厄災の姫と魔銃使い:リメイク

星華 彩二魔

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第五部 二章 「魔の門」

「精霊の泉」

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 イロハを無事保護(?)した事により、クロトの今後の不安がわずかに解消された。
 やはり危険な存在は目の届く範囲で監視するのが一番である。 
 そんな危険物を所持しているイロハといえば……、今はエリーと後方で会話しながら付いてきていた。

「それでですね。イロハさんを見つける前にリキさんという方に会いましてね。すごく力持ちさんなんですよ。……なんだか~、二本の角があるんです」

「角? 角って……これ?」

 イロハは自分の頭の上で人差し指を立て、角を表現。エリーも真似して頷く。

「そうです、これです。本物……ではないんですけど、そんな飾りを付けてられました」

「ふーん。変なの……」

 一般的には、確かに変と受け止められるものなのだろう。
 エリーは「あはは……」と苦笑を返す。
 
『異国でいうというものか……。確かに、鬼の名を冠する悪魔も魔界にはいるな。知人にもいた』

「……じゃあ、その人も悪魔なの?」

「悪魔じゃなくて人間でしたよ? イロハさんよりも背が低くてぇ……」

「……お前ら静かについてこれないのかよ?」

 話し声は黙々としていたクロトにまる聞こえだ。
 指摘されれば二人は口に手を当てる。
 
『べつにいいじゃんかよぉ。クソガキと姫君が仲良くしてるのは癇に障りますが』

「うるさいクソ蛇っ」

『……もうその返答がほぼワンパターンになってきておられる』

 ニーズヘッグに対する返答は、高確率で「うるさいクソ蛇」となってきている。
 クロトもこの関係性にはそれなりに慣れてきているが、ニーズヘッグの言動などが不快であるのは今でも変わらない。
 後ろでは小声で二人がひそひそと会話をする。

「先輩怒っちゃったね」
「そうですね。静かにしましょうか……」

「聞こえてんぞお前ら!」

 ビシッと説教。
 普通に会話しているよりも、こそこそと聞こえないようにしている素振りがクロトにとって不快感を与えてしまう。
 再度二人は口にパッと手を当てて黙った。
 
『愚か者が……。鬼といえば、この場所は確か……』

 フレズベルグが、ふと呟く。
 
「ん? フレズベルグ、此処知ってるので?」

 何かを思い出した様子。
 クロトたちが今いるのはレガルでは多くある神秘的な森だ。
 普通の木々とは違い、曲がりくねった緑一色の木の群れ。蛍火放つ花や、幻想的な濃度の低い【精霊結晶エスプリスタ】が、植物に紛れ存在している。
 不思議そうに、エリーはそれに見惚れた。

「綺麗ですね」

「これって、なんだっけ? 前にもあったけど、壊れないの?」

「これは向こうの原石とは違って濃度が低いからな。過剰反応を起こす危険性はない。性能は落ちるが、ちょっとした魔道具に使われるな。……それに、色からして【伝達・精霊結晶テル・エスプリスタ】とは別物だ。これは【水・精霊結晶アクア・エスプリスタ】だな。水がなくてもこれがあれば自然に魔素を含んだ水分を周囲の植物に付与する」

 淡々と、クロトはある知識を語るが、エリーとイロハには荷が重い。とりあえず、二人は頷いて話を聞くのみとする。
 澄んだ水の様な色合い。耳を澄まると水音が聞こえ涼しげな感覚が流れ込んできた。
 この結晶から送られる特殊な水分が周囲の植物を育てているのだ。
 そんな解説に耳を傾けるニーズヘッグも、徐々に何かを思い出したのか語りだす。

『……ああ。ってことは此処、か』

「なんだよクソ蛇。お前も此処に心当たりでもあんのか?」

 フレズベルグに続きニーズヘッグまでも、この場所には心当たりがあるらしい。

『まあ、お前ら人間にとっては結構昔の話なんだがな。俺とフレズベルグがまだ人間界に来て間もない頃、この辺に来たことがあってさ。……そっかぁ、レガルだもんな、此処』

「だからなんだよ……」

『とりあえず、進めば確定かどうかわかるって事だ』

 背中を押す様に、ニーズヘッグは森の先にへと誘導する。
 そこまで言われてか、気になって進むほかなくなってしまったではないか。
 癪だが、クロトは前にへと進む。それにイロハとエリーは付き合い後を追う。
 足を進めるごとに、周囲の空気が変わる。
 まるで別の世界に足を踏み入れた様な……。悪い空気ではない。澄み切った大気に違和感を体が得てしまっただけだ。
 三人の周りには光の粒が飛び、こちらを観察するように見下ろしている。

「えーっと、確かぁ……び……、びぃ??」

『微精霊だ、愚か者』

「あっ! そうそう、それ! お姉さんが言ってたやつだよね? すごくいっぱいだ」

「そうですね。前に舟で見た時よりも多い様な……」

「そりゃあレガルだからな。……言ってみれば、人間界でのこいつらの縄張りみたいなもんだ」

 人間界で精霊と共存するレガルにとって、微精霊は珍しいものではない。
 それは一般的に群生し、人の環境に溶け込んでいる。
 こういった森にはより多く存在し、物珍しそうにこちらを見ているのだ。
 何かを呟いている様にも見えるが、微精霊の声を聞き取る事は三人にはできない。精霊なら人間に合わせて言葉を発する事もできるのだが、微精霊にはそれが難しい。
 気になるも、なんとか努力して気にしないように進み切ると、そこには泉が。
 思わず、目を奪われた。
 穢れ一つもない澄んだ水。それは上空から差し込む光と、幻想的に舞う微精霊たちによって存在感を極めていた。
 
『やっぱりな』

『やはり、此処だったか……。【水霊鬼すいれいきのルサルカ】の泉、――精霊の泉だ』

「……るさ……るか?」

 ――【水霊鬼すいれいきのルサルカ】。
 九の王に属する、水の悪魔。精霊に近い存在であり、強大な力を宿した名のある悪魔の一体。
 その悪魔の縄張りらしい場所に、三人は訪れているという事となる。

『警戒すんなってクロト。情報が正しければ、ルサルカはこの場にはいないはずだ』

「……どういう事だ?」

『ルサルカは……、アイツは悪魔狩りの魔女、つまり、お前の追っている魔女に狩られているからだ。アイツも強かったし、俺にとっては天敵みたいなもんだったからな。魔女に目を付けられるのも無理はない』

「お前の天敵……な。てことは、お前よか強かったわけか」

『相性の問題っすよ我が主。ルサルカの水には相棒諸共厄介な相手でな。……だがまぁ、ルサルカがいないのは幸いか。いたら俺ら全員流される事だってありえるからな。……なんでかわからねぇが、俺とフレズベルグはアイツに嫌われててよぉ』

「何をしたんだよ……」

『いや~、ルサルカって愛でまくりたくなるくらい可愛い奴でさぁ。仲良くしようとしたらなんでかキレやがってよぉ。そんでぇ、落ち着かせようと思って泉に炎を流し込んだら、爆発しちまって。…………最後には完膚なきまでに俺ら流されました』

 上機嫌に語っていたかと思えば、最後は急に気を沈めてしまった。
 鬼の逆鱗にでも触れたのか、名のある悪魔二体をまとめて相手にするのだ。それなりの悪魔だったのだろう。

『それにしても、よく元に戻ったもんだなぁ。魔女に狩られたのが50年前ほどで、それより昔の事だもんなぁ』

 思い出に浸るニーズヘッグ。
 その傍らでクロトは「ん?」と違和感を得る。
 
「ちょっと待て。お前らが魔女に狩られたのは50年も前……。って事は、あの魔女は」

 見た目は少女の魔女。それは50年前に存在している。
 これが確かなら、それはおかしな事だ。

『魔女でも人間と同じ時間の存在だ。おそらく、何かしらで若さを保っているな。今でもガキの姿でいるってだけでゾッとする。……まさかあの時と変わってないとはな』

 いったい、彼女はいつから存在していうのか。
 数々の悪魔を狩り続け、今も尚何かを目論んでいる。
 人間にとって一生の時間を費やし、魔女は何をしようとしているのか……。
 
 そして、そんな存在を殺す事ができるのか……。

 ふと浮かんだ、不可能の可能性。
 クロトはそれを考えぬ様にと振り払う。
 




 しばらく休憩しつつ泉の周囲を進む。
 元大悪魔がいたとされる精霊の泉。そこは静かであり、なんの危険もない穏やかな場所だ。
 魔に生きる悪魔には似つかわしくないような場所に複雑な気にもなる。
 
「こんな所に悪魔がいたのかよ?」

『ルサルカは精霊寄りだからな。見た目も精霊っぽいし、魔界よりもこっちの方があってるよな』

「どうでもいい……。魔女もいねぇし、他だな」

 クロトが白けていると、途端に呼ぶ声が聞こえてくる。

「せんぱーいっ」
「クロトさーん」

 同時に、イロハとエリーが呼ぶ。
 何事かと、気だるげに顔を向ける。

「なんだよ……。魔女でもいやがったか? それ以外はどうでもいいんだが?」

「マスターはいないよ?」

「じゃあ、いい」

「え~。でも、変なの見つけたから……。ねぇ、姫ちゃん」

「はい。あちらの方に……」

 エリーは泉の奥を指さす。
 また妙なものを見つけたらしく、それを確認しなければならないらしい。
 断れば気になる二人は勝手にそれに手をだすに決まっている。
 以前の【鏡迷樹海】の二の前にはならぬよう、確認だけでもする事とした。

「……見るだけだからな?」

『実は若干気になってるところ、ちょっと好感持てる』

「うるさいクソ蛇」

 図星を突かれ定番のセリフを言ったところで、クロトは二人が見つけたモノの場所に向かう。
 泉から遠くなく、それもこの泉とセットかのようにあった。
 それは石碑だ。 

「……ボク文字読めないからなんて書いてあるかわかんない」

「すみません。私も読めません」

「こんな文字俺も知らねーぞ?」

 大きな石碑には何かを記す文字が書かれているのだが、その文字を読むことができない。
 かすれているや、傷で読み解けないわけではなく。その文字をイロハやエリーだけでなく、クロトも知り得ないものだったからだ。
 
『そりゃそうだろ。だってこれは魔界文字だからな』

「……魔界文字?」

『そっ。これは人間界と魔界を繋ぐ石門。――魔界門だ』

 人間界と魔界は別の次元に存在している。
 その世界はどうやって繋がれているのか、幾つかは存在している。
 次元を超える力を宿した魔の住人。異常気象により空間の歪みから侵入。魔界門を使い移動。
 その一つである魔界門が、今三人の目の前に存在していた。

『おそらくルサルカが使ってた魔界門だろうな』

「つまり、この先は魔界って事か……。よし、もういいだろお前ら?」

 謎の物体が何かわかればクロトはこの石碑に用はない。
 興味本位に石碑を観察、べたべたと触っていた二人に向けて呼びかける。
 イロハとエリーはハッとして、一緒になってクロトを見た。

「はーい」

「わかりました、クロトさん」

 確認も取れた。なら二人がこれ以上この石碑を気に留めるわけにもいかない。
 すぐにクロトに駆け寄ろうとした時……それは起きた。
 石碑からわずかに離れた途端、石碑は光を放って三人の目を引く。
 いったい何が起きたのか。急な動作をとる石碑。
 その理由など、この石碑には一つしかない。

『……どういう事だっ。門が……開く!?』

 フレズベルグが焦る。
 魔界門が動くという事は、魔界へ繋がる門が開くという事だ。

「クソ蛇! お前なんかしやがったのかよ!!」

『俺じゃねーって!! 俺たちは魔銃にいるんだぞ!? 魔力に反応しなければ、こんなの開かねーって!!』

 視界を遮るほどの光。
 光は門にへと形を変え、誰の意思にも反してその扉を開いた。
 突風の様な勢いで三人を門は引き寄せる。

「クロトさんっ」

 クロトは第一にエリーに手を伸ばした。
 できる事なら、この門の先に行かぬ様にと……。
 だが、門は三人を容易く呑み込み、無慈悲に扉を固く閉ざす。
 光を失い、ただの石碑となった魔界門。
 それを微精霊たちが目撃していた。

『……どうしよう?』
『どうしよう?』
『勝手に門が開いちゃった』
『事故? それとも……』
『わかんない。わかんない』
『でも大変』
『――厄災の子が魔界に行っちゃった』
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