

(かわい……ってそうじゃなくて!)

そのかわいさに思わずごくりと喉が鳴るがそうじゃない、そんな場合じゃない。
額に手を当てると酷く熱く、僅かに汗をかいている。
朝からどこか調子が悪そうだったのを思い出す。

「大丈夫!?」
「……ったま、いてえ……」
「わーっしっかり!」

と言ってしっかり出来る具合の悪い人はいない。
森は頭を抱えてその場にうずくまってしまった。

「歩ける?保健室行こ?」
「……じっとしてれば治まる」

そんな馬鹿な。
みるからに辛そうだし、仮に治まったとしてもどうせろくに歩けないだろう。

(よし)

ならばと体勢を少し移動。

「森、ちょっと我慢ね」
「……は?」
「よっ、と」

「「「「「「!!!」」」」」」

一言告げて、森の脇と膝の裏に腕を突っ込み持ち上げる。
流石に男だから少しずしりとくるが、軽い方だ。

「ちょっ!?」
「しー。叫ぶともっと痛くなっちゃうよ」
「な、な……っ」

恥ずかしいのかいたたまれないのか嫌なのか、恐らく全てなのだろうけれど、暴れ叫び抵抗しようとしても出来ないらしいのを良いことに動きを封じ込める。

周りからあがる黄色い悲鳴もざわめきも全てを聞こえない事にして、視線を例の先輩に移す。
びくりと肩を震わせているくせに、オレの腕の中に森がいるのが許せないのか睨んでくる。
睨みたいのはこっちだ。

「とりあえず、もう森には近付かないでよね」
「……っ」

返事を待たずに歩き出す。
結局森には選んでもらえなかったけど、あんな人前で男に告白したと暴露したんだ。
暫く色んな対応に追われて大変なはず。
横から森をかっ攫おうとしたんだから、それくらいの罰は受けてもらわねば。

後から森にこっ酷く叱られるんだろうなあとか、いっぱい叩かれるんだろうなあとか、また質問責めに合うのかなあとか色々と考えたけれど。

(あいつももう森にはちょっかい出さないだろうし)

まあ良いか、と。
勝手に完結させて、足早に保健室へと向かった。










おまけ


「じゃーん!」
「わお」
「!!!」

やっと風邪から回復し学校へと行ったオレと、いつものようにまとわりついてくる高塚に、喜々としながらこちらへと向かってくる佐木。
その手には最近買い替えたと自慢していた最新の携帯電話。
その画面を見て小さく呟く高塚と、衝撃が大きすぎてとっさには声が出せなかったオレ。

「こ、ここ、これ……!?」

小さな画面に写るのは、見慣れた男とその腕に抱かれているオレの姿。
いつの、なんて考えなくてもわかる。
オレが頭痛に堪えきれずうずくまり、熱を出してぶっ倒れた日のやつだ。

あの時の事は夢だと思いたかったのに、現実をまざまざと突きつけられてしまった。
というかあの場にいやがったのかこいつ。

「綺麗に撮れてるねー」
「だろ?だろ?最近のってデジカメ並だよなー」
「佐木グッジョブ!」
「いやいやそれほどでも」
「ってそうじゃねえだろおおおお!?消せええええ!!!」
「え、駄目!まずオレに送って!」
「いいよー」
「やった!ありがと佐木!」
「送ってんじゃねえええ!消せ!すぐ消せ!!」
「消してもまだ誰かの携帯に残ってると思うけどなー、クラスの連中ほとんど見てたし」
「な……!?」

そういえば三年の教室だったにもかかわらず、ちらほらと見覚えのある顔があったような気がする。

「あ、森くんもう風邪いいの?」
「良かったねー、すぐ治って」
「それあの時の写メ?私も持ってる!かっこ良かったよね高塚くん!」
「あんな風にされて羨ましいー!」

きゃあきゃあと騒ぐ女子連中にくらりと眩暈がしてきた。
何がかっこいいか、何が羨ましいか。
こっちは恥ずかしくて溜まらないというのに。

思わずくらりと壁に手を付くと。

「!大丈夫?もしかしてまだ本調子じゃない?」
「……っ」

ふわりと肩を抱かれ額に手を当てられる。
途端にあがる黄色い悲鳴。

「絶好調だこのアホ!くっつくな!」
「えー、いいじゃんもうちょっと」
「ふざけんな!ってまた写メってんじゃねえ佐木てめええええ!」
「はいはい、もっとくっついてー」
「いえい」
「やめろ馬鹿離せ変態いいいいいい!!」

嬉々としてポーズをとる高塚に、久しぶりに渾身の力でもって、拳を振り下ろした。







end.

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