怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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46)都市伝説「午前3時の鏡」

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都市伝説とは、語り継がれるうちに歪み、本当の出来事と虚構の境界が曖昧になるものだ。
 しかし、時には**「本当に起こったこと」**が、都市伝説へと変わることもある。

 これは、ある大学生が体験した出来事である。

***********************************

 S大学に通うMは、ある夜、友人のYとAの3人で飲み会を開いていた。

 話の流れで「都市伝説」について盛り上がると、Aがふと思い出したように言った。

 「そういえばさ、鏡の都市伝説って知ってる?」

 MとYが顔を見合わせる。

 「どれのこと?」

 「午前3時ちょうどに、暗闇の中で鏡を見ると“本当の自分”が映るってやつ」

 Mは興味をそそられた。

 「本当の自分?」

 「うん。でも、もし“違う何か”が映ったら——」

 Aはそこで言葉を止め、いたずらっぽく笑った。

 「そいつと“入れ替わる”らしいよ」

 Mたちは、軽いノリで試してみることにした。

 部屋の電気を消し、スマホの時計が午前3時ちょうどになるのを待つ。

 そして、Mが手鏡を持ち、部屋の中央に立った。

 Aがニヤニヤしながら囃し立てる。

 「怖がるなよ。ほら、ちゃんと鏡を見ろよ」

 Mは、ゆっくりと鏡を覗き込んだ。

 最初は、自分の顔が映るだけだった。

 「なんだ、何も——」

 だが、その瞬間——

 鏡の中の自分が、微かに笑った。

 Mの本当の顔は、動いていない。

 なのに、鏡の中の自分だけが、笑っていた。

 Mは、急に嫌な気配を感じ、慌てて鏡を伏せた。

 「おい、やばいって!」

 YとAは、Mの怯えた様子に驚いた。

 「どうした? 何か見えたのか?」

 Mは、自分の鼓動が異様に速くなっていることに気づいた。

 「いや……わからない。でも、なんか、鏡の中の俺が——」

 その時——

 部屋の電気が、唐突に点いた。

 Yがスイッチを押したわけでもない。

 Mは、反射的に振り返った。

 そして——

 鏡の中の自分が、まだ笑っていることに気づいた。

 今度は、はっきりと歪んだ笑みを浮かべていた。

 その夜、Mは悪夢にうなされた。

 夢の中で、鏡の中の自分と対峙していた。

 鏡の向こうのMは、にやにやと笑いながらこう言った。

 「お前の世界は、快適か?」

 Mは、声が出なかった。

 鏡の中のMが、ゆっくりと手を伸ばしてきた。

 「こっちにおいでよ」

 Mは、必死で目を覚ました。

 だが、目を開けても——

 枕元に、手鏡が置かれていた。

 Mは、それをベッドの下に投げ捨てた。

 翌朝、Mはいつも通り大学へ向かった。

 しかし、奇妙なことが起きた。

 周囲の人々の態度が変わっていた。

 友人たちは、妙によそよそしい。

 YとAですら、Mを見る目に違和感があった。

 「……お前、なんか雰囲気変わったな」

 「え? 何が?」

 YとAは、少し困ったような顔をした。

 「いや……昨日のMと、なんか違うっていうか……」

 Mは、ぞっとした。

 昨日、鏡の中の自分と“何か”が入れ替わったのか?

 それから数日、Mの周囲では奇妙な出来事が続いた。

 ・自分の声が、自分のものではない気がする。
 ・鏡を見ると、微妙に表情が違う。
 ・知っているはずの記憶が、曖昧になる。

 そして、決定的な出来事が起きた。

 Mは、駅のホームで電車を待っていた。

 すると、向かいのホームに、自分そっくりの男が立っていた。

 服装、髪型——すべて同じ。

 だが、唯一違ったのは——

 向こうのMが、不気味に微笑んでいたことだった。

 Mが驚いて目をこすった瞬間——

 向こうのMは、電車の前に飛び込んだ。

 電車の急ブレーキの音が響き渡る。

 人々が騒然とする中、Mは呆然と立ち尽くしていた。

 「……俺が、死んだ?」

 いや、違う。

 死んだのは、“もう一人のM”だったのか?

 すると——

 耳元で、囁く声が聞こえた。

 「本物はどっちだったと思う?」

 Mは、恐怖のあまり走り出した。

 しかし——

 気がつくと、目の前に大きな鏡があった。

 そこには、昨日までのMが映っていた。

 だが、そのMは——

 ゆっくりと手を伸ばし、鏡の向こうへ消えていった。

 Mは、数日後に行方不明になった。

 警察は彼の部屋を調べたが、遺留品の中に——

 1枚の割れた手鏡が残されていた。

 鏡の裏には、こう刻まれていた。

 「本物はどっち?」

***********************************

 もし、あなたが午前3時に鏡を見つめるなら——

 絶対に、動くはずのない“自分”を見てはいけない。

 そして——

 もし、鏡の中の自分が笑ったら。

 その瞬間、あなたは——

 「もう一人のあなた」と入れ替わってしまうのだから。
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