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第10話「出張は恋のチャンス?」
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「え? うち、課長とふたりで……出張ですか?」
営業企画部の会議室。週明けの朝イチ、部内ミーティングで舞子が思わず声を裏返した。
「そうです。名古屋での新規販促キャンペーンのプレゼン、
営業チームと現地スタッフ向けに行うので、現場経験のある宮本さんに同行してもらいます」
本庄課長は、いつも通り淡々と説明している。
(いやいや、いやいや、いやいや――)
「※同行してもらいます」って軽く言いはったけど、
つまりこれ、ふたりっきりの出張ってことやんな!?
「現地入りは木曜の朝、翌日昼に会議。そのまま金曜に戻るスケジュールです」
「は、はい! がんばります!」
(冷静な顔して、やることは思いっきりイベントカードやん……!)
木曜日の朝、新幹線ホーム。
舞子はキャリーケース片手に立ち尽くしていた。
心拍数は出発前からすでに高鳴りっぱなし。
だって課長とのツーショット新幹線や。通路挟んで席が向かい合わせや。
(これ、女子社員全員に知られたら“優勝”やん。いや炎上か?)
本庄は相変わらずスーツが決まりすぎてて、名古屋の駅で降りたら
「ロケですか?」って言われるレベルやった。
午前中は現地スタッフとの顔合わせと、販促会場の確認。
そこまでは淡々と進んだ。
問題は――その夜。
「……ホテル側の手違いで、ツインの予約がキャンセルされてまして……」
「は?」
フロントで放たれたまさかの言葉に、舞子は耳を疑った。
「ご案内できるのは、あいにくダブルの一室のみとなりまして……」
「だ、ダブル!? いや、ちょっ、無理無理無理!!」
「ご安心ください。ベッドは大きめですし、おひとり様ずつお休みいただけます」
(そういう問題ちゃうねん!!)
一方、本庄課長は一言。
「……別のビジネスホテルを探します」
さすが冷静沈着やな、と思った瞬間。
「ただし、名古屋は今日大規模イベント中で、近隣ホテルはすべて満室です」
「……」
「……」
(いやぁぁぁぁぁあ!!!)
10分後、ふたりはダブルベッド1台の部屋に立っていた。
(この状況、ホンマに修羅場すぎる……)
「ベッドはお使いください。私はソファで休みます」
「そ、そんなん、あかんです! 課長が寝不足になったら明日のプレゼンが……!」
「問題ありません」
「いやいやいや、絶対腰痛なるやつですって!」
「では交代で休みましょう。私は先に少し仮眠をとって、深夜に交代します」
(あかん……ほんまにロボットなんやろかこの人……)
でもそんな本庄が、さりげなく舞子に毛布をかけてくれたり、
部屋の温度設定を「寒くないですか」と聞いてくれたり、
何気ない優しさがひしひしと伝わってくる。
(……あかん、好きが、溢れてまう)
深夜2時。
交代の時間だと目を覚ました舞子は、そっとソファの方を見る。
「……課長?」
しかし、そこには寝ている本庄の姿があった。
疲れが出たのか、少し無防備な寝顔。
そして――小さく眉を寄せ、夢の中で何かを呟いていた。
「……もう、いい……離れた方が……」
(え……?)
それは、苦しげな寝言だった。
舞子は思わず、そっと近づいて、その額に手を伸ばしかけたけど――
途中でやめた。
(うちが踏み込んでええ場所やないんかもしれへん)
でも、ほんの一瞬だけ、彼の“氷の仮面”がゆるんだ気がした。
翌朝、何事もなかったかのようにスーツを着て、ネクタイを締める本庄の姿に、
舞子は昨夜の寝顔と夢の中の言葉を重ねて見ていた。
(……この人、誰かを守るために自分を閉じ込めてるんやな)
自分が思っていたより、もっとずっと深く、
本庄課長という人間に、惹かれてしまってる。
(……でも、バレたら終わりや。うちは、あくまで部下や)
けどその日、プレゼン会場を出たあと、
本庄がふと舞子にこう言った。
「昨日は、すみませんでした。……不便をかけたのに、文句ひとつ言わずに対応してくれて、助かりました」
「いえ、課長の方が寝にくかったですよね。……あの、もしまた同じことがあっても、大丈夫です。うちは、ちゃんと信頼してますから」
本庄は、少しだけ驚いたような顔をして、そして――
「……ありがとうございます」
ほんの小さな声だったけど、確かに“本心”だった。
舞子の胸の奥で、何かがふわりと温かくなった。
営業企画部の会議室。週明けの朝イチ、部内ミーティングで舞子が思わず声を裏返した。
「そうです。名古屋での新規販促キャンペーンのプレゼン、
営業チームと現地スタッフ向けに行うので、現場経験のある宮本さんに同行してもらいます」
本庄課長は、いつも通り淡々と説明している。
(いやいや、いやいや、いやいや――)
「※同行してもらいます」って軽く言いはったけど、
つまりこれ、ふたりっきりの出張ってことやんな!?
「現地入りは木曜の朝、翌日昼に会議。そのまま金曜に戻るスケジュールです」
「は、はい! がんばります!」
(冷静な顔して、やることは思いっきりイベントカードやん……!)
木曜日の朝、新幹線ホーム。
舞子はキャリーケース片手に立ち尽くしていた。
心拍数は出発前からすでに高鳴りっぱなし。
だって課長とのツーショット新幹線や。通路挟んで席が向かい合わせや。
(これ、女子社員全員に知られたら“優勝”やん。いや炎上か?)
本庄は相変わらずスーツが決まりすぎてて、名古屋の駅で降りたら
「ロケですか?」って言われるレベルやった。
午前中は現地スタッフとの顔合わせと、販促会場の確認。
そこまでは淡々と進んだ。
問題は――その夜。
「……ホテル側の手違いで、ツインの予約がキャンセルされてまして……」
「は?」
フロントで放たれたまさかの言葉に、舞子は耳を疑った。
「ご案内できるのは、あいにくダブルの一室のみとなりまして……」
「だ、ダブル!? いや、ちょっ、無理無理無理!!」
「ご安心ください。ベッドは大きめですし、おひとり様ずつお休みいただけます」
(そういう問題ちゃうねん!!)
一方、本庄課長は一言。
「……別のビジネスホテルを探します」
さすが冷静沈着やな、と思った瞬間。
「ただし、名古屋は今日大規模イベント中で、近隣ホテルはすべて満室です」
「……」
「……」
(いやぁぁぁぁぁあ!!!)
10分後、ふたりはダブルベッド1台の部屋に立っていた。
(この状況、ホンマに修羅場すぎる……)
「ベッドはお使いください。私はソファで休みます」
「そ、そんなん、あかんです! 課長が寝不足になったら明日のプレゼンが……!」
「問題ありません」
「いやいやいや、絶対腰痛なるやつですって!」
「では交代で休みましょう。私は先に少し仮眠をとって、深夜に交代します」
(あかん……ほんまにロボットなんやろかこの人……)
でもそんな本庄が、さりげなく舞子に毛布をかけてくれたり、
部屋の温度設定を「寒くないですか」と聞いてくれたり、
何気ない優しさがひしひしと伝わってくる。
(……あかん、好きが、溢れてまう)
深夜2時。
交代の時間だと目を覚ました舞子は、そっとソファの方を見る。
「……課長?」
しかし、そこには寝ている本庄の姿があった。
疲れが出たのか、少し無防備な寝顔。
そして――小さく眉を寄せ、夢の中で何かを呟いていた。
「……もう、いい……離れた方が……」
(え……?)
それは、苦しげな寝言だった。
舞子は思わず、そっと近づいて、その額に手を伸ばしかけたけど――
途中でやめた。
(うちが踏み込んでええ場所やないんかもしれへん)
でも、ほんの一瞬だけ、彼の“氷の仮面”がゆるんだ気がした。
翌朝、何事もなかったかのようにスーツを着て、ネクタイを締める本庄の姿に、
舞子は昨夜の寝顔と夢の中の言葉を重ねて見ていた。
(……この人、誰かを守るために自分を閉じ込めてるんやな)
自分が思っていたより、もっとずっと深く、
本庄課長という人間に、惹かれてしまってる。
(……でも、バレたら終わりや。うちは、あくまで部下や)
けどその日、プレゼン会場を出たあと、
本庄がふと舞子にこう言った。
「昨日は、すみませんでした。……不便をかけたのに、文句ひとつ言わずに対応してくれて、助かりました」
「いえ、課長の方が寝にくかったですよね。……あの、もしまた同じことがあっても、大丈夫です。うちは、ちゃんと信頼してますから」
本庄は、少しだけ驚いたような顔をして、そして――
「……ありがとうございます」
ほんの小さな声だったけど、確かに“本心”だった。
舞子の胸の奥で、何かがふわりと温かくなった。
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