イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫

文字の大きさ
21 / 23

◇20

しおりを挟む

 湊さんが見せてきた写真。真紀ちゃんの隣にいる男性は……湊さんだろうか。うん、湊さん、だと、思う。真紀ちゃんを見るに、きっと彼女が中学の時の写真だろう。湊さん、金髪でピアスバチバチだな。


「真紀と似てないって? 俺は父親似でアイツは母親似だからな。だけど、何回か会った事あるぞ。お前らで映画見に行くからって車で送迎までしてやったのに、忘れるなんて薄情なやつだな」


 待て待て待て、まずは脳内の古い記憶を呼び起こせ。真紀ちゃんとは中学に入学した頃からの同級生の友達だった。高校を卒業してから自然と会わなくなってしまったけれど……


「……ピアス、バチバチですね」

「そうだな。模範的な学生でもなかったし」

「……なるほど」


 そういえば、湊さんの耳にピアス穴いくつも開いてるなと思った時があった。そういう事か。

 そんな人が、エリート警視になったと。だいぶ驚きである。


「お見合いの時にお前だって分かったのは、知っていたからだ。それにお前は友達思いだという事も、どの大学に行ったのかも真紀の話で知っていたしな。本物のお見合い相手も同じ大学に通っていると気づいていたから、友達なんじゃないかと予測しただけだ」

「さすが、エリート警視ですね」

「そろそろそれやめろ」

「……はい」


 エリート警視な事が嫌なのか。凄い事なんだと思うけれど。

 どうして私だと見破ったのか気にはなっていたけれど、そういう事だったのか。じゃあ、すき焼きでねぎが好きだったことも、真紀ちゃんの家ですき焼きを食べさせてもらった時に知ったのか。


「中学の頃から知っていたが……お前、変わったな」

「え?」

「綺麗になった」

「……」


 今、また爆弾発言が投下された?


「垢抜けた? とにかく、驚いた。子供だったくせに、ちゃんとした女性になっていたから。だから、あそこで終わりにしたくなかった」


 だから、あの提案をしたという事か。あの時は、この歳で金欠の女性に同情したと言っていたような気がするけれど、それは建前だったという事?

 まぁ、あの頃も貧乏だったから、今でも貧乏なんじゃないかと予測は出来た。だから、あんな金額を出してきた。……というか、エリート警視って年収どれくらいなんだろう。結構稼いでるだろうね。あんな金額出してくるのだから。


「ったく、やってくれたな。おかげで引き留めたくて苦労したんだぞ」

「……」

「それなのに俺の事は忘れてるわ電話にも出ないわで腹が立ったんだからな。どうしてくれるんだ」

「……私のせい、ですか」

「決まってるだろ。責任取れ」


 これは、言いがかりでは? そう思っていたら、また頬を親指で撫でてくる。驚いて顔が硬直したけれど……向けてくる表情に、視線が釘付けになってしまった。優しい表情で、微笑んでくる。


「本物に、なってくれるか」

「……貧乏、ですけど」

「国家公務員の給料舐めんな」


 ……でしょうね。

 これは、告白されているという事で合っているだろうか。けれど、もしそうだったとしたら……と、期待してしまっている。嬉しく、思ってしまってる。

 さっき、ストーカーに遭い110番ではなく彼に電話をしてしまった。ずっと電話に出なかったくせに、だ。今考えてみると……あんなに恐怖を感じていたのに、彼に会えて、顔を見て安心してしまった。忙しい人だと分かっているのに、呼びつけてしまったのに。

 それに、さっきだってナイフを向けられていたのに何事もなかったかのように取り押さえてしまった。こんなにカッコいい警察官なんて、他にいるだろうか。


「……強い警察官って、かっこいいですね」

「何だよ、急に。それって、俺の事を言ってるのか」

「……私、他によく知ってる警察官いません」

「そうか。最上級の誉め言葉だな」


 私の前髪を避けられ、額に柔らかいものが触れる。こんな事をされるのは初めてで、どんな表情をするのが正解か分からず、頬を火照らせてしまう。


「今度は唇にしていいか」

「……」


 一体どう答えていいのか分からない。とにかく、恥ずかしい。


「瑠奈の事が好きなんだ」


 その言葉は、私の中で大きく響いた。

 瑠奈の事が好きなんだ。

 改めてそう言われてしまうと、余計恥ずかしくなり視線を横に向けてしまう。心臓が、彼に聞こえてしまうくらいに煩い。こんなにバクバク脈打つ心臓は、先ほど恐怖を感じていた時にもあったけれど、それとは全く違う。


「あっ……えぇと……終わりっ!!」


 この恥ずかしさに耐えられなくなり、彼の両肩を掴み押しのけた。初めての事で、もう何が何だか分からない。

 そんな私の行動に、クスクス笑う彼を睨みつけたけれど……ただ楽しそうな彼は怖くもないと言っているように見える。そして、ようやく運転席に戻ってくれた。

 パックルから手を離してくれたから、シートベルトを外して逃げられるのだが……不覚にも帰る気になれなかった。


「少しは考えてくれたか?」

「……」

「その顔なら、期待してもよさそうだな」


 今の私の顔は、だいぶ火照ってしまっていた。隠すように顔で覆うけれど、耳まで熱くなっているから、きっと真っ赤になっている。

 こんな事になるなんて、誰が予測出来ただろうか。そもそも、最初から私の事を知っていた事すら気付かなかった。


「じゃあ、次に会う時聞いてもいいか」

「う……」

「約束」


 と、頭を撫でてきた。何度もつないだことのある、大きくて温かい手だ。

 心臓が、煩い。

 じゃあ、おやすみなさい。と逃げるように助手席から出た。おやすみ、と彼の声が聞こえたけれど……そのせいでまた胸が高鳴ってしまった。

 次に会う時。

 その時までに、考えないといけない。

 いや、考えなくても分かる。薄々は気付いていたけれど、それを言葉にしてしまうと彼に迷惑がかかるからと、蓋をしていた。

 けれど、言えるだろうか。

 心の弱っちい私の、この口で……何度も助けてくれたヒーローに、伝えられるだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

死神公爵と契約結婚…と見せかけてバリバリの大本命婚を成し遂げます!

daru
恋愛
 侯爵令嬢である私、フローラ・アルヴィエは、どうやら親友アリスの婚約者であるマーセル王子殿下に好意を持たれているらしい。  困りましたわ。殿下にこれっぽっちも興味は無いし、アリスと仲違いをしたくもない。  かくなる上は…、 「殿下の天敵、死神公爵様と結婚をしてみせますわ!」 本編は中編です。

ある日、憧れブランドの社長が溺愛求婚してきました

蓮恭
恋愛
 恋人に裏切られ、傷心のヒロイン杏子は勤め先の美容室を去り、人気の老舗美容室に転職する。  そこで真面目に培ってきた技術を買われ、憧れのヘアケアブランドの社長である統一郎の自宅を訪問して施術をする事に……。  しかも統一郎からどうしてもと頼まれたのは、その後の杏子の人生を大きく変えてしまうような事で……⁉︎  杏子は過去の臆病な自分と決別し、統一郎との新しい一歩を踏み出せるのか?   【サクサク読める現代物溺愛系恋愛ストーリーです】

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」  出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。  冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?  

彼氏がヤンデレてることに気付いたのでデッドエンド回避します

恋愛
ヤンデレ乙女ゲー主人公に転生した女の子が好かれたいやら殺されたくないやらでわたわたする話。基本ほのぼのしてます。食べてばっかり。 なろうに別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたものなので今と芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただけると嬉しいです。 一部加筆修正しています。 2025/9/9完結しました。ありがとうございました。

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

Princess story 〜御曹司とは付き合いません〜

鳴宮鶉子
恋愛
Princess story 〜御曹司とは付き合いません〜

処理中です...