高塚くんと森くん

うりぼう

文字の大きさ
34 / 71

きっかけは

しおりを挟む


 



朝、学校へと行ったらば。

「……?」

いつにも増して校門前に人だかりが出来ていた。
うちの学校ばかりか近所の高校の子までいる。
何かあったのだろうか、と首を傾げつつ、人だかりを横目に中へ入ろうとすると。

「あ!森ちゃん!」
「……ん?」

人だかりの中心から声を掛けられた。
聞き覚えのありすぎる声だが、辺りを軽く見回しても見覚えのある姿が見当たらない。
気のせいか、いやでもはっきり聞こえたしなあ、と再び首を傾げると。

「おはよ!」
「おわ!?」

後ろからの衝撃。
肩の上から回った手と背中の温もりに、抱き付かれたと気付き即座に振り解こうと、まずは顔を後ろに向け……

「………え?」

固まった。

前日まで日の光にきらきらと輝いていた金に近い髪が、落ち着いたダークブラウンに変わっている。
おまけに長さも違い、ふわふわとしているのに違いはないが、短い。

一瞬誰かと思った。

「は?え?高塚?」
「うん!」
「………髪切ったの?」
「うん!ついでに染めた!似合う?」

にこにこと聞いてくる高塚。
悔しいことにすごく似合っている。
前の髪型はどちらかというとちゃらちゃらしていて、いかにも遊び人といった体だったのが。
ぱっと見落ち着きがあり、おまけに

「似合う、けど」
「けど、何?」

色気が……。

なんて言えるはずがない。
いやでもだって、どことなく色気を醸し出しているような、そんな雰囲気に変わっているのだ。

「もしかしてあんまり好きな感じじゃない?」
「は?いやそうじゃなくて」
「じゃあ大好きってこと!?」
「は!?」

言った瞬間ぎゅうぎゅうと抱き付き喜ぶ高塚。
待て、似合うとは言ったが大好きだなんて言っていない。

「マジで?嬉しい!切って良かったー!」
「ちょっ、待て!変な誤解すんな!つか離せ!」

うふふー、と言いながら更に抱き付く力を強める高塚。

「あーもうっ!」
「えへへー」

抵抗するのも面倒になり、仕方なしに背中に高塚を乗せたままずるずると引き摺りながら教室へと向かった。
道すがら、響く悲鳴とからかう声に頭痛がしたのは、気のせいではないと思う。

それにしても何故突然髪を切ったのだろうか。

いや、切ること自体は別に構わないのだけれど、前との差が激しすぎる。
そう思ったのはオレだけではなかったようで。

「なに、イメチェン?今更真面目ぶったって馬鹿は治らねえぞ馬鹿」
「ちょっ、痛っ、髪引っ張りながら聞く事!?てかひどい!」

石野がつんつん(というには多少激しく)髪を引っ張りながら尋ねた。
相当痛かったのか、手を払い除けた後にそこを擦りながら答える。

「イメチェンっていうか、その……」
「?何だよ?」
「実は、バイト始めたんだよね」
「「……」」

高塚の言葉に一瞬二人でぽかんと口を開き、目を見合せ、

「バイト!?出来んの!?」
「おいおい大丈夫か雇い主。変なバイトじゃねえだろうなあ?」

二人同時にそう詰め寄っていた。

バイトって。
バイトってあれだよな、働くんだよな。
こんな阿呆を雇ってくれる所があったのか。
もうすぐテストもあるし、というか何故二年のこの時期に始めたんだ。

色々疑問はあるが、やはり気になるのは何故突然バイト、という点だ。

「なんでいきなり?」
「いや、その、ちょっと欲しいものがあって」

もごもごごにょごにょと言葉を濁す高塚。
欲しいもの、ねえ。
バイトまでして買うんだから相当高価なものなのだろうか。

「ふーん?なるほどね」

何か心当たりがあったのだろうか、にやりと意味深な笑みを浮かべて納得する石野。
オレはというと、全然全くわからなかったけれど、根掘り葉掘り聞くのもどうかと思い、ひとまず黙る。

同時に、高塚に群がっていた女の子達の視線を思い出す。

「……」

なんだか面倒な事になりそうにな予感がした。











「高塚くん、ねえ、今日もバイトだよね?途中まで一緒に行っても良い?」
「あ!私も!」
「ずるーい!私も一緒に行きたい!」
「ごめん、帰りは森ちゃんと一緒だから」
「えー?」
「ごめんね!」
「……」

予感は、当たった。

バイトを始めてから、今までは遠巻きに眺めているだけだった他校生が、わらわらと沸いて出てきたのだ。
ちなみにバイトはこ洒落た喫茶店で、一度無理矢理に連れて行かれた時に見た制服姿は新しい髪型にもよく似合っていた。
認めたくはないが、そこらのモデルは裸足で逃げ出す程だ。

よく考えたらオレにちょっかいをかけ始める前までは、たくさんの女の子をとっかえひっかえだと聞いたこともある。
注目されない訳はなかったのに、今までがおかしかったのだ。

そんな訳で今、オレはいつぞやと同じような状況に陥っている。
いつぞやとはあれだ。

高塚がオレを構い始めた直後の学校の女子達然り。
それにがっつりとつっかかってきた野崎然り。
早い話、オレが高塚に付き纏っている邪魔な男だという事だ。
オレじゃなくて高塚が寄ってきてるんだ、なんて言葉は彼女達の耳に届くはずもなく。
おまけに直接ギャーギャー文句を言うのではなく、

「い……っ」
「あ、ごめんね、当たっちゃったあ?」
「小さくて見えなかったあ」

くすくすと笑いながら、周りに気付かれないようにひっそりと攻撃をしてくる。
そして度々言われる「小さい」のセリフにぴきりと青筋が立ってしまう。
思わず拳を握ってしまったのは仕方がないだろう。

しかし女の子を殴るわけにもいかないし、オレにしか聞き取れないような小声での攻撃に大声で文句を言うのも憚られる。

「森ちゃん、行こう!」
「……おう」

声を掛けられた瞬間にいくつもの視線に射ぬかれたのも。
そんな周りの態度に気付かないでにこにこ笑っている高塚にも。

(……なんか)

もやもやする。
口には出さないけれど、そんな感情が胸に降り積もっていった。












あれから数週間。
今日も今日とて高塚のバイト先ばかりか学校までも彼女達はやってきて。
ぶちぶちと謂れのない文句を言われ続け。
時が経てば自然になくなっていくものだと思っていたのに、大誤算だ。

「……」

日頃から高塚に対しては沸点が低かったが、他の人に対してはそんなにいらいらする事もむかつく事も長続きはせずすぐに忘れる質だと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
いつになっても止まない細々した嫌がらせに、能天気に笑う高塚。

もやもやしていた感情はいらいらへと変わっていた。

そしていらいらしているのはオレだけではなく。
オレに文句を言ってきた女の子達もそうだったらしく。

「ちょっと来てくれる?」

高塚に連れてこられたバイト先でジュースを飲んでいる時。
ついに、呼び出しをされてしまった。
ちなみに高塚は着替えに行っている最中。
こんなんばっかだなオレ。

くい、と頭だけで外を示され、長い爪の付いた腕に引き摺られてしまった。

「いっ」

連れて行かれたのは店の裏側。
細い路地になっていて、ゴミ箱やらが置いてあり、人の気配はほとんどない。
壁に背を打ち付けられ、正直痛い。

「何で来てもらったかわかってるわよね?」
「……」

派手でいつも高塚に一番積極的にアピールしている三人が腕を組み睨み付けてくる。
睨みたいのはこっちの方だ。

今日は誰の目もないからいつも以上にごちゃごちゃとうるさく言われ、最悪叩かれたり蹴られたり物投げ付けられたりするんだろうなと、大きな大きな溜め息を吐く。

「溜め息吐きたいのはこっちなんだけど!」
「そうよ!いい加減高塚くんから離れてくんない?」
「ほんっと邪魔!」

ぴーちくぱーちくうるさいなあ、と、既に子猫の額どころか安全ピンの細さにまでなってしまった堪忍袋の緒が今にも切れそうになってしまう。
野崎の時のように言い返す気にもならない。
ひとまず右から左へと甲高い声を流すと、

「ちょっと!聞いてんの!?」

一人の手が勢い良く振りだされ。

(あ、やば)

平手が飛んでくるなあと他人事のように考え、衝撃に備え歯を食い縛り目を閉じると。

「?」

「「「っ!」」」

ぱしりと、オレの頬を叩いたのではない音が響いた。

見ると、彼女達の表情が驚きに変わっていた。
それもそのはず。

「!」
「みんなで何してんの?こんなとこで」

突然現れ。
振り上げられた手を掴み、且つ背後から肩を引き寄せたのが、高塚だったのだから。

「森ちゃんに何か用事?」
「……っ」

いつものように話しているはずなのに。
いつものように笑みを浮かべているはずなのに。

頭上から聞こえる声は、あきらかにいつもの高塚とは違った雰囲気を纏っていて。

「あ、いや」
「ううん!なんでもないの!」
「じゃ、じゃあね!」

それを敏感に感じとった彼女達は、ばたばたとあっという間に走り去ってしまった。

「……」
「あはっ、みんな帰っちゃったね」

振り返って見たその表情は、見慣れた高塚のそれで。

「――‥」

もしかして、探してくれたのだろうか。
店にいないオレを、わざわざ。
それで助けてくれたのだろうか。

理解した途端、言い様のない感情がぐるぐると全身を巡る。

「……高塚」
「森ちゃん、大丈夫?」

くるりと正面に回り聞いてくる高塚に、こくりと頷く。

「良かった」
「……お前、バイトは?」
「ん?これから!実は森ちゃんにお願いがあってさ」
「は?」

去ってしまった彼女達のことなど既にこれっぽっちも気にしていない。
きっとオレが何をされているかなんてとっくにわかっていたのだろう。
だったらさっさと手を打ってくれたら良かったのに。

そう思いながら、突然のお願いとやらに首を傾げると。

「あのさ」
「うん?」
「あの」
「?なんだよ?」
「……いってらっしゃいって言ってくれる?」
「……は?」
「お願い」

いってらっしゃいと言うだけがお願いなのだろうか。
なんでまた、と思ったが。

「――‥」

触れるか触れないかの距離で、頬を伝う指先。
まっすぐに見つめてくるその目に抗えない。

「……いってらっしゃい」

請われるがまま言葉を口にした瞬間。

「うん、いってくるね」

ふわりと。
本当に見るもの全てを虜にしてしまうのではないかというくらいの笑みを浮かべ、高塚は中へと戻っていった。

「……っ」

その笑みを見た途端、この数週間ずっと胸に巣食っていたいらいらだとかもやもやなんて綺麗に消え去り。
先程の言い様のない感情と相まって、何もかもがどうでもよくなったかのような錯覚に陥り。

「……んだ、これ……ッ」

柄にもなく真っ赤に染まる頬。
手の甲で口元を覆い、ずるずるとその場に崩れ落ちてしまった。










女の子達の嫌がらせはこの日を境にぴたりと止んだ。
高塚があの後も何かしたのだろうか。
それでも人気に衰えが出ていない辺り、流石としか言えない。

が、その後。

『高塚の事好きなのは』

ほんの少し前に聞いた羽島のセリフが再び頭から離れなくなり。

『いってくるね』

高塚の笑みまでもが何度も何度も脳内で再生され、その度爆発しそうに高鳴る胸に、どうしたらいいのかわからず悩みまくる日々が続くはめになるのだった。







end


 
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

殿堂入りした愛なのに

たっぷりチョコ
BL
全寮の中高一貫校に通う、鈴村駆(すずむらかける) 今日からはれて高等部に進学する。 入学式最中、眠い目をこすりながら壇上に上がる特待生を見るなり衝撃が走る。 一生想い続ける。自分に誓った小学校の頃の初恋が今、目の前にーーー。 両片思いの一途すぎる話。BLです。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)

turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。 徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。 彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。 一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。 ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。 その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。 そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。 時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは? ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ? 読んでくださった方ありがとうございます😊 ♥もすごく嬉しいです。 不定期ですが番外編更新していきます!

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

処理中です...