怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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45)都市伝説「最後のタクシー」

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都市伝説「最後のタクシー」
 都心の深夜、タクシーを拾おうとするなら、気をつけなければならない。
 なぜなら、**「乗ってはいけないタクシー」**が存在するからだ。

 そのタクシーは、乗ると最後——
 目的地にたどり着けないという。

 これは、都内で働くKさんが体験した出来事だ。

***********************************

 その日は仕事が長引き、気づけば終電の時間を過ぎていた。
 「仕方ない、タクシーで帰るか……」

 Kさんは、新宿の雑居ビル街にある居酒屋を出て、タクシーを探した。

 しかし、深夜の時間帯でなかなか空車が見つからない。

 そんな時——

 「キィ……」

 1台のタクシーが、静かに目の前で停まった。

 ヘッドライトに照らされたナンバープレートは、少し汚れていて読めない。

 運転席には、帽子を深くかぶった運転手が座っていた。

 Kさんは迷ったが、寒さに耐えきれず、後部座席に乗り込んだ。

 「○○区△△までお願いします」

 運転手は無言で頷き、車を走らせた。

 Kさんは、ふと気づいた。

 車内が異様に寒い。

 冷房が効きすぎているのかと思ったが、ダッシュボードを見るとエアコンはついていない。

 それなのに、ひんやりとした空気が肌を刺すように流れている。

 さらに、何かが臭う。

 鼻につく、生臭い匂い——まるで、腐った水のような匂いだった。

 Kさんは、気味が悪くなりながらもスマホを取り出し、ナビアプリで現在地を確認した。

 だが——

 車は、全くの別方向へ向かっていた。

 「すみません、道が違いますよ?」

 Kさんは、運転手に声をかけた。

 だが——

 運転手は、何も答えない。

 Kさんは、ぞっとした。

 「おい、聞こえてますか?」

 運転手は、ただ黙々とハンドルを握っている。

 その時、Kさんの視界にルームミラーが映った。

 そこには——

 運転手の顔が、映っていなかった。

 Kさんの心臓が跳ね上がる。

 「やばい、降りなきゃ……!」

 Kさんは、ドアのロックを解除しようとした。

 だが、ドアは開かない。

 しかも——

 後部座席のシートが、妙に湿っていることに気づいた。

 触れると、べたついた冷たい感触。

 さらに、隣の座席を見ると——

 何かが座っている。

 黒い影が、じっとこちらを見ていた。

 Kさんは、金縛りにあったように動けなかった。

 その時——

 「……どこまで行くの?」

 低い、かすれた声が聞こえた。

 Kさんは、咄嗟に口を閉じた。

 思い出したのだ。

 このタクシーの都市伝説。

 「乗客が声を出した瞬間、降りられなくなる」

 Kさんは、必死に息を潜めた。

 すると、隣の影がゆっくりと動いた。

 「あなたも、ここで降りる?」

 タクシーは、気づけば人気のない山道を走っていた。

 Kさんは、必死にスマホを握りしめた。

 圏外。

 タクシーは、やがて古びたトンネルの前で停まった。

 「降りなさい」

 運転手の声が、初めて聞こえた。

 しかし、その声は——

 運転手の口からではなく、Kさんの隣に座っている“何か”の声だった。

 Kさんは、全力で叫びながらドアを蹴った。

 その瞬間、ドアが突然開いた。

 Kさんは、転がるように車の外へ飛び出した。

 振り返ると——

 タクシーは、音もなく消えていた。

 ただ、湿った地面には、Kさんの座っていた後部座席の跡だけが残っていた。

 Kさんは、朝になってから山を降り、警察に駆け込んだ。

 しかし——

 そのタクシーは、存在しなかった。

 防犯カメラには、Kさんがタクシーに乗り込む姿は映っておらず、タクシー会社にも該当する車両はなかった。

 だが、一つだけ奇妙なことがあった。

 Kさんが持っていたレシートの裏には、こう書かれていた。

 「次は、あなたが運転する番」

***********************************

 もし、深夜にタクシーを拾うなら——

 ナンバープレートが読めない車には乗ってはいけない。

 運転手の顔がルームミラーに映らなかったら、すぐに降りろ。

 そして、もし——

 隣に“誰か”が座っていたら。

 絶対に、声をかけてはいけない。

 なぜなら、そのタクシーは——

 乗った者が、次の運転手になるタクシーだから。
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