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人前じゃなきゃ良いんですか
しおりを挟む突然ですが、衣替えです。
残暑厳しく暑さいつまで居座んの、という感じでしたが、ようやっと少しずつ少しずつ寒くなってきて。
今まで惜し気もなく晒されていた二の腕が見れなくなってしまったのはとてつもなく残念だが、少し大きいセーターの袖から覗く手が可愛いから良しとする。
誰のって。
決まっている。
「はあはあはあはあ森ちゃん最高だねその格好!何?オレのためにわざわざおっきいサイズ買ったの?ねえそうなの?そんな事しなくたってオレのあげたのに!」
「はあはあすんな変態!」
手をわきわきさせながら近付いていくと、すぐさま両手を突っ張り拒否された。
「だからそのちょびっと出てる手が可愛いんだってやばいんだって、ちょっとオレのここ握っ」
「するかアホおおおお!」
「あっ、ちょっ、足はずるいよ森ちゃん!」
突っ張っていた両手を掴み引き寄せようとしたが、やはりというかなんというか、脛を蹴られた。
かなり痛いけれど伊達に毎日毎日森に殴られ蹴られしていたわけではない。
これくらいもう慣れっこである。
「離せよ!」
「えー?こないだは森ちゃんから繋いできてくれたのにー」
「!」
森が手を繋いで廊下を歩いてくれたのは記憶に新しい。
今でも手を見るだけでにやにやしてしまう。
その度四方八方から気持ち悪いと言われるけれど、そんなの気にしない。
羽島とかいう先輩とまた一緒にいたのは物凄く心配だったしむかついたし何してんのという感じだったけれど、なんでもないからと手を引かれた事で一瞬全てが吹き飛んだ。
「あ、あれは焦ってただけで!別にお前と手繋いだ訳じゃ……!」
「ふーん?何があったからそんなに焦ったの?」
「それは」
う、と言葉に詰まる森。
「言えないの?もしかしてまた告白された?」
「は!?されてねえよ!」
「じゃああの時何言われてたの?森ちゃんあれから様子おかしいじゃん」
あの時から挙動不審な事が増えたり、自分で自分に突っ込み入れてたり、そんなところも可愛かったりするけれど、やはり何を言われていたのかは気になる。
「だからそれは」
口を開いたものの次の言葉が出てこない森。
「やっぱりなんか言われたんでしょ」
「違っ、先輩は全然関係ないから!いや言ったのは先輩だけど違うっつーか」
「なにそれ全然わかんない。結局あいつのせいなんでしょ?」
「だから先輩のせいじゃなくて!オレがお前を……」
「?森ちゃんがオレを?何?」
「っ、な、なんでもない!」
かかかかっと面白いくらいに顔を真っ赤に染めて目を反らす森。
そんな顔でなんでもないなんて信じられる訳がない。
けど。
「……かっわい」
「は?」
「もー!何その反応!オレの理性試してんの?こんな人前じゃ襲わないと思った?そんな可愛い顔見せられたら止められるわけないじゃん!」
「っ、ちょっ」
またも荒くなる呼吸。
掴んだままだった両手を引き寄せて、唇に狙いを定める。
が。
「ふざけんな馬鹿!」
「あいたあああ!」
「馬鹿!変態!次人前で変な事しようとしたら潰すからな!」
どこを?なんて質問する間もなく、思い切り頭突きをされ。
森は真っ赤な顔のまま教室を出ていってしまった。
「も、森ちゃんったら相変わらず照れ屋さんなんだから……っ」
「復活したな、頭突き」
「てか、潰すってどこ潰されんだろ、やっぱあそこかな?てことは潰される時は森が触ってくれるってこと?うわどうしよう!考えただけでいけそうなんだけど!どうしよう!」
「……聞いてるこっちがどうしよう、だ馬鹿野郎」
痛みに悶えつつも邪な考えを繰り広げるオレに、石野が呆れたように呟く。
(……にしてもあのセリフ、もしかして?)
と、石野が頭の中で考えていたなんて、当然ながら全く気付いてはいなかった。
そして森のセリフが「次人前で」と、限定されていることに気付く人は、誰一人としていなかった。
end
2
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