氷の上司に、好きがバレたら終わりや

naomikoryo

文字の大きさ
11 / 42

第11話「弱った顔、見たん初めてや」

しおりを挟む
金曜日、午後4時。
名古屋でのプレゼンは無事に終了した。
現地スタッフの反応も上々で、上司としての本庄もさすがの手腕を発揮した。

(すごいなぁ、ほんま……)

冷静で的確。プレゼン中にちょっとトラブルがあっても、眉一つ動かさずに対応。
何年経っても“できる男”の見本みたいな人やなあ、と舞子は見惚れていた。

ただ――
その後、帰りの新幹線に乗る直前、本庄の様子にほんの少し“違和感”があった。

「あれ……課長、顔色、ちょっと悪ないですか?」

「……少し疲れただけです。問題ありません」

いつものように淡々と答える本庄。
でもその口調が、少しだけかすれていた。

 

新幹線の車内。指定席に座った本庄は、ネクタイをゆるめて静かに目を閉じていた。

舞子はその横顔をちらっと盗み見る。

(……明らかに、しんどそうや)

肌の色もやや青白くて、額にはうっすら汗が滲んでる。

(もしかして、熱あるんちゃう?)

思い出すのは、昨夜の寝言――
「もう、いい……離れた方が……」

あれ、ほんまに夢の中の言葉やったんかな。
もし本音やったとしたら、あの人、今もずっと苦しんでるんちゃうやろか。

ガタン、と車体が揺れて、本庄の肩がふわっと揺れた。

「……っ」

「課長、大丈夫ですか!?」

「……あ、すみません。少し、気分が……」

明らかにおかしい。普段は絶対に“弱音を吐かない”人が、今は顔をしかめて座席に寄りかかっている。

舞子は迷わず、バッグからペットボトルの水とハンカチを取り出した。

「ちょ、無理せんといてください。これ、お水。あと……ひやしたハンカチ、ちょっと額に……」

「宮本さん、そこまでしなくても……」

「課長、今は上司とか部下とか関係ないですって! しんどいときは、しんどいって言ってください!」

それでも本庄は最後まで否定しようとしたが、彼の体は正直で、額の熱はどんどん上がっていた。

舞子は思い切って、自分の肩にそっと本庄の頭を支えた。

「……ちょっとだけ、休んでください」

「……申し訳、ありません……」

その言葉を最後に、本庄は本格的に目を閉じて、舞子の肩にもたれかかってきた。

(うわ、めっちゃ近い……けど、今はそれどころちゃう)

彼の体温は、思っていたより高かった。
氷の上司のはずが、こんなにあったかいって、ちょっとずるい。

そして、何より――

弱った本庄誠は、あまりにも人間らしくて、愛おしすぎた。

 

東京に戻ったのは夜8時すぎ。
タクシーで本庄の自宅近くまで送ったあと、彼はぼんやりとした声で言った。

「……ここまで、送ってもらってすみません」

「うちが心配で残業したんですよ。お礼くらい言ってもらわんと割に合いませんわ」

「……ありがとうございます、宮本さん」

舞子は笑った。
その笑顔を見て、本庄もほんの少しだけ、口元を緩めた。

「……なんか、初めて見ました。課長の“人間味”ってやつ」

「そうですか?」

「はい。むしろ、ちょっと安心しました。課長も、ちゃんと疲れるんやって」

その一言に、本庄は少しだけ目を伏せた。

「……誰かの前で弱った顔を見せるのは、ずいぶん久しぶりです」

「うちで、よかったんですか?」

「……はい。よかったと思います」

その瞬間、舞子の心臓は跳ねた。

(……これ、今……“特別扱い”された?)

けど、そこで調子に乗ったらあかん。
それだけは、胸に刻んでおかなあかん。

でも――

この夜だけは、ほんのちょっと、恋してる自分を許してあげようと思った。

 

帰り道。電車に揺られながら、舞子はつぶやいた。

「……あかん、もう一生、うちの肩貸したるわ」

電車の窓に映る自分の顔が、ちょっとだけ照れてて、でも、満たされていた。

本庄誠。
氷の上司。
でもほんまは――あったかい人や。

今はまだその心に触れるだけで精一杯やけど、
いつか、ちゃんとその横に立てたらええな。

そう思いながら、舞子はそっとスマホにメモを追加した。

>本庄課長の弱点:高熱。あと、寝顔がちょっと子犬っぽい。

(ふふ。秘密の宝箱、またひとつ増えたわ)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。 ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。 そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。 彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。 「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。

妖狐の嫁入り

山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」 稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。 ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。 彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。 帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。 自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!   & 苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る! 明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。 可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ! ※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

君と暮らす事になる365日

家具付
恋愛
いつでもぎりぎりまで疲れている主人公、環依里(たまき より)は、自宅である築28年のアパートの扉の前に立っている、驚くべきスタイルの良さのイケメンを発見する。このイケメンには見覚えがあった。 何故ならば、大学卒業後音信不通になった、無駄に料理がうまい、変人の幼馴染だったのだから。 しかし環依里は、ヤツの職業を知っていた。 ヤツはメディアにすら顔を出すほどの、世間に知られた天才料理人だったのだ! 取扱説明書が必要な変人(世間では天才料理人!?)×どこにでもいる一般人OL(通訳)の、ボケとツッコミがぶつかりあうラブコメディ!(予定)

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

処理中です...