わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。

楠ノ木雫

文字の大きさ
3 / 46

◇3 幽霊?

しおりを挟む
「あ~、お腹空いた……」


 今日も怒涛の一日だった。まぁ、覚悟はしていたけれど……眠い。そしてお腹空いた……

 今日は使節団の方々との食事会はなかったから朝から何も食べてない。というか、食べる暇すらなかった。キッチンは忙しすぎて味見しか出来なかったし!

 そう思いつつも庭に面する廊下をゆっくりと歩いている時だった。


「ん? ご機嫌麗しゅう、殿下」

「……えぇ」


 ……やっべぇ、この人、シャレニア王国の人じゃん。

 ここは使用人達が通る事が多い廊下ではあるけれど、庭に面しているためその可能性もあった。けれど、今シャレニア王国の方々は本宮の会場で宴を開いているはずなんだけど。私は用事があるって抜けてからキッチンに行った帰りなんだけどさ。一応サボりだ。

 私は暁明シァミン王国王族の者達と同じく桃色の瞳と髪色をしている。だから、私の事は一発で第一王女だと分かってしまう。

 さて、どうしたものか。逃げる? 逃げるか? すみません急いでるんで~! って。いや、姫様モード入れなきゃいけないよね。


「……いい匂いがする」

「えっ」


 私の目の前にいる男性は、見たところ護衛の方みたいだ。見回り? でもうちの兵がちゃんと警備しているはずだけど。もしかして……私と同じくサボり?

 けれど、いい匂いというのは……このかご?

 今私が持っているかご。掛けられた布を開くと、出てくるのはおにぎりである。けれど、そんなに匂いする?


「……食べる?」

「……よろしいのですか?」

「えぇ。忙しくしている私のために侍女が気を利かせて用意してくれたのだけれど、実はお腹いっぱいで……忙しいようだから受け取ったのだけれど、もったいないから、代わりに食べてくれるかしら」


 な、なんとか、納得してくれてる……? 大丈夫?

 でも、姫様がこんなかごを一人で持ってこんなところ歩いてるなんて、食いしん坊な王族の王女が勝手にキッチンに行ってもらってきたみたいだし。

 だって、私が歩いてきた側の先にあるのキッチンだもん。それは、だいぶ恥ずかしい。

 不安を抱えつつも、どうぞ、とかごを彼に渡そうと前に出した。


「……いえ、ですが王族の方からいただいてしまうのは……」

「気にしないで。お仕事中だと何かと食事する時間を取るのが難しいでしょうし……どうかしら?」

「……そこまでおっしゃってくださるのでしたら、殿下のご厚意に感謝して、ありがたくいただきます」


 よ、よかった……

 姫様モード、大丈夫かしら。


「ありがとうございます」


 微笑の表情を浮かべて、そう言ってくれたことが何となくくすぐったかった。どうしてだろう。この、金色に光る瞳が気になるからだろうか。

 だけど……この雰囲気を、一気にぶち壊したのだ。……私のお腹の音で。


「……」

「……」


 ……はっず。


「……ぷっ」


 ですよねぇ!? 笑いますよね!!

 あ~どうしよう!! 王族の王女がお腹鳴らすなんて恥ずかしすぎるって!!


「申し訳ございません。殿下もお腹が空いていらっしゃるのであれば、全部はいただけませんね。一緒に食べるとなると、殿下は嫁ぐ身でありますので勘違いされてしまう可能性もありますから、行儀は悪いですが……」


 そのまま食べるらしい、そのまま中に入っていたおにぎりを取り、大きな口でパクリと食べた。

 この人は、リアクションが大きいらしい。食べた瞬間、目を光らせていた。


「米、でしたか。とても美味しいです。中身は何だろう……」


 私に聞くかのようにして中身を見せてくれた。まぁ、見せられなくても中身は知っているが。


「……それは鮭ね」

「鮭ですか。焼いたのかな。とっても美味しいです。さすが、海に囲まれた国だ。魚類はどれも美味しい」

「料理長達に伝えておくわね。きっと喜ぶわ」


 まさか、3口で食べ終えてしまうとは。結構大きかったのに、口大きいな。それに、もっとゆっくり食べてもよかったのに。

 でも、頬張るように食べている様子に、作った甲斐があったと嬉しさが込み上がった。

 はい、どうぞ。そう言いつつも笑顔で私にかごを渡してくれた。


「ご馳走様でした。とても美味しかったです」

「それは、よかった……」

「殿下はどちらに? 宜しければお供しますが……」

「あ、いえ、いいわ。早く持ち場に戻ったほうがいいと思うから、行ってちょうだい」


 さすがにお供はちょっとな……


「……やっぱり可愛い」


 とても小さな声で呟いたその言葉は、私の耳には届かなかった。

 では失礼します、と一礼し戻っていった。

 ……姫様の欠片もないな。これ、お母様にバレたら殺されかねない。黙っててくれるといいんだけど。



 その後、何事もなくシャレニア王国の使節団は母国に戻っていった。そして、数日後にまたこちらに来る事となっている。

 でも……いなかったな、使節団の人達の中に。昨日会った護衛の人。

 ……幽霊? まさかの幽霊? 私、幽霊におにぎり食べてもらっちゃったの?

 こっわ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ストーカーに狙われたので歳上騎士様に護衛をお願いしました。

ねーさん
恋愛
 「氷の彫刻」と呼ばれる美貌の兄を持つ公爵令嬢のクラリッサは不審な視線に悩まされていた。  卒業を二日後に控えた朝、教室のクラリッサの机に置かれた一通の偏執狂者からの手紙。  親友イブを通じてイブの婚約者、近衛騎士団第四分団員のジョーンズに相談すると、第四分団長ネイトがクラリッサのパートナーとして卒業パーティーに出席してくれる事になって─── 〈注〉 このお話は「婚約者が記憶喪失になりました。」と「元騎士の歳上公爵様がまさかの××でした!?」の続編になります。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします

森 湖春
恋愛
長年の夢である世界旅行に出掛けた叔父から、寂れた牧場を譲り受けた少女、イーヴィン。 彼女は畑を耕す最中、うっかり破壊途中の岩に頭を打って倒れた。 そして、彼女は気付くーーここが、『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だということを。自分が、転生者だということも。 どうやら、神々の悪戯で転生を失敗したらしい。最近流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来なかったのは残念だけれど、これはこれで悪くない。 近くの村には婿候補がいるし、乙女ゲームと言えなくもない。ならば、楽しもうじゃないか。 婿候補は獣医、大工、異国の王子様。 うっかりしてたら男主人公の嫁候補と婿候補が結婚してしまうのに、女神と妖精のフォローで微妙チートな少女は牧場ライフ満喫中! 同居中の過保護な妖精の目を掻い潜り、果たして彼女は誰を婿にするのか⁈ 神々の悪戯から始まる、まったり牧場恋愛物語。 ※この作品は『小説家になろう』様にも掲載しています。

【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました

藤原遊
恋愛
【溺愛・成長・政略・糖度高め】 ※ヒーロー目線で進んでいきます。 王位継承権を放棄し、外交を司る第六王子ユーリ・サファイア・アレスト。 ある日、後宮の片隅でひっそりと暮らす少女――カティア・アゲート・アレストに出会う。 不遇の生まれながらも聡明で健気な少女を、ユーリは自らの正妃候補として引き取る決断を下す。 才能を開花させ成長していくカティア。 そして、次第に彼女を「妹」としてではなく「たった一人の妃」として深く愛していくユーリ。 立場も政略も超えた二人の絆が、やがて王宮の静かな波紋を生んでいく──。 「私はもう一人ではありませんわ、ユーリ」 「これからも、私の隣には君がいる」 甘く静かな後宮成長溺愛物語、ここに開幕。

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

転生貧乏令嬢メイドは見なかった!

seo
恋愛
 血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。  いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。  これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。 #逆ハー風なところあり #他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)

氷狼陛下のお茶会と溺愛は比例しない!フェンリル様と会話できるようになったらオプションがついてました!

屋月 トム伽
恋愛
ディティーリア国の末王女のフィリ―ネは、社交なども出させてもらえず、王宮の離れで軟禁同様にひっそりと育っていた。そして、18歳になると大国フェンヴィルム国の陛下に嫁ぐことになった。 どこにいても変わらない。それどころかやっと外に出られるのだと思い、フェンヴィルム国の陛下フェリクスのもとへと行くと、彼はフィリ―ネを「よく来てくれた」と迎え入れてくれた。 そんなフィリ―ネに、フェリクスは毎日一緒にお茶をして欲しいと頼んでくる。 そんなある日フェリクスの幻獣フェンリルに出会う。話相手のいないフィリ―ネはフェンリルと話がしたくて「心を通わせたい」とフェンリルに願う。 望んだとおりフェンリルと言葉が通じるようになったが、フェンリルの幻獣士フェリクスにまで異変が起きてしまい……お互いの心の声が聞こえるようになってしまった。 心の声が聞こえるのは、フェンリル様だけで十分なのですが! ※あらすじは時々書き直します!

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

処理中です...