氷の上司に、好きがバレたら終わりや

naomikoryo

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第13話「うち、ほんまに恋してもうたんや」

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木曜の夜。
帰宅途中の電車の中、舞子は吊り革につかまりながら、自分の心に問いかけていた。

(これって、もう……本気やんな)

本庄課長のこと。
最初はただの興味。
ちょっとした憧れやったはずやのに――

今はもう、目が合っただけで、心臓が跳ねる。
声を聞くだけで、その日一日が救われる。

(うち、ほんまに恋してもうたんや)

今さらやけど、気づいてしまった。

この気持ちは、ただの“職場の憧れ”とかやない。
ちゃんと、真剣に“好き”なんやって。

 

翌日の昼休み。
オフィスのベンチエリアで、舞子はカップスープを片手に奈々に言った。

「……あのさ、奈々ちゃん。うち、たぶん……課長のこと、好きやねん」

「いや、知ってた」

「え、知ってた?」

「うん、というか今さら感すごいけど、やっと“自覚”したんやなって感じ」

「……ははは、やっぱバレてたかぁ」

「バレてた。というか、もう周囲にも“あのOLさん、課長のことめっちゃ見てる”って噂になってるレベルやで」

「ええっ!? マジで!?」

「うん。でも課長、気づいてるかどうかは不明」

舞子はスプーンを置いて、テーブルに手を組んだ。

「……好きって、言いたい。でも言ったら、たぶん迷惑かける」

「うん。それはちょっとあるかも」

「でもな……言わんかったら、後悔しそうなんよ」

奈々はそれを聞いて、しばらく黙ってから、言った。

「……好きって、“伝えること”だけが答えじゃないけど、
本気で誰かを思えるって、すごいことやと思うで」

「……うん」

「本庄課長って、あの冷たい仮面の下に、ずっと寂しさ抱えてる感じするし。
そういう人にとって、舞子みたいな存在って、めっちゃ貴重やと思うよ?」

「うち……あの人を“ひとりにしたくない”って思ってもうてる」

舞子の目に、少しだけ涙がにじんでいた。

自分でも驚くくらい、深く好きになってた。

これはもう、“バレたら終わり”どころやない。
伝えな、後悔するやつや。

  

午後、オフィスに戻って席につくと、浅見から1通の社内チャットが届いていた。

>浅見:今日の夕方ちょっとだけ話せる? 本庄のことで、少し気になる話があってさ

(……気になる話?)

 
仕事が終わったあと、浅見と待ち合わせたのは、オフィス近くの喫茶店。

金曜の夜ということもあって、にぎやかな街の喧騒がガラス越しに聞こえてくる。

「……なにかあったんですか?」

「うん。ちょっと気になって。
今朝、本庄と話してたんだけど、最近明らかに“揺れてる”んだよね、あいつ」

「……揺れてる?」

「君のことだよ。宮本さん。気にしてる。間違いなく」

「えっ……」

「でも、どうしても踏み込まない。いや、“踏み込めない”って感じ」

「それって……やっぱ、過去のことが?」

浅見は頷いた。

「昔の婚約者との破談のとき、本庄って、“自分の判断が人を不幸にする”って思い込んじゃったのよ。
誰かを選ぶこと、誰かに近づくことが、また誰かを傷つけるって、そう考えてる」

「……」

「だから、君に好意があっても、たぶん踏み出せない。自分の気持ちを抑え込む。
そういうやつなんだよ、あいつは」

舞子は静かにグラスの水を見つめながら、言った。

「……それでも、うちは言いたい」

「うん?」

「言いたいねん。好きですって。
だって、このままやったら、課長はずっと“自分を責める世界”の中に閉じ込められたままやろ?」

浅見は、静かに目を細めて笑った。

「……そっか。なら、俺からの助言はもういらないね」

「……はい。もう決めたんです」

 

帰り道、ビルの前で本庄の姿を見つけた舞子は、意を決して声をかけた。

「課長!」

「……宮本さん?」

「今、ちょっとだけお時間いいですか? 大事な話があって」

本庄は一瞬だけ驚いたように眉を動かしたが、すぐに頷いた。

「……わかりました。近くに、静かな場所があります」

ふたりは並んで歩き、オフィスの裏手にある公園のベンチに腰を下ろした。

静かな夜。
街灯の光が、舞子の決意を照らすようにやさしく揺れていた。

「課長。……うち、言いたいことがあります」

本庄は静かに頷く。

「うち……課長のことが、好きです」

その言葉が空気を震わせる。

「最初は冷たくて怖い人やと思ってました。
でも、少しずつ知るたびに、人を思いやる優しさとか、
弱いところを見せない強さとか、
ぜんぶ、すごく素敵やなって思うようになって……」

「……」

「肩貸した夜も、弱った顔見たときも、うちは……“この人を守りたい”って思いました。
仕事としての立場とか、色々あるけど、それでもうちは、課長のことが、ほんまに好きです」

沈黙。

長い、長い静けさ。

やがて――本庄が、ぽつりと呟いた。

「……すまない」

その言葉に、心臓がズキンと痛んだ。

でも、その声には、ほんの少し――揺れがあった。

「すまない、宮本さん。……君の気持ちは、痛いほど伝わった。
でも、僕は……誰かを好きになってはいけないと思っている。
好きになったら、また傷つけるかもしれない。
誰かを幸せにできる自信が、今の僕にはない」

舞子は、涙を堪えながら言った。

「それでも……うちは、あきらめへんから」

そのとき、本庄の目が――ほんのわずかに、揺れた。

確かに、心が動いた。

恋の第一歩は、もう踏み出してしまった。
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