【完結】ありのままのわたしを愛して

彩華(あやはな)

文字の大きさ
18 / 76

18.ロード先生

しおりを挟む
 彼女のことを知ったのは偶然だった。

 自分は30年以上学園に勤めていれば、教授の地位でいようと名ばかりになり、いち教師としてしか認識されない。

 しかも、毎年同じ授業を教えるのだから刺激が欲しく感じていた。
 学年ごとに個性はあっても似たり寄ったり。飛び抜けた子がいたとしても、学年が上がるごとに埋没してゆく。長い物には巻かれろというやつだ。
 貴族社会の上下関係は昔から変わらない。

 はぁ~。

「暇そうですね」

 暇だというよりやっと面倒臭いテストが終わったのだから、気も抜けるというもの。
 
 大きく息を吐けば同僚に白い目を向けられた。僕の方が年上なノエルだが、誰も敬いやしない。逆に持て余し者扱いされている。

「暇なら、そこのプリント整理でもしてくださいよ」

 同僚が入り口に置いてあるプリント回収の棚を指差す。仕方なく立ち上がり、担当の先生の机に配っていく。

 後輩ーハルドのところのだ・・・と持ってきた論文らしきものを見て僕は驚いて手を止める。
 
 なんだ、これはー。

 題名に『ブルトリア国 恋愛小説からみる生活様式』と書かれた文に興味を引いた。
 
 誰だ?こんな物を書いたのは?女の子の名前?

「ハルド。これは誰のだ?」
「あぁ?それか。あれだ。ノエル・エルトニー嬢のだ。出席日数が足らない分を補填して欲しいと兄のライールが直接言いにきたから仕方なく宿題でだした。しかし、なんでレポートと論文なんだか」

 それを聞いた他の教師が小馬鹿にする。

「彼女にできますかね?」
「無理だろう。授業にも出てないのに、できるわけないだろう。所詮形だけのもんさ」

 下品な笑いが起こる中、ざっと論文とレポートに目を通しながら僕だけは違う意味で笑っていた。

 ライール・・・。
 
 僕は思い出す。ライールとは数年前に卒業して今は外交官として働いている。彼は特待生として扱われるほど優秀だった。長い間、教員をしていて彼は本当に素晴らしいと思った人物だ。真面目なだけかと思えばそうではなく、媚びることもしない芯のある生徒だったからこそ覚えている。ただ一つ残念だったのは、ことあるごとに「妹第一主義」だったこと。ありえないほど妹に固執していた。

 彼の妹ー。入学していたのか。
 どんな子だ・・・。
 
 考えてこむ僕の耳にまた何人かの心無い会話が聞こえてくる。

「醜い傷がなけりゃあ、綺麗だっただろうになぁ~」
「本当ですよね~」
「傷が気になって欠席するなら、学園をやめりゃあーいいのに」
「学園を卒業していないと、無能扱いされて嫁にも行けませんけどね」
「どのみち顔に傷があれば嫁にしたくないがな」
「そう思うとマルスが可哀想だな」
「確かに」
「いくら点数が欲しくて色仕掛けしてきても俺はお断りするな」

 醜い傷?
 今年の一年生で顔に傷があるからと、授業を欠席をしている子がいるとは聞いていたが、そうか彼女がライールの妹か・・・。

 違う意味で興味を引く。

「ハルド」
「なんです。ロード先生」
 
 彼の名前を呼ぶと、一応下品な笑いをやめて僕を見上げてくる。
 それでも他人を貶す目が気持ち悪く見えた。

「彼女の受け持ちは僕がしてもいいかい?」
「あぁ?」
「彼女は欠席してるんだよね?なら、僕が個人的に受け持つようにするよ。そうすれば君に迷惑はかからない」

 こんな面白そうな子を無知な奴に渡したくない。

「あのね、ロード先生。あなたも長い間教師をしているのだからルールは知っているでしょう。クラス分けをしてそれを担任という形で教師が受け持つんですよ。特例が認められるわけがないでしょうが」

 鼻で笑う彼に、一理あるとは思う。
 だが、こんな奴に任せていたら、彼女の能力が埋もれてしまう。それでは勿体無い。
 こいつに彼女は豚に真珠だ。

 ならば、どうしたものか・・・。

 使いたくないが、こんな時は権力を借りるのも悪くないな。

「じゃぁ、上を認めさせればいいのだね」
「はぁ~?」
「早速掛け合いに行ってくるから、僕は帰るよ。これはよろしく」
「なっ!仕事はっ!!」

 プリントの束をハルドに押し付け、踵をかえす。
 背後でハルドの声がしたが構わず、彼女の論文とレポートを手に持って部屋を出た。

 そしてその足で、王宮へと向かう。
 会いに行くのは国王だ。
 僕を学園の教師に縛りつけた元同級生だった男だ。

 彼ならこの良さを知ってくれるはず。

 楽しい一夜にしようではないか・・・。

 あははっ、笑いが止まらないー。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...