自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

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2.アルバイト

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学校に着いたら授業以外、基本僕は机に突っ伏している。
話せる友達なんて圭太しかいない僕にとって学校は地獄と同義語だ。
存在していても意味がないから、せめて空気みたいに静かにしていようと思っていた。

でも今日は新しいアルバイトについて調べてた。
圭太にはああいったものの、正直お金には厳しい。
遺産だって雀の涙程度だ。すぐなくなる。
生活はカツカツで家賃すら滞納しそうだ。
今のアルバイトだけで生活するのはキツい僕は、新しいアルバイトを探した。そんな僕に希望の光が見えた。

「うん…?」

[高額アルバイト!話を聞くだけで、時給2000円のアルバイト!]

じっ時給2000円!?
まだ高校2年生の僕にとって喉から手が出るほど欲しい大金だ。
だが正直……怪しい。絶対に怪しい。
でも、僕には飛びつくしかない。
どうせ僕なんて、壊れても誰も困らない。
だったら、多少怪しくても稼がなきゃ生きていけない。
最悪、体売る覚悟はしていた方がいいな…。
でも体売っても僕なんかが稼げる気がしないし……。

仕方ない。何をされてもしても、受け入れるしかない。
そういう運命なのだから。

ああダメだ。こうなったら僕の思考回路はネガティブ一直線。まともに考えることができなくなる。

「だからあなたはダメなのよ。この出来損ないが。」

いつの日か、お母さんが言っていた言葉が脳内にこだまする。そうだね、その通りだね。僕なんか生まれてこなければよかったんだ。

「彼方ーー帰るでーー」

気づいたら1日が終わってた。
違うクラスの圭太が誘ってくれている。
人気者な圭太がわざわざ迎えに来てくれたことに、感謝と申し訳なさが胸に混ざる。
僕はいつだって、もらってばかりだ。
返せるものなんて、なに一つないのに。

「うん…帰ろう」

帰り道、例のアルバイトのことを口にした。
言うべきじゃなかった。こんな怪しい話を、圭太に相談するなんて。
どうせ「やめとけ」って言われるに決まってるのに。
でも心のどこかで、止めてほしかったのかもしれない。

「2000円!?なっなんやそのバイト!?絶対闇バイトやろ!?彼方、早まるな!」

案の定、彼は全力で止めてきた。
必死な顔をして。
その優しさが、胸に刺さる。

「でもこれぐらいしかないし…なんとなるよ。」

自分でもバカみたいな言葉だと思った。

「なんとかなる」なんて、僕の人生で一度でもそうなったことがあったか?
むしろ全部「なんともならなかった」結果が今の僕だ。
でも口からは空っぽの楽観を吐くしかなかった。

「いやならんて!!彼方が心配や……ただでさえ細っこいのに…」

「ちょっと、細っこいの気にしてるんだけど?なんてね。大丈夫。死ななければ何とかなるし。」

そう冗談めかして笑ったけど、心の中では「死んだほうが楽だよな」とずっと思っていた。
でもそんな言葉を口に出したら、圭太を傷つける。

圭太はそれだけじゃ引き下がらずに、言葉を続けた。

「……やっぱりお兄さんに資金援助を申し出た方がいいんちゃう?めっっちゃ稼いでるはずやろ?年収、億越えてるらしいで!!」

「……だからそれはダメなんだ」

声が低くなるのが自分でもわかった。
あの人の話題を出されると、どうしても体が強張る。
過去が喉を塞ぎにくる。

「なんでや!?お前ら血の繋がりはなくとも、仲良し兄弟やったやろ!?」

圭太はそう叫んだ。
仲良し兄弟。
その響きに胸がえぐられた。
無理もない。
僕とお兄ちゃんは朝から晩までずっと一緒にいるほどの正真正銘の仲良し兄弟だった。
貧乏だったから、お風呂もベットも一緒だった。

一緒に笑って、一緒に眠って、一緒に未来を夢見て。
あの人が隣にいるだけで世界が光って見えた。
でも——

「……ダメなんだ…僕が…僕が全部壊したから…」

無意識にこぼれた言葉は、震えていた

「っ、彼方……。すまんかった。彼方の気持ち考えずに、気にしてること言って…。」

そう言って圭太は頭を下げた。

「ちょっちょっと!!圭太が僕のこと心配して言ってくれたことはよくわかるし、僕が悪いだけだから…」

僕は慌てて言葉を繋ぐ。
圭太は悪くない。
全部僕のせいだ。

僕が弱かったから。
僕が欲張ったから。
僕が間違った言葉を選んだから。

「それに親が離婚して今は家族じゃないし、血の繋がりもなければ戸籍上でも家族じゃない人にお金貸すほどあの人も暇じゃないと思うよ」

冷静に考えたらそうだ。
僕が過去にやってしまったことを度外視しても、あの人が僕に援助する義理はない。
そして僕がお願いする資格もない。

「そうやろか…あの人は彼方を溺愛してたからなぁ。喜んで金貸してくれると思うで…?」

圭太は首を傾げながらそう言った。

その言葉が、胸に深く突き刺さる。

確かに昔のあの人なら、そうだったかもしれない。
でも……僕はとんでもないことを——

~~~「××です。」~~~

「……彼方?大丈夫なん?」

気づけば、全身が冷たい汗に濡れていた。
どうやら忘れたい記憶が蘇ったみたいだ。
なんで人間って忘れたい記憶に限って忘れないんだろう。
僕は一生、あの瞬間から逃げられないんだろう。

「だっ大丈夫…ごめんね。ちょっとボーッとして。」

慌てて誤魔化す。
圭太は信じてくれたみたいで「熱中症には気ーつけや」と笑った。
本当に、優しい。
優しすぎて、僕には眩しすぎる。

「心配してくれたのはわかってる。でも僕の選んだ道だから…とりあえず行ってみるよ」

「………ほんとやばそうやったら警察に駆け込むんやぞ…」

そう言って僕らは別れた。

背中を見送りながら、胸の奥に残るのは感謝よりも罪悪感だった。
僕は圭太を裏切ることになる。
それでも……生きるために、縋るしかない。

「……ほんと、僕ってどうしようもないな」

誰に聞かせるでもない呟きが、夜風に溶けた。
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