怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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44)都市伝説「深夜のエレベーター」

これは、都内のビルで起きた話だ。
 深夜、あるエレベーターに乗ると、決して押してはいけない階があるという。

 「その階のボタンを押すと、降りるはずのない“誰か”が乗ってくる」

 これは、実際にそれを体験した男の話である。

***********************************

 男の名前はT。
 都内のオフィスビルで働くサラリーマンだった。

 その日は、深夜まで残業してしまい、会社を出たのは午前1時を回っていた。

 オフィスビルのロビーは、がらんとしていた。
 警備員は仮眠をとっているのか、受付には誰もいない。

 Tは、エレベーターのボタンを押した。

 「ピン……」

 エレベーターが静かに開く。
 Tは、誰もいない箱の中に乗り込んだ。

 Tの会社は9階にある。
 1階のロビーから、エレベーターは地下駐車場を経由し、上へ向かう。

 Tは、9階のボタンを押した。

 だが、その瞬間——

 「カチッ」

 押した覚えのないボタンが光った。

 「7階」

 Tは眉をひそめた。

 「……間違えて押したか?」

 だが、押した感触はなかった。
 Tは不審に思いながらも、そのまま待つことにした。

 エレベーターは、ゆっくりと上昇していく。

 7階に到着するまでは。

 「ピン……」

 エレベーターが7階で止まり、ドアが開いた。

 Tは、ふと外を覗いた。

 しかし——

 そこには、誰もいなかった。

 オフィスの廊下は、消灯されていて真っ暗だった。
 だが、異様な違和感を覚えた。

 まるで——

 誰かがいる気配がする。

 Tは急いで「閉」ボタンを押した。

 だが、その瞬間——

 「トン……」

 何かが、エレベーターの床に乗った感触があった。

 Tは、恐る恐るエレベーターの中を見回した。

 だが、誰もいない。

 だが、確かに——

 誰かがいる“気配”がする。

 そして——

 視界の隅に、黒い影が映った。

 それは、ドアの角に立つ“何か”だった。

 Tは、怖くて顔を上げられなかった。

 だが——

 影が、じわじわと近づいてくる気配がした。

 Tは、息を殺して目を閉じた。

 その時——

 「……ねぇ……どこへ行くの?」

 かすかな、女の声がした。

 Tは、心臓が凍る思いだった。

 決して答えてはいけない。

 そう直感した。

 Tは、そのままじっと動かずにいた。

 しかし、次の瞬間——

 「ねぇ、見てよ」

 耳元で、囁かれた。

 Tは、エレベーターのドアに目を向けた。

 もうすぐ9階だ……!

 だが——

 「9階」ボタンの光が消えていた。

 その代わりに——

 エレベーターは「B2(地下2階)」に向かっていた。

 Tの全身が、凍りついた。

 地下2階——そこは、誰もいないはずの階だった。

 エレベーターは、容赦なく下降していく。

 「ピン……」

 静かに、地下2階のドアが開いた。

 Tは、恐る恐る前を見た。

 そこには——

 何もなかった。

 いや、違う。

 「暗闇の奥に、何かが立っている」

 Tは、恐怖のあまりドアを閉めようとした。

 しかし——

 「ガシッ」

 何かが、エレベーターの外からドアを押さえている。

 そして、ゆっくりと手が伸びてきた。

 Tは、半狂乱で「閉」ボタンを連打した。

 だが、手はエレベーターの中へと入り込もうとしていた。

 「頼む! 閉まれ!!」

 その瞬間——

 「ピン……」

 エレベーターのドアが閉まり、急激に上昇を始めた。

 Tは、恐怖で膝をついた。

 数秒後——

 9階に到着した。

 ドアが開くと、そこには同僚が立っていた。

 「お前……大丈夫か? さっきから、ずっとB2階に止まってたぞ」

 Tは、震えながら答えた。

 「……俺は……ずっと9階へ向かってたはずなんだ……」

 後日、Tは調べた。

 すると、このビルでは、過去に地下2階の倉庫で女性が死亡していたという記録があった。

 エレベーターの中で「7階」のボタンが勝手に押されるのは、過去にその女性が勤務していたフロアだったからだ。

 そして、彼女は最終的に地下2階で命を落とした。

 それ以来、このエレベーターでは——

 「7階で誰もいないのにドアが開く」

 「B2階へ勝手に向かう」

 「耳元で声がする」

 そんな現象が、頻繁に報告されているという。

***********************************

 もし、あなたが深夜のエレベーターに乗った時——

 押した覚えのない階のボタンが光ったら、決して降りてはいけない。

 そして——

 「ねぇ」と話しかけられても、決して返事をしてはいけない。

 なぜなら、その瞬間——

 あなたの行き先は、もう9階ではなくなってしまうから。

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