氷の上司に、好きがバレたら終わりや

naomikoryo

文字の大きさ
12 / 42

第12話「あの夜、あかんくらいドキドキした」

しおりを挟む
出張から戻って数日。

本庄課長は――いつも通りだった。
冷静で、無表情で、誰に対しても公平で、淡々と業務をこなす。

舞子が勝手にときめいた、
熱を出して肩にもたれかかってきた、
あの夜の“人間味あふれる誠さん”は、なかったことになっているみたいで。

 
(うん、うん、わかってた。最初から、わかってたけどな……)

でも、しんどいもんはしんどい。

舞子は週明けからずっと、心の中にたまったモヤモヤを抱えたまま仕事していた。

「舞子、今日のお昼行く? あそこのパスタ屋、限定メニュー出たって!」

「あー、うん、ちょっと先にまとめなあかんレポートあんねん。ごめんな、奈々ちゃん先行ってて」

「……あんた、最近元気ないな。顔が“片思いの限界”って書いてるで?」

「うるさいな。書いてへんわ」

「いや、書いてる。ボールペンでがっつり濃いめに」
 

水曜の夕方。
週報作成で残業していた舞子のもとに、本庄がひょこっと現れた。

「……宮本さん。手が空いたら、会議室Aに来てください。打ち合わせがあります」

「はい、わかりましたー!」

(え? なんで今日に限って打ち合わせ!? ていうか課長とサシ!?)

20分後。会議室A。
扉を開けると、そこには本庄がひとり。
ホワイトボードに向かって資料を広げていた。

「すみません、お待たせしました」

「いえ。こちらの件について少し確認したいことがあって」

(仕事の話……やんな)

舞子は深呼吸して、課長の向かいに座った。
資料を手渡され、ページをめくりながらやり取りが始まる。
 

――が、なぜか今日は、本庄の“距離感”が少し近い。

資料を指差すとき、手がすぐそば。
顔を向けたら、視線がじっと合う。

(や、やばい、ちょっと近い。これはあかんやつや)

しかも、話してる途中、本庄がふとこう言った。

「……先週の出張のことですが」

「はい?」

「ご迷惑をおかけしました。……体調を崩してしまって」

「あっ、いえ、そんなこと……むしろ、うち何もできなくてすみませんでした」

「……逆です。助けてもらいました」

静かな声。でも、どこか熱がこもっていた。

そして続けて、

「あなたのように、“そのままでいてくれる人”に、久しぶりに出会った気がします」

(……え?)

「必要以上に気を遣ったり、踏み込みすぎず、でも、温かい」

「……課長、それって……」

言いかけた舞子の言葉をさえぎるように、本庄が目をそらした。

「……いや、何でもありません。忘れてください」

(なにそれ。なにそれ……! )

こんなん、気持ちに火ぃつけるやんか……!

 
その後、数分だけ仕事の話をして、打ち合わせは終了。
舞子は資料を片づけながら、心の中で叫んでいた。

(あかん……あの夜の気持ちが、今、確信になった)

 
その夜、舞子は布団の中でスマホを握りしめながら、
浅見に言われた言葉を思い出していた。

「君なら、氷を溶かせるよ」

(……もし、ほんまにそうやとしたら)

自分の好きって気持ちが、あの人の心を溶かしていけるんやとしたら、
この想いは、伝えたほうがええんちゃうんか。

“バレたら終わり”って、自分にずっと言い聞かせてきたけど――
今はもう、
“伝えな、始まらへん”って思いはじめてる。

恋って、そういうもんや。

“怖いけど、踏み出したい”って思えたときが、
本気の始まりなんやって。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妖狐の嫁入り

山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」 稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。 ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。 彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。 帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。 自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!   & 苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る! 明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。 可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ! ※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。 ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。 そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。 彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。 「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。

花も実も

白井はやて
恋愛
町で道場を営む武家の三男朝陽には最近、会うと心が暖かくなり癒される女性がいる。 跡取り問題で自宅に滞在したくない彼は癒しの彼女に会いたくて、彼女が家族と営む団子屋へ彼は足しげく熱心に通っているのだが、男と接客している様子を見ると謎の苛立ちを抱えていた。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

処理中です...