異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮

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第6章

46話

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 与一がギルドに行くと言い出し、ふたりは目を疑っているように何度も瞬きをしていた。最初、何度も顔を見てきたセシルであったのだが、与一自身が言い出したことであり、なによりも働く意欲を少しでも見せてくれたことに安心したのか、穏やかな表情を浮かべていた。

「珍しいわね? なにかあったの?」

 開口早々、アニエスが疑問を投げかけてくる。

「ここ最近でいやし草を使いすぎたからな。補充も兼ねて、だ」
「そう……まぁ、いいんじゃない? 一日中、暇してるよりはマシよ」

 嬉しそうな声音で話すアニエス。振り向き様にふわり、と。その艶のある金髪をなびかせながら、宿を出ていく。
 どうやら、彼女も与一が働くと言い出して嬉しかったのだろう。先を行く彼女の足取りは軽く、どこか楽しそうな雰囲気を感じた。そして、セシルは与一を見て一度頷き、アニエスの後をとてとて、と。小走りに追いかけていく。
 
「はぁ、いい子たちだよ。本当に」

 彼女たちに感謝を垂れながら、与一は大きなあくびをひとつしてから歩き出す。
 アルベルトの宿から、冒険者ギルドまでの距離はそう遠くない。ヤンサの街全体を大まかに説明するとなると、漢字の『申』という字がしっくりくる。中央が大通り、上のほうは港、下は街の出入り口だ。地形で言えば、出入口に向かうと上り坂が続き、港に向かえば下り坂になっているのだ。
 宿の場所は、ほぼ中央の港手前であり、冒険者ギルドの場所は左下。距離でいうと、歩いて15分前後といったところなのだ。

「そういえば、この間の美人さんはもう大丈夫そうなの?」

 先を進むアニエスが、横目で与一を窺いながら問いかけてきた。
 この間の美人さん。といえば、ルフィナ以外思い当たる人物はいないのだが、あの日の彼女たちは初対面でありながらセシルが本を投げつけるという悲劇があったのだ。そのことについて、彼女は聞いているのだろう。と、与一は納得すると、顎に手を当てながら、

「まぁ、大丈夫って言えば大丈夫だったぞ? 頭のほうは少々馬鹿になってたけど」
「馬鹿になってたって……それは、元々そんな感じだったの? それとも、セシルの本が原因?」
「ん、治った?」
「治って馬鹿になるのはおかしいだろ。たぶん、あれが素なんじゃないかなぁって感じだな」

 ルフィナは、自分自身の身の上話か、ギルドの話になると熱くなるのだ。人間、興味があるものや好きなものの話となれば熱く語ってしまうものだが、それは同志がいてこその場合である。しかし、与一の場合は聞いてもいない話を延々に聞かされたのだから、めんどくさい。と、いう認識が固定されつつあるというのは言うまでもない。

「ギルド名は忘れたけど、一応ギルドマスターらしいぞ?」
「え!? 与一と同じくらいよね?」
「そう、だと思う。この間、いくつぐらいなんだろうって、話したときに失礼だと言われたがな……」

 頬を掻き、目を逸らす与一。

「ふふ、与一らしいわね」
「俺らしいってなんだよ……それだと、俺が失礼なことしか言わない野郎な感じに聞こえるだろ」
「ん、先生は素直」
「いや、それは違うと思うぞセシル……」

 時折、セシルはどこか抜けているような言葉を並べるときがある。
 いつにも増して眠そうにしているセシルを眺め、与一は道の脇などに見える店に目を向ける。だが、文字の読めない彼に対して、看板は悲しくも意味をなさなかった。絵が描かれているものは想像することができる。が、文字だけの場合は論外だ。どれの店がなんの店なのかなんて、無一文には関係がないのだ。しかし、そろそろ文字を覚えたほうがいいのではないのだろうか。と、危機感を煽るスパイスとなっていた。

「なぁ、アニエス」
「どうかしたの? 金を貸してくれ、とか。そういう感じの話だったら断固拒否するわよ」

 呆れ口調で、いかにも嫌そうな表情をするアニエス。それに対して、与一は首を横に振って否定する。

「違う違う。恥ずかしいんだが、こっちの文字がわからなくてな。今度、時間があるときでいいから教えてくれないか?」
「そういえば、与一はこっちの出身じゃないものね。それなら、私よりもセシルに教えてもらったほうがいいかもしれないわよ?」
「確かに……毎日本読んでるもんな」
「ん、勉強は大事」

 歩く速度を落とし、与一の傍に来たセシル。身長差故に、どうしても上目遣いになってしまうのは仕方がない。

「勉強なんてここ、最近してなかったからなぁ」

 そう言うと、与一はセシルの頭を撫でる。見慣れつつあるこの行動に対して、アニエスは、どこか呆れたかのような溜め息をこぼしていた。しかし、文字を覚えるとなると、時間と教材が必要になってくるはずだ。そして、教材を揃えるとなると、絶対に必要となってくるものがある。それは、

「いくらぐらいなんだ……わからん。こっちの物価がわからん!」

 お金の問題である。

「ん、私が教えるならタダ」

 与一の袖を引っ張りながら、セシルは呟いた。

「これで解決ね。私が教えてもいいけど、読み書きは苦手なのよね……だから、文字を教えるのはセシルに任せるわ。それに、お金がないのに物価を覚えても……ねぇ」
 
 かたかた、と。まるでコマ送りのように目を背けるアニエス。後半、小声で何を言っているのか聞き取れなかったが、特に追求する気にはなれなかった与一は、セシルに教えてもらえるという謎の安心感を胸に、遠く見えてきた冒険者ギルドへと足を進めるのであった。
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