自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと

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7.待ち合わせ

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翌日。
気が重い。
でも、行かないと始まらない。

……そもそも僕なんかが会いに行っていいのか?
兄は今や大人気の俳優で、誰もが憧れる存在だ。
一方の僕は、貧乏学生で、何の取り柄もない。
その落差に押し潰されそうで、足が重い。

おしゃれしようにもお金なんてないから、結局いつもの服。
鏡の前で少しだけ悩んだけど、どうせお兄ちゃんの隣に並んだら僕なんて影にすらならない。
――そう自分に言い聞かせて、無理やり家を出た。

待ち合わせ場所に着くと、すでに彼は立っていた。
背が高くて、顔立ちが整っていて、光そのものみたいな存在。
案の定、通りすがる人たちがチラチラと彼を見ていく。

でも、その完璧な人が――僕だけを見て笑った。

胸の奥が、変にざわついた。

思わず視線を逸らすと、にやりと笑われた。

「……彼方!」

低く響く声。思わず体が固まる。
お兄ちゃんは僕の手を引き、自然と肩を組むように距離を縮めてきた。

「ほらこっち来て」

その距離、近すぎる……。
心臓が、喉が、バクバク鳴って止まらない。
僕みたいな取るに足らない存在に、どうしてこんなに優しいんだろう。
胸が焼けそうに熱くて、喉が詰まりそうになる。

「心配したんだよ?」

言葉に甘さが混じっている。
普段テレビで見る俳優としての彼の声じゃない。
僕だけのために囁かれる声――胸に刺さる。

――ずるい。そんな風にされたら、もう逃げられない。

「まずはこれ、」

ポケットから封筒を取り出して渡してくる。
中を覗けば、札束。十万近く入っていた。

「…ええええ!いいよ!」

思わず手を引っ込める僕に、お兄ちゃんは軽く肩を叩いた。

「ほんとは約束通り1000倍払いたかったけど、彼方断るだろう?ほんの気持ちだよ」

……優しい。優しすぎる。
でも、その優しさが逆に怖い。
僕みたいな価値のない人間に、ここまでしてくれるなんて。
釣り合わなさすぎて、胸が苦しい。

「………ありがとう。これで家賃払えるよ」

口にした瞬間、指先が触れ合った。
でも、手が触れた瞬間の暖かさに、心臓が跳ねる。
手を離さないでほしい、と無意識に思ってしまった自分に驚いた。

「だから俺の家に来なって。家賃も光熱費も全て払うよ」

「……だ、大丈夫……だから」

言葉にしたけれど、内心は頭が真っ白だ。
彼の近くにいるだけで、体が熱くなる。
思わず視線を下げる僕に、彼は優しく顎を上げさせ、目を見つめてくる。

「可愛いな、君って本当に……」

低く呟く声に、耳まで赤くなる。
目が合うたびに、胸の奥がきゅっと締め付けられる。

「……彼方、寒いでしょ?手、貸すよ」

その声は優しすぎて、僕の心を溶かしてしまう。
差し出された兄の手は白くて整っていて、まるでドラマのワンシーンみたいで。
僕なんかが握っていいわけがない。……そうわかっているのに、無意識に握り返してしまった。

温かい。
その温もりは僕の中の冷たい部分をどんどん侵食して、抗えなくしていく。
――ああ、もうダメだ。逃げられない。

「……なんだよ、その顔」

笑いながら肩を抱かれる。
頭が真っ白になって、思わず顔を背けるけど、彼はそっと額を僕の額に当てた。

「……安心していいんだよ、俺がいるから」

優しい声。優しい笑顔。
でも僕にはわかる。これは麻薬だ。
一度頼れば、二度と自分の力で立てなくなる。
お兄ちゃんは太陽で、僕はただの小石。
太陽に照らされて輝いたつもりでいても、実際は自分じゃ何も持っていない。

「……お兄ちゃん、近いよ……」

情けない声が漏れた。すると彼は口元に指を当てて、静かに笑った。

「ん?まだ緊張してる?」

「……う、うん……」

違う。本当は怖いんだ。
彼を信じたら、僕の世界は全部この人に塗りつぶされる。
そのまま、少しずつ距離を縮めて、手を握ったまま歩く。
彼の胸の温かさ、髪の香り、肌に触れる感触……全てが、僕を夢中にさせた。
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