16 / 46
◇16 緊張しないわけがない。
しおりを挟む側室はいらない。そんな言葉の後にいろいろと想像してしまったせいで、夜までずっとそわそわしてしまった。
だって、結婚式後旦那様は邸宅に帰ってこれなくて……初夜をしていない。
今日帰ってきたという事は……だよね。
この時間が近づいていくにつれて心臓の音がどんどんうるさくなっていて壊れてしまうのではないかと思うくらいだ。
寝室でソファーに座って旦那様を待っているけれど……もう寝ていい? いいよね? というところでいきなりドアが開かれた。旦那様だ。バレた? というくらいのグッドタイミングだった。
そして、私を視界に入れた旦那様は微笑みつつ近くに来て、よっこいしょと隣に座ってきた。
……今、絶対顔真っ赤になってる。大げさなくらいに肩上がっちゃったもん。絶対に変に思われてる。
「ははっ、緊張しなくてもいいよ」
「……はい、ありがとうございます」
……笑われた。だいぶ緊張して気にしてるって、バレた。うわぁ、恥ずかしい……
けど……顔を覗き込んで微笑んでくるの、やめてもらっていいですか。余計赤面しちゃうんですけど。
「招集がかかったとはいえ、ほったらかしにてごめんな」
「あ、いえ、お忙しい事は理解していますからお気になさらないでください」
「……」
旦那様は、私の顔を覗きつつも、頭を撫でてきた。やばい、それだけで照れる。
「せっかく夫婦になったんだから、そんなに堅苦しくしたくないって思ってるんだけど、スイランちゃんはどうかな」
「え? あ、はい、私も……」
「うん、ありがとう」
また、頭を撫でられた。
……子ども扱い、というやつか、これ。
まぁでも、19歳の私に対し、旦那様は今30歳だ。11歳も差があると、旦那様にとって私は子供も同然か。
となると……今日は初夜はない?
「だから、これからはスイランちゃんの事たくさん教えてほしいな。俺も色々と知ってもらえるよう努力するし」
「……あ、ありがとうございます」
「うん」
楽しい結婚生活、って言ってくれたことは嬉しいし、私の事をたくさん知りたいとも言ってくれたことも嬉しい。けれど……こんな変態思考は絶対に知られたくないな。
ガウンを着ていらっしゃる旦那様の腹筋を見ないようにだいぶ頑張ってるんだから。こんなに容姿端麗で優しくて最高すぎる旦那様に幻滅なんてされたくないに決まってる。
せっかく、私の事気遣ってくれたりしてくれたのに。アホか、私。
「あぁ、さっき話は聞いたんだ。知らなかったとはいえ迷惑をかけちゃって悪かったよ。ごめんな」
「あ、いえ……」
「あのいとことは公式の場でしか顔を合わせた事がないし、泊まった事も今まで全くなかったから安心して。だから、あの伯母上達の事は全て忘れてくれていいから」
「え……」
「忘れていいよ」
「……はい」
なんか……圧が凄い。しかも、全く、とかだいぶ力が入っているような気がする。まぁ、これで離婚に繋がってしまえば国際問題だから何となく気持ちも分かるけれど、私はその気は全くない。
「緊張はとれたかな?」
「……え?」
「ちゃんと会ったのは今日が初めてだし緊張するだろ? もう大丈夫?」
まぁ、おにぎり事件の時はこの人がのちの旦那様だって知らなかったわけだから、今日が初めてだって言葉は嘘ではない。けれど、その件に関してのことが聞きたくても、それどころじゃない。
「……すみません」
「はは、やっぱ難しいか」
そう言いつつ笑顔を見せてくれた。
……やっぱりやるんだ、初夜。これから? え、本当に? 私心の準備全く出来てないんですけど?
本当に初夜をやるのかとドキドキな私に気が付いたらしい、旦那様はクスクス笑っていた。それを聞いて余計恥ずかしく感じてしまう。
「はい、じゃあ失礼して」
「わっ」
いきなり手を伸ばしてきたかと思うと、そのまま持ち上げられてしまった。お姫様抱っこなんてこんな歳で、しかもこんなイケメンにだなんて恥ずかしいに決まってる。
顔が大噴火しそうなくらいに熱くなってしまっていたら……ベッドに到着し、座った旦那様の膝に跨るような形で乗せられた。困惑し下がろうとしたけれど、腰に腕を軽く回されたので動けない。
重いかな、と思いつつも顔が熱々になって旦那様の顔が見られない。視線を下に降ろすけれど、そうすると少しはだけた旦那様の胸板が視界に入るため余計恥ずかしくなる。
「俺、成人男性より体デカいからいきなり押し倒したら怖いだろ。これなら怖くない?」
「えっ、あ、は、はぃ……」
顔が整いすぎている。少し遠くから見ても顔が整っているのがよく分ったのに、こんなに近くだったら眩しすぎて鼻血が出そうだ。やばい、顔緩んじゃってるのバレたらどうしよう……
「抱きしめていい?」
「ドゾ……」
肩に顔を埋めつつぎゅ~っと抱きしめてきた。私の身体が小さいのか、旦那様が大きいのかすっぽり収まってしまった。やばい、イケメンに抱きしめられてる。そう思うと顔が熱くなってくる。
早く冷めろ冷めろと顔の熱を冷まそうと念じて耐えていたけれど、離れては頭を撫でられる。笑顔が、眩しい……
「やっぱり可愛いな」
「……」
「ん?」
顔が近づき、キスをされてしまった。いきなりの事で思考が停止し、数秒後には頭から湯気が出そうなくらいに顔が熱くなってしまった。
そんな私の様子に、クスクス笑われてしまう。
「結婚式でもキス、したと思うんだけど?」
「う……」
したけど……したけど! それとこれとはわけが違うんだって! こんなに近くでされたらどうしたらいいか分からないんだって!
またキスをされると、続けてもう一度。それが何度も何度も角度を変えてキスをされて、どんどん密着する時間が長くなって。
「うん、上手」
またキスをされ、今度は後頭部に触れられて少し押されてしまい、逃げられなくなってしまった。口内でも、旦那様の舌が私の舌を追いかけてくる。
私を見てくる、旦那様の瞳。私のピンクの瞳とは違う、金色の瞳が印象深く見えてくる。
薄暗い部屋の中で、一際光ってる。
ゾクゾクして、変な声が口から漏れそうで、恥ずかしくて逃げたくなる。けれど許してくれなくて、更に動きを大胆にしてくる。
ようやく唇同士が離れた頃には、もう頭がくらくらして溶けそうになっていた。
「かわい」
息切れが止まらない。この感覚は私の知らないもので混乱してしまう。
頬を撫でられた。目の前の旦那様は微笑んでくる。
「優しくするから、安心して」
「っ……」
一応初夜の事は知っている、本で学んだ。けれど、これは……ある意味私は子供だったんだと思い知らされるほどに濃密だった。
98
あなたにおすすめの小説
ストーカーに狙われたので歳上騎士様に護衛をお願いしました。
ねーさん
恋愛
「氷の彫刻」と呼ばれる美貌の兄を持つ公爵令嬢のクラリッサは不審な視線に悩まされていた。
卒業を二日後に控えた朝、教室のクラリッサの机に置かれた一通の偏執狂者からの手紙。
親友イブを通じてイブの婚約者、近衛騎士団第四分団員のジョーンズに相談すると、第四分団長ネイトがクラリッサのパートナーとして卒業パーティーに出席してくれる事になって───
〈注〉
このお話は「婚約者が記憶喪失になりました。」と「元騎士の歳上公爵様がまさかの××でした!?」の続編になります。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします
森 湖春
恋愛
長年の夢である世界旅行に出掛けた叔父から、寂れた牧場を譲り受けた少女、イーヴィン。
彼女は畑を耕す最中、うっかり破壊途中の岩に頭を打って倒れた。
そして、彼女は気付くーーここが、『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だということを。自分が、転生者だということも。
どうやら、神々の悪戯で転生を失敗したらしい。最近流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来なかったのは残念だけれど、これはこれで悪くない。
近くの村には婿候補がいるし、乙女ゲームと言えなくもない。ならば、楽しもうじゃないか。
婿候補は獣医、大工、異国の王子様。
うっかりしてたら男主人公の嫁候補と婿候補が結婚してしまうのに、女神と妖精のフォローで微妙チートな少女は牧場ライフ満喫中!
同居中の過保護な妖精の目を掻い潜り、果たして彼女は誰を婿にするのか⁈
神々の悪戯から始まる、まったり牧場恋愛物語。
※この作品は『小説家になろう』様にも掲載しています。
【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました
藤原遊
恋愛
【溺愛・成長・政略・糖度高め】
※ヒーロー目線で進んでいきます。
王位継承権を放棄し、外交を司る第六王子ユーリ・サファイア・アレスト。
ある日、後宮の片隅でひっそりと暮らす少女――カティア・アゲート・アレストに出会う。
不遇の生まれながらも聡明で健気な少女を、ユーリは自らの正妃候補として引き取る決断を下す。
才能を開花させ成長していくカティア。
そして、次第に彼女を「妹」としてではなく「たった一人の妃」として深く愛していくユーリ。
立場も政略も超えた二人の絆が、やがて王宮の静かな波紋を生んでいく──。
「私はもう一人ではありませんわ、ユーリ」
「これからも、私の隣には君がいる」
甘く静かな後宮成長溺愛物語、ここに開幕。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)
氷狼陛下のお茶会と溺愛は比例しない!フェンリル様と会話できるようになったらオプションがついてました!
屋月 トム伽
恋愛
ディティーリア国の末王女のフィリ―ネは、社交なども出させてもらえず、王宮の離れで軟禁同様にひっそりと育っていた。そして、18歳になると大国フェンヴィルム国の陛下に嫁ぐことになった。
どこにいても変わらない。それどころかやっと外に出られるのだと思い、フェンヴィルム国の陛下フェリクスのもとへと行くと、彼はフィリ―ネを「よく来てくれた」と迎え入れてくれた。
そんなフィリ―ネに、フェリクスは毎日一緒にお茶をして欲しいと頼んでくる。
そんなある日フェリクスの幻獣フェンリルに出会う。話相手のいないフィリ―ネはフェンリルと話がしたくて「心を通わせたい」とフェンリルに願う。
望んだとおりフェンリルと言葉が通じるようになったが、フェンリルの幻獣士フェリクスにまで異変が起きてしまい……お互いの心の声が聞こえるようになってしまった。
心の声が聞こえるのは、フェンリル様だけで十分なのですが!
※あらすじは時々書き直します!
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる