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目覚め
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ふっと目が覚める。身体を起こすと、自室のベッドへ横たわっていたみたいだ。ベッドヘッドに、気付け用のお酒のボトルが並んでいる。外からは、まぶしい朝日が差し込んでいた。鳥の鳴き声が清々しいわ。
頭がくらくらする。寝間着のネグリジェの袖を、ぎゅっと握った。あれは、夢だったのかしら……。エドガーが私にプロポーズをするなんて、私も随分と焼きが回ったものね。
ふと枕元を見ると、カードが落ちていた。エドガーの筆跡で、何か書かれている。
思わず、読み上げてしまった。
「愛している。俺は、本気だから……」
その文面に、いけないと思いつつときめいてしまう。
いい加減に私は、認めないといけないわ。
私は、エドガーのことを、一人の男性として愛しているの。
血は繋がっていないとはいえ、エドガーは弟だと、自分をごまかしていた。エドガーが私を好きだったというのには、本当に気づけなかったのだけど、今になって思えば明らかにそうだ。ただの姉にするには距離が近いし、すごく大事にしてくれていた。
「私ったら……本当に、どうしようもない酒カスね」
ひとり呟いて、ベッドヘッドに常備されているグラスを手に取る。
「迎え酒よ」
ウォッカを注いで、一口煽った。喉元を、焼けるようなアルコールが通って、身体を火照らせていく。
唇を湿らせて、私は立ち上がった。足取りはしっかりしている。
私は、本当にどうしようもない酒カスよ。今だって、お酒の力を借りないと、こうして立っていられないもの。
だけどエドガーは、こんな私を愛してくれているのだという。
それならちょっとだけ、甘えてみてもいいかしら。
ベルを鳴らしてメアリーを呼ぶ。すぐに飛んできた彼女に微笑みかけて、「支度を」と言った。
たったそれだけの言葉に、彼女は恭しく頷いた。
「ドレスは、いかがいたしますか?」
「赤色のドレスにしてちょうだい。宝石は、緑よ」
「かしこまりました」
メアリーは、それだけで心得たようだ。すぐに下がって、ドレスを持ってきた。それを着付けてもらって、まるで若葉のような色合いの石をたっぷりあしらったネックレスをつけてもらう。
「綺麗なネックレスね」
「ペリドットでございます」
きっとメアリーには、何もかも筒抜けなのね。彼女はいつもの気の抜けた笑みではなく、鋭い視線で私を見つめた。
「勝負にふさわしいものを、ご用意いたしました」
「でかしたわ、メアリー」
仕上げと言わんばかりに、メアリーは私へスキットルを手渡す。揺らすと、ちゃぷんと音がした。
「ブランデーを入れております。いざという時にお使いください」
「ええ。ありがとう」
早速スキットルを開けて、一口煽る。
「景気がついたわ。参りましょう」
私はドレスの裾を翻して、エドガーの部屋へと向かう。
なんとなく、エドガーは、まだそこにいる気がした。
ドアをノックすると、ノブの回る音がする。
そしてゆっくり開いた先に、エドガーが立っていた。彼は手ずからドアを開けて、私へ微笑みかける。
私も、エドガーへ微笑みかけた。
「お話があるの。いいかしら?」
「もちろん。俺がロゼの頼みを、断るわけないだろ?」
メアリーは会釈をして、そのまま立ち去っていった。私はエドガーに手を取られて、部屋へと入る。
必要最低限のものしかなくて、殺風景な場所。私の着ている赤いドレスとペリドットのネックレスだけが、色鮮やかな彩りを持っていた。
私は胸を軽く叩いて、エドガーを見つめる。
その静かな瞳へ、問いかけるように呟いた。
「エドガー。あなた、これまでずっと、私のためにがんばってきたの?」
「そうだよ。全部、ロゼのためだ。俺は、ロゼのために生きてきた」
なんていうこと。エドガーの熱烈な告白に、私の頬はぽっと熱くなる。お酒のせいではなさそうね。
「ねえ、エドガー。あなたは、私のために、どんなことをしたの?」
「……いろんなことを、したよ」
そして、彼は、洗いざらいを教えてくれた。
私とどうしても結ばれたかったこと。
そのために私の婚約を、ことごとく破談にしたこと。
エドガーの言葉は、少しも悪びれていなかった。だけど誇るわけでもなかった。
ただ淡々と、報告しているようだった。
「これが、俺のすべてだ」
エドガーの結びの言葉に、私は「そう」と頷いた。
「エドガー。頭を出しなさい」
エドガーは、「はい」と頭を差し出した。私は右手を差し出して、ひたりと頬に当てる。
「歯を食いしばった方がいいわ」
そして振りかざし、思い切りビンタをした。ぱあん、という肉を打つ音が響く。
「いいこと? あなたがどれだけ私を愛していようと、私があなたを愛していようと、あなたのしたことは、こういうことよ」
返す手で、またビンタをする。
エドガーは黙り込んだままだ。だけど、幸せそうに微笑んでいる。
私はため息をついて、エドガーを抱きしめた。
「エドガー。あなたを野放しにしないのが、私のできる姉としての義務だと思うわ……」
「なに、ロゼ。今更気づいたの」
低い笑い声は、涙で濡れていた。私は「もう」と、憤慨してみせる。
「エドガー、泣かないの。あなたは反省しなくちゃいけないのよ? おかげで、私は婚期を逃して、さんざんだったんだから」
「うん。埋め合わせは、もちろんするよ」
胸元に抱き込んで、頭を撫でてやる。エドガーの大きな掌が私の背中へと回って、抱きしめた。
「ロゼ。愛している。ロゼのためなら、俺は悪魔にだって、神様にだってなってやる」
「いいこと? エドガー。あんまり調子に乗らないことね」
私はため息をついて、エドガーのまぶたへキスを落とした。にこりと微笑む。
「あなたはいつまでたっても、私のかわいい男の子よ。身の程は、わきまえておきなさい」
エドガーは「うん」とあどけない声色で頷いた。
私は彼を抱きしめて、目を瞑る。
「はあ……まったく、困った子ね」
笑い混じりにそう言えば、エドガーの気配が近づく。
「ちゃんと、手綱を握っていてくれよ」
そして、私たちはキスをした。
唇からは、涙の味がした。
頭がくらくらする。寝間着のネグリジェの袖を、ぎゅっと握った。あれは、夢だったのかしら……。エドガーが私にプロポーズをするなんて、私も随分と焼きが回ったものね。
ふと枕元を見ると、カードが落ちていた。エドガーの筆跡で、何か書かれている。
思わず、読み上げてしまった。
「愛している。俺は、本気だから……」
その文面に、いけないと思いつつときめいてしまう。
いい加減に私は、認めないといけないわ。
私は、エドガーのことを、一人の男性として愛しているの。
血は繋がっていないとはいえ、エドガーは弟だと、自分をごまかしていた。エドガーが私を好きだったというのには、本当に気づけなかったのだけど、今になって思えば明らかにそうだ。ただの姉にするには距離が近いし、すごく大事にしてくれていた。
「私ったら……本当に、どうしようもない酒カスね」
ひとり呟いて、ベッドヘッドに常備されているグラスを手に取る。
「迎え酒よ」
ウォッカを注いで、一口煽った。喉元を、焼けるようなアルコールが通って、身体を火照らせていく。
唇を湿らせて、私は立ち上がった。足取りはしっかりしている。
私は、本当にどうしようもない酒カスよ。今だって、お酒の力を借りないと、こうして立っていられないもの。
だけどエドガーは、こんな私を愛してくれているのだという。
それならちょっとだけ、甘えてみてもいいかしら。
ベルを鳴らしてメアリーを呼ぶ。すぐに飛んできた彼女に微笑みかけて、「支度を」と言った。
たったそれだけの言葉に、彼女は恭しく頷いた。
「ドレスは、いかがいたしますか?」
「赤色のドレスにしてちょうだい。宝石は、緑よ」
「かしこまりました」
メアリーは、それだけで心得たようだ。すぐに下がって、ドレスを持ってきた。それを着付けてもらって、まるで若葉のような色合いの石をたっぷりあしらったネックレスをつけてもらう。
「綺麗なネックレスね」
「ペリドットでございます」
きっとメアリーには、何もかも筒抜けなのね。彼女はいつもの気の抜けた笑みではなく、鋭い視線で私を見つめた。
「勝負にふさわしいものを、ご用意いたしました」
「でかしたわ、メアリー」
仕上げと言わんばかりに、メアリーは私へスキットルを手渡す。揺らすと、ちゃぷんと音がした。
「ブランデーを入れております。いざという時にお使いください」
「ええ。ありがとう」
早速スキットルを開けて、一口煽る。
「景気がついたわ。参りましょう」
私はドレスの裾を翻して、エドガーの部屋へと向かう。
なんとなく、エドガーは、まだそこにいる気がした。
ドアをノックすると、ノブの回る音がする。
そしてゆっくり開いた先に、エドガーが立っていた。彼は手ずからドアを開けて、私へ微笑みかける。
私も、エドガーへ微笑みかけた。
「お話があるの。いいかしら?」
「もちろん。俺がロゼの頼みを、断るわけないだろ?」
メアリーは会釈をして、そのまま立ち去っていった。私はエドガーに手を取られて、部屋へと入る。
必要最低限のものしかなくて、殺風景な場所。私の着ている赤いドレスとペリドットのネックレスだけが、色鮮やかな彩りを持っていた。
私は胸を軽く叩いて、エドガーを見つめる。
その静かな瞳へ、問いかけるように呟いた。
「エドガー。あなた、これまでずっと、私のためにがんばってきたの?」
「そうだよ。全部、ロゼのためだ。俺は、ロゼのために生きてきた」
なんていうこと。エドガーの熱烈な告白に、私の頬はぽっと熱くなる。お酒のせいではなさそうね。
「ねえ、エドガー。あなたは、私のために、どんなことをしたの?」
「……いろんなことを、したよ」
そして、彼は、洗いざらいを教えてくれた。
私とどうしても結ばれたかったこと。
そのために私の婚約を、ことごとく破談にしたこと。
エドガーの言葉は、少しも悪びれていなかった。だけど誇るわけでもなかった。
ただ淡々と、報告しているようだった。
「これが、俺のすべてだ」
エドガーの結びの言葉に、私は「そう」と頷いた。
「エドガー。頭を出しなさい」
エドガーは、「はい」と頭を差し出した。私は右手を差し出して、ひたりと頬に当てる。
「歯を食いしばった方がいいわ」
そして振りかざし、思い切りビンタをした。ぱあん、という肉を打つ音が響く。
「いいこと? あなたがどれだけ私を愛していようと、私があなたを愛していようと、あなたのしたことは、こういうことよ」
返す手で、またビンタをする。
エドガーは黙り込んだままだ。だけど、幸せそうに微笑んでいる。
私はため息をついて、エドガーを抱きしめた。
「エドガー。あなたを野放しにしないのが、私のできる姉としての義務だと思うわ……」
「なに、ロゼ。今更気づいたの」
低い笑い声は、涙で濡れていた。私は「もう」と、憤慨してみせる。
「エドガー、泣かないの。あなたは反省しなくちゃいけないのよ? おかげで、私は婚期を逃して、さんざんだったんだから」
「うん。埋め合わせは、もちろんするよ」
胸元に抱き込んで、頭を撫でてやる。エドガーの大きな掌が私の背中へと回って、抱きしめた。
「ロゼ。愛している。ロゼのためなら、俺は悪魔にだって、神様にだってなってやる」
「いいこと? エドガー。あんまり調子に乗らないことね」
私はため息をついて、エドガーのまぶたへキスを落とした。にこりと微笑む。
「あなたはいつまでたっても、私のかわいい男の子よ。身の程は、わきまえておきなさい」
エドガーは「うん」とあどけない声色で頷いた。
私は彼を抱きしめて、目を瞑る。
「はあ……まったく、困った子ね」
笑い混じりにそう言えば、エドガーの気配が近づく。
「ちゃんと、手綱を握っていてくれよ」
そして、私たちはキスをした。
唇からは、涙の味がした。
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