平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと

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「やっと会えたね、光希。今日もかわいいね。」

隼人くんの手が、僕の頭をそっと撫でる。
嬉しい。でも、流されちゃダメだ。
今の僕は“束縛彼氏光希”、彼の幸せのために、多少ヤバい彼氏にならなければならないのだ。

さりげなく手を繋いで歩き始めた隼人くんに意を決して話しかける。
心臓がバクバクする。でも僕は覚悟を決める。

「……あのさ、隼人くん」

「うんなんだい?」

「……今日は誰と一緒だった?」

「……え?」

「お、女の人いた?」

「…突然どうしたの?いつも通りのメンツと話してただけだよ。前にも紹介しただろう?湊に翔太だよ」

頭の中で警報が鳴る。赤ランプ点滅。
このままじゃ僕の“束縛作戦”は失敗だ。
僕は思わず小さな声で、でも必死に言う。

「……隼人くんが取られちゃう気がして…どこにも行かないでね…?僕の近くにいてね…?」

我ながら恐怖を感じる台詞だ。
本命がいる状態でこんなこと言われたら、相手は夜眠れなくなるレベルだろう。
でも、目の前の隼人くんはニコニコして、ちっとも怖がっていない。

「なぁに?嫉妬?かわいいなぁもう。はい、俺のスマホ。」

「え?」

「浮気してないから、見ていいよ」

「え、えあああえ」

嘘だろう?人のスマホを見るとか。この世の禁止事項の一つで将来的に法律で罰則与えられそうな内容じゃん。
流石クリーン隼人くん…かっこいい。彼なら多分、世界平和も守れそうだ。

「だ、大丈夫!!」

「……そう?わかった。」

やばい、失敗した。
次の束縛作戦に行こう。
僕は小さく拳を握る。

「あ、あのさ!明日休みじゃん!よかったら映画でも行こうよ!」

突然の予定。嫌がる人はめっちゃ嫌がるやつだ。
でも隼人くんは軽く

「ああいいよ、何もないし」

と言ってくれる。
なんという順応性。心の中で僕は拍手喝采。
嘘だろう?彼に弱点はないのか?

「あのね!この映画見たいんだ!!」

僕が見せたのは有名ミステリー小説が原作のミステリー映画。さっきまで名探偵気分だったから、余計に見たくなったんだ。

「この主演の俳優さんがね…ほんとハマり役で…めっっちゃかっこいいの!!飄々としてミステリアスで、華麗に謎を解く感じが!」

「……ふーん」

興味なさそうな反応。
あれ、チョイス間違えたかな、と焦る僕。

「あの、この映画、よくなかった…?」

小首を傾げると、隼人くんは微笑みながら少しだけ顔を近づけて言う。

「ああ、そう言うわけじゃないよ、光希が行きたいなら行こうね」

そうやっていつもの笑顔を見せてくれた

家に着くと、隼人くんは振り返って微笑む。

「じゃあね、明日は迎えに行くからね」

「うん…!また明日!」

さて、僕の1日はこれじゃ終わらない。

僕は束縛彼氏、彼にLINEを連打するという使命がある。

しかし…

「お、思い付かない…!」

アホ光希こと田辺光希は文章力がない。本当にない。
読書感想文は敵だったし、作文なんかいつも最後まで残ってた。束縛の文章?未知の領域だ。
世の中の束縛する人たちはすごい。何も思いつかない。

そうこうしていると、隼人くんと優希、両方から連絡きた!

見なきゃ見なきゃ!!

優希『おーい、どうなった?』

隼人くん『明日は10時に家に行くけどいい?』

僕の頭がパニック。
ど、どっちから返信すれば…!

……あ。

僕はアホだった。
返信先を間違えた

優希『おーい、どうなった?』
『うん!よろしくね!』

隼人くん『明日は10時に家に行くけどいい?』
『それが色々難しくて…心配してくれてありがとう!優希』

あああ、やってしまった。
心臓がギュッと締め付けられる。

返信が来る。

優希『おいwお前間違えてんぞw』

隼人くん『優希?君、石川くんと間違えた?』
『というか石川くんと同時にLINEしてたの?』
『普通彼氏優先しない?』
『というか色々難しいって何が難しいの?それは俺には相談できないこと?』
『いや、怒ってないよ、ごめんね、』
『でも石川くんと間違えて欲しくなかったな』

さすが隼人くん。僕にはできないLINE連打を平然とやって見せる……。彼には何ができないんだろう…。
優希は相変わらずで安心できる。

『ごめんね🙇間違えた』

ふぅ、これを両方に送っておけば、とりあえず安全圏。
僕は布団に潜り込み、目を閉じる。
隼人くんの存在を思うと、ドキドキが止まらない。

――明日も頑張ろう、と心の中で決意する。
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