怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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02)異界の声

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私は、今でもあの出来事が夢だったのか現実だったのか、はっきりと区別がつかない。

 大学時代、オカルトに興味を持っていた私は、心霊スポット巡りを趣味にしていた。
 地方の廃墟や、曰く付きの神社など、全国各地の不気味な場所を訪れては、仲間と共にその雰囲気を楽しんでいた。
 しかし、ある時訪れた“あの場所”だけは、決して軽い気持ちで行くべきではなかったと、今になって痛感している。

 その場所は、ある山中の洞窟だった。
 地元の古い言い伝えでは、「異界と繋がる穴」と呼ばれ、村人ですら決して近寄らない禁忌の場所だったらしい。
 実際、その洞窟に関する情報は極端に少なく、地図にも載っていない。

 しかし、私は奇妙な噂を耳にした。

「あの穴の奥で、誰かの声が聞こえる」

 それを聞いた私は、すぐに友人二人と共に向かうことにした。

***********************************

 洞窟の入り口は、崩れかけた鳥居の奥にあった。
 雑草が生い茂る中にぽっかりと開いた暗黒の穴。
 その周囲には、かつて何かを封じるためだったのか、無数の木札が打ち付けられていた。
 文字はすでに風化して読めなかったが、何かを強く戒めるような雰囲気があった。

「……本当に入るのか?」

 友人の一人が、足を止めた。

「当然だろ。せっかく来たんだし、行かないと面白くない」

 私は懐中電灯を握りしめ、先頭を歩き出した。

 洞窟内は、驚くほど静かだった。
 足音以外、何の音も聞こえない。深く進むにつれ、異様な冷気が肌を刺す。

 しばらく歩いた時だった。

「……あれ?」

 同行していた友人が、ふと立ち止まった。

「どうした?」

「あのさ、今……声、聞こえた?」

「え?」

 私は耳を澄ました。しかし、何も聞こえない。

「いや、確かに聞こえたんだよ。誰かが……こう、囁くみたいに……」

「気のせいじゃないか?」

 そう言いかけた時だった。

──チチ、チチ、チチ……

 私の背後で、確かに“何か”が囁くような音が聞こえた。

 血の気が引いた。

 私たちは目を見合わせ、恐る恐る後ろを振り向いた。

 だが、誰もいない。

「……おい、もう戻ろうぜ」

 友人の一人が、明らかに怯えた声で言った。私も、理性では進むべきではないと感じていた。

 しかし、その時。

──オイデ……

 明確な“声”が聞こえた。

 ぞっとした。確かにそれは、人の声だった。しかも、すぐそばで聞こえた。

「……やばい、走れ!」

 私は叫び、全力で洞窟を引き返した。友人たちも悲鳴を上げながら走る。

 出口が見えた瞬間、後ろから何かが近づく気配を感じた。

 振り返る勇気はなかった。

 とにかく、必死で洞窟を抜け、全員外へ転がり出た。

 外に出ると、不思議なことが起きた。

 私たちが洞窟の方を振り返ると——

 入り口が消えていた。

 確かにそこにあったはずの洞窟は、まるで最初から存在しなかったかのように、ただの岩壁に変わっていた。

「……どういうことだよ」

 友人が震える声で呟く。

 私も何も言えなかった。ただ、一つだけ確信したことがある。

 あれは、現実に起きたことだった。

***********************************

 それ以来、私は二度と心霊スポット巡りをしなくなった。

 なぜなら、今でも夜になると——

 あの洞窟で聞こえた声が、耳元で囁くことがあるからだ。
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