自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと

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8.家

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「ほら、もう少しで家だよ」

部屋に着くと、玄関で彼は僕をそっと壁に押し当てた。
息がかかる距離。視線が絡まる。
彼の目は、あまりにも真っ直ぐで――残酷なくらい優しい。

「……彼方」

「……っ」

名前を呼ばれるだけで、全身が熱くなる。
そのまま、ゆっくりと僕の背中を抱きしめる。
逃げようと思っても、逃げられない。

「ほんと、可愛いな……ずっとこうしていたい」

胸に顔を埋めると、甘い匂いと体温が重なる。

「……俺のこと、好き?」

思わず声が出そうになる。
答えなくても、答えがわかる距離と雰囲気。
僕の体はもう、彼に完全に支配されていた。
 
……とまあこのように流されてお兄ちゃんの家に来てしまった。
どうしてこうなった……全ては僕の意思が薄弱なせいだ…。
僕なんかがこんなところにいていいわけないのに…。

「彼方…」

どんどん迫ってくる。

やめて。答えられないよ。
でも、答えなんてもうとっくにわかってるくせに。

「だっダメだよ!その!僕、圭太と付き合ってるから!」

……あ。言ってしまった。
嘘。
圭太ごめん。僕は最低だ。

「……は、?」

お兄ちゃんの声が低く落ちる。
背筋が凍る。

「何それ。4年前俺のこと好きって言ったの嘘だったの?」

違う。違うよ。嘘じゃない。
でも今ここで認めたら、僕はもう完全に飲み込まれてしまう。

「いや……俺のせいか。俺があの時、ちゃんと受け止めなかったから。だから今度は、逃がさない」

「ほんとにごめんね。あの時の俺は自分の気持ちに気づいていなかった。…いや気づかないふりをしていたんだ。兄弟だったし、男同士だったし。あの後何人か付き合ってようやく自覚したんだ。俺にとって1番大切なのは、彼方だって。」

「母親とは縁を切った。金も名誉も全て彼方に捧げる。だからお願い、俺を受け入れて。」

――やめて。そんなこと言わないで。
嬉しいに決まってるじゃないか。
でも認めてしまったら、僕は完全に戻れなくなる。

「ダ、ダメ……もう会わない……今日が最後……」

「……へぇそんなに会いたいんだ。恋人に。」

「……え?」

「俺の方がいっぱい尽くすよ?なんでもなんでもやってあげる。彼方のためならなんでもする。彼方のためなら命だって惜しくない。あの時のことずっと後悔してたから、だからお願い別れて。俺を選んで。兄弟だったとかもう関係ない。どうせ血が繋がってないし、世間の目とかどうでもいい。お願い。」

――やめて。
そんな言葉を聞いたら、僕はもう自分を保てない。
怖いはずなのに、でも――こんなふうに求められて、どうして僕は泣きそうなほど嬉しいんだろう。

それでも負けてはいけない。
僕なんかがここにいていいはずがない。
なんとかここを切り抜けることが、お兄ちゃんのためにもなる。

「お兄ちゃん…お兄ちゃんは俳優さんだよ?イメージ大事でしょ?それに今は僕一筋かもしれないけど、今後はさらにいろんな綺麗な人と出会って、気持ち変わるかもしれないじゃん…考え直して、もっと冷静になって」

「うるさい!!」

笑顔が崩れる。
その奥から、抑えきれない激情が漏れ出していく。

「ああもう!なんでなんでなんでなんでなんでわかってくれない!!俺には彼方だけなのに!、彼方だけ俺を笑顔にしてくれる!!彼方彼方彼方!」

狂気じみた言葉。
でもその目は泣きそうなほど必死で、僕を縛り付ける。
……ああ、僕はなんて最低なんだ。
嬉しくて、胸が痛い。

「と、とりあえずコーヒーでも飲んで!!」

まだここは玄関だ。
流されてはいけない….。
全てはお兄ちゃんの幸せのためだ。

「……大丈夫。ごめんねまた怖がらせて。ちょっと落ち着いた。」

優しい笑顔に戻る。
けどそれは、スクリーン越しで見てきた「俳優・水瀬真広」の笑顔だ。
――本当に安心していいのか?

「お、お兄ちゃん…」

「そろそろお兄ちゃん呼びはやめて、名前呼びにしてくれないかな?」

「ま、まだ無理…」

「そっかぁ、なら一緒に住もう?ここの家は高校から近いよ?」

「……また?というかなんで高校知ってるの…?」

「調べたに決まってるだろ。でなきゃ今ここで監禁する」

「……え?」
 
「俺は本気」  

気づけばお姫様抱っこで、ベッドに運ばれていた。
抵抗した。でも優しすぎる力に絡め取られて、動けない。

そのまま…僕はお兄ちゃんに押し倒される形になった。

「最初からこうしとけばよかった」

「や、やめて!!」

「ねぇ彼方は本当はどうなりたいの?素直な気持ちを言って。世間体とか俺の幸せとか、そういうの全部抜きに」

「ぼ、僕は、」

逃げられない。
この人の前では、僕は嘘を吐けない。

「す、好き」

自分の声が震えているのに、それでも耳に届いた。

お兄ちゃんは見たことのないほど幸せそうに笑った。

「俺も」

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