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きっかけは
しおりを挟む朝、学校へと行ったらば。
「……?」
いつにも増して校門前に人だかりが出来ていた。
うちの学校ばかりか近所の高校の子までいる。
何かあったのだろうか、と首を傾げつつ、人だかりを横目に中へ入ろうとすると。
「あ!森ちゃん!」
「……ん?」
人だかりの中心から声を掛けられた。
聞き覚えのありすぎる声だが、辺りを軽く見回しても見覚えのある姿が見当たらない。
気のせいか、いやでもはっきり聞こえたしなあ、と再び首を傾げると。
「おはよ!」
「おわ!?」
後ろからの衝撃。
肩の上から回った手と背中の温もりに、抱き付かれたと気付き即座に振り解こうと、まずは顔を後ろに向け……
「………え?」
固まった。
前日まで日の光にきらきらと輝いていた金に近い髪が、落ち着いたダークブラウンに変わっている。
おまけに長さも違い、ふわふわとしているのに違いはないが、短い。
一瞬誰かと思った。
「は?え?高塚?」
「うん!」
「………髪切ったの?」
「うん!ついでに染めた!似合う?」
にこにこと聞いてくる高塚。
悔しいことにすごく似合っている。
前の髪型はどちらかというとちゃらちゃらしていて、いかにも遊び人といった体だったのが。
ぱっと見落ち着きがあり、おまけに
「似合う、けど」
「けど、何?」
色気が……。
なんて言えるはずがない。
いやでもだって、どことなく色気を醸し出しているような、そんな雰囲気に変わっているのだ。
「もしかしてあんまり好きな感じじゃない?」
「は?いやそうじゃなくて」
「じゃあ大好きってこと!?」
「は!?」
言った瞬間ぎゅうぎゅうと抱き付き喜ぶ高塚。
待て、似合うとは言ったが大好きだなんて言っていない。
「マジで?嬉しい!切って良かったー!」
「ちょっ、待て!変な誤解すんな!つか離せ!」
うふふー、と言いながら更に抱き付く力を強める高塚。
「あーもうっ!」
「えへへー」
抵抗するのも面倒になり、仕方なしに背中に高塚を乗せたままずるずると引き摺りながら教室へと向かった。
道すがら、響く悲鳴とからかう声に頭痛がしたのは、気のせいではないと思う。
それにしても何故突然髪を切ったのだろうか。
いや、切ること自体は別に構わないのだけれど、前との差が激しすぎる。
そう思ったのはオレだけではなかったようで。
「なに、イメチェン?今更真面目ぶったって馬鹿は治らねえぞ馬鹿」
「ちょっ、痛っ、髪引っ張りながら聞く事!?てかひどい!」
石野がつんつん(というには多少激しく)髪を引っ張りながら尋ねた。
相当痛かったのか、手を払い除けた後にそこを擦りながら答える。
「イメチェンっていうか、その……」
「?何だよ?」
「実は、バイト始めたんだよね」
「「……」」
高塚の言葉に一瞬二人でぽかんと口を開き、目を見合せ、
「バイト!?出来んの!?」
「おいおい大丈夫か雇い主。変なバイトじゃねえだろうなあ?」
二人同時にそう詰め寄っていた。
バイトって。
バイトってあれだよな、働くんだよな。
こんな阿呆を雇ってくれる所があったのか。
もうすぐテストもあるし、というか何故二年のこの時期に始めたんだ。
色々疑問はあるが、やはり気になるのは何故突然バイト、という点だ。
「なんでいきなり?」
「いや、その、ちょっと欲しいものがあって」
もごもごごにょごにょと言葉を濁す高塚。
欲しいもの、ねえ。
バイトまでして買うんだから相当高価なものなのだろうか。
「ふーん?なるほどね」
何か心当たりがあったのだろうか、にやりと意味深な笑みを浮かべて納得する石野。
オレはというと、全然全くわからなかったけれど、根掘り葉掘り聞くのもどうかと思い、ひとまず黙る。
同時に、高塚に群がっていた女の子達の視線を思い出す。
「……」
なんだか面倒な事になりそうにな予感がした。
*
「高塚くん、ねえ、今日もバイトだよね?途中まで一緒に行っても良い?」
「あ!私も!」
「ずるーい!私も一緒に行きたい!」
「ごめん、帰りは森ちゃんと一緒だから」
「えー?」
「ごめんね!」
「……」
予感は、当たった。
バイトを始めてから、今までは遠巻きに眺めているだけだった他校生が、わらわらと沸いて出てきたのだ。
ちなみにバイトはこ洒落た喫茶店で、一度無理矢理に連れて行かれた時に見た制服姿は新しい髪型にもよく似合っていた。
認めたくはないが、そこらのモデルは裸足で逃げ出す程だ。
よく考えたらオレにちょっかいをかけ始める前までは、たくさんの女の子をとっかえひっかえだと聞いたこともある。
注目されない訳はなかったのに、今までがおかしかったのだ。
そんな訳で今、オレはいつぞやと同じような状況に陥っている。
いつぞやとはあれだ。
高塚がオレを構い始めた直後の学校の女子達然り。
それにがっつりとつっかかってきた野崎然り。
早い話、オレが高塚に付き纏っている邪魔な男だという事だ。
オレじゃなくて高塚が寄ってきてるんだ、なんて言葉は彼女達の耳に届くはずもなく。
おまけに直接ギャーギャー文句を言うのではなく、
「い……っ」
「あ、ごめんね、当たっちゃったあ?」
「小さくて見えなかったあ」
くすくすと笑いながら、周りに気付かれないようにひっそりと攻撃をしてくる。
そして度々言われる「小さい」のセリフにぴきりと青筋が立ってしまう。
思わず拳を握ってしまったのは仕方がないだろう。
しかし女の子を殴るわけにもいかないし、オレにしか聞き取れないような小声での攻撃に大声で文句を言うのも憚られる。
「森ちゃん、行こう!」
「……おう」
声を掛けられた瞬間にいくつもの視線に射ぬかれたのも。
そんな周りの態度に気付かないでにこにこ笑っている高塚にも。
(……なんか)
もやもやする。
口には出さないけれど、そんな感情が胸に降り積もっていった。
*
あれから数週間。
今日も今日とて高塚のバイト先ばかりか学校までも彼女達はやってきて。
ぶちぶちと謂れのない文句を言われ続け。
時が経てば自然になくなっていくものだと思っていたのに、大誤算だ。
「……」
日頃から高塚に対しては沸点が低かったが、他の人に対してはそんなにいらいらする事もむかつく事も長続きはせずすぐに忘れる質だと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
いつになっても止まない細々した嫌がらせに、能天気に笑う高塚。
もやもやしていた感情はいらいらへと変わっていた。
そしていらいらしているのはオレだけではなく。
オレに文句を言ってきた女の子達もそうだったらしく。
「ちょっと来てくれる?」
高塚に連れてこられたバイト先でジュースを飲んでいる時。
ついに、呼び出しをされてしまった。
ちなみに高塚は着替えに行っている最中。
こんなんばっかだなオレ。
くい、と頭だけで外を示され、長い爪の付いた腕に引き摺られてしまった。
「いっ」
連れて行かれたのは店の裏側。
細い路地になっていて、ゴミ箱やらが置いてあり、人の気配はほとんどない。
壁に背を打ち付けられ、正直痛い。
「何で来てもらったかわかってるわよね?」
「……」
派手でいつも高塚に一番積極的にアピールしている三人が腕を組み睨み付けてくる。
睨みたいのはこっちの方だ。
今日は誰の目もないからいつも以上にごちゃごちゃとうるさく言われ、最悪叩かれたり蹴られたり物投げ付けられたりするんだろうなと、大きな大きな溜め息を吐く。
「溜め息吐きたいのはこっちなんだけど!」
「そうよ!いい加減高塚くんから離れてくんない?」
「ほんっと邪魔!」
ぴーちくぱーちくうるさいなあ、と、既に子猫の額どころか安全ピンの細さにまでなってしまった堪忍袋の緒が今にも切れそうになってしまう。
野崎の時のように言い返す気にもならない。
ひとまず右から左へと甲高い声を流すと、
「ちょっと!聞いてんの!?」
一人の手が勢い良く振りだされ。
(あ、やば)
平手が飛んでくるなあと他人事のように考え、衝撃に備え歯を食い縛り目を閉じると。
「?」
「「「っ!」」」
ぱしりと、オレの頬を叩いたのではない音が響いた。
見ると、彼女達の表情が驚きに変わっていた。
それもそのはず。
「!」
「みんなで何してんの?こんなとこで」
突然現れ。
振り上げられた手を掴み、且つ背後から肩を引き寄せたのが、高塚だったのだから。
「森ちゃんに何か用事?」
「……っ」
いつものように話しているはずなのに。
いつものように笑みを浮かべているはずなのに。
頭上から聞こえる声は、あきらかにいつもの高塚とは違った雰囲気を纏っていて。
「あ、いや」
「ううん!なんでもないの!」
「じゃ、じゃあね!」
それを敏感に感じとった彼女達は、ばたばたとあっという間に走り去ってしまった。
「……」
「あはっ、みんな帰っちゃったね」
振り返って見たその表情は、見慣れた高塚のそれで。
「――‥」
もしかして、探してくれたのだろうか。
店にいないオレを、わざわざ。
それで助けてくれたのだろうか。
理解した途端、言い様のない感情がぐるぐると全身を巡る。
「……高塚」
「森ちゃん、大丈夫?」
くるりと正面に回り聞いてくる高塚に、こくりと頷く。
「良かった」
「……お前、バイトは?」
「ん?これから!実は森ちゃんにお願いがあってさ」
「は?」
去ってしまった彼女達のことなど既にこれっぽっちも気にしていない。
きっとオレが何をされているかなんてとっくにわかっていたのだろう。
だったらさっさと手を打ってくれたら良かったのに。
そう思いながら、突然のお願いとやらに首を傾げると。
「あのさ」
「うん?」
「あの」
「?なんだよ?」
「……いってらっしゃいって言ってくれる?」
「……は?」
「お願い」
いってらっしゃいと言うだけがお願いなのだろうか。
なんでまた、と思ったが。
「――‥」
触れるか触れないかの距離で、頬を伝う指先。
まっすぐに見つめてくるその目に抗えない。
「……いってらっしゃい」
請われるがまま言葉を口にした瞬間。
「うん、いってくるね」
ふわりと。
本当に見るもの全てを虜にしてしまうのではないかというくらいの笑みを浮かべ、高塚は中へと戻っていった。
「……っ」
その笑みを見た途端、この数週間ずっと胸に巣食っていたいらいらだとかもやもやなんて綺麗に消え去り。
先程の言い様のない感情と相まって、何もかもがどうでもよくなったかのような錯覚に陥り。
「……んだ、これ……ッ」
柄にもなく真っ赤に染まる頬。
手の甲で口元を覆い、ずるずるとその場に崩れ落ちてしまった。
*
女の子達の嫌がらせはこの日を境にぴたりと止んだ。
高塚があの後も何かしたのだろうか。
それでも人気に衰えが出ていない辺り、流石としか言えない。
が、その後。
『高塚の事好きなのは』
ほんの少し前に聞いた羽島のセリフが再び頭から離れなくなり。
『いってくるね』
高塚の笑みまでもが何度も何度も脳内で再生され、その度爆発しそうに高鳴る胸に、どうしたらいいのかわからず悩みまくる日々が続くはめになるのだった。
end
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