131 / 280
第五部 二章 「魔の門」
「精霊の泉」
しおりを挟む
イロハを無事保護(?)した事により、クロトの今後の不安がわずかに解消された。
やはり危険な存在は目の届く範囲で監視するのが一番である。
そんな危険物を所持しているイロハといえば……、今はエリーと後方で会話しながら付いてきていた。
「それでですね。イロハさんを見つける前にリキさんという方に会いましてね。すごく力持ちさんなんですよ。……なんだか~、二本の角があるんです」
「角? 角って……これ?」
イロハは自分の頭の上で人差し指を立て、角を表現。エリーも真似して頷く。
「そうです、これです。本物……ではないんですけど、そんな飾りを付けてられました」
「ふーん。変なの……」
一般的には、確かに変と受け止められるものなのだろう。
エリーは「あはは……」と苦笑を返す。
『異国でいう鬼というものか……。確かに、鬼の名を冠する悪魔も魔界にはいるな。知人にもいた』
「……じゃあ、その人も悪魔なの?」
「悪魔じゃなくて人間でしたよ? イロハさんよりも背が低くてぇ……」
「……お前ら静かについてこれないのかよ?」
話し声は黙々としていたクロトにまる聞こえだ。
指摘されれば二人は口に手を当てる。
『べつにいいじゃんかよぉ。クソガキと姫君が仲良くしてるのは癇に障りますが』
「うるさいクソ蛇っ」
『……もうその返答がほぼワンパターンになってきておられる』
ニーズヘッグに対する返答は、高確率で「うるさいクソ蛇」となってきている。
クロトもこの関係性にはそれなりに慣れてきているが、ニーズヘッグの言動などが不快であるのは今でも変わらない。
後ろでは小声で二人がひそひそと会話をする。
「先輩怒っちゃったね」
「そうですね。静かにしましょうか……」
「聞こえてんぞお前ら!」
ビシッと説教。
普通に会話しているよりも、こそこそと聞こえないようにしている素振りがクロトにとって不快感を与えてしまう。
再度二人は口にパッと手を当てて黙った。
『愚か者が……。鬼といえば、この場所は確か……』
フレズベルグが、ふと呟く。
「ん? フレズベルグ、此処知ってるので?」
何かを思い出した様子。
クロトたちが今いるのはレガルでは多くある神秘的な森だ。
普通の木々とは違い、曲がりくねった緑一色の木の群れ。蛍火放つ花や、幻想的な濃度の低い【精霊結晶】が、植物に紛れ存在している。
不思議そうに、エリーはそれに見惚れた。
「綺麗ですね」
「これって、なんだっけ? 前にもあったけど、壊れないの?」
「これは向こうの原石とは違って濃度が低いからな。過剰反応を起こす危険性はない。性能は落ちるが、ちょっとした魔道具に使われるな。……それに、色からして【伝達・精霊結晶】とは別物だ。これは【水・精霊結晶】だな。水がなくてもこれがあれば自然に魔素を含んだ水分を周囲の植物に付与する」
淡々と、クロトはある知識を語るが、エリーとイロハには荷が重い。とりあえず、二人は頷いて話を聞くのみとする。
澄んだ水の様な色合い。耳を澄まると水音が聞こえ涼しげな感覚が流れ込んできた。
この結晶から送られる特殊な水分が周囲の植物を育てているのだ。
そんな解説に耳を傾けるニーズヘッグも、徐々に何かを思い出したのか語りだす。
『……ああ。ってことは此処、あそこか』
「なんだよクソ蛇。お前も此処に心当たりでもあんのか?」
フレズベルグに続きニーズヘッグまでも、この場所には心当たりがあるらしい。
『まあ、お前ら人間にとっては結構昔の話なんだがな。俺とフレズベルグがまだ人間界に来て間もない頃、この辺に来たことがあってさ。……そっかぁ、レガルだもんな、此処』
「だからなんだよ……」
『とりあえず、進めば確定かどうかわかるって事だ』
背中を押す様に、ニーズヘッグは森の先にへと誘導する。
そこまで言われてか、気になって進むほかなくなってしまったではないか。
癪だが、クロトは前にへと進む。それにイロハとエリーは付き合い後を追う。
足を進めるごとに、周囲の空気が変わる。
まるで別の世界に足を踏み入れた様な……。悪い空気ではない。澄み切った大気に違和感を体が得てしまっただけだ。
三人の周りには光の粒が飛び、こちらを観察するように見下ろしている。
「えーっと、確かぁ……び……、びぃ??」
『微精霊だ、愚か者』
「あっ! そうそう、それ! お姉さんが言ってたやつだよね? すごくいっぱいだ」
「そうですね。前に舟で見た時よりも多い様な……」
「そりゃあレガルだからな。……言ってみれば、人間界でのこいつらの縄張りみたいなもんだ」
人間界で精霊と共存するレガルにとって、微精霊は珍しいものではない。
それは一般的に群生し、人の環境に溶け込んでいる。
こういった森にはより多く存在し、物珍しそうにこちらを見ているのだ。
何かを呟いている様にも見えるが、微精霊の声を聞き取る事は三人にはできない。精霊なら人間に合わせて言葉を発する事もできるのだが、微精霊にはそれが難しい。
気になるも、なんとか努力して気にしないように進み切ると、そこには泉が。
思わず、目を奪われた。
穢れ一つもない澄んだ水。それは上空から差し込む光と、幻想的に舞う微精霊たちによって存在感を極めていた。
『やっぱりな』
『やはり、此処だったか……。【水霊鬼のルサルカ】の泉、――精霊の泉だ』
「……るさ……るか?」
――【水霊鬼のルサルカ】。
九の王に属する、水の悪魔。精霊に近い存在であり、強大な力を宿した名のある悪魔の一体。
その悪魔の縄張りらしい場所に、三人は訪れているという事となる。
『警戒すんなってクロト。情報が正しければ、ルサルカはこの場にはいないはずだ』
「……どういう事だ?」
『ルサルカは……、アイツは悪魔狩りの魔女、つまり、お前の追っている魔女に狩られているからだ。アイツも強かったし、俺にとっては天敵みたいなもんだったからな。魔女に目を付けられるのも無理はない』
「お前の天敵……な。てことは、お前よか強かったわけか」
『相性の問題っすよ我が主。ルサルカの水には相棒諸共厄介な相手でな。……だがまぁ、ルサルカがいないのは幸いか。いたら俺ら全員流される事だってありえるからな。……なんでかわからねぇが、俺とフレズベルグはアイツに嫌われててよぉ』
「何をしたんだよ……」
『いや~、ルサルカって愛でまくりたくなるくらい可愛い奴でさぁ。仲良くしようとしたらなんでかキレやがってよぉ。そんでぇ、落ち着かせようと思って泉に炎を流し込んだら、爆発しちまって。…………最後には完膚なきまでに俺ら流されました』
上機嫌に語っていたかと思えば、最後は急に気を沈めてしまった。
鬼の逆鱗にでも触れたのか、名のある悪魔二体をまとめて相手にするのだ。それなりの悪魔だったのだろう。
『それにしても、よく元に戻ったもんだなぁ。魔女に狩られたのが50年前ほどで、それより昔の事だもんなぁ』
思い出に浸るニーズヘッグ。
その傍らでクロトは「ん?」と違和感を得る。
「ちょっと待て。お前らが魔女に狩られたのは50年も前……。って事は、あの魔女は」
見た目は少女の魔女。それは50年前に存在している。
これが確かなら、それはおかしな事だ。
『魔女でも人間と同じ時間の存在だ。おそらく、何かしらで若さを保っているな。今でもガキの姿でいるってだけでゾッとする。……まさかあの時と変わってないとはな』
いったい、彼女はいつから存在していうのか。
数々の悪魔を狩り続け、今も尚何かを目論んでいる。
人間にとって一生の時間を費やし、魔女は何をしようとしているのか……。
そして、そんな存在を殺す事ができるのか……。
ふと浮かんだ、不可能の可能性。
クロトはそれを考えぬ様にと振り払う。
しばらく休憩しつつ泉の周囲を進む。
元大悪魔がいたとされる精霊の泉。そこは静かであり、なんの危険もない穏やかな場所だ。
魔に生きる悪魔には似つかわしくないような場所に複雑な気にもなる。
「こんな所に悪魔がいたのかよ?」
『ルサルカは精霊寄りだからな。見た目も精霊っぽいし、魔界よりもこっちの方があってるよな』
「どうでもいい……。魔女もいねぇし、他だな」
クロトが白けていると、途端に呼ぶ声が聞こえてくる。
「せんぱーいっ」
「クロトさーん」
同時に、イロハとエリーが呼ぶ。
何事かと、気だるげに顔を向ける。
「なんだよ……。魔女でもいやがったか? それ以外はどうでもいいんだが?」
「マスターはいないよ?」
「じゃあ、いい」
「え~。でも、変なの見つけたから……。ねぇ、姫ちゃん」
「はい。あちらの方に……」
エリーは泉の奥を指さす。
また妙なものを見つけたらしく、それを確認しなければならないらしい。
断れば気になる二人は勝手にそれに手をだすに決まっている。
以前の【鏡迷樹海】の二の前にはならぬよう、確認だけでもする事とした。
「……見るだけだからな?」
『実は若干気になってるところ、ちょっと好感持てる』
「うるさいクソ蛇」
図星を突かれ定番のセリフを言ったところで、クロトは二人が見つけたモノの場所に向かう。
泉から遠くなく、それもこの泉とセットかのようにあった。
それは石碑だ。
「……ボク文字読めないからなんて書いてあるかわかんない」
「すみません。私も読めません」
「こんな文字俺も知らねーぞ?」
大きな石碑には何かを記す文字が書かれているのだが、その文字を読むことができない。
かすれているや、傷で読み解けないわけではなく。その文字をイロハやエリーだけでなく、クロトも知り得ないものだったからだ。
『そりゃそうだろ。だってこれは魔界文字だからな』
「……魔界文字?」
『そっ。これは人間界と魔界を繋ぐ石門。――魔界門だ』
人間界と魔界は別の次元に存在している。
その世界はどうやって繋がれているのか、幾つかは存在している。
次元を超える力を宿した魔の住人。異常気象により空間の歪みから侵入。魔界門を使い移動。
その一つである魔界門が、今三人の目の前に存在していた。
『おそらくルサルカが使ってた魔界門だろうな』
「つまり、この先は魔界って事か……。よし、もういいだろお前ら?」
謎の物体が何かわかればクロトはこの石碑に用はない。
興味本位に石碑を観察、べたべたと触っていた二人に向けて呼びかける。
イロハとエリーはハッとして、一緒になってクロトを見た。
「はーい」
「わかりました、クロトさん」
確認も取れた。なら二人がこれ以上この石碑を気に留めるわけにもいかない。
すぐにクロトに駆け寄ろうとした時……それは起きた。
石碑からわずかに離れた途端、石碑は光を放って三人の目を引く。
いったい何が起きたのか。急な動作をとる石碑。
その理由など、この石碑には一つしかない。
『……どういう事だっ。門が……開く!?』
フレズベルグが焦る。
魔界門が動くという事は、魔界へ繋がる門が開くという事だ。
「クソ蛇! お前なんかしやがったのかよ!!」
『俺じゃねーって!! 俺たちは魔銃にいるんだぞ!? 魔力に反応しなければ、こんなの開かねーって!!』
視界を遮るほどの光。
光は門にへと形を変え、誰の意思にも反してその扉を開いた。
突風の様な勢いで三人を門は引き寄せる。
「クロトさんっ」
クロトは第一にエリーに手を伸ばした。
できる事なら、この門の先に行かぬ様にと……。
だが、門は三人を容易く呑み込み、無慈悲に扉を固く閉ざす。
光を失い、ただの石碑となった魔界門。
それを微精霊たちが目撃していた。
『……どうしよう?』
『どうしよう?』
『勝手に門が開いちゃった』
『事故? それとも……』
『わかんない。わかんない』
『でも大変』
『――厄災の子が魔界に行っちゃった』
やはり危険な存在は目の届く範囲で監視するのが一番である。
そんな危険物を所持しているイロハといえば……、今はエリーと後方で会話しながら付いてきていた。
「それでですね。イロハさんを見つける前にリキさんという方に会いましてね。すごく力持ちさんなんですよ。……なんだか~、二本の角があるんです」
「角? 角って……これ?」
イロハは自分の頭の上で人差し指を立て、角を表現。エリーも真似して頷く。
「そうです、これです。本物……ではないんですけど、そんな飾りを付けてられました」
「ふーん。変なの……」
一般的には、確かに変と受け止められるものなのだろう。
エリーは「あはは……」と苦笑を返す。
『異国でいう鬼というものか……。確かに、鬼の名を冠する悪魔も魔界にはいるな。知人にもいた』
「……じゃあ、その人も悪魔なの?」
「悪魔じゃなくて人間でしたよ? イロハさんよりも背が低くてぇ……」
「……お前ら静かについてこれないのかよ?」
話し声は黙々としていたクロトにまる聞こえだ。
指摘されれば二人は口に手を当てる。
『べつにいいじゃんかよぉ。クソガキと姫君が仲良くしてるのは癇に障りますが』
「うるさいクソ蛇っ」
『……もうその返答がほぼワンパターンになってきておられる』
ニーズヘッグに対する返答は、高確率で「うるさいクソ蛇」となってきている。
クロトもこの関係性にはそれなりに慣れてきているが、ニーズヘッグの言動などが不快であるのは今でも変わらない。
後ろでは小声で二人がひそひそと会話をする。
「先輩怒っちゃったね」
「そうですね。静かにしましょうか……」
「聞こえてんぞお前ら!」
ビシッと説教。
普通に会話しているよりも、こそこそと聞こえないようにしている素振りがクロトにとって不快感を与えてしまう。
再度二人は口にパッと手を当てて黙った。
『愚か者が……。鬼といえば、この場所は確か……』
フレズベルグが、ふと呟く。
「ん? フレズベルグ、此処知ってるので?」
何かを思い出した様子。
クロトたちが今いるのはレガルでは多くある神秘的な森だ。
普通の木々とは違い、曲がりくねった緑一色の木の群れ。蛍火放つ花や、幻想的な濃度の低い【精霊結晶】が、植物に紛れ存在している。
不思議そうに、エリーはそれに見惚れた。
「綺麗ですね」
「これって、なんだっけ? 前にもあったけど、壊れないの?」
「これは向こうの原石とは違って濃度が低いからな。過剰反応を起こす危険性はない。性能は落ちるが、ちょっとした魔道具に使われるな。……それに、色からして【伝達・精霊結晶】とは別物だ。これは【水・精霊結晶】だな。水がなくてもこれがあれば自然に魔素を含んだ水分を周囲の植物に付与する」
淡々と、クロトはある知識を語るが、エリーとイロハには荷が重い。とりあえず、二人は頷いて話を聞くのみとする。
澄んだ水の様な色合い。耳を澄まると水音が聞こえ涼しげな感覚が流れ込んできた。
この結晶から送られる特殊な水分が周囲の植物を育てているのだ。
そんな解説に耳を傾けるニーズヘッグも、徐々に何かを思い出したのか語りだす。
『……ああ。ってことは此処、あそこか』
「なんだよクソ蛇。お前も此処に心当たりでもあんのか?」
フレズベルグに続きニーズヘッグまでも、この場所には心当たりがあるらしい。
『まあ、お前ら人間にとっては結構昔の話なんだがな。俺とフレズベルグがまだ人間界に来て間もない頃、この辺に来たことがあってさ。……そっかぁ、レガルだもんな、此処』
「だからなんだよ……」
『とりあえず、進めば確定かどうかわかるって事だ』
背中を押す様に、ニーズヘッグは森の先にへと誘導する。
そこまで言われてか、気になって進むほかなくなってしまったではないか。
癪だが、クロトは前にへと進む。それにイロハとエリーは付き合い後を追う。
足を進めるごとに、周囲の空気が変わる。
まるで別の世界に足を踏み入れた様な……。悪い空気ではない。澄み切った大気に違和感を体が得てしまっただけだ。
三人の周りには光の粒が飛び、こちらを観察するように見下ろしている。
「えーっと、確かぁ……び……、びぃ??」
『微精霊だ、愚か者』
「あっ! そうそう、それ! お姉さんが言ってたやつだよね? すごくいっぱいだ」
「そうですね。前に舟で見た時よりも多い様な……」
「そりゃあレガルだからな。……言ってみれば、人間界でのこいつらの縄張りみたいなもんだ」
人間界で精霊と共存するレガルにとって、微精霊は珍しいものではない。
それは一般的に群生し、人の環境に溶け込んでいる。
こういった森にはより多く存在し、物珍しそうにこちらを見ているのだ。
何かを呟いている様にも見えるが、微精霊の声を聞き取る事は三人にはできない。精霊なら人間に合わせて言葉を発する事もできるのだが、微精霊にはそれが難しい。
気になるも、なんとか努力して気にしないように進み切ると、そこには泉が。
思わず、目を奪われた。
穢れ一つもない澄んだ水。それは上空から差し込む光と、幻想的に舞う微精霊たちによって存在感を極めていた。
『やっぱりな』
『やはり、此処だったか……。【水霊鬼のルサルカ】の泉、――精霊の泉だ』
「……るさ……るか?」
――【水霊鬼のルサルカ】。
九の王に属する、水の悪魔。精霊に近い存在であり、強大な力を宿した名のある悪魔の一体。
その悪魔の縄張りらしい場所に、三人は訪れているという事となる。
『警戒すんなってクロト。情報が正しければ、ルサルカはこの場にはいないはずだ』
「……どういう事だ?」
『ルサルカは……、アイツは悪魔狩りの魔女、つまり、お前の追っている魔女に狩られているからだ。アイツも強かったし、俺にとっては天敵みたいなもんだったからな。魔女に目を付けられるのも無理はない』
「お前の天敵……な。てことは、お前よか強かったわけか」
『相性の問題っすよ我が主。ルサルカの水には相棒諸共厄介な相手でな。……だがまぁ、ルサルカがいないのは幸いか。いたら俺ら全員流される事だってありえるからな。……なんでかわからねぇが、俺とフレズベルグはアイツに嫌われててよぉ』
「何をしたんだよ……」
『いや~、ルサルカって愛でまくりたくなるくらい可愛い奴でさぁ。仲良くしようとしたらなんでかキレやがってよぉ。そんでぇ、落ち着かせようと思って泉に炎を流し込んだら、爆発しちまって。…………最後には完膚なきまでに俺ら流されました』
上機嫌に語っていたかと思えば、最後は急に気を沈めてしまった。
鬼の逆鱗にでも触れたのか、名のある悪魔二体をまとめて相手にするのだ。それなりの悪魔だったのだろう。
『それにしても、よく元に戻ったもんだなぁ。魔女に狩られたのが50年前ほどで、それより昔の事だもんなぁ』
思い出に浸るニーズヘッグ。
その傍らでクロトは「ん?」と違和感を得る。
「ちょっと待て。お前らが魔女に狩られたのは50年も前……。って事は、あの魔女は」
見た目は少女の魔女。それは50年前に存在している。
これが確かなら、それはおかしな事だ。
『魔女でも人間と同じ時間の存在だ。おそらく、何かしらで若さを保っているな。今でもガキの姿でいるってだけでゾッとする。……まさかあの時と変わってないとはな』
いったい、彼女はいつから存在していうのか。
数々の悪魔を狩り続け、今も尚何かを目論んでいる。
人間にとって一生の時間を費やし、魔女は何をしようとしているのか……。
そして、そんな存在を殺す事ができるのか……。
ふと浮かんだ、不可能の可能性。
クロトはそれを考えぬ様にと振り払う。
しばらく休憩しつつ泉の周囲を進む。
元大悪魔がいたとされる精霊の泉。そこは静かであり、なんの危険もない穏やかな場所だ。
魔に生きる悪魔には似つかわしくないような場所に複雑な気にもなる。
「こんな所に悪魔がいたのかよ?」
『ルサルカは精霊寄りだからな。見た目も精霊っぽいし、魔界よりもこっちの方があってるよな』
「どうでもいい……。魔女もいねぇし、他だな」
クロトが白けていると、途端に呼ぶ声が聞こえてくる。
「せんぱーいっ」
「クロトさーん」
同時に、イロハとエリーが呼ぶ。
何事かと、気だるげに顔を向ける。
「なんだよ……。魔女でもいやがったか? それ以外はどうでもいいんだが?」
「マスターはいないよ?」
「じゃあ、いい」
「え~。でも、変なの見つけたから……。ねぇ、姫ちゃん」
「はい。あちらの方に……」
エリーは泉の奥を指さす。
また妙なものを見つけたらしく、それを確認しなければならないらしい。
断れば気になる二人は勝手にそれに手をだすに決まっている。
以前の【鏡迷樹海】の二の前にはならぬよう、確認だけでもする事とした。
「……見るだけだからな?」
『実は若干気になってるところ、ちょっと好感持てる』
「うるさいクソ蛇」
図星を突かれ定番のセリフを言ったところで、クロトは二人が見つけたモノの場所に向かう。
泉から遠くなく、それもこの泉とセットかのようにあった。
それは石碑だ。
「……ボク文字読めないからなんて書いてあるかわかんない」
「すみません。私も読めません」
「こんな文字俺も知らねーぞ?」
大きな石碑には何かを記す文字が書かれているのだが、その文字を読むことができない。
かすれているや、傷で読み解けないわけではなく。その文字をイロハやエリーだけでなく、クロトも知り得ないものだったからだ。
『そりゃそうだろ。だってこれは魔界文字だからな』
「……魔界文字?」
『そっ。これは人間界と魔界を繋ぐ石門。――魔界門だ』
人間界と魔界は別の次元に存在している。
その世界はどうやって繋がれているのか、幾つかは存在している。
次元を超える力を宿した魔の住人。異常気象により空間の歪みから侵入。魔界門を使い移動。
その一つである魔界門が、今三人の目の前に存在していた。
『おそらくルサルカが使ってた魔界門だろうな』
「つまり、この先は魔界って事か……。よし、もういいだろお前ら?」
謎の物体が何かわかればクロトはこの石碑に用はない。
興味本位に石碑を観察、べたべたと触っていた二人に向けて呼びかける。
イロハとエリーはハッとして、一緒になってクロトを見た。
「はーい」
「わかりました、クロトさん」
確認も取れた。なら二人がこれ以上この石碑を気に留めるわけにもいかない。
すぐにクロトに駆け寄ろうとした時……それは起きた。
石碑からわずかに離れた途端、石碑は光を放って三人の目を引く。
いったい何が起きたのか。急な動作をとる石碑。
その理由など、この石碑には一つしかない。
『……どういう事だっ。門が……開く!?』
フレズベルグが焦る。
魔界門が動くという事は、魔界へ繋がる門が開くという事だ。
「クソ蛇! お前なんかしやがったのかよ!!」
『俺じゃねーって!! 俺たちは魔銃にいるんだぞ!? 魔力に反応しなければ、こんなの開かねーって!!』
視界を遮るほどの光。
光は門にへと形を変え、誰の意思にも反してその扉を開いた。
突風の様な勢いで三人を門は引き寄せる。
「クロトさんっ」
クロトは第一にエリーに手を伸ばした。
できる事なら、この門の先に行かぬ様にと……。
だが、門は三人を容易く呑み込み、無慈悲に扉を固く閉ざす。
光を失い、ただの石碑となった魔界門。
それを微精霊たちが目撃していた。
『……どうしよう?』
『どうしよう?』
『勝手に門が開いちゃった』
『事故? それとも……』
『わかんない。わかんない』
『でも大変』
『――厄災の子が魔界に行っちゃった』
0
あなたにおすすめの小説
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
ワケあり公子は諦めない
豊口楽々亭
ファンタジー
精霊の加護により平和が守られている、エスメラルダ公国。
この国の公爵家の娘、ローゼリンド公女がある日行方不明になった。
大公子であるヘリオスとの婚約式を控えた妹のために、双子で瓜二つの兄である公子ジークヴァルトが身代わりになることに!?
妹になり代わったまま、幼馴染みのフロレンスと過ごすうち、彼女に惹かれていくジークヴァルト。
そんなある日、ローゼリンドが亡骸となって発見されて……───最愛の妹の死から始まる、死に戻りの物語!!
※なろう、カクヨムでも掲載しております。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。
【完結】追放王女は辺境へ
シマセイ
恋愛
エルドラード王国の第一王女フィリアは、婚約者である王子と実妹の裏切りにより、全ての地位と名誉を奪われ、国外へ追放される。
流れ着いた辺境のミモザ村で、彼女は持ち前の知識と活力を活かして村人たちの信頼を得、ささやかな居場所を見つける。
そんな中、村を視察に訪れた領主レオンハルト辺境伯が、突如として発生した魔物の大群に襲われ深手を負う。
フィリアは機転を利かせて危機を乗り越え、辺境伯を献身的に看護する。
命を救われた辺境伯はフィリアに深く感謝し、その謎めいた素性に関心を抱き始める。
【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★2/17 番外編を投稿することになりました。→完結しました!
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/2/24:『ぬかるみ』の章を追加。2026/3/3の朝頃より公開開始予定。
2026/2/23:『かぜ』の章を追加。2026/3/2の朝頃より公開開始予定。
2026/2/22:『まどのそと』の章を追加。2026/3/1の朝頃より公開開始予定。
2026/2/21:『おとどけもの』の章を追加。2026/2/28の朝頃より公開開始予定。
2026/2/20:『くりかえし』の章を追加。2026/2/27の朝頃より公開開始予定。
2026/2/19:『おとしもの』の章を追加。2026/2/26の朝頃より公開開始予定。
2026/2/18:『ひざ』の章を追加。2026/2/25の朝頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる