怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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96)呼子の人影(佐賀県)

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1. 呼子の海に浮かぶ影
 佐賀県唐津市の呼子(よぶこ)町。
 新鮮なイカ料理が名物のこの港町には、古くから奇妙な噂がある。

 「夜の漁港で、“海の上を歩く人影”を見たら、決して声をかけてはいけない。」
 「その影に呼ばれた者は、二度と戻れない。」

 これは、実際に呼子で起きた、ある漁師の体験談である。

2. 漁師の警告
 Tさん(50代・男性)は、呼子で長年イカ漁をしているベテラン漁師だった。

 ある晩、漁が終わり、船を片付けていると——

 「今夜は、早く帰った方がいいぞ」

 同じ漁師仲間のOさんが、低い声で言った。

 「どうして?」

 Oさんは、険しい顔でこう言った。

 「今夜は、あの影が出るかもしれん……」

3. 海の上の足音
 Tさんは、迷信だろうと気にも留めず、一人で船の整備を続けていた。

 すると——

 「ザッ……ザッ……」

 静かな港に、砂を踏む足音が響いた。

 「誰かいるのか?」

 Tさんは振り向いた。

 しかし、そこには誰もいなかった。

 ただ——

 漁港の沖合に人影が浮かんでいた。

4. 水の上を歩く者
 Tさんは、思わず目を凝らした。

 沖の海面を、一人の男が歩いていたのだ。

 ぼろぼろの服を着た男が、ゆっくりとこちらへ向かってくる。

 「なんだ……あれ……?」

 恐怖で体が動かない。

 すると、その男が——

 Tさんの方へ手を伸ばした。

 そして、**「……助けてくれ」**と囁いた。

5. 呼んではいけない者
 Tさんは、瞬間的にOさんの言葉を思い出した。

 「決して、声をかけるな。」

 しかし——

 Tさんは、反射的に言ってしまった。

 「……誰だ?」

 その瞬間——

 男の顔が、ひしゃげるように歪んだ。

 そして、海の上でニタリと笑った。

6. 冷たい手
 Tさんは、全力で船に戻ろうとした。

 しかし、足が動かない。

 それどころか——

 足元から、冷たい手が伸びていた。

 「うわあああ!!!」

 Tさんは叫んだ。

 気がつくと、海に引きずり込まれそうになっていた。

7. 消えた人影
 次の瞬間——

 誰かが、Tさんの腕を引っ張った。

 「おい! しっかりしろ!!」

 Oさんだった。

 Oさんが懐中電灯を海に向けると——

 そこには、もう何もいなかった。

 「……あの男は?」

 Oさんは、低く言った。

 「お前、本当に見たのか……?」

8. 50年前の事故
 翌日、TさんはOさんに詳しく話を聞いた。

 すると、Oさんはこう言った。

 「昔、この港で船が転覆してな……」
 「その時、助けを求めていた漁師がいたんだが……誰も助けられんかった。」

 Tさんは、息を呑んだ。

 「じゃあ、昨日の男は……?」

 Oさんは、静かに答えた。

 「50年前に沈んだ漁師だよ……」

9. その後の異変
 Tさんは、その日から妙な現象に悩まされた。

 夜になると、海の方から——

 「……助けてくれ……」

 あの声が聞こえるのだ。

 ある日、Tさんはスマホを見て驚いた。

 着信履歴に見知らぬ番号が残っていた。

 しかし、その発信元は——

 **「海の上」**だった。

***********************************

 もし、あなたが佐賀県・呼子の漁港を訪れることがあれば——

 決して、夜の海を覗いてはいけない。

 そして、もし——

 沖の海面を歩く人影を見たら。

 決して、声をかけてはいけない。

 その瞬間、あなたの足元には——

 海に沈んだ「誰かの手」が伸びているのだから。
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