4 / 91
第1章
3話
しおりを挟む
アニエスとセシルはヤンサの街を後にし、採集依頼『いやし草』10本の納品を達成するべく街道を進んでいく。商人が仕入れで良く訪れることもあり、馬車や荷物を背負った街へと赴く商人とよくすれ違う。時折、大人数を荷台に乗せたいかにもな観光客を乗せた馬車も通り、遠くから来たであろう人々にふたりは笑顔で手を振る。
街道を歩くこと半時、辺り一面の緑とぽつぽつと木々が生えている場所──『シチリ南部平原』へと辿り着いた。広々とした大地には何種類、何十種類と言った草花が生えており、それらを見たセシルは目を輝かせていた。
「……これ、さっき本で読んだ花」
「セシルっていつも図鑑みたいなの読んでるわよね。やっぱお父さんの仕事継いで薬師になるの?」
横から覗き込んできたアニエスが、興味深そうに花を観察するセシルに問いかける。こくりと頷いたセシルは、また何事もなかったかのように目の前に生えている黄色い蕾がついてる花を眺めている。
「それで? この花ってなにかしら薬にできるの?」
「花粉に麻痺毒が含まれてる」
辺りを見回しながら問いかけるアニエス。先ほどから眺めているだけだったセシルは立ち上がり、ぼそりと呟く。毒だなんだと、騒いだりもせずに解説するセシルに、アニエスは嫌そうな顔をしながら答える。
「──こ、こっちに近づけないでよね。麻痺毒って結構つらいから……」
一度体験したかのような口ぶりだった。それからしばらくの間、気になる草花が生えていなかったのか、セシルは地面をみながらあっちこっちへと歩いていく。その姿を見るや、溜め息をこぼしながら剣の柄を握ったり離したりするアニエス。正直なところ剣を振るいたいのだろう。
「朝早く起きて、先に依頼受けておくべきだったわ……はぁ……」
「アニエス、これ見て」
「今度はなに? また珍しい薬草でもみつけた──」
セシルの呼びかけに呆れ口調のアニエスが駆け寄っていく。一本の木の生えている小さな丘を越えたアニエスだったのだが、途中で言葉を失ってしまった。原因はセシルの隣でぺたりと股を開いて座り込みながらよだれを垂らし、遠くを眺める男がいたからだ。髪は黒く、鼻の下まで伸びており、薄茶色で虚ろな瞳が隙間から覗いている。顔つきは身近にはいない、こちらの地方の出身ではないと一目でわかるもので、見慣れない黒い上着に白いシャツを着ており、黒いズボンを履いている──不思議な感じのする男だった。
「生えてた」
「いやいやいや、人が生えてるわけないでしょ! それよりこの人は大丈夫なの!?」
「外傷はない、たぶん気絶」
「……っは?」
セシルが男の髪を持ち上げて目元を確認しており、先にどこか怪我がないか見たのだろう。薬師の娘ともあって、こういう緊急の時の対処は心得ているようだ。間の抜けた返事をしたアニエスはどうすればいいのかもわからず、あたふたとしていた。こういう時は基本的に任せっきりなので、一切の知識を持ち得ていないのだ。
これといった外傷もなく、かと言ってなぜこのような状況になっているのかも不明──ふたりは手を付けれない状態になってしまった。すると、セシルは男の周りに散らばっている草を拾い上げた。
「『いやし草』……でも、なんで?」
持ち上げた草の特徴から、それが何なのか一目で当てて見せるセシル。
「この男が乱心して引き抜いたとかじゃないの? それより、なんでこんな草原の真ん中でぼーっとしてるのかしら……盗賊に襲われた? ううん、でもそんな話はギルドじゃ聞かなかったし……」
「わからない。でも、ここにいたら危ない」
昼間の間は明るいため,近くに魔物が現れても対処しやすいが、夜になると野営地を設置して交代で見張りをしなければならない。もちろん、ふたりは野営の準備などしているはずがなく──どうすればいいのかと困り果てていた。
「と、とりあえず移動させるわよ。すぐそこの丘なら見渡せるし、大丈夫だと思うわ」
えっへんと胸を張るアニエス。しかし、ふたりで運ぶと考えていたその提案はセシルの一言で破綻する。
「アニエス、お願い」
いそいそと男の周りに散らばっている『いやし草』を鞄に詰め込むセシル。その姿を大きく目を広げて凝視する──だが、がくっと肩を落として男の元へ一歩、一歩と気だるそうな足取りで向かうアニエス。
「結局私がやるのね! あー、もう! わかったわよ……って、軽いわね」
男の両脇に手を入れ、引きずるように丘を登っていく。そして、丘の上に生えていた木の根元に移動させ、『いやし草』を集め終えたセシルが合流すると、嬉しそうに鞄の中を見ていた。
「『いやし草』23本、あとは雑草だった」
「す、すごい形で依頼を達成したわね……はぁ、なんだか面倒ごとに巻き込まれた気がしてならないのだけど」
「あとは、彼が目を覚ますのを待つだけ」
ふたりはじっと男の顔を見るが、一向に意識を取り戻すわけでもなく。自分たちの後方、遥か彼方をぼーっと見ているだけだった。
街道を歩くこと半時、辺り一面の緑とぽつぽつと木々が生えている場所──『シチリ南部平原』へと辿り着いた。広々とした大地には何種類、何十種類と言った草花が生えており、それらを見たセシルは目を輝かせていた。
「……これ、さっき本で読んだ花」
「セシルっていつも図鑑みたいなの読んでるわよね。やっぱお父さんの仕事継いで薬師になるの?」
横から覗き込んできたアニエスが、興味深そうに花を観察するセシルに問いかける。こくりと頷いたセシルは、また何事もなかったかのように目の前に生えている黄色い蕾がついてる花を眺めている。
「それで? この花ってなにかしら薬にできるの?」
「花粉に麻痺毒が含まれてる」
辺りを見回しながら問いかけるアニエス。先ほどから眺めているだけだったセシルは立ち上がり、ぼそりと呟く。毒だなんだと、騒いだりもせずに解説するセシルに、アニエスは嫌そうな顔をしながら答える。
「──こ、こっちに近づけないでよね。麻痺毒って結構つらいから……」
一度体験したかのような口ぶりだった。それからしばらくの間、気になる草花が生えていなかったのか、セシルは地面をみながらあっちこっちへと歩いていく。その姿を見るや、溜め息をこぼしながら剣の柄を握ったり離したりするアニエス。正直なところ剣を振るいたいのだろう。
「朝早く起きて、先に依頼受けておくべきだったわ……はぁ……」
「アニエス、これ見て」
「今度はなに? また珍しい薬草でもみつけた──」
セシルの呼びかけに呆れ口調のアニエスが駆け寄っていく。一本の木の生えている小さな丘を越えたアニエスだったのだが、途中で言葉を失ってしまった。原因はセシルの隣でぺたりと股を開いて座り込みながらよだれを垂らし、遠くを眺める男がいたからだ。髪は黒く、鼻の下まで伸びており、薄茶色で虚ろな瞳が隙間から覗いている。顔つきは身近にはいない、こちらの地方の出身ではないと一目でわかるもので、見慣れない黒い上着に白いシャツを着ており、黒いズボンを履いている──不思議な感じのする男だった。
「生えてた」
「いやいやいや、人が生えてるわけないでしょ! それよりこの人は大丈夫なの!?」
「外傷はない、たぶん気絶」
「……っは?」
セシルが男の髪を持ち上げて目元を確認しており、先にどこか怪我がないか見たのだろう。薬師の娘ともあって、こういう緊急の時の対処は心得ているようだ。間の抜けた返事をしたアニエスはどうすればいいのかもわからず、あたふたとしていた。こういう時は基本的に任せっきりなので、一切の知識を持ち得ていないのだ。
これといった外傷もなく、かと言ってなぜこのような状況になっているのかも不明──ふたりは手を付けれない状態になってしまった。すると、セシルは男の周りに散らばっている草を拾い上げた。
「『いやし草』……でも、なんで?」
持ち上げた草の特徴から、それが何なのか一目で当てて見せるセシル。
「この男が乱心して引き抜いたとかじゃないの? それより、なんでこんな草原の真ん中でぼーっとしてるのかしら……盗賊に襲われた? ううん、でもそんな話はギルドじゃ聞かなかったし……」
「わからない。でも、ここにいたら危ない」
昼間の間は明るいため,近くに魔物が現れても対処しやすいが、夜になると野営地を設置して交代で見張りをしなければならない。もちろん、ふたりは野営の準備などしているはずがなく──どうすればいいのかと困り果てていた。
「と、とりあえず移動させるわよ。すぐそこの丘なら見渡せるし、大丈夫だと思うわ」
えっへんと胸を張るアニエス。しかし、ふたりで運ぶと考えていたその提案はセシルの一言で破綻する。
「アニエス、お願い」
いそいそと男の周りに散らばっている『いやし草』を鞄に詰め込むセシル。その姿を大きく目を広げて凝視する──だが、がくっと肩を落として男の元へ一歩、一歩と気だるそうな足取りで向かうアニエス。
「結局私がやるのね! あー、もう! わかったわよ……って、軽いわね」
男の両脇に手を入れ、引きずるように丘を登っていく。そして、丘の上に生えていた木の根元に移動させ、『いやし草』を集め終えたセシルが合流すると、嬉しそうに鞄の中を見ていた。
「『いやし草』23本、あとは雑草だった」
「す、すごい形で依頼を達成したわね……はぁ、なんだか面倒ごとに巻き込まれた気がしてならないのだけど」
「あとは、彼が目を覚ますのを待つだけ」
ふたりはじっと男の顔を見るが、一向に意識を取り戻すわけでもなく。自分たちの後方、遥か彼方をぼーっと見ているだけだった。
170
あなたにおすすめの小説
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流
犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。
遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。
彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。
転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。
そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。
人は、娯楽で癒されます。
動物や従魔たちには、何もありません。
私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。
享年は25歳。
周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。
25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました
まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。
ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。
変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。
その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。
恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。
1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる
まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。
そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。
俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ
『壽命 懸(じゅみょう かける)』
しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。
だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。
異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる