怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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69)琵琶湖の底(滋賀県)

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琵琶湖——。
 日本最大の湖であり、美しい景観と豊かな自然に恵まれた観光地。
 しかし、その湖底には、誰も知らない闇が広がっているという。

 地元の漁師やダイバーの間では、昔からこんな噂が囁かれていた。

 「琵琶湖の底には、“何か”がいる」
 「夜、湖畔で名前を呼ばれても、決して答えてはいけない」

 これは、実際に起きた出来事である。

***********************************

 大学生のKさん(22歳・男性)は、友人たちと琵琶湖でキャンプをすることになった。

 「夜の琵琶湖って、結構不気味らしいよ」

 そう言いながらも、Kさんたちは気にしなかった。

 キャンプ場に着いたのは午後7時。

 バーベキューをしながら、湖畔で酒を飲み、楽しく過ごしていた。

 そのうち、一人が言い出した。

 「夜の琵琶湖って、ヤバい噂あるよな?」

 「なになに?」

 友人のYがスマホで検索し、読み上げた。

 「琵琶湖の底には、“沈んだ村”がある」
 「そこには、湖に沈められた者たちの霊が今も彷徨っている」

 Kさんは笑った。

 「くだらねえって」

 しかし、その直後——

 湖の方から、**ザバァ……**と音がした。

 「なんだ?」

 Kさんは、湖を見た。

 湖面は静かに揺れている。

 しかし、よく見ると——

 湖の中央に、白い影が立っていた。

 「おい、あれ……人じゃね?」

 全員、凍りついた。

 湖の真ん中に、人が立っているはずがない。

 「まさか、幽霊……?」

 誰かが囁いた。

 その瞬間——

 「……ねえ」

 湖の方から、かすれた声がした。

 「気のせいだろ?」

 Kさんは、自分にそう言い聞かせた。

 しかし——

 「……Kくん……」

 湖の影が、確かにKさんの名前を呼んだ。

 「……え?」

 誰も、Kさんの名前を言っていない。

 なのに、湖の向こうからは——

 「……Kくん……こっちに、おいで……」

 震えた声が響いていた。

 Kさんは、全身の血の気が引いた。

 「おい、ヤバいぞ、逃げよう!」

 友人たちが慌てて言った。

 しかし——

 Kさんの足が、湖の方へ向かって勝手に動き始めた。

 「うわっ! なんだこれ!?」

 足が砂に埋まっていく。

 まるで、何かに引っ張られているかのように。

 「助けて!!」

 Kさんは、必死で叫んだ。

 しかし、その声に応じるように——

 「……助けて……」

 湖の向こうの影が、同じ言葉を繰り返した。

 「Kを引っ張れ!」

 友人たちがKさんを引き戻し、なんとか砂浜に倒れ込んだ。

 Kさんが息を整えて湖を見ると——

 影が、消えていた。

 「……消えた?」

 誰も、何も言えなかった。

 だが、一人の友人がスマホを見ながら震えた声で言った。

 「これ、やばいよ……」

 「何が?」

 友人は、手が震えていた。

 「さっきの影……」

 「……お前の、亡くなった兄貴に似てた……」

 翌日、Kさんたちは地元の老人にこの話をした。

 すると、老人は真剣な顔で言った。

 「琵琶湖には、沈んだ村があるんじゃ」

 「沈んだ村?」

 「昔、この湖に沈められた者たちの魂が、夜になると浮かび上がるんじゃよ」

 Kさんは、息を呑んだ。

 「……じゃあ、昨日の影は?」

 老人は、重々しく言った。

 「琵琶湖の霊は、“知っている者の姿”で現れる」

 「そして、呼ばれた者は、次に“沈められる”んじゃよ……」

***********************************

 もし、あなたが夜の琵琶湖に行くことがあれば——

 湖から名前を呼ばれても、決して答えてはいけない。

 そして、もし——

 あなたの大切な人の声が聞こえたら。

 その瞬間、あなたの足は——

 湖の底へと引きずり込まれるのだから。
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