怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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85)東尋坊の呼び声(福井県)

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1. 東尋坊の呪い
 福井県にある**東尋坊(とうじんぼう)**は、海にそびえる絶壁が続く名勝地だ。

 しかし、この場所には昔から恐ろしい噂がある。

 「夜に東尋坊へ行ってはいけない」
 「波の音に紛れて、“誰かの呼ぶ声”が聞こえる」
 「その声に応じると、崖の下へ引きずり込まれる」

 これは、実際に東尋坊を訪れた男が体験した話である。

2. 深夜の東尋坊
 Tさん(30代・男性)は、心霊スポット巡りが趣味だった。

 ある日、友人のSと一緒に、深夜の東尋坊へ行くことになった。

 夜の海は暗く、風が強かった。

 「思ったより、怖いな……」

 Sは笑いながら言った。

 「せっかくだし、崖の近くまで行ってみようぜ」

 二人は、懐中電灯を頼りに崖の縁へと進んだ。

3. 崖の上の足音
 海は黒く、波が荒れていた。

 その時——

 ザッ……ザッ……

 背後から、誰かが歩く音がした。

 「……他にも誰かいるのか?」

 二人は振り向いた。

 しかし——

 誰もいなかった。

 ただ、風が岩場を吹き抜ける音だけが聞こえていた。

4. 低い声
 二人は、気を取り直して海を眺めていた。

 すると——

 「おーい……」

 どこからか、低い声が聞こえた。

 「今の、聞こえたか?」

 Sは顔を青ざめた。

 Tさんは、懐中電灯をあたりに向けた。

 だが、何もいない。

 「おーい……」

 また聞こえた。

 声は、崖の下からだった。

5. 崖の下の顔
 二人は、恐る恐る崖の端へ近づいた。

 Tさんが懐中電灯を下に向けた——

 「……っ!!」

 そこには、人の顔があった。

 崖の岩肌に、白い顔が張り付いていたのだ。

 顔は、にやりと笑った。

 Sは、絶叫した。

 「うわああ!!!」

 二人は、全速力で車まで逃げた。

6. 東尋坊の過去
 翌日、Tさんは地元の人に話を聞いた。

 すると、老人が低く言った。

 「あそこは、昔から“死者の霊”が彷徨う場所じゃ……」

 東尋坊では、昔から多くの人が命を落としている。

 特に、身を投げた者たちの霊は、今もそこに残っているという。

 「夜になると、崖の下から“誰か”が呼ぶんじゃよ」

 「あの声に応じると、連れて行かれる……」

7. その後の異変
 TさんとSは、それ以来東尋坊には近づかなかった。

 しかし、数日後——

 Sが、妙なことを言い出した。

 「夜になると、あの声が聞こえるんだ……」

 「え?」

 Sは、疲れた顔をしていた。

 「寝ようとすると、耳元でささやくんだよ……」

 「おーい……おーい……」

 Tさんは、背筋が凍った。

8. 取り憑かれた男
 その夜——

 Tさんのスマホに、Sからの着信が入った。

 しかし、電話を取ると、Sの声ではなかった。

 「おーい……」

 低い声が、受話器の向こうから聞こえた。

 Tさんは、恐怖で電話を切った。

 翌朝、Sの家を訪ねたが——

 Sの姿は、消えていた。

9. 消えた男
 Sは、それ以来行方不明となった。

 しかし、後日——

 Tさんのスマホに、Sの番号からメッセージが届いた。

 「おーい……こっちにおいでよ……」

 添付されていた写真には——

 東尋坊の崖の下で笑うSの姿が映っていた。

***********************************

 もし、あなたが夜の東尋坊を訪れることがあれば——

 決して、崖の下を覗いてはいけない。

 そして、もし——

 「おーい……」と呼ぶ声が聞こえたら。

 その瞬間、あなたの背後には——

 崖の下から這い上がる者が立っているのだから。
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