平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと

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授業後に空き教室に集まった僕たちは、作戦会議を始めた。

「では作戦会議と行こうか、優希」

「俺は止めたからな?」

優希は両腕を組み、眉間に皺を寄せ、明らかに機嫌が悪そうだ。
どう見ても「このアホと関わるのは人生の無駄」と思っている顔である。

しかしそんなこと気にしていられない。
僕はノートパソコンを開き、Wordに「隼人くん幸せ作戦」と題名をつけた。やばいテンション上がってきた。

「まずは好きな人が誰か特定することから始めなきゃいけない、ただ、これは難易度が高い。今までその尻尾すら見せてこなかったからね。となると過去のことが重要になる。そこで優希、お前の番だよ」

気分は名探偵だ。僕は顎に手を当てた。これが俗に言うホームズポーズだ。形から入るタイプなんだ、僕は。心の中でBGMが流れる。コナン、金田一、ホームズ、相棒、古畑任三郎……全部ランダム再生。頭の中は完全にミステリーの世界だ。この空き教室は今、世界でもっとも緊迫した現場に変わった。

「……あー察したわ。つまり過去の女遊び遍歴の中に本命がいた説だな」

優希の声は冷たく、でも妙に落ち着いている。
僕はつい、机をトントン叩きながら「そう!その通りだ!」と返す。
心の中では小さくガッツポーズ。

「その可能性が一番高い。大学生になって、泣く泣く別れることになってしまった隼人くんは、手っ取り早く、フリーそうな男を捕まえることにした、実に完璧な恋愛戦略だ。流石モテ男。」

優希は、思いっきりため息をついた。

「はっきり言うが、その可能性は低い。あいつは本命どころか彼女も作らない男だった。彼女も作らず女遊びに励んでたってわけだよ。」

「……詳しいな!?就職先は週間晩秋?」

思わず僕は大声で尋ねる。
だって優希は何でも知っている。まるで隼人くんの人生専属ゴシップ担当ジャーナリストだ。

「アホぬかせ。学年で知らぬものはいない有名な話だったんだよ」

優希の一言で僕の名探偵心は一瞬凍りつく。
でもすぐに、「いや、これも調査の一環だ!」と自分に言い聞かせ、メモを取り続ける。
指が震えて、キーボードを叩く手が空回りしそうになるが、誰も気にしない。自分だけが重要な任務をしているのだ。

「じゃあ特定は厳しいか……。ならいやーな彼氏を演じて別れる方は…?」

机の角に指を突っ込み、天井を見上げる。
妄想の中ではすでに、僕が“悪い彼氏光希”として隼人くんに恐怖を与え、別れを決意させるシーンが展開されていた。

「……お前は別れたいのか?」

優希の低い声が、空き教室に響き渡る。
僕の胸の鼓動が、一瞬止まる。

「……正直、別れたくない。でも、隼人くんの幸せのためなら。」

胸の奥で小さな炎が燃え上がる。
それが愛の形――たとえそれが悲しい結末になろうとも。

優希はため息をついた。
彼のため息は大気を震わせるほど重い。

「お前って…ほんといいやつだよな、あいつには勿体無い。」

「ええええ!隼人くんが僕には勿体無いんだよ!」

叫ぶ僕に、優希は軽く鼻で笑った。
でもその笑いにはどこか温かみがある。
多分、「ほんとにこのアホ、何言ってんだ」っていう感情の混ざった笑いだ。

「とりあえずどうやったら別れられるの?他人に迷惑をかけるのは無しの方向で…」

「王道なのは、束縛か浮気か?」

教科書みたいにさらっと答える優希。

「……どっちもできないーーー、隼人くんに迷惑かけたくないよーー」

「お前なぁ…別れるなら覚悟決めなきゃいけないだろう…」

「……わかった、できる限りやる!」

「浮気の場合は…優希ぃお願い…」
 
上目遣いでぶりっ子ポーズを決める僕。
その顔を見た優希の目は、まるでとんでもない生き物を目撃したかのように見開かれていた。

「嫌だ。俺は長生きしたい。まだ死にたくない。」

「えーーそんなわけないじゃん~笑」

「……天然もここまで来ると天然記念物だな…」

「うん?なんか言った?」

「お前がアホだっていった」

「ひどい!」

僕は机をバンッと叩き、頭を抱え、でも心の中はワクワクしている。
だって隼人くんの幸せのための作戦は、これからが本番なのだから――。

そうこうしているうちに、スマホが震えた。

「あ、隼人くんからだ!!」

嬉しくなった僕はすぐに出た、

「やぁ光希、どこにいるんだい、今サークル活動が終わったから、大学にいるなら帰ろう!」

「うん!帰る!!いま優希と一緒だよ!」

「おい、俺のことは言うな…」

「……へぇ、石川くん?相変わらず仲良いね」

「うん!仲良いよ」

「……じゃあまた校門でね」

電話が切れると、僕は勝利感に包まれる。

「よし!頑張るよ、優希!!!」

心の中で小さく拳を握る。

「……今度奢れよ!!!」

優希はあきれ顔で、でも少し笑みを浮かべ、声を荒げた。
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