厄災の姫と魔銃使い:リメイク

星華 彩二魔

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第四部 二章 「潜む蛇」

「魔銃使いの頼み」

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 クロトの正論は、次に炎蛇を黙らせる。
 確かな返答にニーズヘッグは刹那頭の中が真っ白になり、直後殺気を飛ばす。
 それはクロトを八つ裂きにしようとすら思えるほど。……にも関わらず、その殺気を受けてなお、クロトは目をそらさず真っ直ぐに向き合っていた。
 炎蛇の怒りに触れたことなど承知で。逃げもせず、それどころか挑み続けるという眼差しが……ニーズヘッグにとっては不快でならなかった。





 ――互いに火花を散らす最中。水を差す声が、暗闇の世界で響く。

「こんな所にいたっ。お似合いだけど、戻らないなら一言いってくれないかしら?」

 馬小屋の扉を開け、干し草に身を置いていたクロトを見下ろすのはネアだ。
 先ほどの大声で馬たちを騒がせてしまったのが、見つかる原因となったのだろう。
 ネアはまだ落ち着きのない馬を撫で落ち着かせる。

「あと、人様にも迷惑かけないっ。明日になって此処の人たちが困ったらどうするわけ?」

 運搬などで活用している馬に異変があれば、完全にこちらのせいになる。ネアはその事を言っているのだが、クロトにはどうでもよいことだ。

「……ネアか。なんの用だよ?」

「は? 何も言わずに全く来ないから見に来てあげたんでしょうが? むしろ感謝しなさいよクズっ」

 哀れと蔑む目が向けられる。
 不快だがいつものネアなら話しやすくもある。
 ニーズヘッグと言い合ったせいか酷く疲れたものだ。

「どうでもいい……。俺はとりあえず此処で一晩過ごす」

「……なんか理由でもあるわけ?」

「べつに」

「あっそ。アンタが戻ってこないからエリーちゃんが心配してんのよ? せっかくまともな場所で休息できるんだから、余計な手間とらせないでよ」

「はっ。マジでどうでもいい……」

 思わず乾いた笑いが出てしまう。
 そこはクロトらしくもあり、ネアも「アンタならそうよね」と納得。
 しかし、ネアはこの状況をどうしても納得できずにいた。

「……とりあえず、アンタ今隠し事してるでしょ?」

「……」

 クロトは笑みを消す。
 同時にそれが図星であると知らせてしまう。
 ……いや、それよりもネアの目にはとっくにお見通しだったのだろう。
 
「あれほどエリーちゃんを私に預けたくないって言ってたアンタが、無条件で自分から距離をとってるんですもんね。それとも完全に私に預ける気になったのかしら? それは懸命な判断だこと」

 嫌みのように嘲笑するネアが鬱陶しい。
 それなのに、その不愉快さを悪態としてぶつけることができない。
 むしろ――

「……そう、かもな」

 などと、クロトは小さく反応してしまう。
 聞き取れてしまったクロトの意外な発言に、ネアは笑みを凍らせて汗すら滲ませた。
 
「な、なに……? 今更、なによ……っ」

 これはおかしい。おかしいとネアはクロトを見る。
 小言だろうが、クロトがそんな言葉を発するなど予想だにしなかった。
 そんな言葉をこの状況で言うはずなどない。そうネアは、今までのクロトとの関係で決めつけていた。
 
 ――そう決めつけていたのはネアだけではない。

『……は? なに……言い出してんだよ、お前』

 ニーズヘッグですら困惑し、なにかの間違いではと表情をひきつらせる。
 クロトは自身の中で、炎蛇が動揺していることが感じ取れた。
 ――ああ、やっぱりそうされるのが迷惑なのか……。
 今炎蛇に抗える手段。それはけしてこの悪魔を外に出さない事と――

「なあ、ネア。一つ……頼みたいことがある」

 この状況で更にクロトからの頼みなど、ネアにとってはゴクリと息を呑むものだ。
 苦虫を噛みしめる様にし、数秒間を開けてからクロトは頼み事を口にした。


「――俺は此処でおりる。あのクソガキはお前らでなんとかしろ」

 ……。
 ネアを含め、ニーズヘッグすらも絶句した。
 クロトは自ら、この旅を離脱すると宣言をしたのだ。
 
「ちょっと……、ちょっとちょっと! いきなりなんなのよ! アンタ、本当にそれでいいわけ!? アンタとエリーちゃんの関係とか、ちゃんと知ってんのよ? 自分から自滅したくないから手元にあの子を連れてたんじゃないの!? 今更そんなこと言わないでよ!」

 クロトの呪いは解けていない。今でもその命はエリーと繋がっている。
 自身の知らぬ所で終わる事がないよう、クロトはなるべくエリーを近くに置き行動を共にしてきた。
 道具でしかなく。されど自分の命も同然。複雑と、妙な好意も抱かれる事から、幾たびも嫌悪し続けた。
 魔女の与えた役目など捨てたいと、どれだけ思ったことか。
 誰も信じたくない。最初っから期待をしないでいれば、後悔など何もない。
 ネアにもイロハにも……、本当は自分の命を預けたくない。
 それなのに、何故この選択を選んだのか……。
 これは悪足掻きだ。内に潜む悪魔で死を迎えるくらいなら……、少しでもマシな道を選ぶだけである。
 フレズベルグやイロハに指示されたからではない。自分の意思で決めただけだ。
 それに反論したネアは、その目でクロトを見て察した。
 クロトが、それだけまずい状況下でいることを。
 
「……っ。正直、アンタの様子がおかしいって思ってた。アンタがそう言うんだもの。それなりの理由で、それも聞くなって言うんでしょ?」

「ムカつくが、お前のそういう察しの良さには今回は感謝すべきだな」

「これでもお姉さんは気配り最高なもんだから。……本当に私に任せていいのね? 一時的じゃない。アンタはエリーちゃんから離れて一人であの魔女を追うって。それでいいのよね?」

 おおよその把握ができれば、ネアにできるのは協力のみだ。
 クロトが嫌いでも、ネアにはエリーのためにクロトに協力する義務がある。

「何度も言わせんな」

「私も完璧じゃない。最悪な事だってある。いい例がヴァイスレットでの魔王の件。それであの子になにかあっても、できれば恨まないでね? そうならないために、アンタには嫌でもあの子と一緒にいて欲しいのだけど」

「……そもそも、俺はあのクソガキが嫌いだ。お前らも。一人でいる方がせいせいする」

「はあ……、そう。最後に一つだけいいかしら?」

「なんだよ?」


「――それは、自分のため?」


 ネアの質問に、クロトは間を開けてから頷く。
 当たり前だ。そう訴えている気もした。
 クロトのこの決断に、他者への思いやりなどない。そう伝えたかったのだろう。
 その答えをネアは「うん」と頷き、それでこの話は終わりとなった。

「とりあえず、了承したわ。珍しいアンタの頼みだもんね。私としてはエリーちゃん独占できて嬉しいけど」

「お前ならそう言うと思ってた。そういうわけだから、俺は夜が明けたら一人で――」

 夜明けには別行動。そう言いたかったクロトの首根っこが突然掴まれる。
 ネアはクロトをずるずると引きずり、馬小屋から退出した。

「おまっ!? 話聞いてなかったのかよ!?」

「聞いてたわよ? でもせめて、エリーちゃんに一言伝えてからそうしてちょうだい」

「はあ!!?」

「なんでもかんでも私に押しつけないで。ここまであの子を付き合わせたのはアンタでしょ? 責任とんなさい」

「……っ、ふざけ――」

「ちなみに。それすらできないならこの話は無しよ?」

「くそが……っ」







 引きずられながら、遠くなる馬小屋の景色。
 日が暮れる鮮やかな景色が、ふと暗闇にへと変化し炎蛇を映し出す。
 自分の喉元には刃と化した羽衣が突きつけられていた。
 遠くで炎蛇が酷く睨むに対し、クロトは鼻で笑い睨み返す。

『……どういうつもりだっ。お前自分から死ぬつもりなのか!? フレズベルグの言いなりになって、あのガキの脅しに乗るってのかよ!? 見損なったぞクロト!』

 それは酷い誤解だ。
 そして、目の前の悪魔に言われたくもない。

「お前がクソガキを狙うんなら、これが一番効果的だからな。お前が俺の事をよく知ってるなら、わかるだろうが? ――お前みたいなのにそういう反応をさせたいんだよっ」

『この……っ、人間風情が』

「その人間風情にお前は望みを阻まれるんだよ。……滑稽だな、大悪魔」

*******************

『やくまが 次回予告』

 ――全てはこの時から始まった。

 炎の蛇は一人の人間との出会いから、己の道に迷いを作り出す。
 関わらないと決めたにもかかわらず、蛇はその人間にへと引かれてしまう。
 複雑はあった。違和感もあった。
 無駄に澄みきったその人間は誰にも染められず、犯すことも穢すことも不可能。
 蛇と人間は共に時を過ごし続け……、後悔を知る。

 ――お前に会わなければ、よかった……。

 澄んだ花は色をつけてしまった。
 恐れを知らない花はそれに気付いた時……ただ自分の愚かさを呪う。
 
 これは、今に至るまでの物語。
 蛇が己自身すら裏切った、――一つの悲劇。
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