怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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17)消えた廃ホテル(広島県)

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広島には、昔から語り継がれる廃ホテルがあるという。
 そのホテルは、決して地図には載っていない。
 しかし、確かにそこに存在し、そして——
 訪れた者は、二度と戻れない。

 私はフリーのライターとして、日本各地の都市伝説を取材していた。
 心霊スポット、呪われた場所、廃墟——
 それらは単なる噂であることがほとんどだったが、広島の廃ホテルの話だけは、妙に現実味があった。

 「広島の山奥に、幽霊が出る廃ホテルがあるって聞いたことあるか?」

 地元の友人が、酒を飲みながら話し始めた。

 「聞いたことないな。どんな話?」

 「名前も場所もはっきりしないんだけどさ、そこに行ったやつが何人も行方不明になってるらしい」

 私は、興味を引かれた。

 「行方不明?」

 「そう。しかも奇妙なのは、行った人の仲間が“元々そんなやつはいなかった”って証言するんだ。」

 私は息を呑んだ。

 「つまり……行方不明になった人間の存在自体が、消える?」

 「そういうことだ。だから、あのホテルの話は広島でもタブーになってる」

 そんな馬鹿な話があるだろうか。
 しかし、私はこの都市伝説の真相を確かめるため、その廃ホテルを探すことにした。

***********************************

 その廃ホテルは、広島県の某所にあるという。
 ネットの情報を頼りに、私は車を走らせた。

 しかし、問題があった。

 どの地図にも、そのホテルは載っていないのだ。

 だが、ある古い掲示板に、こんな書き込みを見つけた。

「国道から外れた山道を進め。途中で道がなくなっても、そのまま歩け。ホテルは、お前を待っている」

 私は、その言葉を信じ、山道へと進んだ。

 道は次第に細くなり、やがて舗装すらされていない獣道へと変わった。

 しかし、奇妙なことに気がついた。

 いつの間にか、車のナビが狂っている。

 「おかしいな……」

 電波は途切れ、ナビはぐるぐると同じ地点を指している。

 私は、車を降り、歩いて進むことにした。

 そして——

 突然、目の前に巨大な廃ホテルが現れた。

 そのホテルは、異様な雰囲気を放っていた。

 朽ちた外壁、崩れかけた看板。
 しかし、驚いたのは——

 玄関のガラスが割れていなかったことだ。

 通常、廃墟となればガラスは割れ、荒らされるものだ。
 だが、このホテルには、人の手がつけられた形跡がなかった。

 まるで——

 ここは、まだ“生きている”かのように。

 私は、意を決して中に足を踏み入れた。

 ホテルのロビーは、時間が止まったように整然としていた。

 床には埃が積もっていたが、テーブルや椅子は崩れていない。
 壁には、昭和時代の観光ポスターが貼られたままだった。

 私は、慎重に奥へ進んだ。

 その時——

カチリ

 エレベーターのランプが点灯した。

 「……嘘だろ?」

 私は、一瞬背筋が凍りついた。

 このホテルには、もう電気が通っていないはずだ。

 それなのに——

 エレベーターが動いている。

 エレベーターの扉が開いた。

 私は、思わず中を覗いた。

 誰もいない。

 だが、ボタンパネルを見ると——

 12階が、赤く点灯していた。

 私は、ありえないと思った。

 なぜなら、このホテルは11階建てのはずだったからだ。

 「……12階なんて、ないはずなのに」

 しかし、その時。

 エレベーターの奥から、誰かの気配がした。

 エレベーターの奥を覗き込むと——

 鏡に、誰かが映っていた。

 私は、叫びそうになった。

 映っていたのは、私ではない。

 知らない女だった。

 長い髪、黒いワンピース。

 その女は、じっとこちらを見ていた。

 私は、慌てて後ずさった。

 その瞬間、鏡の中の女がにたりと笑った。

 「ここは、あなたの部屋よ」

 私は、絶叫してロビーへと駆け戻った。

 私は、一目散にホテルを飛び出し、山道を駆け下りた。

 そして、車に乗り込み、振り返った。

 だが——

 そこには、何もなかった。

 ホテルは、消えていた。

 私は、心臓が破裂しそうになった。

 「……そんな、馬鹿な」

 しかし、確かに私は、あのホテルにいた。

 そして、あの女を見た。

***********************************

 私は、数日後、もう一度その場所へ行った。

 しかし、ホテルの跡すらなかった。

 私は、地元の老人に話を聞いた。

 すると、彼はこう言った。

 「お前さん、あのホテルを見たのか?」

 「……はい。でも、もうなくなっていました」

 老人は、静かに首を振った。

 「そりゃそうだ。あのホテルは、昔、12階の客室で起きた事件のあとに取り壊されたんだからな。」

 私は、言葉を失った。

 「12階の……?」

 「おかしな話だがな、その後も何人か、"消えたはずのホテルを見た"って言う奴がいるんだ」

 私は、凍りついた。

 つまり——

 私は、すでに存在しないはずのホテルへ足を踏み入れてしまったのか?

 そして、今でも夢に見る。

 あの12階の部屋の扉が、ゆっくりと開く瞬間を——。

 「ここは、あなたの部屋よ」

 今でも、あのホテルはどこかに存在しているのかもしれない。

 だが、地図に載っていないホテルを見つけたら、決して入ってはいけない。
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