8 / 30
◇8
しおりを挟む
よ~やくコルセットから解放されて、旦那様の待つ食堂へ。これならご飯をちゃんと食べれるぞー美味しいご飯だ~!
「来たか」
旦那様も着替えていたようで、式とは違った落ち着いたダークブルーの紳士服になっていた。やばい、眼福。イケメンは何着ても最高ね。
そして並べられた料理は十分に光っていた。あぁ、これはご褒美ね! 頑張った、今日の私は頑張った!
「ん」
「はい、どうぞ」
……旦那様ってよく食べるのね。まぁ、背が高いけどすらっとしてるし、筋肉質ではなさそうだし……まぁ、よく食べる人ってことよね。
「お前も遠慮なく食え。死にそうだっただろ」
「え?」
「食事抜きだなんてよく出来るな。体型のためにそこまでするなんて、我慢にも程があるだろ」
「……ありがとうございます」
うん、私もそう思う。最初聞かされた時には、え、まじ? って思ったもん。ここの料理は美味しいから余計よね。
なんて思いつつ、美味しいお肉を一口。うまっ。
ちらり、と目の前の旦那様を盗み見たけど……口大きいな。あれで一口ですか。めっちゃ食いっぷりいいですね。
「はぁぁぁぁぁ~~~~~……」
そんな私の声が浴室に響いた。いやぁ、あったかいお風呂って最高ね。
最初はお手伝いはいりません、って言ってたけど頑なに手伝うって言うもんだから洗うのだけ頼んで最後は下がってもらってる。今まで一人で入ってたからなぁ。それに誰かに見られるのは恥ずかしいし。
今日は本当に疲れた。
超絶イケメンの旦那様に、この国の重鎮達、そして国王陛下と王妃殿下にまで会ってしまいもうキャパオーバー寸前だ。ヤバすぎる。
ちなみにお父様達は超高級ホテルへご案内されてしまった。今頃魂抜けてるかも。レオは大興奮か。
はぁ、これから私どうなるんだろ。王妃殿下には何かあったら言ってちょうだいって言われちゃったし。まぁ、甥の嫁だしな、私。可愛いお嫁さんだのなんだのって褒められたけど、私そんなんじゃありませんって。ただの田舎娘です。なんかすみません、残念なやつが嫁で。
はぁ、あったかぁ……なんてやってたら、コンコンと入り口がノックされた。
「おーい、生きてるかー」
こ、この声は……旦那様じゃん!?
「あ、い、生きてます!」
「1時間も経ってるぞ。長風呂はやめとけよ」
「……すみません、出ます」
「行ってるからさっさと出ろ」
あーびっくりした。いきなりお風呂で旦那様の声聞くなんて……ドキドキなんだけど。
というか、1時間も入ってたんだ……気づかなかった。
でもさ、ここはメイドが確認しにくるところだよね。なんで旦那様が来たのかしら……?
ま、まぁとにかくお風呂から出よう。心配させちゃったから早く出なきゃ。
ようやく出たらメイドさんが待っていた。いるなら声かけてよ、と言いたいところではあったけど……そういえばこれから初夜だったということに気がついた。いや、ニコニコなんだけど。変なやつ着せたりとかしないよね。
ドキドキではあったけど、普通のパジャマが用意されていた。足元まであるワンピースではあるんだけど、胸元が紐なんだよなぁ……これ引っ張ったら脱げちゃう。いや、勘弁して。
「お、来たか」
「……お待たせしました」
ソファーで足組みをして、何かの書類を見ていた旦那様。忙しいのかな。お疲れ様です。
……それより、ホテルにありそうな白いバスローブを身にまとっているけれど……色気ヤバすぎ。何このイケメン。彫刻か? 彫刻だよな?
なんて思いつつも平常心で向かい側のソファーに座った。
「あの、この前はありがとうございました。ウチの支援をしてくださって、領民達も助かりました」
「あぁ、あれか。あれは執事が提案したんだ。俺は許可しただけだから、礼ならあいつに言ってやれ」
言いましたけど旦那様に言ってあげてくださいって言われたんだよなぁ。まぁ、一応言ったんだからいっか。
「大寒波だったりとで困ってたんです。でも結婚話が来てだいぶ助かりました」
「それも、国王陛下に言ってやれ。俺じゃない」
「……」
私、この人に何言ったらいいんだろ。会話が続かないんですけど。
「あ、婚約指輪ありがとうございました。数日間しか付けてなかったんですけど、嬉しかったです」
「そうか。選んだのは執事だけどな」
「……」
あの、執事さんに丸投げしてません? あ、まぁこの人視察行ってたらしいけどさ。その後急いで帰ってきたんでしょ? でもバックれる可能性があったわけだし。おお怖っ。
「ぷっ」
「っ!?」
いきなり吹き出した、旦那様。え、なになに。私何かおかしなことした?
「その間抜け顔、いいな」
「……」
ようやく書類から目を離してこっちを見たと思ったら、なんでこんなこと言われなきゃいけないのよ。なに、間抜け顔? そっちがそんなこと言うからじゃない。
「……お気に召したようで光栄です。でもあれ、宝石ですよね?」
「ブルートパーズ。ウチの鉱山で取れる宝石だ」
「……マジですか」
「もったいないとでも思ってるなら部屋のインテリアにでもしとけ」
「……はい」
宝石を、インテリアに……いいのか? そんな使い方して。宝石だぞ? 宝石。
「宝石箱でも買ってやろうか」
「……」
「お前本当にご令嬢か? そこは喜ぶところだろ」
「……」
私、結構馬鹿にされてない? ここ、怒るところだよね。でも相手は旦那様だし、流石にね……
しかも、結婚指輪だって宝石だ。婚約指輪と同じで水色だけど、これなんの宝石なんだろ。
「そっちはアクアマリン。上等のものを使ってやったんだから感謝してもらいたいくらいなんだけど?」
「……ありがとうございます」
「なんだよ、嬉しくないのか」
「扱い方がまるっきり分かりません」
「別に気にしなくていいだろ」
いや、気にするって。上等の宝石なんでしょこれ。こっちこそ外してインテリアにしたほうがいいって。
そう思いつつ左手の薬指に嵌められた指輪を眺めていたら……隣に旦那様が座っていたことに途中で気がついた。
そして、髪をひと束取って触りだした。
「マジで水色だな。ふわふわで触り心地最高」
「……水色が好きなんですか?」
「まぁな」
「……その、陛下の王命で決まった結婚、で合ってます……?」
私の方には提案で、大公閣下の方には王命だったんだよね。なんで?
「合ってる。最近縁談が流れるように入ってきてうんざりしててな。全部蹴り飛ばしたら陛下に聞かれたんだ。だったらどんなやつがいいんだ、ってな。だから、宝石やらドレスやらに無駄遣いして香水臭く猫撫で声を聞かせてくるようなご令嬢はごめんだと言ってやったんだ」
「……なるほど、それはキツイですね」
「だろ? で、余裕ぶっこいて視察に行ったら王命で結婚をこじつけられてな。しかも俺の好みのご令嬢ときたわけだ。流石にそんな理想のご令嬢なんていないだろって思ってたが、よく見つけたよな」
「……」
いや、知りませんって。まぁ、私デビュタント以外で社交界に顔すら出さなかったから、存在感すらなかったようなものだしなぁ。旦那様が知らないのも頷ける。
「……好み、ですか」
「水色の長髪で、アクアマリンみたいな瞳。そんでもって背がちょっと高めで可愛い系の女の子」
「……」
か、可愛い系、ですか……どこにそんな可愛い系の要素が?
「……今すっぴんですけど」
「化粧で化けたって言いたいのか? 安心しな、そんなこと思ってないから」
「あ、はい、そうですか……」
髪を触りつつも顔まで覗き出した旦那様。いや、恥ずかしいのですが。ほっぺた触らないで、お願いだから。このイケメンめ、なんてことしてくれるんだ。
まぁでも、バックれられなかったのだから、いっか。バックれられたら今まで支援してくれたやつの返還とか言われそうだし。あいつらに借金してきた額の何十倍よ。やばいって、一生かかっても返せないわ。
「……その、旦那様って商会の商会長なんですよね?」
「そう。王族御用達のこの国一の商会の取締役商会長だ」
「へぇ……」
「なんだよ、聞いておいてその興味なさは」
「いや、商会とかって嫌なイメージばかりなので」
「変なやつと一緒にするなよ。今度本店に連れてってやるから楽しみにしてろ」
「見ても私よく分かりませんよ?」
「一緒に行ってやる」
「お忙しいのでは?」
「嫁に時間をかけない旦那がどこにいるんだよ。そもそも、そんなに忙しくなるほど仕事を溜めるような馬鹿じゃない」
「……わーい、楽しみにしてますね」
「おい、もうちょっと楽しそうにしろよ。棒読みにも程があるだろ」
いや、なんか、私としては農作業用の工具とかしか興味ないし。でもオデール大公夫人が農作業用の工具を見てたら、周りの目はあんまりよくないし。
「……宝石と苗どっちがいいんだ」
「苗!」
「……はぁ、しょうがないな。そっちを用意してやるよ」
え~やった! 苗ってところが物足りなくはあるけれど、それでも土いじりをさせてくれるのであれば万々歳ね! うわ~嬉しい!
隣の誰かさんはジト目でこちらを見てくるけど無視無視! やばいめっちゃ嬉しい!
「……だいぶご機嫌だな」
「ありがとうございますっ!」
「はいはい、すぐ手配するから待ってろ」
やったぁ~! なぁんだ、旦那様優しい人じゃない! めっちゃ怖い人だと思ってたけどよかった!
「肥料は? シャベルはありますか?」
「はいはい、用意してやる」
「やったぁ!」
うわ~すっごく楽しみっ! ここに来てからそういう系を何もさせてもらえずうずうずしてたんだよね。けど許してもらえるなんて思いもしなかった! 嬉しい!
「はぁ、ウチの庭と温室も好きなように使え。だけど無理はするなよ。執事たちの言うことをちゃんと聞くこと、いいな?」
「はーい!」
「返事だけはご立派だな」
もう楽しみすぎてやばい。
それからと言うものの、なんだか話が盛り上がってしまった。
「――はぁ? なんだよそのクソ野郎は。そういう奴ほどあとで恥かくんだよ。道連れなんて勘弁だろ」
「でしょ? 貴族の真似して気取ってるんですよ? 気持ち悪すぎて背筋がぞわぞわしましたよ」
「なんだそれ気持ち悪っ。陛下めっちゃタイミング良すぎだな」
「助かりました、本当に」
「女殴るとかありえないだろ。マジで木っ端微塵にしてやる。で、借金いくらだ」
「……9,000万、です」
「なんだ、そんなもんか」
怖っ。二つの意味で怖っ。
まぁ、大富豪の大公殿下ならそうだろうけどさ。
「――え、何ですその運命の相手とか。ロマンスファンタジーの本読みすぎじゃないんですか?」
「そんなの俺に押し付けられても迷惑でしかない」
「うわぁ、お疲れ様です」
「同情はいらないけど、マジで助かった。お前いなかったらまた縁談持ち込まれるからな。あの猫撫で声でベタベタ触られたらたまったもんじゃない」
「ですね。お役に立てて光栄です」
「マジで感謝だわ」
けれど、私達は気がついた。
それは、外が明るくなっていた事だ。
「……朝ですね」
「朝だな」
あれ、私達何か忘れてない?
「……そういえば初夜だったな」
「もう終わってません?」
「やり直すか?」
「え、今からですか。別に私は、どっちでもいいです、けど……旦那様はどうです?」
「眠い」
「……寝ますか」
と言うことになってしまったのだった。初夜ってなんだっけ?
けど……いきなり旦那様は私にキスをしてきた。
びっ……
「これくらいはしとくか」
「……今更な気もしますけど」
「セーフセーフ」
……くりした。いきなりはやめてほしい。けど……
「ほら来い、テトラ」
「はい、エヴァン」
だいぶ仲は良くなった。まさか名前で呼んでいいと言われるとは思わなかった。ずっと旦那様って呼ぶのだと思ってたのに。
まぁでも、仲が深まってよかったよかった。楽しい結婚生活になりそうだ。
「来たか」
旦那様も着替えていたようで、式とは違った落ち着いたダークブルーの紳士服になっていた。やばい、眼福。イケメンは何着ても最高ね。
そして並べられた料理は十分に光っていた。あぁ、これはご褒美ね! 頑張った、今日の私は頑張った!
「ん」
「はい、どうぞ」
……旦那様ってよく食べるのね。まぁ、背が高いけどすらっとしてるし、筋肉質ではなさそうだし……まぁ、よく食べる人ってことよね。
「お前も遠慮なく食え。死にそうだっただろ」
「え?」
「食事抜きだなんてよく出来るな。体型のためにそこまでするなんて、我慢にも程があるだろ」
「……ありがとうございます」
うん、私もそう思う。最初聞かされた時には、え、まじ? って思ったもん。ここの料理は美味しいから余計よね。
なんて思いつつ、美味しいお肉を一口。うまっ。
ちらり、と目の前の旦那様を盗み見たけど……口大きいな。あれで一口ですか。めっちゃ食いっぷりいいですね。
「はぁぁぁぁぁ~~~~~……」
そんな私の声が浴室に響いた。いやぁ、あったかいお風呂って最高ね。
最初はお手伝いはいりません、って言ってたけど頑なに手伝うって言うもんだから洗うのだけ頼んで最後は下がってもらってる。今まで一人で入ってたからなぁ。それに誰かに見られるのは恥ずかしいし。
今日は本当に疲れた。
超絶イケメンの旦那様に、この国の重鎮達、そして国王陛下と王妃殿下にまで会ってしまいもうキャパオーバー寸前だ。ヤバすぎる。
ちなみにお父様達は超高級ホテルへご案内されてしまった。今頃魂抜けてるかも。レオは大興奮か。
はぁ、これから私どうなるんだろ。王妃殿下には何かあったら言ってちょうだいって言われちゃったし。まぁ、甥の嫁だしな、私。可愛いお嫁さんだのなんだのって褒められたけど、私そんなんじゃありませんって。ただの田舎娘です。なんかすみません、残念なやつが嫁で。
はぁ、あったかぁ……なんてやってたら、コンコンと入り口がノックされた。
「おーい、生きてるかー」
こ、この声は……旦那様じゃん!?
「あ、い、生きてます!」
「1時間も経ってるぞ。長風呂はやめとけよ」
「……すみません、出ます」
「行ってるからさっさと出ろ」
あーびっくりした。いきなりお風呂で旦那様の声聞くなんて……ドキドキなんだけど。
というか、1時間も入ってたんだ……気づかなかった。
でもさ、ここはメイドが確認しにくるところだよね。なんで旦那様が来たのかしら……?
ま、まぁとにかくお風呂から出よう。心配させちゃったから早く出なきゃ。
ようやく出たらメイドさんが待っていた。いるなら声かけてよ、と言いたいところではあったけど……そういえばこれから初夜だったということに気がついた。いや、ニコニコなんだけど。変なやつ着せたりとかしないよね。
ドキドキではあったけど、普通のパジャマが用意されていた。足元まであるワンピースではあるんだけど、胸元が紐なんだよなぁ……これ引っ張ったら脱げちゃう。いや、勘弁して。
「お、来たか」
「……お待たせしました」
ソファーで足組みをして、何かの書類を見ていた旦那様。忙しいのかな。お疲れ様です。
……それより、ホテルにありそうな白いバスローブを身にまとっているけれど……色気ヤバすぎ。何このイケメン。彫刻か? 彫刻だよな?
なんて思いつつも平常心で向かい側のソファーに座った。
「あの、この前はありがとうございました。ウチの支援をしてくださって、領民達も助かりました」
「あぁ、あれか。あれは執事が提案したんだ。俺は許可しただけだから、礼ならあいつに言ってやれ」
言いましたけど旦那様に言ってあげてくださいって言われたんだよなぁ。まぁ、一応言ったんだからいっか。
「大寒波だったりとで困ってたんです。でも結婚話が来てだいぶ助かりました」
「それも、国王陛下に言ってやれ。俺じゃない」
「……」
私、この人に何言ったらいいんだろ。会話が続かないんですけど。
「あ、婚約指輪ありがとうございました。数日間しか付けてなかったんですけど、嬉しかったです」
「そうか。選んだのは執事だけどな」
「……」
あの、執事さんに丸投げしてません? あ、まぁこの人視察行ってたらしいけどさ。その後急いで帰ってきたんでしょ? でもバックれる可能性があったわけだし。おお怖っ。
「ぷっ」
「っ!?」
いきなり吹き出した、旦那様。え、なになに。私何かおかしなことした?
「その間抜け顔、いいな」
「……」
ようやく書類から目を離してこっちを見たと思ったら、なんでこんなこと言われなきゃいけないのよ。なに、間抜け顔? そっちがそんなこと言うからじゃない。
「……お気に召したようで光栄です。でもあれ、宝石ですよね?」
「ブルートパーズ。ウチの鉱山で取れる宝石だ」
「……マジですか」
「もったいないとでも思ってるなら部屋のインテリアにでもしとけ」
「……はい」
宝石を、インテリアに……いいのか? そんな使い方して。宝石だぞ? 宝石。
「宝石箱でも買ってやろうか」
「……」
「お前本当にご令嬢か? そこは喜ぶところだろ」
「……」
私、結構馬鹿にされてない? ここ、怒るところだよね。でも相手は旦那様だし、流石にね……
しかも、結婚指輪だって宝石だ。婚約指輪と同じで水色だけど、これなんの宝石なんだろ。
「そっちはアクアマリン。上等のものを使ってやったんだから感謝してもらいたいくらいなんだけど?」
「……ありがとうございます」
「なんだよ、嬉しくないのか」
「扱い方がまるっきり分かりません」
「別に気にしなくていいだろ」
いや、気にするって。上等の宝石なんでしょこれ。こっちこそ外してインテリアにしたほうがいいって。
そう思いつつ左手の薬指に嵌められた指輪を眺めていたら……隣に旦那様が座っていたことに途中で気がついた。
そして、髪をひと束取って触りだした。
「マジで水色だな。ふわふわで触り心地最高」
「……水色が好きなんですか?」
「まぁな」
「……その、陛下の王命で決まった結婚、で合ってます……?」
私の方には提案で、大公閣下の方には王命だったんだよね。なんで?
「合ってる。最近縁談が流れるように入ってきてうんざりしててな。全部蹴り飛ばしたら陛下に聞かれたんだ。だったらどんなやつがいいんだ、ってな。だから、宝石やらドレスやらに無駄遣いして香水臭く猫撫で声を聞かせてくるようなご令嬢はごめんだと言ってやったんだ」
「……なるほど、それはキツイですね」
「だろ? で、余裕ぶっこいて視察に行ったら王命で結婚をこじつけられてな。しかも俺の好みのご令嬢ときたわけだ。流石にそんな理想のご令嬢なんていないだろって思ってたが、よく見つけたよな」
「……」
いや、知りませんって。まぁ、私デビュタント以外で社交界に顔すら出さなかったから、存在感すらなかったようなものだしなぁ。旦那様が知らないのも頷ける。
「……好み、ですか」
「水色の長髪で、アクアマリンみたいな瞳。そんでもって背がちょっと高めで可愛い系の女の子」
「……」
か、可愛い系、ですか……どこにそんな可愛い系の要素が?
「……今すっぴんですけど」
「化粧で化けたって言いたいのか? 安心しな、そんなこと思ってないから」
「あ、はい、そうですか……」
髪を触りつつも顔まで覗き出した旦那様。いや、恥ずかしいのですが。ほっぺた触らないで、お願いだから。このイケメンめ、なんてことしてくれるんだ。
まぁでも、バックれられなかったのだから、いっか。バックれられたら今まで支援してくれたやつの返還とか言われそうだし。あいつらに借金してきた額の何十倍よ。やばいって、一生かかっても返せないわ。
「……その、旦那様って商会の商会長なんですよね?」
「そう。王族御用達のこの国一の商会の取締役商会長だ」
「へぇ……」
「なんだよ、聞いておいてその興味なさは」
「いや、商会とかって嫌なイメージばかりなので」
「変なやつと一緒にするなよ。今度本店に連れてってやるから楽しみにしてろ」
「見ても私よく分かりませんよ?」
「一緒に行ってやる」
「お忙しいのでは?」
「嫁に時間をかけない旦那がどこにいるんだよ。そもそも、そんなに忙しくなるほど仕事を溜めるような馬鹿じゃない」
「……わーい、楽しみにしてますね」
「おい、もうちょっと楽しそうにしろよ。棒読みにも程があるだろ」
いや、なんか、私としては農作業用の工具とかしか興味ないし。でもオデール大公夫人が農作業用の工具を見てたら、周りの目はあんまりよくないし。
「……宝石と苗どっちがいいんだ」
「苗!」
「……はぁ、しょうがないな。そっちを用意してやるよ」
え~やった! 苗ってところが物足りなくはあるけれど、それでも土いじりをさせてくれるのであれば万々歳ね! うわ~嬉しい!
隣の誰かさんはジト目でこちらを見てくるけど無視無視! やばいめっちゃ嬉しい!
「……だいぶご機嫌だな」
「ありがとうございますっ!」
「はいはい、すぐ手配するから待ってろ」
やったぁ~! なぁんだ、旦那様優しい人じゃない! めっちゃ怖い人だと思ってたけどよかった!
「肥料は? シャベルはありますか?」
「はいはい、用意してやる」
「やったぁ!」
うわ~すっごく楽しみっ! ここに来てからそういう系を何もさせてもらえずうずうずしてたんだよね。けど許してもらえるなんて思いもしなかった! 嬉しい!
「はぁ、ウチの庭と温室も好きなように使え。だけど無理はするなよ。執事たちの言うことをちゃんと聞くこと、いいな?」
「はーい!」
「返事だけはご立派だな」
もう楽しみすぎてやばい。
それからと言うものの、なんだか話が盛り上がってしまった。
「――はぁ? なんだよそのクソ野郎は。そういう奴ほどあとで恥かくんだよ。道連れなんて勘弁だろ」
「でしょ? 貴族の真似して気取ってるんですよ? 気持ち悪すぎて背筋がぞわぞわしましたよ」
「なんだそれ気持ち悪っ。陛下めっちゃタイミング良すぎだな」
「助かりました、本当に」
「女殴るとかありえないだろ。マジで木っ端微塵にしてやる。で、借金いくらだ」
「……9,000万、です」
「なんだ、そんなもんか」
怖っ。二つの意味で怖っ。
まぁ、大富豪の大公殿下ならそうだろうけどさ。
「――え、何ですその運命の相手とか。ロマンスファンタジーの本読みすぎじゃないんですか?」
「そんなの俺に押し付けられても迷惑でしかない」
「うわぁ、お疲れ様です」
「同情はいらないけど、マジで助かった。お前いなかったらまた縁談持ち込まれるからな。あの猫撫で声でベタベタ触られたらたまったもんじゃない」
「ですね。お役に立てて光栄です」
「マジで感謝だわ」
けれど、私達は気がついた。
それは、外が明るくなっていた事だ。
「……朝ですね」
「朝だな」
あれ、私達何か忘れてない?
「……そういえば初夜だったな」
「もう終わってません?」
「やり直すか?」
「え、今からですか。別に私は、どっちでもいいです、けど……旦那様はどうです?」
「眠い」
「……寝ますか」
と言うことになってしまったのだった。初夜ってなんだっけ?
けど……いきなり旦那様は私にキスをしてきた。
びっ……
「これくらいはしとくか」
「……今更な気もしますけど」
「セーフセーフ」
……くりした。いきなりはやめてほしい。けど……
「ほら来い、テトラ」
「はい、エヴァン」
だいぶ仲は良くなった。まさか名前で呼んでいいと言われるとは思わなかった。ずっと旦那様って呼ぶのだと思ってたのに。
まぁでも、仲が深まってよかったよかった。楽しい結婚生活になりそうだ。
981
あなたにおすすめの小説
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。
楠ノ木雫
恋愛
若くして亡くなった日本人の主人公は、とある島の王女李・翠蘭《リ・スイラン》として転生した。第二の人生ではちゃんと結婚し、おばあちゃんになるまで生きる事を目標にしたが、父である国王陛下が縁談話が来ては娘に相応しくないと断り続け、気が付けば19歳まで独身となってしまった。
婚期を逃がしてしまう事を恐れた主人公は、他国から来ていた縁談話を成立させ嫁ぐ事に成功した。島のしきたりにより、初対面は結婚式となっているはずが、何故か以前おにぎりをあげた使節団の護衛が新郎として待ち受けていた!?
そして、嫁ぐ先の料理はあまりにも口に合わず、新郎の恋人まで現れる始末。
主人公は、嫁ぎ先で平和で充実した結婚生活を手に入れる事を決意する。
※他のサイトにも投稿しています。
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
モンスターを癒やす森暮らしの薬師姫、騎士と出会う
甘塩ます☆
恋愛
冷たい地下牢で育った少女リラは、自身の出自を知らぬまま、ある日訪れた混乱に乗じて森へと逃げ出す。そこで彼女は、凶暴な瘴気に覆われた狼と出会うが、触れるだけでその瘴気を浄化する不思議な力があることに気づく。リラは狼を癒し、共に森で暮らすうち、他のモンスターたちとも心を通わせ、彼らの怪我や病を癒していく。モンスターたちは感謝の印に、彼女の知らない貴重な品々や硬貨を贈るのだった。
そんなある日、森に薬草採取に訪れた騎士アルベールと遭遇する。彼は、最近異常なほど穏やかな森のモンスターたちに違和感を覚えていた。世間知らずのリラは、自分を捕らえに来たのかと怯えるが、アルベールの差し出す「食料」と「服」に警戒を解き、彼を「飯をくれる仲間」と認識する。リラが彼に見せた、モンスターから贈られた膨大な量の希少な品々に、アルベールは度肝を抜かれる。リラの無垢さと、秘められた能力に気づき始めたアルベールは……
陰謀渦巻く世界で二人の運命はどうなるのか
王女なのに虐げられて育った私が、隣国の俺様皇帝の番ですか?-または龍神皇帝の溺愛日記-
下菊みこと
恋愛
メランコーリッシュ・パラディースは小国パラディース王国の王の子。母は側妃ですらないただの踊り子。誰にも望まれず誕生したメランコーリッシュは祝福の名(ミドルネーム)すら与えられず塔に幽閉され、誰にも愛されず塔の侍女長に虐げられる日々を過ごした。そんなある日、突然大国アトランティデの皇帝ディニタ・ドラーゴ・アトランティデがメランコーリッシュを運命の番だと名指しし、未来の皇后として半ば強引にアトランティデに連れ帰る。ディニタは亜人で、先祖返り。龍神としての覚醒をもって運命の番を初めて認識して、思わず順序も考えず連れ帰ってしまったのだ。これはそんな二人が本当の番になるまでのお話。
小説家になろう様でも投稿しています。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる