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イザベラ様のマナー講座はいろいろな意味で良いものだった。
王子殿下たちがこようとも、断る口実になったのだ。
近づくたびにイザベラ様が私の前にやってきた。
「彼女と先約がありますの。殿下も忙しいですわよね。彼女に構う暇はありませんわよね」
にこやかにそう言ってくれるたびに、王子殿下は悔しそうにしつつも、去って行ってくれた。
関わることがなくなって、ほっとした。
イザベラ様は噂通り聡明な方で、親切な方だった。
少し吊り上がった猫目がきつそうに見えるのが勿体無いくらいだった。
「ほら、背筋が曲がってますわよ。前に重心がいってますわ」
世話係と言うのは建前だったようで、歩き方、座り方、食事のマナーとさまざまな事をひたすら教えてくれた。
マザーが教えてくれたことは本当にマナーの入り口、最低限のことだったのを理解した。
毎日、忙しく厳しい生活をする上ではそれぐらいしか教えることはできなかったのだと、今更のようにつくづくわかった。
「基礎の基礎はできてますわ。誰か教えてくれる方がいらしたの?」
今日はお茶会のマナーだった。
学園のガゼボで、イザベラ様の取り巻き・・・ラック様の後婚約者のメリッサ様と、カイン様の婚約者のユリア様とゆっくりとしたお茶会。
「孤児院の院長である。マザーから学びました。昔は貴族と聞いています」
もと貴族のご令嬢が孤児院の院長などきいたこと。
ありえないことだろう。
案の定、三人はびっくりなさった。
「失礼ながら、名前は?」
「フィアナ・・・といいます」
いつもマザーと呼ぶので、忘れやすい。
確かフィアナだったはずだ。
「フィアナ?フィアナ・ローゼア公爵令嬢ですか!?」
ばん!っと机を叩きイザベラ様は立ち上がった。
「あっ、失礼しましたわ」
こほんと、咳払いをして、座り直す。
「本当にフィアナ様ですの?」
「家名まではわかりませんが、確かにフィアナです。・・・あの。・・・有名な方ですか?」
イザベラ様は、扇子で口元を隠し、少し遠い目をされた。
マザーの何一つ知らない。
なぜ、イザベラ様が驚いたのかも。
「真実はわかりませんが、公認されている噂はあります」
公認の噂・・・。主だっては言えない真実だと言うことか。
「殿下のご両親の話は知っていますわよね」
「はい。絵本にまで描かれていますので」
「・・・そうね。フィアナ様は、物語にも出てくる悪役令嬢エリザ・リンザス公爵令嬢を唯一庇った方なの」
イザベラ様の目が少し怖かった。怒っているような、悔しく思っているかのような感情を露わにしていた。
「わたくしは、王妃様に貶められたのだと思っていますわ」
「「イザベラ様!!」」
メリッサ様とユリア様が諌める。
「本当でしょう。今なら誰もがそう感じているはずですわ。
何もできない能無し王妃。わたくしのマナーのどこが悪いというのよ。公務も語学さえまともにできない、笑うことしかできない人形王妃のくせに。
だから側妃をもたれたのよ。しかも自分のプライドを保つためだけに、側妃アナスタシア様の御子である、第二王子殿下を自分の子供と偽る嫌な女」
扇子がぎりぎりと音を立てている。
私は聞いていいことなのだろうか・・・。
聞いてはならない事実も知ってしまった気がする。な、流しておこう・・・。
イザベラ様はパシンと扇子を閉じ、握りしめた。ペキペキと音がしている。
「わたくしは信じていますの。フィアナ様は国王の腹心であった、リチャード様の婚約者として、賢良方正な方で有名な方だそうですもの。そんな方が嘘を言うはずはありません。エリザ様にしても、いくら婚約者をとられたからと、嫉妬をしていじめるような方ではないと聞いています」
力説するイザベラ様。
胸がじんわりと温かくなった。
嬉しかった。
母を信じている人がいる。母に対して怒ってくれる人がいる。
それだけで嬉しかった。
泣きそうになった。
泣いては駄目。
知られては駄目。
王子殿下たちがこようとも、断る口実になったのだ。
近づくたびにイザベラ様が私の前にやってきた。
「彼女と先約がありますの。殿下も忙しいですわよね。彼女に構う暇はありませんわよね」
にこやかにそう言ってくれるたびに、王子殿下は悔しそうにしつつも、去って行ってくれた。
関わることがなくなって、ほっとした。
イザベラ様は噂通り聡明な方で、親切な方だった。
少し吊り上がった猫目がきつそうに見えるのが勿体無いくらいだった。
「ほら、背筋が曲がってますわよ。前に重心がいってますわ」
世話係と言うのは建前だったようで、歩き方、座り方、食事のマナーとさまざまな事をひたすら教えてくれた。
マザーが教えてくれたことは本当にマナーの入り口、最低限のことだったのを理解した。
毎日、忙しく厳しい生活をする上ではそれぐらいしか教えることはできなかったのだと、今更のようにつくづくわかった。
「基礎の基礎はできてますわ。誰か教えてくれる方がいらしたの?」
今日はお茶会のマナーだった。
学園のガゼボで、イザベラ様の取り巻き・・・ラック様の後婚約者のメリッサ様と、カイン様の婚約者のユリア様とゆっくりとしたお茶会。
「孤児院の院長である。マザーから学びました。昔は貴族と聞いています」
もと貴族のご令嬢が孤児院の院長などきいたこと。
ありえないことだろう。
案の定、三人はびっくりなさった。
「失礼ながら、名前は?」
「フィアナ・・・といいます」
いつもマザーと呼ぶので、忘れやすい。
確かフィアナだったはずだ。
「フィアナ?フィアナ・ローゼア公爵令嬢ですか!?」
ばん!っと机を叩きイザベラ様は立ち上がった。
「あっ、失礼しましたわ」
こほんと、咳払いをして、座り直す。
「本当にフィアナ様ですの?」
「家名まではわかりませんが、確かにフィアナです。・・・あの。・・・有名な方ですか?」
イザベラ様は、扇子で口元を隠し、少し遠い目をされた。
マザーの何一つ知らない。
なぜ、イザベラ様が驚いたのかも。
「真実はわかりませんが、公認されている噂はあります」
公認の噂・・・。主だっては言えない真実だと言うことか。
「殿下のご両親の話は知っていますわよね」
「はい。絵本にまで描かれていますので」
「・・・そうね。フィアナ様は、物語にも出てくる悪役令嬢エリザ・リンザス公爵令嬢を唯一庇った方なの」
イザベラ様の目が少し怖かった。怒っているような、悔しく思っているかのような感情を露わにしていた。
「わたくしは、王妃様に貶められたのだと思っていますわ」
「「イザベラ様!!」」
メリッサ様とユリア様が諌める。
「本当でしょう。今なら誰もがそう感じているはずですわ。
何もできない能無し王妃。わたくしのマナーのどこが悪いというのよ。公務も語学さえまともにできない、笑うことしかできない人形王妃のくせに。
だから側妃をもたれたのよ。しかも自分のプライドを保つためだけに、側妃アナスタシア様の御子である、第二王子殿下を自分の子供と偽る嫌な女」
扇子がぎりぎりと音を立てている。
私は聞いていいことなのだろうか・・・。
聞いてはならない事実も知ってしまった気がする。な、流しておこう・・・。
イザベラ様はパシンと扇子を閉じ、握りしめた。ペキペキと音がしている。
「わたくしは信じていますの。フィアナ様は国王の腹心であった、リチャード様の婚約者として、賢良方正な方で有名な方だそうですもの。そんな方が嘘を言うはずはありません。エリザ様にしても、いくら婚約者をとられたからと、嫉妬をしていじめるような方ではないと聞いています」
力説するイザベラ様。
胸がじんわりと温かくなった。
嬉しかった。
母を信じている人がいる。母に対して怒ってくれる人がいる。
それだけで嬉しかった。
泣きそうになった。
泣いては駄目。
知られては駄目。
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