厄災の姫と魔銃使い:リメイク

星華 彩二魔

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第五部 一章 「鬼の居る間」

「赤い角」

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「――きゃあぁああ!!」

 岩が直撃する寸前、やっと気づいたエリーは身を守るよう屈める。 
 しかし、それは防御の姿勢であり岩相手に意味がない。
 クロトはエリーを掴むと崖に向かって飛ぶ。身を虚空に放り出したと同時に、周辺を揺るがす地響きと衝撃音がこだました。
 それが、しんと静まると、クロトは胸をなでおろす気分で息を吐く。

「お前あれでなんとかなると思ってたのか!? 死ぬ気かクソガキ!!」

「ご、ごめんなさいぃっ。どうしていいかわからなくて……」

 そこは逃げる事を優先に考えるべきだった。
 しかし、エリーの反射神経では回避など不可能。逆に余計な動きをしなかったためすぐに連れて逃げる事ができた。
 その辺をふまえて、クロトはそれ以上キツくあたる事はしなかった。
 丁度よい足場が崖にあったのは救いだ。高場を目指しているのに、真下まで落下しなくて済む。
 エリーを抱えつつ、クロトは淡々と跳躍して元の場所を確認。道を塞ぐように岩が置かれてしまっていた。
 だが、妙な出来事だ。
 この岩は空から降ってきた。自然的とはとても思えない。
 人為的か魔物の仕業か、……はたまた――

「……まさかアイツら、直で俺を殺しにきたか?」

 この件をイロハたちの仕業ではと考える。
 なんせ岩は空から降ってきたのだから。 
 それに対し、ニーズヘッグは否定を即座に口にする。

『さすがのフレズベルグでもこんな手は使わねーってっ。しかもアレ姫君狙ってなかったか!?』

 クロトに目掛けてというよりは、エリーを中心にあった。
 では偶然何かしらの騒動でも重なったのか……。
 それでもクロトは納得いかない。
 人の数倍の高さと幅。岩の大きさからだけでも重量はそれなりにある。男手でも十人あってなんとか動くといったもの。とても高く放り投げるのは不可能だ。近くに投擲する道具があるのではとも考えた。しかし、それもあり得ない。
 一般的な投擲兵器の許容容量をこの岩は超えている。
 
「ど、どうしましょう……クロトさん」

「……」

 道は塞がれた魔銃で砕く事は可能だが時間がかかる。地道な作業など性に合っておらず、この岩を乗り越えた方が早いとすら思えた。
 
 その時だ。……何者かがこちらに近づく気配を感じたのは。

 それから放たれた第一声は――

「――大丈夫ですか!?」

 と、こちらの安否を確認するものだった。






 声に向かって、二人は一緒になって顔を向ける。
 下へ続く崖とは反対側。更に上にへとそびえる崖の上を見上げる。
 その声の主を目に、二人は言葉を失ってしまい……。
 急な崖など慣れた様子で弾むように、目の前までそれは降り立ってきた。
 気になっていた岩などすっかり忘れるほど。目の前の存在に二人の思考は奪われてしまう。
 現れたのは、エリーよりわずかに年上そうなだ。
 それだけならとも思えるが、それだけに留まっていないため頭の中を混乱させられる。
 少年の見た目は変わっていた。
 見慣れない青い衣を身に纏い、一番に目を引くのは少年の頭部。
 少年の頭部には目を覆い隠す面と、二本の赤い角が飾られている。
 本物か、飾りか。後者が正しいだろう。
 そんな呆気にとられた二人の様子を伺いつつ、しだいに少年はあわあわと困惑しだす。
 
「だ、大丈夫ですか? すみません。まさか人がこのような場所を通っているとは思っておらず……」

 口ぶりからして、この巨大な岩と関係がありそうだ。
 何かしらの手段でこの岩を上から落とし、エリーの悲鳴で気づいた……という流れだろう。
 再び、クロトは納得のいかなさと、その初対面な謎の人物に嫌悪の眼差しを向ける。

「……なんだお前? あと少しでこのクソガキが潰れるところだったぞ、潰れたらどうしてくれる?」

「ほ、本当に申し訳ありません! 周辺には注意していたつもりだったのですが、自分の不甲斐なさで人様に迷惑をかけてしまうなど……っ」

 少年は、その見た目の歳に似合わず、せっせと頭を深く下げ土下座した。
 その潔さには逆に不信感が出てしまう。
 
「自分、旅をしているもので……。よろしければ雑用でもいたしますが……」

「いらねー」

「で、ですが……。そちらの殿にも迷惑をかけてしまいましたし……、最悪命すら……」

「――兄妹じゃねーよ!!」

 そこは強く否定しておくクロト。
 少年は面をかぶっていてもわかるほど、酷く驚く。

「そうなのですか!? この様な場所におられるので、浅い関係の方々ではないと思っていたのですが……。親族ですらないとは…………」

「お前には関係ない」

 クロトとエリーにも人には言えない事情というものがある。
 少年もそういった事を察しでもしたのか、それ以上踏み込むことはしない。
 そのまま地に正座し、うんと頷く。
 しかし、どうしたものか……。
 この事態に駆けつけてきたのはこの少年ただ一人ときた。
 他に協力者がいるはずなのだが、それらしき人物が命の危機に出てこないとは。
 「最低な人間ってやっぱいるもんだな」と、クロトが小声で呟く。
 それにすかさずニーズヘッグが『お前が言うな』と言ってくる。
 クロトも大概残忍であり、本人も当事者ならそうした事だろう。

「お前一人か? 他は?」

 急な問いに、少年は首を傾けながらクロトを見上げる。
 未だ正座して。

「他……? ああ、そうですね。確かに道にあった岩が邪魔となっており、助力をしたのですが、驚いて何処かへ行ってしまわれました」

「つまり、他は逃げたと?」

「逃げた……と、いうよりは、驚かれただけですよ。……仕方がないと言えば……仕方なかったとは思いますが」

 どうも協力者にも同じように逃げられた様子。
 性格が成すものか、クロトは誠意をもって前に出てきた少年に対し追い打ちの如く悪態を吐く。

「上で人助けしたみたいだが、そのおかげでこっちはえらい迷惑こうむったわけだ。ほー、そうか。そんで逃げられるとはお前も大変なもんだなぁ、あ~あ」

「ク、クロトさん……」

 エリーもこの対応には眉を八の字にして困ってしまう。
 ニーズヘッグも「うわぁ……」と、性格の悪さに頭を悩ませてしまう。
 両者強く止めることもできず、他に止める者も今は不在なため、その行いは止まる事はない。
 クロトの悪い所が露骨と表に出る。

「んで? お前がいろいろ責任とってくれると? 見た感じ異国の人間か、わざわざこんな所でご苦労だな~」

「……あ、はい。ありがとうございます」

「べつに褒めてもいねーよ……。まあ、お前にできるのはこの状況の落とし前をでやらなきゃいけねーって事だ。善人ぶって人助けしたわりにはこの様か。マジで哀れ、同情しといてやるよ」

 少年の頭をぽんぽんと叩き、クロトは苦笑していつもより多く語る。
 同情とは言うが、そんな気さらさらないだろう。
 クロトは善人を弄る事でストレスを発散しているというのか……。
 そんな事はいざ知らず、少年は困惑としながらその話を律儀に聞いているのだ。
 その精神力には恐れ入るところがある。エリーもニーズヘッグもそれにあてられてか、しばしこの場を不安ではあるが見守る。

「んで? 可哀そうなお前、この責任とるってマジ? マジなわけ??」

「……あの、すみません。まじ、とはどういう意味なのでしょうか?」

「本気と書いてマジって言うんだよ」

 途中。小言でイラついたのか、舌打ちをして「ド田舎野郎か……」と呟く。

「なるほど……。お望みなら、できる限りの責任は取らせていただきます。お連れの方に迷惑もかけましたので」

「あ……、そんな私はそこまで――」

「だよなぁ! お前も男だし言ったからには責任持てるよなぁ!」

 エリーの声を阻むように、クロトが強く割って入る。
 無理にでも責任を取らせる気だ。
 
「じゃあ、まあ……。とりあえず、――お前一人であの岩をなんとかしろ。それで勘弁してやる」

 たった一つ。しかし無理難題でしかない。
 少年は不思議な見た目はしているが、どこからどう見ても人間だ。
 小柄で華奢で……。常人より動ける事は先ほどの崖でもわかるが、さすがにその解決手段は無理がある。
 内容を把握してから、少年は岩をしばらく眺めて、クロトにへと向き直る。

「……でよろしいのですか?」

 ……ん?

 今、少し気になる発言を少年はした。
 男手十人はかかるほどの岩をどうにかする。それを少年は「それだけ」と言ったのだ。
 一瞬、聞き間違えかとも思えたが、クロトは要件が一つだったことに対して言ったのだと解釈する。
 それでも軽口を言った少年に、嫌悪感が沸いたのは事実だ。

「ああ、いいぞ。できるもんならな」

「……わかりました」

 了承し頷くと、少年はすぐに行動する。
 ようやく立ち上がると、逃げる事もなく岩に近づき、その小さな身で見上げた。
 
「クロトさん、怪我はなかったのでもういいのでは……?」

「黙ってろクソガキ。こちとらアイツらとの行動で鬱憤が溜まってるんだ。……さて、どうする? 場合によっては泣き言ぐらい聞いてやっても……」

『性格悪……っ』

 クロトは少年がどういった失態をするのかを今か今かと待っている。
 そういった期待があったのだろう。
 エリーも少年が困れば止めるつもりで見守る事に。
 ついに少年は最初の一手として右手で岩に触れ………………






 ひょい……っ。

 少年は片手で岩を軽々と持ち上げた。
 これまた異様な光景を目の当たりにした二人の頭にあるのは「!?」というものだけ。
 考える事も言葉を発する事などする間もなく、少年はその岩を更に下の崖にへと落とす。
 しっかり下に道や人などがいない事を確認してから、それはもうゴミを容易く捨てるかのように、ぽいっと投げた。
 少し間を開けてから、ドスン! とエリーの身が弾むほどの地響きがする。
 
「……本当に申し訳ありませんでした。これでよろしいでしょうか?」

 少年は、そうクロトに向き直って問いかける。
 呆気に取られた二人と悪魔一体。
 問われるもクロトは思考が停止してしまっており、ハッとしてから返答よりも崖の下を急いで確認。ニーズヘッグも同様。
 岩は真下の川に落ち、とうとう砕けた様を見せている。
 予想が裏切られた不快よりも真っ先に襲ったのは疑問だ。 
 岩の重量などの計算に狂いはないはず。それを自分よりも小さな少年が片手で軽々と持ち上げるなど……。
 あってたまるか。と、クロトは二の次だった不快感と一緒に少年を睨む。
 隣ではエリーが思わず拍手をしてしまう。

「す、すごいですね。重たくなかったんですか?」

「……? いえ、特に。自分はこういった力があるので、それで上でも同じようにどかしただけです」

 興味本位か、エリーは少年の手を確かめる。
 見た目によらず、意外に筋肉はしっかりしており、少し肌触りも固めな気もする。
 和やかに会話する二人。その間に敵意丸出しの銃口が向けられた。

「お前何者だ……っ? 半魔か、それとも実は魔族か……」

 さすがにこればかりは疑う。
 人が好い印象があるが、先ほどの様なでたらめなものを見せられればクロトも危険視する他ない。
 
「す、すみません。やはり怪しいですよね……」

「怪しい以外なんて言えばいいんだよっ。それとも異国の奴はそんな人外ばっかなのかよ!? 初耳だ!」

「……申し訳ありません」

「あとずっと思ってたが、そんなんで見えてるのかよ!?」

 ついに誰もが言いたかった事をクロトは口にしてしまう。
 少年の面は完全に視界を遮っている。何の違和感もなく、何食わぬ顔で少年はずっといたのだ。
 今でも顔をしっかり話し相手にすら向けている。

「……これは、その。習慣でして問題はありません。それより、できればその物騒な気配のするものをなんとかしていただけると助かります。そういったモノはあまり見かけた事がないので、対処に困ります」

 遠まわしに、少年は迷惑だと言いたかったのだろう。
 説教されている気にもなってしまい、クロトの短気が爆発すると発砲は同時だった。
 一直線に飛ぶ銃弾。避けねば直撃するコースに、少年は片足を上げ――直撃する直前で銃弾を蹴り、かき消す。
 
「…………ハァッ!?」

 驚くのにすら数秒かかった。
 狙いは確かだったのだが、少年の意外な行動にクロトは驚かされてばかりだ。
 少年は蹴り上げた足を上げたまま、しばし虚を突かれた様子で硬直。

「……と、飛び道具でしたか。それにしても、相当な威力でしたので、少し脚が痛みました」

「痛むだけで済むか!! クソガキ! お前もそんな得体の知れない奴からとっとと離れろ!!」

「ええ……っ。でもクロトさん、この人はそんな悪い人じゃないと思いますけど……」
 
『そうだぞ我が主。人外みてぇな奴だが子供相手にむきになるなって。さすがに低レベルの争いをお前が仕掛けてるだけにしか見えねーですって。とりま落ち着けってこと』

「うるさいクソ蛇! ……くそっ。確かに急展開に熱くなりすぎた」
 
 ネアがいれば今頃殴っていただろう。
 歯止めがない分混乱してしまった。
 
「……そ、それとですね、クロトさん。……あのぉ」

 エリーは申し訳なさそうにする。
 直後、少女からは空腹の音が小さく鳴った。
 続いてクロトも……。
 思えば二人はすぐに宿を出たため朝食などを取ってなどいない。
 クロトはこのイラつきを空腹のせいにし、いったんこの場は落ち着く事とした。
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