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1. はじまり
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「彼方!!待て!!」
あの人が追いかけてくる。
ああ何でこうなったんだろう。
変わらないこの気持ちは抑えて、前に進んでいこうと思ったのに。
でも、僕はとても嬉しいと感じてしまう。
あの人が僕のことを××だとという事実に。
――バカだな。気持ち悪いな、僕。
嫌われてるはずなのに、こんなことで舞い上がってるなんて。
⸻
「この度はお悔やみ申し上げます…」
父が死んだ。
末期がんだった。
まだ若いのにって近所の人が言ってた。
葬式はしなかった、それが父の遺言だったから。
きっとお金のない僕を気遣ってくれたんだろう。
最後の最後まで、僕に迷惑をかけないようにしてくれたんだ。
「おーい!彼方~」
聞き馴染みのある元気な声が聞こえてくる。
「…久しぶり、圭太。」
僕はゆっくり振り返る。
「なんやその…お父さんのことは残念やったな…。でも久々に彼方に会えて俺は嬉しいで!」
そう言って昔から変わらない笑顔ではにかむ。
幼馴染の圭太は僕の唯一の友達だ。
昔から喋るのが苦手で何の取り柄もない僕に優しくしてくれる。今だってそうだ。『デリカシーなさそう』ってクラスの女子に散々言われてるけど、実はとても気を遣いのできる男だ。
「ありがとう…。でももう大丈夫だよ。」
僕も精一杯笑う。笑えてるだろうか?もしかしたら笑ってると思ってるのは自分だけで、かなりぎこちない顔になってるかもしれない。
「そうなんか?ならええやんけど…。それでその、言いづらいんやけど、今後大丈夫なんか…?その、お金とか…」
「………遺産があるから…」
「……それで、生活していくのに充分足りるんか…?」
「………わかんない。でも仕方ないし、バイトしてるからさ、大丈夫だよ。」
「………彼方その、」
圭太は言葉を飲み込むように、少しだけ口を開き、そして意を決したように、口を開く。
「言いづらいやけど…"お兄さん"に頼んだらどうやろうか?」
瞬間、空気が凍った。
体中の血が逆流するみたいに冷たくなる。
圭太は悪気がない。そんなことわかってる。
でも、それが余計に苦しい。
ああきっと今の僕は酷い顔をしてるだろう。
仕方ないか、だって1番話に出してほしくない"あの人"が出たんだから。
「……………………………。」
「すっすまん!地雷やったな!」
「……あの人は、きっと僕のことを嫌ってる」
ようやく絞り出した声は、掠れていた。
――本当に嫌われてるなんて、確かめてもない。
4年間会ってないから。
でも、僕を、あの人がまだ許してるわけない。
嫌われてて当然。気持ち悪がられて当然。
「……えっ?」
「ごめんね…無理なんだ…」
「……そうか、俺は……彼方の1番の味方やからな!!」
圭太は真剣な顔でそう言った。
「……ありがとう…」
交差点のテレビから、軽快なCMソングが流れた。
「あなたの心にスマッシュ!新発売レモンスカッシュ!」
若い男性が楽しげにレモンスカッシュを掲げる。
僕の目もそちらに行き、思わず息を呑む。
「……はあ、やっぱり真広様は顔がいい…」
通りすがりの女子高生がそう呟く姿が見えた。
「……やっぱり真広兄さんはすごいな」
「……うん……」
そう、このCMに出てるこの人—— ——今年のCM出演数No.1に輝いた、現役大学生にして今をときめくトップ俳優、水瀬真広が僕の兄だった人だ。
兄は僕とは違って完璧だ。
顔、性格も、礼儀も、愛想も。
演技力も評価されており、賞も獲得している。
誰からも好かれ、望まれる人。
彼の笑顔が、僕の胸を重く締めつける。
「……あかん、早く行かなきゃ遅刻するやん!急ぐで!」
「うっうん!」
あの人が追いかけてくる。
ああ何でこうなったんだろう。
変わらないこの気持ちは抑えて、前に進んでいこうと思ったのに。
でも、僕はとても嬉しいと感じてしまう。
あの人が僕のことを××だとという事実に。
――バカだな。気持ち悪いな、僕。
嫌われてるはずなのに、こんなことで舞い上がってるなんて。
⸻
「この度はお悔やみ申し上げます…」
父が死んだ。
末期がんだった。
まだ若いのにって近所の人が言ってた。
葬式はしなかった、それが父の遺言だったから。
きっとお金のない僕を気遣ってくれたんだろう。
最後の最後まで、僕に迷惑をかけないようにしてくれたんだ。
「おーい!彼方~」
聞き馴染みのある元気な声が聞こえてくる。
「…久しぶり、圭太。」
僕はゆっくり振り返る。
「なんやその…お父さんのことは残念やったな…。でも久々に彼方に会えて俺は嬉しいで!」
そう言って昔から変わらない笑顔ではにかむ。
幼馴染の圭太は僕の唯一の友達だ。
昔から喋るのが苦手で何の取り柄もない僕に優しくしてくれる。今だってそうだ。『デリカシーなさそう』ってクラスの女子に散々言われてるけど、実はとても気を遣いのできる男だ。
「ありがとう…。でももう大丈夫だよ。」
僕も精一杯笑う。笑えてるだろうか?もしかしたら笑ってると思ってるのは自分だけで、かなりぎこちない顔になってるかもしれない。
「そうなんか?ならええやんけど…。それでその、言いづらいんやけど、今後大丈夫なんか…?その、お金とか…」
「………遺産があるから…」
「……それで、生活していくのに充分足りるんか…?」
「………わかんない。でも仕方ないし、バイトしてるからさ、大丈夫だよ。」
「………彼方その、」
圭太は言葉を飲み込むように、少しだけ口を開き、そして意を決したように、口を開く。
「言いづらいやけど…"お兄さん"に頼んだらどうやろうか?」
瞬間、空気が凍った。
体中の血が逆流するみたいに冷たくなる。
圭太は悪気がない。そんなことわかってる。
でも、それが余計に苦しい。
ああきっと今の僕は酷い顔をしてるだろう。
仕方ないか、だって1番話に出してほしくない"あの人"が出たんだから。
「……………………………。」
「すっすまん!地雷やったな!」
「……あの人は、きっと僕のことを嫌ってる」
ようやく絞り出した声は、掠れていた。
――本当に嫌われてるなんて、確かめてもない。
4年間会ってないから。
でも、僕を、あの人がまだ許してるわけない。
嫌われてて当然。気持ち悪がられて当然。
「……えっ?」
「ごめんね…無理なんだ…」
「……そうか、俺は……彼方の1番の味方やからな!!」
圭太は真剣な顔でそう言った。
「……ありがとう…」
交差点のテレビから、軽快なCMソングが流れた。
「あなたの心にスマッシュ!新発売レモンスカッシュ!」
若い男性が楽しげにレモンスカッシュを掲げる。
僕の目もそちらに行き、思わず息を呑む。
「……はあ、やっぱり真広様は顔がいい…」
通りすがりの女子高生がそう呟く姿が見えた。
「……やっぱり真広兄さんはすごいな」
「……うん……」
そう、このCMに出てるこの人—— ——今年のCM出演数No.1に輝いた、現役大学生にして今をときめくトップ俳優、水瀬真広が僕の兄だった人だ。
兄は僕とは違って完璧だ。
顔、性格も、礼儀も、愛想も。
演技力も評価されており、賞も獲得している。
誰からも好かれ、望まれる人。
彼の笑顔が、僕の胸を重く締めつける。
「……あかん、早く行かなきゃ遅刻するやん!急ぐで!」
「うっうん!」
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