怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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80)振り向いた女

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1. 古びた参道の女
 ある山奥の神社には、昔から決して振り向いてはいけない場所があるという。

 「石段を登っている最中に、誰かに呼ばれても絶対に振り向くな」
 「振り向いた者は、その場から消える」

 この噂を、Nさん(30代・男性)は興味本位で確かめに行くことにした。

 「どうせただの迷信だろう」

 しかし、彼はまだ知らなかった。
 その伝説が、実際に起きた話だったことを——。

2. 夜の神社
 Nさんが訪れたのは、夏の夜だった。

 山のふもとにある鳥居をくぐり、長い石段を登っていく。

 誰もいないはずなのに、どこか気配を感じる。

 ふと、遠くに白い着物の女が立っているのが見えた。

 「……誰かいる?」

 しかし、女は微動だにせず、じっとこちらを見つめていた。

3. 石段の囁き
 Nさんは、気にせず石段を登り続けた。

 しかし——

 「……ねぇ」

 突然、背後から女の声が聞こえた。

 「おい、誰だ?」

 振り向こうとしたその瞬間——

 「振り向くな!!」

 急に、脳内に誰かの声が響いた。

 Nさんは、凍りついた。

 振り向こうとする体を、必死でこらえた。

4. 影が近づいてくる
 「ねぇ……どうして無視するの?」

 女の声が、どんどん近づいてくる。

 カツ……カツ……

 足音が、一歩ずつ近づいてくる。

 Nさんは、恐怖で動けなくなった。

 「これは……本当に、振り向いたらまずい……」

 しかし——

 「どうして、振り向いてくれないの?」

 耳元で、囁かれた。

5. 振り向いた者の末路
 Nさんは、恐怖に耐えきれず、石段を駆け上がった。

 神社の境内に飛び込むと——

 スッ……

 背後の気配が、突然消えた。

 「助かった……?」

 しかし、境内の奥にある古い木札に、こう書かれていた。

 「振り向いた者は、消える」

 そして、その横には——

 何人もの名前が刻まれていた。

 その中に、Nさんが知っている名前があった。

 「……え?」

 それは、一年前に行方不明になった友人の名前だった。

6. 鏡の中の女
 Nさんは、急いで神社を後にした。

 しかし、その夜——

 Nさんは悪夢を見た。

 夢の中で、自分が石段を登っている。

 そして、また——

 「ねぇ……」

 背後で、女の声がした。

 夢の中で、Nさんは振り向いてしまった。

 そこには、白い顔の女が立っていた。

 口が裂けるほどに笑い、こう囁いた。

 「やっと、こっちを見てくれたね……」

7. 姿を消した男
 翌朝、Nさんは目を覚ました。

 「悪夢か……」

 しかし、異変に気づいた。

 スマホのカメラが、勝手に起動していた。

 画面には——

 背後に立つ、白い着物の女が映っていた。

 そして、その日の夜。

 Nさんは、誰にも気づかれず、消えた。

***********************************

 もし、あなたが夜の神社で背後から声をかけられたら——

 決して振り向いてはいけない。

 そして、もし——

 **「やっと、こっちを見てくれたね」**と囁かれたら。

 その瞬間、あなたは——

 もう、この世界にはいないのだから。
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