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第五部 一章 「鬼の居る間」
「鬼人」
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「アアアッ!! クッソ!! なんで俺が一人でこんな茶番しなきゃならねーんだよ!! 戻ったらあの村全焼させるぞ!!」
クロトの怒りは怒鳴り声の独り言として吐き出される。
現在クロトは詳細を村人から聞き出し、魔物が住処としている現地に向かっている最中だ。
最善だろうこの人助けに腹を立て、周囲に殺意を散りばめながらいた。
『いや全焼させるのはなしだろ。バックレたら俺も協力しますけど。そうイライラすんなよ我が主ぃ。嫌々ながらもできる奴なんだから偉いよお前は』
「うるさいクソ蛇!! 死ね!」
『……ああ、褒めが煽りにでも聞こえてるのかよ、めんどい性格してんなぁ。……あ、そうそう、それでなクロト』
「くそっ。一人やっても道理だろうが……っ」
『物騒な事よりも、ねぇねぇ我が主ぃ』
ぶつぶつといるクロトに何度も呼び掛けるニーズヘッグ。
幾度かそれを繰り返していると、当然短気なクロトは反応せざるを得ない。
「――うるっさいぞクソ蛇!! クソガキがいねーからって文句でもあんのかよ!? ホームシックのガキか!!?」
『お前よりはずっと年上ですー! 姫君いないからテンションダダ下がりですーー! じゃなくてだなぁ――』
すかさず言い返すが、なんとか理性が話を戻そうと必死だ。
何を気づかせたいのかと、クロトがイラつきながら視線を変えてみると……
「…………あ、あの」
視線の先。木の陰からクロトを眺めている人影が。
最初に頭に入ったのは、二本の角だ。
「――なんでまたお前がいんだよ!!?」
怒鳴るように疑問を投げつける。
怒声を浴びせられたのは少し前に知り合った異国の少年――リキだ。
声にリキはビクリと肩を跳ねあがらせて、申し訳なさそうに頭を下げる。
「も……申し訳ありません……っ」
「謝れなんて言ってねーんだよ! なにつけてきてんだよ!!」
リキは確か解放し今後二度と会う事はないと思っていた。
しかし、何を理由にか、リキはクロトの前に姿をだす。
『そうなんっすよ我が主。このガキがなんか途中から付いてきてましてね? それが言いたかったんっすよ』
「早く言えよっ」
『……言ってました』
「……あの、クロト殿。驚かせてしまい申し訳ありません」
「お前は要件をすぐ言え!」
「は、はいっ。……自分の出した情報が定かではなかったので、もし間違っていたらと思うと落ち着きませんので……それで、探していました」
「ああ、そうかよっ。見つかったよ、なんだよっ、礼でもほしいとかそういうのかよ!?」
「……そういうわけでは」
「じゃあどっか行けってのっ。こっちは忙しいんだよ! めんどい事にもなってやがるし……っ」
リキは、キョトンと首を傾ける。
「クロト殿、異常に焦っておられるようですが……何かあったのですか?」
「関係ねぇだろうが……。村のクソどもがめんどい仕事押し付けてきやがったんだよ」
なんだかんだで、クロトは理由を口にしてしまう。
一人でぶつぶつ小言を言うのも飽きてきたのか、八つ当たりのようにリキを巻き込む。
「大変ですね。……よろしければ手伝いましょうか?」
「……」
刹那、クロトは思考を停止してしまう。
抱えていた怒りが一瞬で吹き飛ぶような感覚すらもあった。
クロトは村の住人から畑を荒らす魔物の退治を頼まれている。
魔物はモグラに似たもので、主に集団で行動をし、人里の畑などをよく荒らす事があるらしい。
小動物の魔物ではあるのだが、鋭い爪をもっており手を出せば集団で襲い掛かってくるため農家を困らせる。
数も基本が一匹いれば百匹いると考えてもおかしくない計算。それを一人でクロトが対処することとなる。
何故この件が国に出されず一個人による対応となったのか。
それはその村が王都から離れているという事だけでなく、この事を国が解決しない事が既に結論でているとか……。
一人で百匹相当の数を相手する事が、今回の難点でもある。
むしろその魔物で村が滅びればよいなどと、クロトは思っていたところだ。
その最中に現れたのがリキだ。
「……お前、戦え…………るよな」
一瞬、戦えるのかどうかなどを聞こうとするが、聞くまでもないと頭が理解した。
リキの腕力と何でできているかわからない肉体。それなりに体も動かせる事は確認済みだ。
「武力による問題なのですか? 自分は昔からそういう鍛錬をしておりますので……」
「ああ、そういう事情は……いい」
「……あ、はい」
リキは何故か低姿勢を貫きたいらしく、クロトの前に正座する。
その潔さには一周周って困惑させられるものだ。
――さて、どうしたものか……。
面倒な仕事を押し付けられたクロト。ニーズヘッグはいるも、実質一人のようなものだ。
ネアがいればまだマシにはあっただろうが、いない者など頼れるはずもない。
クロトはリキを同行させようか迷っていた。
使い物になるのならよいのだが……。
『ここは行為に甘えとくのも手だぞクロト。それなりに使えそうだし、……とりあえず足手まといはないと思う』
確信はなくとも、ニーズヘッグにはそう言える感覚はあった。
納得はできる。もし足手まといになるようなら、その時はその時だ。
リキなら、それを甘んじて受ける覚悟もあるだろう。
「……言っとくが、俺はお前を助けねぇぞ?」
「お気遣いなく。自分の身を守れないなど、それこそ自分の鍛錬不足ですので」
淡々と……。潔すぎる。
ここまで反論もなくよく偉く立派な事を言えるものだ。
「…………わかった。足引っ張るなよ?」
「はい」
鬼の少年は、そうやって頷いて応答した。
リキを加え、クロトは森奥にある洞穴の前にへと着く。
情報ではこの中を住処としているらしい。
居場所はわかっていても、多勢を相手にする事は逆に返り討ちにあう事となる。
「火でも突っ込めば楽なんじゃねぇか?」
『やめとけクロト。モグラ相手ならいくらでも掘って抜け出してくる。確実に対処するのが一番だ』
「……っ。ちなみに、お前はこん中入っても平気なのか?」
念には念をで、クロトはリキに問いかける。
「平気です。幼い頃、よくこういった場所に灯りもなく放り込まれたことがありますからね」
「…………そうか」
今でも十分幼いと思えるが……。
それなりに過酷な人生をこの少年は送ってきたのだろう。
と、いう哀れみよりも、不安要素が取り除かれたことにしか気が向かない。
クロトもある程度の暗さには目が効く。
二人は躊躇いなく中にへと入りこんだ。
外気とは違いやけにひんやりとした洞穴。進むごとに下にへと徐々に下り、いつの間にか天井は手の届かないほど高くあった。
「……そうとう広いな」
『百はいるほどのモグラの巣だぞ? それなりにでかくはなるよな』
クロトはリキを見る。
リキは周囲を確認するように顔をそこらに向けており支障はない様子。
確認と声をかける必要もなさそうだ。
「……」
クロトは自分の疑問を抱いてしまう。
付いてくると言ったのは本人だ。どうなろうがクロトにとって関係がないというのに、何故ここまで気に留めてしまうのか……。
ただ一人よりも少しでも楽にこの場を乗り切りたかった。そういう意味で納得する事とした。
ドドド…………。
ふと、広い空間で地面が揺れる。
よくよく見れば、地面の至る所、壁や天井にまでも穴が存在している。
空洞全てが揺れ、漆黒から眼光がぎょろりと二人を捉えた。
顔を出し、しゅっと伸びた鼻先を動かすつぶらな目と目が合う。
少しサイズが大きいほど。どれだけ凶悪な魔物かと思いきや、出てきたのはそこらの小動物と変わらない。
しかし、途端に目つきは鋭くなり、話通りの鋭い爪と牙をむき出しにし、不協和音の如く鳴き声を周囲で共鳴させる。
威嚇する鳴き声は仲間を集め、一斉に二人に襲い掛かった。
天井から降る獣に向け、クロトは魔銃を放つ。
幾度か連射するも、落下するまでに仕留めれるのは数匹。もともと単発式のクロトの魔銃ではその瞬間に狙い撃ちできる数は限られている。
イロハの魔銃ならもっと多く仕留められることだろう。
それに一寸の苛立ちすら感じる。
リキはリキで、自分向かう魔物を拳と脚で払い飛ばす。体術を極めているのか、ネアほど動ける様子だ。
余った魔物は地面に落ちると同時に穴にへと逃げ込み更なる奇襲の準備を整える。モグラというよりは動きは俊敏でありネズミとも思える。
「ちぃっ! 面倒だ!! ――【纏え! ニーズヘッグ!】」
炎蛇の皮衣を顕現させ、クロトの身を覆う。
羽衣は炎を纏い、周囲から遅いかかる魔物を焼き圧倒。……しかし。
「……っ!? 酷い臭いがしやがる!」
獣を焼いた途端、酷い刺激臭が嗅覚を抉る。
それを感じた途端、羽衣は炎を消し、ただ迫る魔物を払うのみに切り替えてしまう。
「すぐ穴にも逃げやがるっ。これじゃあキリがない!」
「クロト殿っ、大丈夫ですか?」
「……っていうか、お前はこの臭い平気なのかよ!? 獣臭くて邪魔になる!」
「……すみません。自分は毒などの呼吸も学んでおりますので、これくらいなら耐えられます」
尚も平然とリキはいる。
淡々と、迫る魔物をその身一つで相手する。
しかし、数の多さにはまいるところもあるらしい。
「まだいますね……。穴をなんとかするのが先でしょうか?」
「くそっ。全部の穴に火を突っ込んでやろうか!? ああ!?」
「……」
リキはふと膝を折り、地面をなでる。
「おい! 何してやがる!?」
リキはそのまま動かない。
案山子の如く良い的となったリキにモグラは群がり、牙を立てて肌に食らいつく。
不思議な事に、リキから苦痛の声がいっさい聞こえない。代わりに、「なるほど」と小さく呟いた。
リキは乗っかるモグラの数など気にも留めず、片腕を上にあげる。
「クロト殿。少し揺れますので、気を付けてください」
「はぁ!?」
どういう事なのか。それを問いただそうとすると、リキは拳を強く握りしめ――
「――いきますっ」
と。一気に拳を振り下ろした。
リキの拳が地面を殴る。拳を中心に強い衝撃が地面を割り、急な大きな振動にモグラたちは脳を混乱させられる。
穴から放り出され、上空からも目を回しながら落下。数の大半を今の一撃で気絶させてしまった。
「……クロト殿、大丈夫ですか?」
「おま……っ、お前! ここは穴の中だぞ!! 崩れたらどうしてくれんだ!?」
下手をすれば崩落させる危険な一手だ。
リキは思わず頭をぺこっと下げる。
「も、申し訳ありませんっ。ですが、それなりに加減はさせていただいてます」
加減はしているも、今の一撃はネアでも出せないほどの力だ。
例えるなら巨人の一撃にも匹敵する。
『……やっぱこいつ、人間じゃないのかもしれん。さすがに今のが人間業なんて信じたくねーんですけど?』
「とりあえず、まだ残っている……。癪だが、埋まらない程度なら許す! ネズミ共を全部叩きだせ!!」
『……モグラっす、我が主』
クロトからの許しが出れば、リキはハッとして拳を再度握る。
「わ、わかりましたっ。クロト殿も気を付けてくださいね?」
「アホかっ、俺が心配されるような奴に見えんのかよ!?」
最後にもう一度リキはクロトに謝り、そして再度地面を殴りつける。
◆
イロハが牢屋に閉じ込められる間、残されたエリーは鉄格子越しにその場に付き合う。
クロトが住人たちと外に出てから早2時間以上は経過。時折男たちが交代で二人を見張る事となっていた。
「……先輩、遅いね」
「そうですね。……一人で大丈夫でしょうか?」
「先輩なら大丈夫、かも? だって強いし」
楽観的なイロハと違い、エリーはクロトの姿が視界にないと不安が徐々に積もる一方だ。
時間をつぶすために、少しでもイロハと会話をしてこの不安を堪える。
「イロハさん、人のものは取っちゃダメですよ? それは悪い事です」
これを期にエリーはイロハに教えれる事を教えておく。
「う~ん、でもわかんなかったし……。今までもそこら辺の食べてたよ? 何が違うの?」
エリーはピッと人差し指を立てる。
「まずですね、今まで私たちが食べていたのは、人が育てたものじゃないのがほとんどです。泊まった場所では料理を出してくださいますが、それ以外のお外などでは自然でできた食べれるモノがあります。それは食べても大丈夫です。でも、今回イロハさんが食べてしまったのは、此処の人たちが育てたお野菜などです。それは人のものなので、勝手に食べてはいけないのです」
えっへん、と。エリーは胸を張って得意げだ。
エリーは子供なせいか難しい言葉は使わない。簡単で、イロハにも説明は適切とも考えられる。
フレズベルグも、うんうんと頷いている。
「……んー、なんか面倒? そういうのマスターは何も言ってなかったよ?」
「とりあえず、イロハさんの言う魔女さんも気にしてなかったかもしれませんね。でも、皆さんの迷惑になってしまうので、気を付けましょう」
「……うん。迷惑って、よくない……だよね?」
「そうですよ。イロハさんが悪い事をしてしまったら、私も悲しいです。私はイロハさんの事が好きなので、嫌いにもなりたくありませんから」
「ボクも、姫ちゃん好きだから嫌われたくない……かも? あんまりわかんないけど、そんな感じ?」
「わからない事があったら、私も知っている事は教えてあげます。ですので、聞いてくださいね。クロトさんもすごく物知りなので、いっぱい教えてもらいましょう」
イロハに描けている知識。常識。それをゆっくりでもエリーは教えようとする。
今後イロハがこのようなめにあわぬ様に。
【知る】という興味をイロハが持つ事で、これからのイロハの考えも変わってくる。
そうやって、穏やかな会話が途端に遮られる事となる。
「仲良く話しているところ悪いが、連れの奴が戻ってこないが、どうする?」
「……も、もう少し待たせてもらっていいですか?」
「だが、これだけ時間が経っているんだ。最悪、お前たちを捨てて一人逃げたというのも考えられる」
クロトは平然と他人を裏切れる。そう思われているのだろう。
しかし、それにエリーは否定する。
「クロトさんは置き去りになんてしませんっ。私はクロトさんが戻るまで、此処で待ちます」
「……こっちが悪者みたいになって罪悪感が沸くんだが。正直、村のみんな作物をやられて苛立っているんだ。そんな中、追い打ちのようにそこの子供が荒らしたからな。こうでもしておかないと気が済まないんだよ。……というか、さっきの危なそうな子供が戻ってくるとは思えないな。村のみんなの気が済んだら、二人だけでも村から出て行ってくれ」
クロトに期待せず、住人の気が晴れるのを待つ。
この扱いだけでもイロハは罰を受けている事になる。何もしなくとも、いずれは出されるのだろうが……。
「――先輩は、戻ってくると思うよ?」
イロハが、ふと呟く。
「先輩は、……嘘、言わないと思うから。姫ちゃんもいるし、だから、――ボクは先輩を待ちたいな」
少し、不思議な感覚はあった。
人に言われて行動するイロハ。誰かの指示があって、イロハは行動することができる。
そんなイロハが、自分の意見を告げた。
その期待に、応えが訪れる。
少々慌ただしい空気が徐々に近づいてくる。
外にいた住人を連れて、ようやく魔銃使いが帰還したのだ。
「クロトさんっ」
「……ああ、うっせぇ。クソガキは黙ってろ」
「ま、まさか……、本当にあの数を全部退治したのか!?」
男は住人たちに確認を取る。
返ってきたのは信じがたい答えばかりだ。
「ほ、本当らしいぞ……。仕留めたモグラたちがまとめて村の前に山積みにされていた」
「巣穴も見てきたが、何があったのか洞穴が完全に塞がって崩落してやがったっ」
「まっ、そういう事だ。……文句ねーよな?」
クロトに反論する者などいない。
黙る事はそういう事だと同意であり、クロトは鉄格子のイロハにへと向き直る。
「……」
「で? お前俺に言う事なんかねーのかよ?」
「……んー。ありが、とう?」
「疑問形かよ……。感謝もだが、お前としてはどうしてほしいんだよ?」
「…………えっと、先輩、怒らない?」
「モグラどもぶっ殺したら少し気が晴れた。とりあえず、今回は許しといてやる」
「じゃあね――」
イロハは、両手を差し出す様に伸ばす。
そして、穏やかな笑みをして「此処から出たい、かも?」と言った。
◆
クロトが村に戻る前。洞穴を出て日の光を眺めながら、しばし日光浴をする。
「……あ~、目に染みる」
「クロト殿、お疲れさまでした」
「ああ……。にしても……」
クロトはくるりと後ろを振り向く。
自分たちが先ほどまで入っていた洞穴の入り口は、原型をとどめないほど崩れ落ちてしまっていた。
「……やっぱ崩壊したな」
「三回目で限界でしたね」
淡々と、二人は他人事の様に語る。
「クロト殿、このネズミの山はどうしましょうか?」
リキまでもネズミと称してしまっている。
ニーズヘッグはもうそれ以上ツッコんだりしない。
もうネズミでいいです。と、諦めの心だ。
二人の傍らには仕留められたモグラたちが炎蛇の皮衣に包まれ山のようにある。
数は二百いるだろう山を見上げ、クロトは村の方角にへと指を差す。
それはもう意地の悪い笑みを浮かべてだ。
「とりあえず、このネズミ共をあっちの方角に向けて投げ飛ばせ」
「投げ飛ばすのですか? 確か、あの方角は……」
リキも知っての通りだ。
だが、クロトは更に言い寄る。
「村の前ぐらいでいいんだよ。その程度なら問題はない。それにちゃんとやったって証拠は突き出した方がいいだろう?」
と。合理的な意見を述べてゆく。
リキもその言い分に流され、戸惑いながらも頷く。
言われた通りに炎蛇の皮衣でできた包みを握り、一気にその怪力で投げ飛ばす。
「……これで、よろしいのでしょうか?」
「とりあえずはな。つーわけで、ご苦労。もう好きにどっか行っていいぞ?」
『ウチの主って清々しいほど扱いがひでーのな』
「……そうですね。本日は大変ご迷惑をお掛けいたしました。探し人も見つかってよかったです」
この扱いでもこの返答なのだ。クロトとしては苦手な部類のため早急に離れたくもなる。
足がじりじりと離れたさが滲み出て動いてしまうほど。
「わ、わかった。俺は村の奴らとっちめ……話をつけに行かなきゃならんからな」
「はい。自分などお構いなく。それではクロト殿。エリー殿によろしくお願いします」
「そういう面倒なのはやんねーよ」
「わかりました。では、もし次にお会いした時に自分から言わせていただきます」
――できれば会いたくない。
と。クロトは心で呟く。
会話が終わる頃にはクロトはリキからそれなりに距離を取ってしまっていた。
リキは頭を下げるなど、最後の最後まで余計なほどの誠意ある姿勢を見せてくる。
真逆なリキはエリーも含め、どうしてもクロトの苦手対象でしかなかった。
*****************************
『やくまが 次回予告』
リキ
「クロト殿、今回は本当にありがとうございました」
クロト
「……ええ、まだ続けんのかよ。お前のそういうとこはしつこいと思うぞ?」
リキ
「そ、そうですか。確かに里の方々には堅苦しいと、よく言われてました。ですが、やはり他者に対する姿勢としてはこのくらいでないと落ち着かないところもあります」
クロト
「なんつーか。怒らねーよな」
リキ
「あまり……。ですが、クロト殿に対して怒る要素も不満もありませんので」
クロト
「なんでないんだよ。俺結構雑な扱いしてたと思うが?」
リキ
「そうでしょうか? ですが、少し短気なところはあると思いますね」
クロト
「ほっとけ……っ」
リキ
「それに、クロト殿は知人に似ておりますので」
クロト
「ほー」
リキ
「それが自分の弟なのですが、褒めるとすぐ怒ったりいつも睨んだりとしてくる毎日で。ですので、クロト殿を見ていると、なんだか安心する気分になるのですよね」
クロト
「やめろ。そんなんで安心するな。マジでやめろ」
リキ
「次回、【厄災の姫と魔銃使い】第五部 二章「魔の門」。わかりました、マジでやめておきます。注意してくださるクロト殿はやはり優しいですね」
クロト
「それもやめろ……。俺お前は苦手だ……」
リキ
「(やっぱり似ているなぁ~)」
クロトの怒りは怒鳴り声の独り言として吐き出される。
現在クロトは詳細を村人から聞き出し、魔物が住処としている現地に向かっている最中だ。
最善だろうこの人助けに腹を立て、周囲に殺意を散りばめながらいた。
『いや全焼させるのはなしだろ。バックレたら俺も協力しますけど。そうイライラすんなよ我が主ぃ。嫌々ながらもできる奴なんだから偉いよお前は』
「うるさいクソ蛇!! 死ね!」
『……ああ、褒めが煽りにでも聞こえてるのかよ、めんどい性格してんなぁ。……あ、そうそう、それでなクロト』
「くそっ。一人やっても道理だろうが……っ」
『物騒な事よりも、ねぇねぇ我が主ぃ』
ぶつぶつといるクロトに何度も呼び掛けるニーズヘッグ。
幾度かそれを繰り返していると、当然短気なクロトは反応せざるを得ない。
「――うるっさいぞクソ蛇!! クソガキがいねーからって文句でもあんのかよ!? ホームシックのガキか!!?」
『お前よりはずっと年上ですー! 姫君いないからテンションダダ下がりですーー! じゃなくてだなぁ――』
すかさず言い返すが、なんとか理性が話を戻そうと必死だ。
何を気づかせたいのかと、クロトがイラつきながら視線を変えてみると……
「…………あ、あの」
視線の先。木の陰からクロトを眺めている人影が。
最初に頭に入ったのは、二本の角だ。
「――なんでまたお前がいんだよ!!?」
怒鳴るように疑問を投げつける。
怒声を浴びせられたのは少し前に知り合った異国の少年――リキだ。
声にリキはビクリと肩を跳ねあがらせて、申し訳なさそうに頭を下げる。
「も……申し訳ありません……っ」
「謝れなんて言ってねーんだよ! なにつけてきてんだよ!!」
リキは確か解放し今後二度と会う事はないと思っていた。
しかし、何を理由にか、リキはクロトの前に姿をだす。
『そうなんっすよ我が主。このガキがなんか途中から付いてきてましてね? それが言いたかったんっすよ』
「早く言えよっ」
『……言ってました』
「……あの、クロト殿。驚かせてしまい申し訳ありません」
「お前は要件をすぐ言え!」
「は、はいっ。……自分の出した情報が定かではなかったので、もし間違っていたらと思うと落ち着きませんので……それで、探していました」
「ああ、そうかよっ。見つかったよ、なんだよっ、礼でもほしいとかそういうのかよ!?」
「……そういうわけでは」
「じゃあどっか行けってのっ。こっちは忙しいんだよ! めんどい事にもなってやがるし……っ」
リキは、キョトンと首を傾ける。
「クロト殿、異常に焦っておられるようですが……何かあったのですか?」
「関係ねぇだろうが……。村のクソどもがめんどい仕事押し付けてきやがったんだよ」
なんだかんだで、クロトは理由を口にしてしまう。
一人でぶつぶつ小言を言うのも飽きてきたのか、八つ当たりのようにリキを巻き込む。
「大変ですね。……よろしければ手伝いましょうか?」
「……」
刹那、クロトは思考を停止してしまう。
抱えていた怒りが一瞬で吹き飛ぶような感覚すらもあった。
クロトは村の住人から畑を荒らす魔物の退治を頼まれている。
魔物はモグラに似たもので、主に集団で行動をし、人里の畑などをよく荒らす事があるらしい。
小動物の魔物ではあるのだが、鋭い爪をもっており手を出せば集団で襲い掛かってくるため農家を困らせる。
数も基本が一匹いれば百匹いると考えてもおかしくない計算。それを一人でクロトが対処することとなる。
何故この件が国に出されず一個人による対応となったのか。
それはその村が王都から離れているという事だけでなく、この事を国が解決しない事が既に結論でているとか……。
一人で百匹相当の数を相手する事が、今回の難点でもある。
むしろその魔物で村が滅びればよいなどと、クロトは思っていたところだ。
その最中に現れたのがリキだ。
「……お前、戦え…………るよな」
一瞬、戦えるのかどうかなどを聞こうとするが、聞くまでもないと頭が理解した。
リキの腕力と何でできているかわからない肉体。それなりに体も動かせる事は確認済みだ。
「武力による問題なのですか? 自分は昔からそういう鍛錬をしておりますので……」
「ああ、そういう事情は……いい」
「……あ、はい」
リキは何故か低姿勢を貫きたいらしく、クロトの前に正座する。
その潔さには一周周って困惑させられるものだ。
――さて、どうしたものか……。
面倒な仕事を押し付けられたクロト。ニーズヘッグはいるも、実質一人のようなものだ。
ネアがいればまだマシにはあっただろうが、いない者など頼れるはずもない。
クロトはリキを同行させようか迷っていた。
使い物になるのならよいのだが……。
『ここは行為に甘えとくのも手だぞクロト。それなりに使えそうだし、……とりあえず足手まといはないと思う』
確信はなくとも、ニーズヘッグにはそう言える感覚はあった。
納得はできる。もし足手まといになるようなら、その時はその時だ。
リキなら、それを甘んじて受ける覚悟もあるだろう。
「……言っとくが、俺はお前を助けねぇぞ?」
「お気遣いなく。自分の身を守れないなど、それこそ自分の鍛錬不足ですので」
淡々と……。潔すぎる。
ここまで反論もなくよく偉く立派な事を言えるものだ。
「…………わかった。足引っ張るなよ?」
「はい」
鬼の少年は、そうやって頷いて応答した。
リキを加え、クロトは森奥にある洞穴の前にへと着く。
情報ではこの中を住処としているらしい。
居場所はわかっていても、多勢を相手にする事は逆に返り討ちにあう事となる。
「火でも突っ込めば楽なんじゃねぇか?」
『やめとけクロト。モグラ相手ならいくらでも掘って抜け出してくる。確実に対処するのが一番だ』
「……っ。ちなみに、お前はこん中入っても平気なのか?」
念には念をで、クロトはリキに問いかける。
「平気です。幼い頃、よくこういった場所に灯りもなく放り込まれたことがありますからね」
「…………そうか」
今でも十分幼いと思えるが……。
それなりに過酷な人生をこの少年は送ってきたのだろう。
と、いう哀れみよりも、不安要素が取り除かれたことにしか気が向かない。
クロトもある程度の暗さには目が効く。
二人は躊躇いなく中にへと入りこんだ。
外気とは違いやけにひんやりとした洞穴。進むごとに下にへと徐々に下り、いつの間にか天井は手の届かないほど高くあった。
「……そうとう広いな」
『百はいるほどのモグラの巣だぞ? それなりにでかくはなるよな』
クロトはリキを見る。
リキは周囲を確認するように顔をそこらに向けており支障はない様子。
確認と声をかける必要もなさそうだ。
「……」
クロトは自分の疑問を抱いてしまう。
付いてくると言ったのは本人だ。どうなろうがクロトにとって関係がないというのに、何故ここまで気に留めてしまうのか……。
ただ一人よりも少しでも楽にこの場を乗り切りたかった。そういう意味で納得する事とした。
ドドド…………。
ふと、広い空間で地面が揺れる。
よくよく見れば、地面の至る所、壁や天井にまでも穴が存在している。
空洞全てが揺れ、漆黒から眼光がぎょろりと二人を捉えた。
顔を出し、しゅっと伸びた鼻先を動かすつぶらな目と目が合う。
少しサイズが大きいほど。どれだけ凶悪な魔物かと思いきや、出てきたのはそこらの小動物と変わらない。
しかし、途端に目つきは鋭くなり、話通りの鋭い爪と牙をむき出しにし、不協和音の如く鳴き声を周囲で共鳴させる。
威嚇する鳴き声は仲間を集め、一斉に二人に襲い掛かった。
天井から降る獣に向け、クロトは魔銃を放つ。
幾度か連射するも、落下するまでに仕留めれるのは数匹。もともと単発式のクロトの魔銃ではその瞬間に狙い撃ちできる数は限られている。
イロハの魔銃ならもっと多く仕留められることだろう。
それに一寸の苛立ちすら感じる。
リキはリキで、自分向かう魔物を拳と脚で払い飛ばす。体術を極めているのか、ネアほど動ける様子だ。
余った魔物は地面に落ちると同時に穴にへと逃げ込み更なる奇襲の準備を整える。モグラというよりは動きは俊敏でありネズミとも思える。
「ちぃっ! 面倒だ!! ――【纏え! ニーズヘッグ!】」
炎蛇の皮衣を顕現させ、クロトの身を覆う。
羽衣は炎を纏い、周囲から遅いかかる魔物を焼き圧倒。……しかし。
「……っ!? 酷い臭いがしやがる!」
獣を焼いた途端、酷い刺激臭が嗅覚を抉る。
それを感じた途端、羽衣は炎を消し、ただ迫る魔物を払うのみに切り替えてしまう。
「すぐ穴にも逃げやがるっ。これじゃあキリがない!」
「クロト殿っ、大丈夫ですか?」
「……っていうか、お前はこの臭い平気なのかよ!? 獣臭くて邪魔になる!」
「……すみません。自分は毒などの呼吸も学んでおりますので、これくらいなら耐えられます」
尚も平然とリキはいる。
淡々と、迫る魔物をその身一つで相手する。
しかし、数の多さにはまいるところもあるらしい。
「まだいますね……。穴をなんとかするのが先でしょうか?」
「くそっ。全部の穴に火を突っ込んでやろうか!? ああ!?」
「……」
リキはふと膝を折り、地面をなでる。
「おい! 何してやがる!?」
リキはそのまま動かない。
案山子の如く良い的となったリキにモグラは群がり、牙を立てて肌に食らいつく。
不思議な事に、リキから苦痛の声がいっさい聞こえない。代わりに、「なるほど」と小さく呟いた。
リキは乗っかるモグラの数など気にも留めず、片腕を上にあげる。
「クロト殿。少し揺れますので、気を付けてください」
「はぁ!?」
どういう事なのか。それを問いただそうとすると、リキは拳を強く握りしめ――
「――いきますっ」
と。一気に拳を振り下ろした。
リキの拳が地面を殴る。拳を中心に強い衝撃が地面を割り、急な大きな振動にモグラたちは脳を混乱させられる。
穴から放り出され、上空からも目を回しながら落下。数の大半を今の一撃で気絶させてしまった。
「……クロト殿、大丈夫ですか?」
「おま……っ、お前! ここは穴の中だぞ!! 崩れたらどうしてくれんだ!?」
下手をすれば崩落させる危険な一手だ。
リキは思わず頭をぺこっと下げる。
「も、申し訳ありませんっ。ですが、それなりに加減はさせていただいてます」
加減はしているも、今の一撃はネアでも出せないほどの力だ。
例えるなら巨人の一撃にも匹敵する。
『……やっぱこいつ、人間じゃないのかもしれん。さすがに今のが人間業なんて信じたくねーんですけど?』
「とりあえず、まだ残っている……。癪だが、埋まらない程度なら許す! ネズミ共を全部叩きだせ!!」
『……モグラっす、我が主』
クロトからの許しが出れば、リキはハッとして拳を再度握る。
「わ、わかりましたっ。クロト殿も気を付けてくださいね?」
「アホかっ、俺が心配されるような奴に見えんのかよ!?」
最後にもう一度リキはクロトに謝り、そして再度地面を殴りつける。
◆
イロハが牢屋に閉じ込められる間、残されたエリーは鉄格子越しにその場に付き合う。
クロトが住人たちと外に出てから早2時間以上は経過。時折男たちが交代で二人を見張る事となっていた。
「……先輩、遅いね」
「そうですね。……一人で大丈夫でしょうか?」
「先輩なら大丈夫、かも? だって強いし」
楽観的なイロハと違い、エリーはクロトの姿が視界にないと不安が徐々に積もる一方だ。
時間をつぶすために、少しでもイロハと会話をしてこの不安を堪える。
「イロハさん、人のものは取っちゃダメですよ? それは悪い事です」
これを期にエリーはイロハに教えれる事を教えておく。
「う~ん、でもわかんなかったし……。今までもそこら辺の食べてたよ? 何が違うの?」
エリーはピッと人差し指を立てる。
「まずですね、今まで私たちが食べていたのは、人が育てたものじゃないのがほとんどです。泊まった場所では料理を出してくださいますが、それ以外のお外などでは自然でできた食べれるモノがあります。それは食べても大丈夫です。でも、今回イロハさんが食べてしまったのは、此処の人たちが育てたお野菜などです。それは人のものなので、勝手に食べてはいけないのです」
えっへん、と。エリーは胸を張って得意げだ。
エリーは子供なせいか難しい言葉は使わない。簡単で、イロハにも説明は適切とも考えられる。
フレズベルグも、うんうんと頷いている。
「……んー、なんか面倒? そういうのマスターは何も言ってなかったよ?」
「とりあえず、イロハさんの言う魔女さんも気にしてなかったかもしれませんね。でも、皆さんの迷惑になってしまうので、気を付けましょう」
「……うん。迷惑って、よくない……だよね?」
「そうですよ。イロハさんが悪い事をしてしまったら、私も悲しいです。私はイロハさんの事が好きなので、嫌いにもなりたくありませんから」
「ボクも、姫ちゃん好きだから嫌われたくない……かも? あんまりわかんないけど、そんな感じ?」
「わからない事があったら、私も知っている事は教えてあげます。ですので、聞いてくださいね。クロトさんもすごく物知りなので、いっぱい教えてもらいましょう」
イロハに描けている知識。常識。それをゆっくりでもエリーは教えようとする。
今後イロハがこのようなめにあわぬ様に。
【知る】という興味をイロハが持つ事で、これからのイロハの考えも変わってくる。
そうやって、穏やかな会話が途端に遮られる事となる。
「仲良く話しているところ悪いが、連れの奴が戻ってこないが、どうする?」
「……も、もう少し待たせてもらっていいですか?」
「だが、これだけ時間が経っているんだ。最悪、お前たちを捨てて一人逃げたというのも考えられる」
クロトは平然と他人を裏切れる。そう思われているのだろう。
しかし、それにエリーは否定する。
「クロトさんは置き去りになんてしませんっ。私はクロトさんが戻るまで、此処で待ちます」
「……こっちが悪者みたいになって罪悪感が沸くんだが。正直、村のみんな作物をやられて苛立っているんだ。そんな中、追い打ちのようにそこの子供が荒らしたからな。こうでもしておかないと気が済まないんだよ。……というか、さっきの危なそうな子供が戻ってくるとは思えないな。村のみんなの気が済んだら、二人だけでも村から出て行ってくれ」
クロトに期待せず、住人の気が晴れるのを待つ。
この扱いだけでもイロハは罰を受けている事になる。何もしなくとも、いずれは出されるのだろうが……。
「――先輩は、戻ってくると思うよ?」
イロハが、ふと呟く。
「先輩は、……嘘、言わないと思うから。姫ちゃんもいるし、だから、――ボクは先輩を待ちたいな」
少し、不思議な感覚はあった。
人に言われて行動するイロハ。誰かの指示があって、イロハは行動することができる。
そんなイロハが、自分の意見を告げた。
その期待に、応えが訪れる。
少々慌ただしい空気が徐々に近づいてくる。
外にいた住人を連れて、ようやく魔銃使いが帰還したのだ。
「クロトさんっ」
「……ああ、うっせぇ。クソガキは黙ってろ」
「ま、まさか……、本当にあの数を全部退治したのか!?」
男は住人たちに確認を取る。
返ってきたのは信じがたい答えばかりだ。
「ほ、本当らしいぞ……。仕留めたモグラたちがまとめて村の前に山積みにされていた」
「巣穴も見てきたが、何があったのか洞穴が完全に塞がって崩落してやがったっ」
「まっ、そういう事だ。……文句ねーよな?」
クロトに反論する者などいない。
黙る事はそういう事だと同意であり、クロトは鉄格子のイロハにへと向き直る。
「……」
「で? お前俺に言う事なんかねーのかよ?」
「……んー。ありが、とう?」
「疑問形かよ……。感謝もだが、お前としてはどうしてほしいんだよ?」
「…………えっと、先輩、怒らない?」
「モグラどもぶっ殺したら少し気が晴れた。とりあえず、今回は許しといてやる」
「じゃあね――」
イロハは、両手を差し出す様に伸ばす。
そして、穏やかな笑みをして「此処から出たい、かも?」と言った。
◆
クロトが村に戻る前。洞穴を出て日の光を眺めながら、しばし日光浴をする。
「……あ~、目に染みる」
「クロト殿、お疲れさまでした」
「ああ……。にしても……」
クロトはくるりと後ろを振り向く。
自分たちが先ほどまで入っていた洞穴の入り口は、原型をとどめないほど崩れ落ちてしまっていた。
「……やっぱ崩壊したな」
「三回目で限界でしたね」
淡々と、二人は他人事の様に語る。
「クロト殿、このネズミの山はどうしましょうか?」
リキまでもネズミと称してしまっている。
ニーズヘッグはもうそれ以上ツッコんだりしない。
もうネズミでいいです。と、諦めの心だ。
二人の傍らには仕留められたモグラたちが炎蛇の皮衣に包まれ山のようにある。
数は二百いるだろう山を見上げ、クロトは村の方角にへと指を差す。
それはもう意地の悪い笑みを浮かべてだ。
「とりあえず、このネズミ共をあっちの方角に向けて投げ飛ばせ」
「投げ飛ばすのですか? 確か、あの方角は……」
リキも知っての通りだ。
だが、クロトは更に言い寄る。
「村の前ぐらいでいいんだよ。その程度なら問題はない。それにちゃんとやったって証拠は突き出した方がいいだろう?」
と。合理的な意見を述べてゆく。
リキもその言い分に流され、戸惑いながらも頷く。
言われた通りに炎蛇の皮衣でできた包みを握り、一気にその怪力で投げ飛ばす。
「……これで、よろしいのでしょうか?」
「とりあえずはな。つーわけで、ご苦労。もう好きにどっか行っていいぞ?」
『ウチの主って清々しいほど扱いがひでーのな』
「……そうですね。本日は大変ご迷惑をお掛けいたしました。探し人も見つかってよかったです」
この扱いでもこの返答なのだ。クロトとしては苦手な部類のため早急に離れたくもなる。
足がじりじりと離れたさが滲み出て動いてしまうほど。
「わ、わかった。俺は村の奴らとっちめ……話をつけに行かなきゃならんからな」
「はい。自分などお構いなく。それではクロト殿。エリー殿によろしくお願いします」
「そういう面倒なのはやんねーよ」
「わかりました。では、もし次にお会いした時に自分から言わせていただきます」
――できれば会いたくない。
と。クロトは心で呟く。
会話が終わる頃にはクロトはリキからそれなりに距離を取ってしまっていた。
リキは頭を下げるなど、最後の最後まで余計なほどの誠意ある姿勢を見せてくる。
真逆なリキはエリーも含め、どうしてもクロトの苦手対象でしかなかった。
*****************************
『やくまが 次回予告』
リキ
「クロト殿、今回は本当にありがとうございました」
クロト
「……ええ、まだ続けんのかよ。お前のそういうとこはしつこいと思うぞ?」
リキ
「そ、そうですか。確かに里の方々には堅苦しいと、よく言われてました。ですが、やはり他者に対する姿勢としてはこのくらいでないと落ち着かないところもあります」
クロト
「なんつーか。怒らねーよな」
リキ
「あまり……。ですが、クロト殿に対して怒る要素も不満もありませんので」
クロト
「なんでないんだよ。俺結構雑な扱いしてたと思うが?」
リキ
「そうでしょうか? ですが、少し短気なところはあると思いますね」
クロト
「ほっとけ……っ」
リキ
「それに、クロト殿は知人に似ておりますので」
クロト
「ほー」
リキ
「それが自分の弟なのですが、褒めるとすぐ怒ったりいつも睨んだりとしてくる毎日で。ですので、クロト殿を見ていると、なんだか安心する気分になるのですよね」
クロト
「やめろ。そんなんで安心するな。マジでやめろ」
リキ
「次回、【厄災の姫と魔銃使い】第五部 二章「魔の門」。わかりました、マジでやめておきます。注意してくださるクロト殿はやはり優しいですね」
クロト
「それもやめろ……。俺お前は苦手だ……」
リキ
「(やっぱり似ているなぁ~)」
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