陰キャ幼馴染がミスターコン代表に選ばれたので、俺が世界一イケメンにしてやります

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Lesson2 コンタクト

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「……怖い!」

今日、俺たちは近所の眼科の前にいた。
目的は、悠里が“コンタクトデビュー”するため。

「……頑張って決めたから…大丈夫…大丈夫…大丈夫…」

悠里は、眼科の入り口横の壁に頭をコツコツぶつけながら呟いていた。
怖いというより、すでに儀式じみている。
通りすがりの人がチラチラ見てくる。やめてほしい。

「大丈夫だって。目に刺すんじゃなくて、置くんだよ。」

「なにその怖い説明!?」

「いや、実際そうなんだよなぁ……」

自分で言ってゾッとした。
置くってなんだよ、置くって。語感が怖すぎる。

「とりあえず、入るぞ。」

「……はーい。」

テンションが低すぎる。
自動ドアが開くと、冷たい空気がふっと出てきた。
悠里は、いかにも戦場に向かう兵士の顔をしている。
俺は、そんな彼の背中を軽く押した。
肩を押すだけで、心が少し跳ねる。
——大丈夫、悠里ならできる。

受付を済ませ、番号札をもらって並んで座る。
待合室には、子どもからお年寄りまで、静かに順番を待っている。
なのに隣の悠里だけがひとり、落ち着きなく手をもじもじさせたり、足を揺らしたりしている。

「歩……今のうちに言っとくけど、僕のこと忘れないでね。」

「おい、遺言みたいに言うな。目に入れるだけだぞ?」

「いや、僕、こういうの弱いんだよ……健康診断の血液検査でも貧血起こしたし。」

「コンタクトは血出ねえよ。」

「……ほんと?」

「出たら俺が代わりに泣くわ。」

くだらないやりとりをしているうちに、名前が呼ばれた。
視力検査を終えると、いよいよ装着練習の時間。
看護師さんが優しい声で言う。

「じゃあ、こちらに座って鏡を見ながらゆっくり入れてみましょうね~。」

悠里の顔が、みるみる青ざめる。
今にも逃げ出しそうな勢いだ。

「……歩、そばにいて。」

「はいはい。子どもか。」

隣の椅子に座ると、看護師さんがくすっと笑った。

「お友達さん、優しいですね~。」

「い、いや、友達というか、その……」

曖昧に笑ったら、悠里がちらっと俺を見た。
……な、なんだよ、その目。
信頼しきってる感じが滲み出て、照れるじゃないか。

「……が、頑張る」

震える手でコンタクトを持ち上げる悠里。
指先の上でぷるぷる震える透明なレンズ。
小さくて薄いのに、見てるこっちまで緊張してくる。

「目、開けてね~。まぶたを押さえて~。」

「ひゃっ……こ、こわい……!」

「落ち着け。見てみろ、ほら、俺が代わりに——」

そう言いかけて、息が止まった。

——近い。

悠里が、俺の手を掴んでいた。
頼るように、ぎゅっと。
体温が伝わって、指先がじんわり熱くなる。
胸の奥がじんじんする。

「……あ、歩……」

「な、なんだよ。」

「見てて。」

その声が少し震えてて、思わず息をのむ。
悠里はもう片方の手で、ゆっくりとまぶたを広げ——
ぷるぷる震える指でレンズを近づけ——
ぱちり。

「……入った?」

「……入った。」

鏡の中。
メガネのない悠里が、そこにいた。
素顔が、はっきり見える。
まつげ、長い。肌、滑らか。目の奥まで澄んでいる。
なんだよ、ずるいな。男のくせに、綺麗すぎる。

「ど、どう……?」

「……似合いすぎて、なんかムカつく。」

「な、なんで!?」

思わず目をそらす。
真正面から見られると、こっちが照れる。

「……歩。」

「ん?」

「僕のこと……ほんとに、かっこいいって思ってる?」

心臓が跳ねた。
いつもふざけて言ってる“かっこいい”と違うトーンだった。
目が、真剣なんだ。

「……思ってるよ。」

小さな声で答える。
嘘じゃない。むしろ、思いすぎて困ってる。
息が少し荒くなった。
この距離で、こんな目で見つめられると……無防備すぎるだろ。

悠里は、一瞬きょとんとした後、少し照れたように笑った。

「……ありがとう。」

その笑顔が眩しすぎて、思わず視線を逸らす。
ずるい。こっちの方がドキドキしてるじゃないか。

「……で、これ、外すのも練習しなきゃいけないんだって。」

「おう、がんばれよ。泣くなよ。」

「泣かないよ! でも外せなかったら……歩、取って。」

「バカ、それは別の意味で危ないわ。」

「え、じゃあ……指導お願い♡」

「急にキャラ変すんな!!」

看護師さんが笑いをこらえてる。
顔が熱い。なんだこれ。

なんとか全工程を終え、外に出るころには、夕日が差し始めていた。
横に並んで歩く悠里が、ちょっと大人びて見える。
メガネがないだけで、雰囲気が違う。
歩幅も少し大きくなった気がする。

「ねぇ、歩。」

「ん?」

「さっき“思ってる”って言ったの、もう一回聞きたい。」

「は?」

「練習のとき、緊張でちゃんと聞けなかったから。」

「……おまえ、図々しいな。」

「じゃあ言わなくていい。」

拗ねたように言って、俺の袖を引っ張る。
小動物かよ。かわいいな。

「……思ってるよ。」

「ふふっ、今のはちゃんと聞こえた。」

そう言って笑う悠里の横顔を、俺はこっそり盗み見た。
コンタクトを入れただけなのに、
なんだか距離まで近くなった気がした。

たぶん、世界でいちばん近い距離で見たから。
そして、もう知ってしまったからだ。
この瞳の奥に、俺が映ってるってことを。
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