【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)

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17.

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 三日後、一台の馬車が止まるのが見えた。

 窓から様子を見ていた私は、部屋を飛び出し、階段を駆け降り扉を開けた。

 馬車から男性が出てきた。その腕のなかには大事そうに毛布に包まれた女性がいた。

 紛れもなく母の姿だった。
 頬はこけ、生気もない姿。でも、母だ。
 間違いない。
 
 私の母さんだ。

 ぐしゃぐしゃな気持ちが湧き起こる。
 嬉しいのに、憎い。
 懐かしいのに悲しい。
 訳のわからない気持ち。

 恨み言をいいたいのに、何も言えなかった。

「先にベッドに連れて行く。医師は?」

 マゼルさんはそんな私を叱咤するように言った。

「こっちです」 

 メイドの代わりに案内をする。

 南側の部屋。
 窓の外の景色が一望できる、暖かな部屋。
 
 もとは私に与えてくれた部屋だったが、母のために譲った。

 寝かされた母は小さく見えた。

 幼い頃はとても大きく感じていた。
 お化けのように怖い存在。
 優しいけど、怖い。
 時折、近寄りがたい雰囲気を纏っていた。
 そんな存在だった母の姿は弱々しいものだった。

 医師に見てもらった。

「肺病です。もっと早くわかれば手の施しようはありましたが・・・」
 
 医師は暗い顔で言った。
 目の前にいる患者を救えない悔しさが滲んでいた。

「どれくらいまでなら生きれますか?」
「・・・もって、3ヶ月ほどでしょうか・・・。もしかすると・・・」
「母さん・・・」

 ふらりと近づく。

「待って。これは移る病気です」
「やだ。まだ、母さんに、何も言えてない・・・」

 首を振る私に、医師は何かを悟ったのか、ため息をついて頭をなぜてくれた。

「では、せめて、未然に防ぐために予防薬を接種させてください。あと、定期的に私の検診をうけること。いいですね」

 こくこくと上下に首を振った。


 医師に予防薬を接種してもらってから母の枕元に行った。
 薬が効いているのか、落ち着いた呼吸音が聞こえてきた。

「母さん・・・」

 マゼルさんも来る。

「セシリアが言っていた娼館にいたよ。病気で、客も取れなくなっていたけど、ずっと囲われていた」
「どうしてですか?普通なら、病気で客が取れなくなったら、のに・・・」

 忘れてもいいことばかり覚えている。
 字を覚えるよりも、暮らしの仕組みを覚えるよりも、母がどう生きていたかの方をよく知っていた。で生きていたのだから。

「いずれ、君が来るだろうと、探せば君が見つかるのが容易いだろうと。君を脅すためだけに
「私なんか、生まれなければよかったのに。産まなければよかったのよ」
「そんなことを言うな」

 でも、そうだろう。

 この目のせいで、本当の父親のせいでこうなっているのだ。

「エリザは君を愛している。愛してるから君をフィアナの元に送ったんだ。でなければ、君も今頃、にいたんだから」
「でも・・・」
「もしかすると、君は政治に使われていたのかも知れないんだ。抜け出せない闇に囚われていたかもしれない」

 そうかもしれない。でも・・・。

「それに、君がフィアナの元に行ってくれたからこそ、こうやって、僕はエリザにもう一度会えたんだ。こんなに遅くなった僕が一番悪いんだよ」

 マゼルさんは、悲しそうな目で母を見つめた。

 この人と母は知り合いなのか?

 何があったのか?

「マゼルさんは母さんを知っているのですか?」
 
 彼は涙を浮かべながら、私を見た。


 
 
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