厄災の姫と魔銃使い:リメイク

星華 彩二魔

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第五部 四章 「蛇と鳥」

「巣立ち」

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「……な、なに言ってんだ……お前っ」

 唖然として、フレズベルグは驚きを口にしてしまう。
 ニーズヘッグは苦笑で応えると、聞き間違いでなかったのだろフレズベルグは余計に狼狽。

「相手は霊獣だぞ!? 魔獣の中でも危険な奴だっ。あれを殺した奴なんて、知らないぞ!?」

「誰も仕留めるまで言ってねぇよ。少しでも動きを止めて、追えなくするくらいだ」

「でも……っ、そんなこと……」

「やりもしないでできねーって言ってる場合じゃねーだろうが!」

「……ッ!」

 ビクッと、フレズベルグは怯えた反応をとってしまう。
 
「わ、悪いっ。……でも、お前も此処で終わるつもりなんてねーだろ?」

「そ……それは、そうだが……」

 このまま何もしなければ、あるのは【死】のみだ。
 魔界で弱い者が強い者に狩られるなど、よくある事でしかないが。諦めない事の理由にはならない。
 フレズベルグを落ち着かせ、作戦を速やかにたてる。
 
「……っ。そ、そんなのでいいのか!?」

「いい! 俺は死ぬ気ねーし、お前の大事なもん傷つけた奴に一発焼き入れねーと気が済まねぇかんな。お前は無理しない程度に、できるだけの事をしてくれっ」

 今のフレズベルグは力の源である翼を負傷している。無理に力を使おうとすれば、それは己にも影響を及ぼすものだ。
 ニーズヘッグの忠告を聞き、渋々頷けば、ニーズヘッグも頷いて応答。
 それ以降、両者が言葉を交わす事はなく、大気の乱れが鎮まってゆく。
 同時に、二人は物陰から飛び出し麒麟の視界に入る。
 




 瞬時に、麒麟の目は一体のみにへと向けられる。
 互いに別の方にへと飛び出し、まずは視界をどちらかにしぼらせる。
 麒麟が優先的に捉えたのは、今でも距離を詰めるニーズヘッグだ。
 雷雲から降る蒼雷は狙う蛇だけでなく周囲にも注ぐ。直撃の寸前、ニーズヘッグは羽衣で身を覆い防ぐも、あまりの威力に小さな体は弾かれる。
 
「……っ!」
 
 踏みとどまるも、一度速度を落としてしまえば雷の的でしかない。
 頭上には雷光が集中し、ニーズヘッグに狙いを定め、落ちる刹那に嵐が周囲を荒らす。
 麒麟の顔が、風により振り向かさせられた。
 何処を見渡しても、暴風に遮られ視界と、大気を荒らされ周囲の魔素を搔き乱し魔力探知を妨げる。
 暴風の外では麒麟を竜巻で閉じ込めたフレズベルグがいた。
 しかし、かざす手は震え、風を維持するだけに腕が暴風に押し負けそうになる。
 歯を食いしばり、それに耐えながらフレズベルグは力のある限り叫ぶ。


「――早くしろっ、!!」


 直後、無差別に降り注ぐ雷が周囲を襲う。
 直撃はせずとも、フレズベルグは衝撃で飛ばされ風を手放す。
 麒麟を覆う風が弾けて消えると同時。入れ替わる様に今度は竜燐を宿す羽衣が視界を覆った。
 
「――まっかせろぉおお!!!」

 フレズベルグの声に、ニーズヘッグは応える。
 羽衣を手放し、麒麟の頭にニーズヘッグは取り付き、周囲を羽衣で閉ざす。
 頭を振るい、振り払う麒麟は何度も雷を落とした。羽衣は直撃するもニーズヘッグの意思に応えそれらを逸らし防ぐ。

 ――やっぱりそうだ。コイツ、自分からは雷出せねぇんだ!!」

 麒麟が放つ雷は全て雷雲から呼び寄せるもの。
 今ニーズヘッグを阻むのは暴れる麒麟の身のみ。
 ニーズヘッグは羽衣の繭の中、麒麟と己に向け、逃げ場のない灼熱をその身に浴びる。
 一度も放ったことのない、ニーズヘッグが今出せる最大火力の炎の中で、最悪の我慢比べが襲う。
 最初に意識を手放した方が負ける。
 ニーズヘッグには炎に耐性がいくらかあっても、自ら焦がす熱の中を無傷でいる事はできない。
 肌が焼け焦げる感覚を今初めて味わっている。

 ――爺、よくマグマの中に居られるな……っ。俺には、まだ無理そうだ。

 一瞬、サラマンダーの顔が脳裏をよぎる。走馬灯だと実感すれば、意識を手放してなるものかと死に物狂いで掴み取る。
 
「――落ちろぉおおぉおおおお!!!!!」






 天を見上げ、倒れていたフレズベルグは、呆然としてから我に返る。
 空には未だ雷雲が存在している。急いで身を起こし、最初に見たのはニーズヘッグの羽衣でできた繭だ。
 それはしだいにほどけ、中身を露にしていく。
 身を焦がし黒ずんだ麒麟と、それに取り付いていたニーズヘッグ。
 ニーズヘッグは息を切らせ、ついに力を使い果たして崩れ落ちた。
 未だ立つ麒麟。どちらが勝ったのか、最悪の結末にフレズベルグは双眸を見開き肝を冷やす。……が。
 麒麟の目は光を失い、遅れてその身を地に倒す。
 
「……や……た? ニーズヘッグ!」

 慌ててフレズベルグがニーズヘッグに駆け寄る。
 呼吸を乱しながらも、次にニーズヘッグは手を天に伸ばし、「勝った」と、「してやった」と、胸を張って勝利を宣言した。

   ◆

 麒麟の脅威から逃れた二人は、真っ先にサラマンダーの領域にへと戻る。
 領地から離れられないサラマンダーにとって、最初の暴風とそれ以降の落雷からどれだけ寿命を縮めさせられた思いでいたか。
 案の定、戻ってきたニーズヘッグを見て心臓が飛び出るほどの衝撃を受けた。
 落雷多々あった麓から戻り、その身は初めて見るほど負傷しており、その傍らには半泣きで翼を傷つけているもう一体の悪魔が。

 ――ウチの子が他所の子を泣かせて帰ってきおった!!?

 見ただけでそう判断してしまい、ニーズヘッグを問い詰める。

「どういう事だニーズヘッグ!? あれだけ他所に迷惑かけるなと言っとるだろうが!!?」

 第一声がそれだ。
 最初は怪我の様子に怒りながら心配すると思っていたが、あまりの的外れな事にニーズヘッグも返事が遅れてしまうほどだ。

「爺、俺泣いちゃうぞ? 必死こいて馬鹿ウマから逃げてきたのによぉ」

「それはぁ……よく帰ってきた……。だがニーズヘッグ! 他所の子泣かしちゃいかんだろ!? よりにもよって女児じょじではないか! 男がなにしとる!?」

 サラマンダーが怒鳴ると、隣のフレズベルグがまた涙を溢れさせてしまう。
 それに戸惑うサラマンダーはなんとかして泣き止まそうとするも、フレズベルグは怒鳴られて泣いているのではない。

「だからぁ……、違うのにぃ……」

「な? やっぱ爺も間違えただろ?」

「……嘘だぁ」

 泣き崩れるフレズベルグ。
 代わりにニーズヘッグが事情を説明してやると、更にサラマンダーは衝撃を受け、絶句したとか……。





「だぁっはっはっはっはっ! まさかとはな! これはさすがに驚いた」

 傷を癒すため湯に浸るニーズヘッグとフレズベルグ。一緒にサラマンダーも付き添い、誰もが裸の付き合いをしていた。
 未だフレズベルグは手で顔を隠しながら気落ちしていた。
 
「というか、あの蟲どもが捜していたのはお主だったか。いや~、あの後潰したって? 晴々したわっ。ワシ、あそこの蟲は嫌いでな」

「あと馬鹿ウマも焼いといた! やっぱ俺ら最強じゃね? なあ!?」

「……それは……褒めてるのか?」

「褒めてるに決まってんだろうが。なあ、爺っ。俺、フレズベルグと一緒に此処を出ようと思ってんだよ。いいだろ?」
 
 思い出したかのように、ニーズヘッグは少し前に告げていた独り立ちを掘り返す。
 数秒、悩む表情をとるサラマンダーだが、最初の時とは違い苦笑だ。
 
「……まあ、いつまでも巣立ちできんのはよくないからなぁ。ただし、ワシは責任をいっさい負わんぞ? 魔界で生きていくからには自分でなんとかせねばならんのだからな」

「わーってるって」

「……ボクはまだ了承してないんだが?」

「だって、お前一人だとすぐ泣くんだからよ」

「う、うるさい!」

 実際、何度も泣き顔を晒してしまっているため、違うとは否定できずフレズベルグは顔を真っ赤にする。
 同世代の賑わう両者を眺め、サラマンダーは二人の頭をくしゃっと撫でる。

「まあまあ、口喧嘩するのも仲の良い証拠というか、なんとかというか。属違いではあるが、これと仲良くしてくれると助かる。昔っから危なっかしくて寿命を縮められてきたからな」

「は……はあ……」

 ――だろうな……。
 と、フレズベルグはサラマンダーの苦労がなんとなく理解できた。
 フレズベルグ自身も、苦難を共に乗り越えたニーズヘッグの事を嫌悪しているわけでもなく、むしろその存在あってこその今がある。
 与えられた救いの手と未来のために抗う意思。ニーズヘッグとなら、この先にあるだろう過酷な時間も乗り越えられる。そんな安堵がすらあった。
 
「ボクも……コイツの事は……嫌いじゃない。こんなに……良くしてもらったのも……初めてだ。…………感謝している」

 あの時出会えたのがニーズヘッグでよかった。
 あの時一番に駆けつけてくれたのはニーズヘッグでよかった。
 心の底からニーズヘッグを受け入れ、両者の間には深い絆が芽生える。

   ◆

 傷を癒すためしばらくの休息の後に、ニーズヘッグとフレズベルグは山を下りる。
 サラマンダーは多く語らず見送ってくれた。あまり語りすぎれば、名残惜しさが増していらぬ迷いが生じてしまうからだろう。
 ニーズヘッグも、あまり長く話さなくてよかったとすら思った。
 別れの寸前で、一瞬離れる事を拒む気持ちが出てしまいそうだったからだ。
 だが、傍らのフレズベルグのためにもと、駆け足混じりで、背で巣に別れを告げて飛び出す。

「……そういうものなのか?」

「そういうもんだ!」

 共に旅立つうえで、ある事を決めようとする。それは両者だけの呼び名だ。
 一体は呆れる半分、自分のその呼び名が欲しかった。
 口には上手く出せず、「うん」と頷いて一緒になって考えた。
 人の姿の子供が二体。しばらく地面に文字を書きつつ悩んだものだ。
 彼らにとって経験するとは思わなかったことを今行っている。

「……友。それだけでは不十分なのか?」

「もうちょいなんか……」

「…………友は他にも友人と言う」

「友人か。だがありきたりじゃないか?」

「と、言うと?」

「俺らってどっちも初な関係じゃん? なんか、こー……、最初って感じの」

「……1?」

「なんかちげー……」

「ではファーストか? ファーストフレンド……みたいな?」

「なげーよ」

「……潰すぞ?」

「悪い」

 フレズベルグが静かな怒りを向け「潰す」と脅せばニーズヘッグはすぐに謝罪をする。
 考えさせてばかりのため自分も考えることとした。

「……【Aエー】はどうだ?」

「【Aエー】?」

「そう、それっ。……なんかよくないか? 【友人A】! 最初って感じだし」

「あまり長くないしな。……ニーズヘッグがそれでいいなら、ボクもそれでいい」

「じゃあ決まりだ! 俺とお前は【友人A】。フレズベルグ、お前は俺の――最初の友人だっ」

 そう手を差し伸べる無垢な笑みに悪意など一切なく。引かれるようにお互い手を取り合う。
 
  




 ――同時刻。響いたのは金属が崩れる破壊音。
 降り注ぐ細々とした部品は床に散りばめられ、上から見た時にはまるで星屑様。
 見下ろす者。銀の髪の隙間からは、驚愕とした見開く眼差しで言葉を失ってしまっている。
 何事かと、その場にいた誰もが思った事だろう。 
 が表に出さずとも、酷く心の中では驚いているのだという事は、誰もが数百年経とうと拝められないものなのだから。
 崩れたのは幾多の大小、金銀と彩られた懐中時計。
 王の間。玉座に居座る二番席魔王――【時遊びのクロノス】は、しばらくしてから汗を滲ませ、ようやく言葉を口にする。

「……なんだこれはっ。こんな事が……あっていいのかっ?」

 クロノスは、ただ一点だけを見る。
 それは、この間で最も存在感の大きな者。一番席魔王――【極魔神のイブリース】だ。
 イブリースはなにも答えない。ただ、低い唸るような、ため息に近い呼吸を取るのみ。
 他からは「何を観た?」「何が観えた?」と、騒々しくなる。
 耳障りであろうと、クロノスはこの場を静めるために自身の観た、その終点を出す。



「――数百年後……星が全てを喰らう。どの未来も救いがない……。全てが虚無に落ち……終わる」

 
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