平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと

文字の大きさ
8 / 8

8 (視点変更)

しおりを挟む
両親はいつも仕事だった。
家にいても喧嘩ばかり。
俺は、空気みたいに扱われる子供だった。
存在を認めてもらえないのに、飯だけは黙って置かれる。
それが当たり前になっていった。

中学生の頃、どうしようもない寂しさを抱えていた時に、女の先輩に声をかけられた。
そこからだった。
俺が女遊びにハマり込むようになったのは。
あのとき初めて「必要とされる感覚」を知ったから。
だけど、それは本物じゃない。
カラオケボックスの暗がりで繰り返すキスや、安っぽい恋人ごっこで、心が埋まるわけがなかった。

幸い、容姿は整っていた。
女を見繕うのは簡単だった。
俺の虚しさと寂しさを埋める道具はいくらでも見つかった。

「……お前、最低だな」

そう呟いた同級生を覚えている。
石川優希。
真正面から俺を軽蔑した唯一の人間。

ああ、その通りだよ。
俺は最低だ。
最低なやり方で、寂しさを誤魔化してる。
それでも誰も本当の俺を覗こうとしなかった。
だから俺も、本音を見せるのは諦めた。

変わらない毎日に、俺はとっくに飽き飽きしていた。
何も得られないまま、大学生になった。

「あ、あの、講堂ってどこにありますか……?」

その日。
俺を年上の先輩と勘違いした男の子が、戸惑ったように声をかけてきた。
振り返った瞬間、俺は固まった。

……可愛い。
真っ直ぐで、何も知らない目。
初心で純粋で、俺とは大違い。
まるで別の世界から来たみたいに、眩しい。

「ああ、今から行くところだから、着いてきて」

俺は平静を装って答えた。
けど内心は、久しぶりに心臓が高鳴っていた。

こうして光希と俺は、自然に仲良くなっていった。
彼といると、いつの間にか女遊びなんてやめていた。
もう寂しくなかったからだ。

それでも足りなくて、俺は彼に猛アプローチを仕掛けた。
拒絶されたらどうしようなんて考えもあったけれど、彼は少しずつ俺に心を開いてくれた。
そして2年生のとき、ようやく付き合うことになった。

幸せだった。
――いや、「幸せ」なんて言葉じゃ足りなかった。
光希は、俺が初めて本当に欲しいと思ったものだったから。



「ううん……」

光希はまだ夢の中だった。
俺はベッドサイドに腰をかけて、その頬をそっと指でなぞる。
小さな寝息。柔らかな睫毛。体温の残る白い肌。

……可愛い。
愛おしい。
この世のどんな宝石よりも、俺にとっては光希の方が価値がある。

昨日――あれは奇跡だった。
今までで一番幸せな夜。
復縁できた喜び。
何度も夢に見て、何度も失いかけて、それでもようやく手に入れた。
性行為ってこんなに気持ちよくて、こんなに幸せなんだって、初めて知った。

「う、うん……? おはよう……」

寝ぼけ眼の光希が、俺を見上げる。
……ああ、可愛い。寝起きですら俺を惑わせる。

「おはよう。昨日は、無理させてごめんね。勢いで中出しもしちゃったし」

そう言って微笑むと、光希は一瞬で顔を真っ赤にした。

「そ、そういうこと言うんだ……」

枕に顔を埋めて、照れくさそうに小声で言う。
その拗ねたような声。視線を逸らす仕草。
――可愛い。可愛すぎる。

こんなに可愛い生き物が、世の中に他に存在するのか?
今までの女と比べることすら失礼だ。レベルが違う。

光希は特別。俺のもの。俺だけの初めて。

「……なんか、慣れてた……」

そう言って、光希はそっぽを向いた。
羞恥に震える横顔。
――胸がじわじわと熱くなる。
その不安げで拗ねた顔すら、俺を夢中にさせる。

可愛い。
可愛すぎて、どこへも行かせたくない。
できるなら、このベッドに鎖で繋ぎつけて、俺の帰りだけを待っていてほしい。

俺は光希の「初めて」になれた。
その事実がたまらなく嬉しい。

……もし初めてじゃなかったら?
もし、あの石川に奪われていたら?

その光景を想像しただけで、胸が締め付けられる。吐き気すらする。
血の味が口の中に広がる錯覚。理性の奥底で、黒い何かが蠢く。

いや、ダメだ。考えるな。
彼方は俺のものだ。俺の初めてで、俺の一番なんだ。
だから、もう二度と俺から離れさせない。

「……光希が一番だよ」

俺の人生で。俺のすべてで。

「……もう!ほんと口がうまいな……!」

顔を真っ赤にして怒る光希が、また可愛い。
その可愛さに胸が焼けるほど熱くなって――

俺は永遠の幸せを手に入れた。
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

りる
2025.12.12 りる

攻めクン。。。ゴタゴタの時にヤラんかったら完璧だったのに。。。(苦笑)
受けクンが寛大で良かったね💧(^^;ァハハ…

解除
モルト
2025.10.29 モルト

こっちまで幸せに満たされる

2025.11.02 あと

コメントありがとうございます!お気に召してもらえたなら幸いです。

解除

あなたにおすすめの小説

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

可愛いがすぎる

たかさき
BL
会長×会計(平凡)。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?

綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。 湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。 そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。 その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

バーベキュー合コンに雑用係で呼ばれた平凡が一番人気のイケメンにお持ち帰りされる話

ゆなな
BL
Xに掲載していたものに加筆修正したものになります。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。