自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと

文字の大きさ
1 / 9

1. はじまり

しおりを挟む
「彼方!!待て!!」

あの人が追いかけてくる。

ああ何でこうなったんだろう。
変わらないこの気持ちは抑えて、前に進んでいこうと思ったのに。
でも、僕はとても嬉しいと感じてしまう。
あの人が僕のことを××だとという事実に。
――バカだな。気持ち悪いな、僕。
嫌われてるはずなのに、こんなことで舞い上がってるなんて。


「この度はお悔やみ申し上げます…」

父が死んだ。
末期がんだった。
まだ若いのにって近所の人が言ってた。
葬式はしなかった、それが父の遺言だったから。
きっとお金のない僕を気遣ってくれたんだろう。
最後の最後まで、僕に迷惑をかけないようにしてくれたんだ。

「おーい!彼方~」

聞き馴染みのある元気な声が聞こえてくる。

「…久しぶり、圭太。」

僕はゆっくり振り返る。

「なんやその…お父さんのことは残念やったな…。でも久々に彼方に会えて俺は嬉しいで!」

そう言って昔から変わらない笑顔ではにかむ。

幼馴染の圭太は僕の唯一の友達だ。
昔から喋るのが苦手で何の取り柄もない僕に優しくしてくれる。今だってそうだ。『デリカシーなさそう』ってクラスの女子に散々言われてるけど、実はとても気を遣いのできる男だ。

「ありがとう…。でももう大丈夫だよ。」

僕も精一杯笑う。笑えてるだろうか?もしかしたら笑ってると思ってるのは自分だけで、かなりぎこちない顔になってるかもしれない。

「そうなんか?ならええやんけど…。それでその、言いづらいんやけど、今後大丈夫なんか…?その、お金とか…」

「………遺産があるから…」

「……それで、生活していくのに充分足りるんか…?」

「………わかんない。でも仕方ないし、バイトしてるからさ、大丈夫だよ。」

「………彼方その、」

圭太は言葉を飲み込むように、少しだけ口を開き、そして意を決したように、口を開く。

「言いづらいやけど…"お兄さん"に頼んだらどうやろうか?」

瞬間、空気が凍った。
体中の血が逆流するみたいに冷たくなる。
圭太は悪気がない。そんなことわかってる。
でも、それが余計に苦しい。

ああきっと今の僕は酷い顔をしてるだろう。
仕方ないか、だって1番話に出してほしくない"あの人"が出たんだから。

「……………………………。」

「すっすまん!地雷やったな!」

「……あの人は、きっと僕のことを嫌ってる」

ようやく絞り出した声は、掠れていた。
――本当に嫌われてるなんて、確かめてもない。
4年間会ってないから。
でも、僕を、あの人がまだ許してるわけない。
嫌われてて当然。気持ち悪がられて当然。

「……えっ?」

「ごめんね…無理なんだ…」

「……そうか、俺は……彼方の1番の味方やからな!!」

圭太は真剣な顔でそう言った。

「……ありがとう…」

交差点のテレビから、軽快なCMソングが流れた。

「あなたの心にスマッシュ!新発売レモンスカッシュ!」

若い男性が楽しげにレモンスカッシュを掲げる。
僕の目もそちらに行き、思わず息を呑む。

「……はあ、やっぱり真広様は顔がいい…」

通りすがりの女子高生がそう呟く姿が見えた。

「……やっぱり真広兄さんはすごいな」

「……うん……」

そう、このCMに出てるこの人—— ——今年のCM出演数No.1に輝いた、現役大学生にして今をときめくトップ俳優、水瀬真広が僕の兄だった人だ。

兄は僕とは違って完璧だ。
顔、性格も、礼儀も、愛想も。
演技力も評価されており、賞も獲得している。
誰からも好かれ、望まれる人。
彼の笑顔が、僕の胸を重く締めつける。

「……あかん、早く行かなきゃ遅刻するやん!急ぐで!」

「うっうん!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

【BL】無償の愛と愛を知らない僕。

ありま氷炎
BL
何かしないと、人は僕を愛してくれない。 それが嫌で、僕は家を飛び出した。 僕を拾ってくれた人は、何も言わず家に置いてくれた。 両親が迎えにきて、仕方なく家に帰った。 それから十数年後、僕は彼と再会した。

悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される

木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー ※この話は小説家になろうにも掲載しています。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます

大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。 オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。 地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

処理中です...