異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮

文字の大きさ
46 / 91
第5章

44話

しおりを挟む
 夕日が沈み、月明かりが大地を優しく照らす。が、宿の一室ではそんなことお構いなしにだらだらと話続けるルフィナと、めんどくさくなってベッドに横たわる与一の姿があった。

「だから言ったんです。私は、いずれ大きなギルドにしたい、と」

 既に会話の話題は逸れ、いつの間にかルフィナのギルドに関する話になっていた。

「それから、私は決めました。小娘だからと、経験が少ないと言われようが、我が道を行くと……!」

 よだれがどうとか言っていた彼女は、なぜか熱く語り始め、ただただ聞き流していた与一を無視して壊れたラジオのように言葉を並べ続けている。長すぎるその話に、与一はあくびをしながら、時折鼻をほじりながら聞いていた。

「それから──────私たちのギルドで──────(略)───────こうして、ギルド『天秤』が今の形になって──────(略)──────と、言うわけです。素晴らしいと思いませんか? 与一様」
「すごいとおもいましたまる

 まるで、小学生のような感想だ。適当過ぎる返事なのだが、なぜか嬉しそうに胸を張るルフィナ。ここまでくると、彼女は馬鹿なのではないのかと考えてしまう与一。

「ふふ、私と共に商売をすれば。成功すること間違いなし、ですよ?」
確かに、そうかもしれないなでも、働くのはめんどくさい
「……今、聞こえてはいけないものが聞こえた気がしたのですが」
「ん? 疲れてるんじゃないのか?」
「そ、そうなのでしょうか……」

 頬に手を当て、考え込むルフィナを横目に、自身はなにをしにきたのだろう。と、与一は首を傾げる。だが、彼女の話が長すぎたからか、思い出すことができずに唸っていた。

「どうかしたのですか?」
「ルフィナになにか言おうとしてたんだがな、いつの間にか忘れてた」
「…………?」

 疑問に思ったのか、彼女は眉を寄せた。すると、身体を起こしてベッドの端に座った与一の傍へと、ルフィナが腰を下ろす。また、詰め寄ってくるのだろう。と、身構えた与一であったが、そんな心配はする必要はなかった。
 先ほどまで、あれやこれやと楽しそうに語っていた彼女。だが、隣に座っているルフィナの表情は堅く、どこか落ち着きがない様子で、両足の親指をもじもじとこすり合わせていた。

「その、ですね……つい熱く語ってしまったのですが、大丈夫でした?」

 どうやら我に返った様子で、ちらりと与一を窺いながら問いかけるルフィナ。

「あぁ、大丈夫だったぞ。半分以上聞いてなかったからな」
「……それ、大丈夫っていうのでしょうか」
「いや、だって話が長かったからさ。これもう、聞いてなくても問題ないんじゃないかって」
「……なんか、ひとり喋ってた自分が馬鹿みたいです」

 むぅ、と。片頬かたほを膨らませる。そんな子供のような仕草に、一瞬ぐっと来てしまった与一であったが、ここで彼女を調子づかせてしまうと、またからかわれたり、詰め寄られたりしてしまいそうなので、目を逸らした。

「馬鹿みたい、じゃなくて馬鹿だろ」
「ひ、ひどいです! 与一様が話を聞いてくれるので、なら私の身の上話でも。と、考えて喋っていましたのに……」

 落ち込んだり、驚いたりと忙しない。横でぎゃーぎゃー言っている彼女と、昼頃に一緒に買い物に出かけた彼女が同一人物だとはまるで思えなかった。だが、これも彼女の一面なのだろう。と、納得する与一。 
 ふと、ルフィナに言おうとしていたことを思い出しそうにはなるのだが、具体的な内容が浮かんでこない。

「それで、俺と取引するといいことでもあるのか?」
「はい。調合師様のポーションは、かなりの高値で取引されます。でも、肝心な物流と言いましょうか……基本的に国が管理しているものなので、易々と手に入るものではないのです」

 話の内容が商売の話になると、すぐに真面目な彼女に戻った。
 切り替えが早いのだろう。と、つい感心してしまいそうになるのだが、油断はできない。先の一件、与一は『男としては』嬉しい場面であったのだが、さも取引して当然のような話し方をする彼女は逆効果だった。

「な の で、与一様との取引は私たちにとってはとても有益なものなのです。この先、与一様が納品してくださるポーションさえあれば──」
「はぁ……断る」
「え……な、なんでですか?」

 冷めた声音で断られたルフィナは、まるで、絶望を覚えたかのように目を白黒させた。

「思ってたんだけど、さ。俺が承諾してない話を進めるのはやめてもらえないか?」
「気に障ったのなら謝ります! 一時的な納品でも構いません! ですから──」
「金のことになると、途端に見境がないんだな」
「──っ!?」

 与一の言葉に、びくり、と。ルフィナが肩を揺らした。
 肩を項垂れ、目を伏せる。意気揚々と喋っていた彼女は、消沈して大人しくなってしまっていた。隣で、借りてきた猫と化したルフィナを横目に見ながら、与一は小さく息を吐き、再度口を開く。

「みんな調合師だなんだって、すぐに特別視するけどさ。そのせいで俺が面倒事に巻き込まれたことは知ってるよな?」
「……はい。カミーユ様が話してたこと、ですよね」

 返ってきたのは、歯切れの悪い細々とした返事だった。

「正直、俺が勝手に友人だと思ってるやつらが巻き込まれるのが嫌なんだよ」

 実際、与一の近くにいたからとセシルが巻き込まれた。それを救うために、アルベルトとカミーユが手を貸してくれたからなんとか解決できたものの、もし彼らがいなかったらどうなっていたかはわからない。これ以上、誰かを巻き込んでまで調合をしなければならないのなら、最初からしないほうがマシだ。と、与一は考えてしまうのだ。

「誰かが困っているのなら、俺は迷わずに助けようと思う。けど、それらを売ろうとは思えないんだよ」
「……売れば、生活に困ることなんてないのですよ?」
「そうかもしれないな。でも、金で買えないものっていうのは、世の中ごまんとあるんだ」

 まるで見てきたかのような言い方をする与一を、ルフィナは横目でちらりと窺った。

「友人っていうのは、さ。作りたくても、なかなかできないものなんだぜ? そいつらを守りたいって思うのは身勝手だと思うか?」
「いえ、立派なことだと思います……」
「だろ? だから、俺は売る気にはなれない」

 そう言い、与一は腰を上げた。

「ですが、それは答えになってないませんよ?」

 部屋を出ていこうと、足を進めた与一を引き留めるルフィナ。すると、与一は振り向き、

「んー? それじゃ、俺が勝手に友人だと思ってるってことだろ」

 申し訳なさそうに笑みを浮かべた。

「もしかして……私のことを言ってるのですか?」
「それ以外に誰がいるんだよって、もうこの話はおしまい! なんか、恥ずかしくなってきた」

 頬を掻き、再度扉へと向かう。が、

「……? ですが、言い方を変えると『友人の為を思って働きたくない』って、捉えれますよね?」
「勘のいい子は嫌いだよッ!!」

 くわ、と。驚いた表情をしながら叫び、与一はそそくさと部屋を出ていった。そして、部屋に残されたルフィナは目をぱちくりとさせ、彼の出ていった扉を眺めていた。

「ふふ、本当に馬鹿なのかもしれませんね。私は」

 自身のことを友人と言ってくれた彼に、いつかお詫びをしなければ。と、ルフィナはベッドに身を投げながら考えた。最初からそう言ってくれれば、自分は彼を無理に誘うことはなかっただろう。それに、あの若さで調合師になっておきながら、遠まわしに働きたくないという彼には驚かされた。

「調合師としてではなく。最初はじめから与一様自身として、接してくれてたのですね……」

 ひとりの友人として、ひとりの商人として、自身はまだまだ未熟だったのだ。と、後悔しながらも、友人という単語に胸を躍らせ、寝転がりながら膝を抱えて、嬉しさに頬を緩ますルフィナであった。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました

まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。 ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。 変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。 その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。 恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。

1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる

まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。 そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

処理中です...