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第五部 四章 「蛇と鳥」
「決別」
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まだ幼くして魔界の世に旅立った二体の悪魔、ニーズヘッグとフレズベルグ。
両者にとって、そこらの魔物などは難ではなく、危険な事は少なくもある数日間。
時折口喧嘩や感情的になる事も多々あるが、結局はすぐに仲を取り持ち、愛称である【友人A】をよく言いあう仲。
自由奔放なニーズヘッグと、それに若干振り回されるフレズベルグ。
お互いの悪い所は言いすぎないというものを各々でが決めもしている。
力試しにならない点においてはある程度の退屈もあるが、二体にとって生きるために重要なのは――食糧だ。
「……やべぇ。腹減ったぁ~」
空腹の音を鳴らし、ニーズヘッグはコテン、と地に伏せる。
多くの上位の悪魔というものは自然と大気の魔素を取り込み己の活動元と成す。そのため、彼らには空腹の概念がなく、食すという事はただの気まぐれによるもの。
顕現し、産まれた時から素質を有しているニーズヘッグたちもそれらに該当するが、未だ幼い彼らにその器官は不十分であり、食料が必須となってしまう。もしくは魔素を体内に取り込むための特殊な環境があればよいが、さすがにそのような都合の良い物は早々ない。
これには火山の温泉が恋しくもなる。
仕方がなく、ニーズヘッグは火を起こし、近くを飛んでいた鳥を焼いた。
「よしっ。いっただっきまーす!」
大口を開け、ようやく空腹を満たせれると浮かれる。
その背後から――
「――ニーズヘッグ……?」
ふと、名を呼ばれた途端。ニーズヘッグは焼きあがった肉を口に含む寸前で石化したように固まる。
その時、声を聴いただけでニーズヘッグは酷い寒気をその身に刻む。
呼びかけたのは簡易な勝負に負け、木の実を調達し戻ってきたフレズベルグ。
振り向かずともわかる、フレズベルグの心臓を貫くような痛い視線。
それでも振り向いてしまった時に、ニーズヘッグは汗を滲ませる。
フレズベルグの翡翠の瞳は、酷くニーズヘッグを蔑んだ様子で眺めている。
……最悪、ゴミでも見るようなものだ。
理由は単純明快。フレズベルグの目の前で鳥を焼き食そうとした事だ。
同じ鳥としてそれを目の当たりにして認められるフレズベルグではない。
焦るニーズヘッグはこの修羅場をどう潜り抜けようかと必死に考え……
「……えっと…………、フレズベルグも食うか?」
その一言がどれだけフレズベルグの静かな怒りを煽ったか。
「……まっ、待てフレズベルグ! やめ――――」
ニーズヘッグの言葉を遮り、瞬発的な暴風がその場を吹き飛ばす。
「……だから、悪かったて」
「悪かったで済まされるか、この愚か者! か弱い鳥になんて卑劣な!」
木の実を怒り混じりの大口でかじり、フレズベルグはぷいっとそっぽを向く。
フレズベルグは鳥の類に並々ならぬ愛着を抱いており、危害が知られればこの様に怒り出す。
よく泣きやすい性格でもあるのだが、短期なところもある。
何度も謝り、ニーズヘッグはありがたくフレズベルグの持ってきた実を一緒に食す。
しばらくは不機嫌だろうが、離れようとしないところは可愛くもあり、つい先ほどの暴風を許してしまう。
「そういえば、今ってどのへんだ? 魔界って地図ってあってもいまいちわかんねぇからな」
数日とはいえ、それなりに体力のある限り進み続けてきた。
時にはフレズベルグの翼に頼る事で、その幅も多く広げられる。
「知らんっ。魔界は時に地形を変えてしまう事もあるため、専用の羅針盤か、それらに匹敵する魔道具でなければ正確な位置なんて……」
なんだかんだで応答をするフレズベルグ。
自然的。又は強力な魔獣、魔王による領地の拡大。理由は様々である。
魔素の濃い魔界では、そういった自然現象や意志的なものが容易にあり得る。
そのため、一部の一般魔族が集落を成す村には契約を結ぶことで加護が与えられ、平穏を取り持つことも。
腹を満たせば、また当てのない旅が始まる。
まだフレズベルグは不機嫌なため翼は利用できない。歩き辺りを見渡すも、あるのは暗い荒野のみ。
何か目新しいものが見えるまで進み続けると、廃墟の村にへと着く。
建物の崩壊具合から見て、争った形跡がある。縄張り争いか、魔獣の通り跡か……。その理由を探る事は無駄でしかない。
「初めて見た。こういうの村って奴だろ? そこらの弱い魔族が住み着いてるっていう……」
「……だが、酷い荒れようだな。……まあ、魔界でこういうのは珍しくもないか」
「ふーん。あっけないもんだな」
物珍しそうに、ニーズヘッグは建物の扉の前に立つ。
もしかしたら、扉の先には自分の知らないものがあるかもしれない。という、好奇心が少しでもある。
後方でそういった事に興味のないフレズベルグは呆れてため息しか出ない。
すぐにこんな場所から離れたいと思った矢先……、それは突然と起きた。
フレズベルグの耳元で、何者かが、ふ……っ、と息を吹きかけたのだ。
それに狼狽し、フレズベルグは叫び声をあげて急いでニーズヘッグにへととびかかる。
背を押し、両者は一緒になって扉にへと衝突。ダイナミックな訪問をした。
「いっ、たたた……っ。どうしたんだよフレズベルグ?」
「うぅ~……っ」
床に倒れこみ、上に覆いかぶさるフレズベルグに目を向ける。
訳を聞こうにも、本人すら何があったのかと混乱するまま。
刹那。周囲の空気が変わったことに、二体は気づき、ハッとする。
荒れた荒野の空気はどこへやら。あるのは澄んだ高濃度の魔素と、静かな中に息苦しい重みを感じるもの。
背後では、自分たちが目にしていた扉とは違う、巨大な門が音をたてて締め切られた。
その時点で、この場が先ほどまで自分たちがいた場所でないという事を理解した。
「……な……なんだよ……此処?」
周囲を確認しようとする。しかし、真正面を見た途端、ニーズヘッグとフレズベルグはその存在感に圧倒され身動きができなくなる。
最初に目にしたのは、巨大な魔族。……いや、魔族と呼ぶには軽すぎる。
それは神にも等しいほどの存在感と言っても過言ではないだろう。
漆黒の鎧を身に纏い、堂々と玉座に居座る者。
――魔王の中の魔王。魔界の生みの親にして魔族の始祖。――一番席魔王、【極魔神のイブリース】。
何故その様な魔王の目の前にいるのか。それとも……招かれたのか。なにも理解できずに小さな悪魔たちは言葉を失い、ただその王を見上げるだけだ。
その最中、他に居座っていた魔王たちの小言が左右から取り囲むように聞こえてくる。
「……誰だ? この様な幼体を招いたのは?」
「余興かなんか? ボクはサプライズ嫌いじゃないけど、これはつまんない感じ?」
「まあ、招いたのは誰であれ何かしら理由があるのだろう? ならボクもそれを堪能するだけさ」
幾つか空席はあるが、一番席以外にも魔王がその場には存在している。
威嚇する目や、物珍しそうに見る目。彼らにとって下等であるものを見る目は、どこか嘲笑っている様にすら感じられる。
そういった視線には少し不快にもなるが、それよりもこれだけは問いたかった。
「……まさか……本当に、十三魔王なのか?」
そう呟くニーズヘッグに、一瞬の静寂の後に、おかしく笑う者が数体いた。
「あったり前じゃ~ん。それって聞く意味あるぅ? 意外に知能の低い子だったのかな??」
「そう笑うなセーレ。ボクもつられて笑ってしまったじゃないか」
笑いを堪えられなかったのは二体。
七番席魔王【美像のセーレ】と、六番席魔王【鋼殻蟲のセントゥール】だ。
この場にいるのは一から八番席の魔王たち。上位の半数が勢揃いだ。
先ほどの問いは答えなくても会った時に理解はできていたが、やはり口に出して言いたかっただけに過ぎない。
笑われた途端、ニーズヘッグはキョトンとしてから感情的になって叫ぶ。
「わ、笑うな! わかってても聞いときたい事ってあんだろうが!」
「あははっ。ごめんね~。……でさぁ? 誰? この愚者たちを招いたの? いい加減理由言ってほしいんですけど~?」
セーレは黒髪をかきあげ、自分よりも上の玉座に居座る魔王たちを見上げる。
しかし、誰もその問いに答えようとはしない。
「え~、誰も理由なし? じゃあ外のゴーレムにでも片づけさせてよぉ。用済みならね」
白けて追い払う様に手を払う。
その扱いには納得がいかない。
もし招いた張本人がこの中にいるのならば、理由はあったはずだ。ニーズヘッグたちは訪れたくてこの場にいるのではない。
「ふっざけんなよ! 俺らを連れてきたのがこん中にいるんだろ!? 無責任って言うんだろうが!」
先ほどからニーズヘッグは相手との上下関係など無関係に怒鳴る。
相手は魔界を支配する十三体の魔王だというのに……。
憤怒を抑えきれず中央まで足を進めるニーズヘッグをフレズベルグが引いて止める。
その手は、酷く震えて怯えていた。
「ニ、ニーズヘッグっ。それ以上は……マズいよ……っ」
ニーズヘッグと違い、フレズベルグはこの場がどの世界よりも危険であると理解していた。
以前凌いだ麒麟など比べ物にならない。彼らの怒りに触れれば、一瞬にして葬り去られると危機感を得ていたからだ。
「……帰ろうっ。生きて帰れるなら、それでいいじゃないかっ」
「何言ってんだよフレズベルグ! どう考えても、勝手に連れてきたどいつかが悪いんだろ!?」
恐れよりもニーズヘッグにとって、この現状の理不尽が勝っていた。
「……なんとなくだけど、さっきから強気なのはドラゴニカの所の属じゃないかなぁ? あの羽衣、竜燐が浮かんでいるし。違うかな?」
セントゥールが右となりを見上げる。
四番席魔王【豪竜のドラゴニカ】。彼女は蟲の王に鋭い目を向け、嫌悪した。
「それは侮辱のつもりか? 例えそうであろうとも、あのような無謀で愚かな個体、竜種の恥でしかないな。この場で礼儀をわきまえぬとは」
ドラゴニカはニーズヘッグにとって属の王であり、ニーズヘッグにはその魔力の断片を引き継いでいる。
いわばニーズヘッグにとって親とも呼べる存在だ。
だが、それほどの親しさなど感じられない。
むしろニーズヘッグは反発した目を向ける。
「……たぶん、親っていうもんなんだろうが。第一声がそれかよ? 最悪なんだが!?」
「親……か。こちらからしたら、お前などただの属の一個体でしかないがな? ……部をわきまえろ。脆弱な蛇が」
その言葉は重くあった。威圧が大気全てを重くさせて押し寄せてくるようだ。
魔王にとって脆弱だろう。それは認める。否定すれば、それは嘘となる。嘘を嫌い、その事実を呑み込み、ニーズヘッグはそれでも声をはった。
「あったまきた!! やっぱこれが魔王とか胸糞悪くて吐き気してきたぞ!」
「ニーズヘッグ……!」
羽衣が炎を纏う。それは明らかな敵対行為でしかない。
止めようとしたフレズベルグを振りほどき、一発でもその炎を当てねば気が済まないほどに、怒りは炎となって炎上する。
その敵意に一早く応えた一撃は、一瞬にしてニーズヘッグを叩きのめす。
それは、木の様に太い、鞭の如くあった植物の触手だ。
「さっきから聞いていれば、大口を叩くではないか小僧っ。ドラゴニカだけならいいが、この場の魔王全てにそのような事をほざくとはな!」
ずっと黙っていた八番席魔王【猛華のアリトド】が瞬時に怒号をあげる。
触手はニーズヘッグを門とで潰し、その形は今もあるかは不明だ。
もしかしたら、その一撃だけでこと切れているやもしれない。
中央に残ったフレズベルグはそれを眺め、声をかすれさせた。
恐怖と混乱が混じり合い、どうすることもできない。此処は魔界だ。この場での愚行の結果にすぎなくとも、それを認める事がどれだけ困難か。
「ニ……ニーズヘッグ……っ」
「アリトドぉ、それはさすがに大人気なくないかぁ?」
フレズベルグの肩が、ビクリと跳ねあがる。
軽い口調の声が、すぐ耳元に聞こえた。
いつの間にかフレズベルグの背後には玉座から離れたセントゥールが、白い髪を撫でていた。
「それに、愚者で脆弱でも、将来才ある悪魔なら糧にもなるじゃないか? もったいない」
「……セントゥールっ。この様な輩を供物とするのはどうかと思うぞ?」
「それを決めるのはボクだろぉ? ……へぇ~、綺麗じゃないか。白いのに七色を宿している。美しさは一級品だね」
「……っ」
賞賛されてもフレズベルグにとってそれは嬉しくない言葉だった。
背後にいるのは蟲の王。その存在には恐怖を体が覚えている。
「そういえば、以前配下が良い供物を見つけたと言っていたが……、君の事でいいかなぁ? あれ以来連絡が途絶えてしまって、少し心配していたんだよ? あそこまで言った供物が無事届くかどうか……てね。配下の無能さには本当に苦労するよ」
要は役に立たない配下など、この魔王にはどうでもよいのだろう。
今はその取り逃がした鳥を前に、上機嫌と舌なめずりしている。
「一応、許可とか取っておこうか。おそらくセーレの属だろぉ? もしかしたら、助けてくれるかもしれないよ?」
その言葉に、少し気が向いてしまった。
一寸でも期待を抱き、フレズベルグは親と言える存在であるセーレにへと目を向ける。
怯えた眼差しがセーレを捉えるも、返ってきたのは冷たい眼差しだ。
「どうだいセーレ? 間違っていたらごめんよ?」
「……間違ってないけどさぁ。……うん。とりあえず、その美しさは見事だよ。ボクにない色と、七色を宿している。それは賞賛される誉れだよ。……でもねぇ? なんか気に喰わないんだよね、それ」
セーレも誉れを口ずさむも、何か欠点があったのか不満を口にする。
「ボクと同じように七色を宿して、なんていうか……当てつけ? そんな感じに見えるんだよねぇ。美しくても……ボクは気に入らないかなぁ」
「……ぇ?」
フレズベルグは恐怖を上回る絶望感が襲う。
目の前にいるのは、それは見事な七色の翼を飾る玉座に居座る、小柄な美しき存在。黒い肌と艶やかな髪。美の象徴ともある魔王。
その黒色はフレズベルグにはない。代わりにフレズベルグにあるのは、彼にない白い色。正反対に七色を宿した事が、セーレにとって気に入らなかったのか、自分を勝るやもしれない美を批難したかったのか……。
セーレはフレズベルグをその場で見放すつもりでいる。
「あははっ。セーレは相変わらず残酷な美の象徴だなぁ。少しでも愛着はないのかな?」
「愛着ぅ? まあ、その美しさはもったいないかな~って思うけど。――美しいものの命が散る様もまた、美しいものだからさ」
残酷な発言だ。
セーレはフレズベルグの死を肯定していた。
期待と希望が砕かれ、フレズベルグを虚無感が包む。
初めて会った親という存在に告げられたのは否定であり、子にとってそれ以上の酷な事があるだろうか。
此処で蟲に喰われるのが、フレズベルグの終点。それを心のどこかで、仕方なく受け入れるものがわずかにあった。
その反面、死にたくないという気持ちが涙となって溢れてしまう。
最後くらい無様に泣く姿を晒したくなどなかった……。
晒すなら……傍らにいた者の様に…………。
――勇敢に抗って……悔いなく終わりたかった……。
そんな、細やかな願いが散る寸前、涙に濡れた頬を暖かな熱気が撫でた気がした。
思わずフレズベルグは翡翠の瞳を見開き、前を見る。
その時、火花が舞い、門にへと叩きつけられていた触手が燃え焦がれる。
「……ッ!?」
炎を植物を焼き、王の間に火花と熱気を拡散させた。
「――あっつ!!?」
突拍子もなく、三番席魔王【冥王のハーデス】が叫ぶ。
それには、周囲の魔王の誰もが目を見開き、驚きを隠せずにいた。
魂的存在であるハーデスに熱を感じる感覚などない。にも関わらず、ハーデスは大気に散りばめられた火花に触れ、感じた熱に対して声をあげたのだ。
ハーデスの隣で居眠りをしていた五番席魔王【夜王のロード】が、ふと目を開き、下を見る。
「…………業火の蛇…………か」
それは、魂すら燃やす炎。
門に叩きのめされたはずの身が姿を現す。
炎を滾らせ、炭になった触手を羽衣が払いのける。
小さな悪魔の眼差しに闘志が消える事はない。むしろ、よりその炎は燃え盛る一方だ。
けして無傷ではない。不意に受けた一撃は立ち上がるニーズヘッグの身に痛みを刻みつけている。
だが、それがどうしたと、ニーズヘッグは叫ぶ。
「ふざけんなよクソチビ!! お前、フレズベルグの親も同然だろうが!? そんなお前が、そいつ見捨ててんじゃねーよ!!」
「……ははっ。初めて聞いたかも……っ。誰が……クソだって?」
美の象徴たるセーレが、初めてその身を侮辱された。
それはこれ以上ない屈辱だ。
ひきつった笑みの奥には静かな怒りが灯っている。
「ああ、くっそ!! やっぱ胸糞わりー!! どいつもこいつも、性根が腐ってやがるのか!? 爺が言ってた! 身内は大事にするもんだってな!」
ニーズヘッグにとって、もはや親と呼べるのは育てたサラマンダーのみでしかない。
後悔もなく、胸を張ってそれを口にできるほどだ。
「……だ、そうだぞドラゴニカ?」
ふと、二番席魔王【時遊びのクロノス】がドラゴニカに呟く。
その目は何かを訴えているようであり、ドラゴニカは不快になる。
「う、うるさいクロノスっ」
「魔王なんてただ上から目線なだけの奴じゃねーか!」
「…………だ、そうだぞ?」
「だから、やかましい!! こっちに責任を求めるな!」
まるでドラゴニカだけが責任を負わされる様子。属の失態はこの場合王にも響くものだ。
恥に恥が積み重なり、赤き身のドラゴニカの顔が更に赤くなる。
「あとそこのお前! 俺の【友人A】に手を出してんじゃねーぞ!」
「随分活きがいいねぇ。……ボクの苦手なタイプだ。供物はやはり、こう恐怖に染まった様が一番いい」
セントゥールはフレズベルグを見本に出す。
呆気に取られていたが、今も魔王の手の内であることに、フレズベルグの未来は絶望的だ。
炎の中、ニーズヘッグは傷を拭い、まっすぐフレズベルグを見る。
「……ニーズヘッグ。…………ボクはっ」
「そんなんでいいのかよ?」
「……えっ?」
「――そんな奴にいいようにされて、お前はそれでいいのかよ!!?」
ニーズヘッグの怒鳴り声に、フレズベルグは身が跳ね上がる。
「お前はそれで後悔ねーのかよ!? 最初言ってたろ? そんなのに喰われるのが嫌で、必死に逃げたって!」
「……それはっ」
「みっともなくても足掻けよ! 死んだらそこで終わりだろうが! 魔王があてになんねーなら、俺がお前の悪足掻きに付き合ってやるよ!! お前は俺が認めた、【友人A】なんだからよ!!」
「……っ」
「いや~、仲睦まじいねぇ。ちょっと嫉妬しちゃうかも。……とりあえず、変な気を起こさないように、先に翼をもいでおいた方がいいか」
セントゥールの手がフレズベルグの翼に伸びる。
触れる寸前、その手をフレズベルグは掴み取った。
なんのつもりか。そう疑問に思ったセントゥールの手が、一瞬の静寂に軋む音を響かせた。
「――ボクの翼に……触れるなっ」
――バキンッ。
金属が砕かれる音。フレズベルグに掴まれたセントゥールの指の一本が、その時潰し曲げられた。
驚きを禁じえず、その予想外の隙をついてフレズベルグは突風を呼び自身とセントゥールを弾き飛ばす。
吹き飛ばされたフレズベルグをニーズヘッグが受け止める。フレズベルグの心臓は緊張と咄嗟の行動に鼓動を早め落ち着くのに時間をかけた。
怖かっただろう。その場から逃げ出す事に、どれだけの意志の強さが要求された事か。
「やればできるじゃんかよ。さすが俺の【友人A】っ」
「……っ、うるさい。心配かけさせおって。この愚か者ぉ」
「へへっ。わりぃっ」
なんとか危機を脱するも、それを上回る最悪が待ち構えている。
少なくとも、ニーズヘッグとフレズベルグは複数の魔王を敵に回してしまった。特に、この騒動に敵意をむき出しにしたのは、セントゥールとアリトドだ。
「よくもセントゥールを……っ。生きて帰れると思うなよ、貴様ら!」
「……勝手に手を出そうとしないでもらえるかな、アリトド? さすがにボクの身に傷を付けたんだ、死んだ方がマシと言えるほどの苦しみを与えないと……ね。いいだろう? ドラゴニカっ」
最終確認として、セントゥールは怒り混じりの声でドラゴニカに問いかける。
しかし、その結果すらも予想ののできるものだ。
「己の失態も拭えぬ奴に生きる価値はない。……やりたければやれ」
そういうと、ニーズヘッグも思っていた。
むしろ、大声で宣言してくれた事に清々しさすら感じられる。
死ぬつもりはないが、死んだとしても悔いはないくらいだ。
それはニーズヘッグだけでなく、フレズベルグも同じである。
「怖くねーのかよ?」
「怖くても、お前と一緒ならいいさ」
「やっぱお前といれて正解だった」
「ボクもだ。……例え死んでも、ボクは悔しくないさ」
互いに手を取り合い、強く握る。
そう意志を固め、迷いのない意志と共に前を向く。
魔王との一戦。それは早々味わえるものではないだろう。一生に一度、あるかないかのものだ。
それに挑もうとした幼き悪魔。その二体の双眸が、ふと丸くなる。
殺意を出す魔王たち。その更に奥で見えた影に、なぜか意識が集中してしまった。
それは、この場では初めて見る姿やもしれない。この場の魔王の顔は一通り見たはずだが、それらに該当しない新たな姿。
その存在は刹那を永遠と思える時の中で静かにたたずみ……、一瞬にして目の前に迫ったかと思えば、ニーズヘッグとフレズベルグの視界すら奪い強い衝撃を与えて突き飛ばした。
「――ッ!!?」
突き飛ばされてから驚き、勝手に開いた門を超え、ニーズヘッグたちの姿はその場から消えた。
門が閉まると同時に、一気に静まった部屋では突然の事に殺意を吹き飛ばされたセントゥールが目を丸くしてしまう。
狼藉を働いた愚者をこの場から逃がした者がいる。その存在を目の当たりにすると、セントゥールは苦笑して肩をすくめる。
「……突然どうされたのかな? イブリース殿?」
一番席には巨体の魔王であるイブリースは玉座に腰かけたまま。
しかし、セントゥールはその者をイブリースと称した。
その身は漆黒の鎧を纏う騎士。大きさはセントゥールとさほど変わらない。人並程度のもの。
纏うマントを翻し、騎士はなにも言わずに一番席にへと静かに戻っていく。
「久しぶりに見た。何十万分の一かのイブリース。……もしかして何百万分?」
「それでも二体を放り出すなど赤子の手をひねるのと同じ……、いや、呼吸をするのと同等か」
「一瞬だったからのぉ……。気づいたら終わっておった」
「さすがはイブリースだ。我の目でも今のは捉えられなかった……」
誰もがその圧倒的なものを称賛する。
セントゥールも仕方なく玉座に戻る。そこからはしばし例の悪魔たちの話題が団欒となって語られたものだ。
暇を持て余す魔王たちの気が瞬時に変わったのも、全てはイブリースが動いた事による。
イブリース自らが二体を追い出した。それを知って尚追い詰めるのはイブリースの行動を無にする事となる。そうなれば、魔王だろうと容赦なく咎められることだろう。
そのため、この場で今回の件は水に流す事を自ら強いらせる事とした。
少々騒々しくなる間の中、再び居眠りを再開しようとしたロードが細い目を黙々とするクロノスに向け、小さく呟く。
「……性格が悪いなクロノス。……招いたのはお前なのだろ?」
「…………ふっ。さあな。……もしそうだたとしても、お前が気にする事ではない。……全ては、イブリースのためなのだからな」
――そう……。来る終焉を回避するための……、私の細やかな抗い……。その一つに過ぎないのだからな。
************************
『やくまが 次回予告』
ニーズヘッグ
「やっべ! マジで死ぬかと思った!!」
フレズベルグ
「よくわからないが……助かった……んだよな? それでいいんだよな!?」
ニーズヘッグ
「とりあえず夢かどうか確かめるか」
フレズベルグ
「ど、どうやってだ?」
ニーズヘッグ
「まず、痛みが有効とか……っ」
フレズベルグ
「こ、こうか……!?」
ニーズヘッグ
「いだだだだだっ!!? なんで俺の頭潰そうとすんだよ、マジで死ぬって!? あとこういうのは自分にやるもんだろ?」
フレズベルグ
「……いや、他人から与えられた痛みの方が、実感あると思ったのだが」
ニーズヘッグ
「た、確かに……っ。この痛みは本物だ。それにしても、俺らの人生ってわりと波乱万丈なのな。よく生きてられたよ未来の俺ら」
フレズベルグ
「そういう発言っていいのか? メタいって奴じゃないのか??」
ニーズヘッグ
「とりあえず、次回って元の時代に戻るのか?」
フレズベルグ
「いや、少しだけこの時代は続くらしいぞ? なんせ、元と繋がるものがあるらしいからな」
ニーズヘッグ
「そっか。しばらくはフレちゃん成分があるんだな。前回はろくになかったからこの期に補充しとかねーと……」
フレズベルグ
「フレちゃん成分ってなんだ!?」
ニーズヘッグ
「次回、【厄災の姫と魔銃使い】第五部 五章「変わらぬ想い」。フレちゃん成分っていうのはフレズベルグの可愛さ養分って感じで、マジで癒されるやつ」
フレズベルグ
「頼む。予告を台無しにする感じにするのはやめてくれ」
ニーズヘッグ
「……わりと俺的にはマジなんだが?」
両者にとって、そこらの魔物などは難ではなく、危険な事は少なくもある数日間。
時折口喧嘩や感情的になる事も多々あるが、結局はすぐに仲を取り持ち、愛称である【友人A】をよく言いあう仲。
自由奔放なニーズヘッグと、それに若干振り回されるフレズベルグ。
お互いの悪い所は言いすぎないというものを各々でが決めもしている。
力試しにならない点においてはある程度の退屈もあるが、二体にとって生きるために重要なのは――食糧だ。
「……やべぇ。腹減ったぁ~」
空腹の音を鳴らし、ニーズヘッグはコテン、と地に伏せる。
多くの上位の悪魔というものは自然と大気の魔素を取り込み己の活動元と成す。そのため、彼らには空腹の概念がなく、食すという事はただの気まぐれによるもの。
顕現し、産まれた時から素質を有しているニーズヘッグたちもそれらに該当するが、未だ幼い彼らにその器官は不十分であり、食料が必須となってしまう。もしくは魔素を体内に取り込むための特殊な環境があればよいが、さすがにそのような都合の良い物は早々ない。
これには火山の温泉が恋しくもなる。
仕方がなく、ニーズヘッグは火を起こし、近くを飛んでいた鳥を焼いた。
「よしっ。いっただっきまーす!」
大口を開け、ようやく空腹を満たせれると浮かれる。
その背後から――
「――ニーズヘッグ……?」
ふと、名を呼ばれた途端。ニーズヘッグは焼きあがった肉を口に含む寸前で石化したように固まる。
その時、声を聴いただけでニーズヘッグは酷い寒気をその身に刻む。
呼びかけたのは簡易な勝負に負け、木の実を調達し戻ってきたフレズベルグ。
振り向かずともわかる、フレズベルグの心臓を貫くような痛い視線。
それでも振り向いてしまった時に、ニーズヘッグは汗を滲ませる。
フレズベルグの翡翠の瞳は、酷くニーズヘッグを蔑んだ様子で眺めている。
……最悪、ゴミでも見るようなものだ。
理由は単純明快。フレズベルグの目の前で鳥を焼き食そうとした事だ。
同じ鳥としてそれを目の当たりにして認められるフレズベルグではない。
焦るニーズヘッグはこの修羅場をどう潜り抜けようかと必死に考え……
「……えっと…………、フレズベルグも食うか?」
その一言がどれだけフレズベルグの静かな怒りを煽ったか。
「……まっ、待てフレズベルグ! やめ――――」
ニーズヘッグの言葉を遮り、瞬発的な暴風がその場を吹き飛ばす。
「……だから、悪かったて」
「悪かったで済まされるか、この愚か者! か弱い鳥になんて卑劣な!」
木の実を怒り混じりの大口でかじり、フレズベルグはぷいっとそっぽを向く。
フレズベルグは鳥の類に並々ならぬ愛着を抱いており、危害が知られればこの様に怒り出す。
よく泣きやすい性格でもあるのだが、短期なところもある。
何度も謝り、ニーズヘッグはありがたくフレズベルグの持ってきた実を一緒に食す。
しばらくは不機嫌だろうが、離れようとしないところは可愛くもあり、つい先ほどの暴風を許してしまう。
「そういえば、今ってどのへんだ? 魔界って地図ってあってもいまいちわかんねぇからな」
数日とはいえ、それなりに体力のある限り進み続けてきた。
時にはフレズベルグの翼に頼る事で、その幅も多く広げられる。
「知らんっ。魔界は時に地形を変えてしまう事もあるため、専用の羅針盤か、それらに匹敵する魔道具でなければ正確な位置なんて……」
なんだかんだで応答をするフレズベルグ。
自然的。又は強力な魔獣、魔王による領地の拡大。理由は様々である。
魔素の濃い魔界では、そういった自然現象や意志的なものが容易にあり得る。
そのため、一部の一般魔族が集落を成す村には契約を結ぶことで加護が与えられ、平穏を取り持つことも。
腹を満たせば、また当てのない旅が始まる。
まだフレズベルグは不機嫌なため翼は利用できない。歩き辺りを見渡すも、あるのは暗い荒野のみ。
何か目新しいものが見えるまで進み続けると、廃墟の村にへと着く。
建物の崩壊具合から見て、争った形跡がある。縄張り争いか、魔獣の通り跡か……。その理由を探る事は無駄でしかない。
「初めて見た。こういうの村って奴だろ? そこらの弱い魔族が住み着いてるっていう……」
「……だが、酷い荒れようだな。……まあ、魔界でこういうのは珍しくもないか」
「ふーん。あっけないもんだな」
物珍しそうに、ニーズヘッグは建物の扉の前に立つ。
もしかしたら、扉の先には自分の知らないものがあるかもしれない。という、好奇心が少しでもある。
後方でそういった事に興味のないフレズベルグは呆れてため息しか出ない。
すぐにこんな場所から離れたいと思った矢先……、それは突然と起きた。
フレズベルグの耳元で、何者かが、ふ……っ、と息を吹きかけたのだ。
それに狼狽し、フレズベルグは叫び声をあげて急いでニーズヘッグにへととびかかる。
背を押し、両者は一緒になって扉にへと衝突。ダイナミックな訪問をした。
「いっ、たたた……っ。どうしたんだよフレズベルグ?」
「うぅ~……っ」
床に倒れこみ、上に覆いかぶさるフレズベルグに目を向ける。
訳を聞こうにも、本人すら何があったのかと混乱するまま。
刹那。周囲の空気が変わったことに、二体は気づき、ハッとする。
荒れた荒野の空気はどこへやら。あるのは澄んだ高濃度の魔素と、静かな中に息苦しい重みを感じるもの。
背後では、自分たちが目にしていた扉とは違う、巨大な門が音をたてて締め切られた。
その時点で、この場が先ほどまで自分たちがいた場所でないという事を理解した。
「……な……なんだよ……此処?」
周囲を確認しようとする。しかし、真正面を見た途端、ニーズヘッグとフレズベルグはその存在感に圧倒され身動きができなくなる。
最初に目にしたのは、巨大な魔族。……いや、魔族と呼ぶには軽すぎる。
それは神にも等しいほどの存在感と言っても過言ではないだろう。
漆黒の鎧を身に纏い、堂々と玉座に居座る者。
――魔王の中の魔王。魔界の生みの親にして魔族の始祖。――一番席魔王、【極魔神のイブリース】。
何故その様な魔王の目の前にいるのか。それとも……招かれたのか。なにも理解できずに小さな悪魔たちは言葉を失い、ただその王を見上げるだけだ。
その最中、他に居座っていた魔王たちの小言が左右から取り囲むように聞こえてくる。
「……誰だ? この様な幼体を招いたのは?」
「余興かなんか? ボクはサプライズ嫌いじゃないけど、これはつまんない感じ?」
「まあ、招いたのは誰であれ何かしら理由があるのだろう? ならボクもそれを堪能するだけさ」
幾つか空席はあるが、一番席以外にも魔王がその場には存在している。
威嚇する目や、物珍しそうに見る目。彼らにとって下等であるものを見る目は、どこか嘲笑っている様にすら感じられる。
そういった視線には少し不快にもなるが、それよりもこれだけは問いたかった。
「……まさか……本当に、十三魔王なのか?」
そう呟くニーズヘッグに、一瞬の静寂の後に、おかしく笑う者が数体いた。
「あったり前じゃ~ん。それって聞く意味あるぅ? 意外に知能の低い子だったのかな??」
「そう笑うなセーレ。ボクもつられて笑ってしまったじゃないか」
笑いを堪えられなかったのは二体。
七番席魔王【美像のセーレ】と、六番席魔王【鋼殻蟲のセントゥール】だ。
この場にいるのは一から八番席の魔王たち。上位の半数が勢揃いだ。
先ほどの問いは答えなくても会った時に理解はできていたが、やはり口に出して言いたかっただけに過ぎない。
笑われた途端、ニーズヘッグはキョトンとしてから感情的になって叫ぶ。
「わ、笑うな! わかってても聞いときたい事ってあんだろうが!」
「あははっ。ごめんね~。……でさぁ? 誰? この愚者たちを招いたの? いい加減理由言ってほしいんですけど~?」
セーレは黒髪をかきあげ、自分よりも上の玉座に居座る魔王たちを見上げる。
しかし、誰もその問いに答えようとはしない。
「え~、誰も理由なし? じゃあ外のゴーレムにでも片づけさせてよぉ。用済みならね」
白けて追い払う様に手を払う。
その扱いには納得がいかない。
もし招いた張本人がこの中にいるのならば、理由はあったはずだ。ニーズヘッグたちは訪れたくてこの場にいるのではない。
「ふっざけんなよ! 俺らを連れてきたのがこん中にいるんだろ!? 無責任って言うんだろうが!」
先ほどからニーズヘッグは相手との上下関係など無関係に怒鳴る。
相手は魔界を支配する十三体の魔王だというのに……。
憤怒を抑えきれず中央まで足を進めるニーズヘッグをフレズベルグが引いて止める。
その手は、酷く震えて怯えていた。
「ニ、ニーズヘッグっ。それ以上は……マズいよ……っ」
ニーズヘッグと違い、フレズベルグはこの場がどの世界よりも危険であると理解していた。
以前凌いだ麒麟など比べ物にならない。彼らの怒りに触れれば、一瞬にして葬り去られると危機感を得ていたからだ。
「……帰ろうっ。生きて帰れるなら、それでいいじゃないかっ」
「何言ってんだよフレズベルグ! どう考えても、勝手に連れてきたどいつかが悪いんだろ!?」
恐れよりもニーズヘッグにとって、この現状の理不尽が勝っていた。
「……なんとなくだけど、さっきから強気なのはドラゴニカの所の属じゃないかなぁ? あの羽衣、竜燐が浮かんでいるし。違うかな?」
セントゥールが右となりを見上げる。
四番席魔王【豪竜のドラゴニカ】。彼女は蟲の王に鋭い目を向け、嫌悪した。
「それは侮辱のつもりか? 例えそうであろうとも、あのような無謀で愚かな個体、竜種の恥でしかないな。この場で礼儀をわきまえぬとは」
ドラゴニカはニーズヘッグにとって属の王であり、ニーズヘッグにはその魔力の断片を引き継いでいる。
いわばニーズヘッグにとって親とも呼べる存在だ。
だが、それほどの親しさなど感じられない。
むしろニーズヘッグは反発した目を向ける。
「……たぶん、親っていうもんなんだろうが。第一声がそれかよ? 最悪なんだが!?」
「親……か。こちらからしたら、お前などただの属の一個体でしかないがな? ……部をわきまえろ。脆弱な蛇が」
その言葉は重くあった。威圧が大気全てを重くさせて押し寄せてくるようだ。
魔王にとって脆弱だろう。それは認める。否定すれば、それは嘘となる。嘘を嫌い、その事実を呑み込み、ニーズヘッグはそれでも声をはった。
「あったまきた!! やっぱこれが魔王とか胸糞悪くて吐き気してきたぞ!」
「ニーズヘッグ……!」
羽衣が炎を纏う。それは明らかな敵対行為でしかない。
止めようとしたフレズベルグを振りほどき、一発でもその炎を当てねば気が済まないほどに、怒りは炎となって炎上する。
その敵意に一早く応えた一撃は、一瞬にしてニーズヘッグを叩きのめす。
それは、木の様に太い、鞭の如くあった植物の触手だ。
「さっきから聞いていれば、大口を叩くではないか小僧っ。ドラゴニカだけならいいが、この場の魔王全てにそのような事をほざくとはな!」
ずっと黙っていた八番席魔王【猛華のアリトド】が瞬時に怒号をあげる。
触手はニーズヘッグを門とで潰し、その形は今もあるかは不明だ。
もしかしたら、その一撃だけでこと切れているやもしれない。
中央に残ったフレズベルグはそれを眺め、声をかすれさせた。
恐怖と混乱が混じり合い、どうすることもできない。此処は魔界だ。この場での愚行の結果にすぎなくとも、それを認める事がどれだけ困難か。
「ニ……ニーズヘッグ……っ」
「アリトドぉ、それはさすがに大人気なくないかぁ?」
フレズベルグの肩が、ビクリと跳ねあがる。
軽い口調の声が、すぐ耳元に聞こえた。
いつの間にかフレズベルグの背後には玉座から離れたセントゥールが、白い髪を撫でていた。
「それに、愚者で脆弱でも、将来才ある悪魔なら糧にもなるじゃないか? もったいない」
「……セントゥールっ。この様な輩を供物とするのはどうかと思うぞ?」
「それを決めるのはボクだろぉ? ……へぇ~、綺麗じゃないか。白いのに七色を宿している。美しさは一級品だね」
「……っ」
賞賛されてもフレズベルグにとってそれは嬉しくない言葉だった。
背後にいるのは蟲の王。その存在には恐怖を体が覚えている。
「そういえば、以前配下が良い供物を見つけたと言っていたが……、君の事でいいかなぁ? あれ以来連絡が途絶えてしまって、少し心配していたんだよ? あそこまで言った供物が無事届くかどうか……てね。配下の無能さには本当に苦労するよ」
要は役に立たない配下など、この魔王にはどうでもよいのだろう。
今はその取り逃がした鳥を前に、上機嫌と舌なめずりしている。
「一応、許可とか取っておこうか。おそらくセーレの属だろぉ? もしかしたら、助けてくれるかもしれないよ?」
その言葉に、少し気が向いてしまった。
一寸でも期待を抱き、フレズベルグは親と言える存在であるセーレにへと目を向ける。
怯えた眼差しがセーレを捉えるも、返ってきたのは冷たい眼差しだ。
「どうだいセーレ? 間違っていたらごめんよ?」
「……間違ってないけどさぁ。……うん。とりあえず、その美しさは見事だよ。ボクにない色と、七色を宿している。それは賞賛される誉れだよ。……でもねぇ? なんか気に喰わないんだよね、それ」
セーレも誉れを口ずさむも、何か欠点があったのか不満を口にする。
「ボクと同じように七色を宿して、なんていうか……当てつけ? そんな感じに見えるんだよねぇ。美しくても……ボクは気に入らないかなぁ」
「……ぇ?」
フレズベルグは恐怖を上回る絶望感が襲う。
目の前にいるのは、それは見事な七色の翼を飾る玉座に居座る、小柄な美しき存在。黒い肌と艶やかな髪。美の象徴ともある魔王。
その黒色はフレズベルグにはない。代わりにフレズベルグにあるのは、彼にない白い色。正反対に七色を宿した事が、セーレにとって気に入らなかったのか、自分を勝るやもしれない美を批難したかったのか……。
セーレはフレズベルグをその場で見放すつもりでいる。
「あははっ。セーレは相変わらず残酷な美の象徴だなぁ。少しでも愛着はないのかな?」
「愛着ぅ? まあ、その美しさはもったいないかな~って思うけど。――美しいものの命が散る様もまた、美しいものだからさ」
残酷な発言だ。
セーレはフレズベルグの死を肯定していた。
期待と希望が砕かれ、フレズベルグを虚無感が包む。
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その反面、死にたくないという気持ちが涙となって溢れてしまう。
最後くらい無様に泣く姿を晒したくなどなかった……。
晒すなら……傍らにいた者の様に…………。
――勇敢に抗って……悔いなく終わりたかった……。
そんな、細やかな願いが散る寸前、涙に濡れた頬を暖かな熱気が撫でた気がした。
思わずフレズベルグは翡翠の瞳を見開き、前を見る。
その時、火花が舞い、門にへと叩きつけられていた触手が燃え焦がれる。
「……ッ!?」
炎を植物を焼き、王の間に火花と熱気を拡散させた。
「――あっつ!!?」
突拍子もなく、三番席魔王【冥王のハーデス】が叫ぶ。
それには、周囲の魔王の誰もが目を見開き、驚きを隠せずにいた。
魂的存在であるハーデスに熱を感じる感覚などない。にも関わらず、ハーデスは大気に散りばめられた火花に触れ、感じた熱に対して声をあげたのだ。
ハーデスの隣で居眠りをしていた五番席魔王【夜王のロード】が、ふと目を開き、下を見る。
「…………業火の蛇…………か」
それは、魂すら燃やす炎。
門に叩きのめされたはずの身が姿を現す。
炎を滾らせ、炭になった触手を羽衣が払いのける。
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けして無傷ではない。不意に受けた一撃は立ち上がるニーズヘッグの身に痛みを刻みつけている。
だが、それがどうしたと、ニーズヘッグは叫ぶ。
「ふざけんなよクソチビ!! お前、フレズベルグの親も同然だろうが!? そんなお前が、そいつ見捨ててんじゃねーよ!!」
「……ははっ。初めて聞いたかも……っ。誰が……クソだって?」
美の象徴たるセーレが、初めてその身を侮辱された。
それはこれ以上ない屈辱だ。
ひきつった笑みの奥には静かな怒りが灯っている。
「ああ、くっそ!! やっぱ胸糞わりー!! どいつもこいつも、性根が腐ってやがるのか!? 爺が言ってた! 身内は大事にするもんだってな!」
ニーズヘッグにとって、もはや親と呼べるのは育てたサラマンダーのみでしかない。
後悔もなく、胸を張ってそれを口にできるほどだ。
「……だ、そうだぞドラゴニカ?」
ふと、二番席魔王【時遊びのクロノス】がドラゴニカに呟く。
その目は何かを訴えているようであり、ドラゴニカは不快になる。
「う、うるさいクロノスっ」
「魔王なんてただ上から目線なだけの奴じゃねーか!」
「…………だ、そうだぞ?」
「だから、やかましい!! こっちに責任を求めるな!」
まるでドラゴニカだけが責任を負わされる様子。属の失態はこの場合王にも響くものだ。
恥に恥が積み重なり、赤き身のドラゴニカの顔が更に赤くなる。
「あとそこのお前! 俺の【友人A】に手を出してんじゃねーぞ!」
「随分活きがいいねぇ。……ボクの苦手なタイプだ。供物はやはり、こう恐怖に染まった様が一番いい」
セントゥールはフレズベルグを見本に出す。
呆気に取られていたが、今も魔王の手の内であることに、フレズベルグの未来は絶望的だ。
炎の中、ニーズヘッグは傷を拭い、まっすぐフレズベルグを見る。
「……ニーズヘッグ。…………ボクはっ」
「そんなんでいいのかよ?」
「……えっ?」
「――そんな奴にいいようにされて、お前はそれでいいのかよ!!?」
ニーズヘッグの怒鳴り声に、フレズベルグは身が跳ね上がる。
「お前はそれで後悔ねーのかよ!? 最初言ってたろ? そんなのに喰われるのが嫌で、必死に逃げたって!」
「……それはっ」
「みっともなくても足掻けよ! 死んだらそこで終わりだろうが! 魔王があてになんねーなら、俺がお前の悪足掻きに付き合ってやるよ!! お前は俺が認めた、【友人A】なんだからよ!!」
「……っ」
「いや~、仲睦まじいねぇ。ちょっと嫉妬しちゃうかも。……とりあえず、変な気を起こさないように、先に翼をもいでおいた方がいいか」
セントゥールの手がフレズベルグの翼に伸びる。
触れる寸前、その手をフレズベルグは掴み取った。
なんのつもりか。そう疑問に思ったセントゥールの手が、一瞬の静寂に軋む音を響かせた。
「――ボクの翼に……触れるなっ」
――バキンッ。
金属が砕かれる音。フレズベルグに掴まれたセントゥールの指の一本が、その時潰し曲げられた。
驚きを禁じえず、その予想外の隙をついてフレズベルグは突風を呼び自身とセントゥールを弾き飛ばす。
吹き飛ばされたフレズベルグをニーズヘッグが受け止める。フレズベルグの心臓は緊張と咄嗟の行動に鼓動を早め落ち着くのに時間をかけた。
怖かっただろう。その場から逃げ出す事に、どれだけの意志の強さが要求された事か。
「やればできるじゃんかよ。さすが俺の【友人A】っ」
「……っ、うるさい。心配かけさせおって。この愚か者ぉ」
「へへっ。わりぃっ」
なんとか危機を脱するも、それを上回る最悪が待ち構えている。
少なくとも、ニーズヘッグとフレズベルグは複数の魔王を敵に回してしまった。特に、この騒動に敵意をむき出しにしたのは、セントゥールとアリトドだ。
「よくもセントゥールを……っ。生きて帰れると思うなよ、貴様ら!」
「……勝手に手を出そうとしないでもらえるかな、アリトド? さすがにボクの身に傷を付けたんだ、死んだ方がマシと言えるほどの苦しみを与えないと……ね。いいだろう? ドラゴニカっ」
最終確認として、セントゥールは怒り混じりの声でドラゴニカに問いかける。
しかし、その結果すらも予想ののできるものだ。
「己の失態も拭えぬ奴に生きる価値はない。……やりたければやれ」
そういうと、ニーズヘッグも思っていた。
むしろ、大声で宣言してくれた事に清々しさすら感じられる。
死ぬつもりはないが、死んだとしても悔いはないくらいだ。
それはニーズヘッグだけでなく、フレズベルグも同じである。
「怖くねーのかよ?」
「怖くても、お前と一緒ならいいさ」
「やっぱお前といれて正解だった」
「ボクもだ。……例え死んでも、ボクは悔しくないさ」
互いに手を取り合い、強く握る。
そう意志を固め、迷いのない意志と共に前を向く。
魔王との一戦。それは早々味わえるものではないだろう。一生に一度、あるかないかのものだ。
それに挑もうとした幼き悪魔。その二体の双眸が、ふと丸くなる。
殺意を出す魔王たち。その更に奥で見えた影に、なぜか意識が集中してしまった。
それは、この場では初めて見る姿やもしれない。この場の魔王の顔は一通り見たはずだが、それらに該当しない新たな姿。
その存在は刹那を永遠と思える時の中で静かにたたずみ……、一瞬にして目の前に迫ったかと思えば、ニーズヘッグとフレズベルグの視界すら奪い強い衝撃を与えて突き飛ばした。
「――ッ!!?」
突き飛ばされてから驚き、勝手に開いた門を超え、ニーズヘッグたちの姿はその場から消えた。
門が閉まると同時に、一気に静まった部屋では突然の事に殺意を吹き飛ばされたセントゥールが目を丸くしてしまう。
狼藉を働いた愚者をこの場から逃がした者がいる。その存在を目の当たりにすると、セントゥールは苦笑して肩をすくめる。
「……突然どうされたのかな? イブリース殿?」
一番席には巨体の魔王であるイブリースは玉座に腰かけたまま。
しかし、セントゥールはその者をイブリースと称した。
その身は漆黒の鎧を纏う騎士。大きさはセントゥールとさほど変わらない。人並程度のもの。
纏うマントを翻し、騎士はなにも言わずに一番席にへと静かに戻っていく。
「久しぶりに見た。何十万分の一かのイブリース。……もしかして何百万分?」
「それでも二体を放り出すなど赤子の手をひねるのと同じ……、いや、呼吸をするのと同等か」
「一瞬だったからのぉ……。気づいたら終わっておった」
「さすがはイブリースだ。我の目でも今のは捉えられなかった……」
誰もがその圧倒的なものを称賛する。
セントゥールも仕方なく玉座に戻る。そこからはしばし例の悪魔たちの話題が団欒となって語られたものだ。
暇を持て余す魔王たちの気が瞬時に変わったのも、全てはイブリースが動いた事による。
イブリース自らが二体を追い出した。それを知って尚追い詰めるのはイブリースの行動を無にする事となる。そうなれば、魔王だろうと容赦なく咎められることだろう。
そのため、この場で今回の件は水に流す事を自ら強いらせる事とした。
少々騒々しくなる間の中、再び居眠りを再開しようとしたロードが細い目を黙々とするクロノスに向け、小さく呟く。
「……性格が悪いなクロノス。……招いたのはお前なのだろ?」
「…………ふっ。さあな。……もしそうだたとしても、お前が気にする事ではない。……全ては、イブリースのためなのだからな」
――そう……。来る終焉を回避するための……、私の細やかな抗い……。その一つに過ぎないのだからな。
************************
『やくまが 次回予告』
ニーズヘッグ
「やっべ! マジで死ぬかと思った!!」
フレズベルグ
「よくわからないが……助かった……んだよな? それでいいんだよな!?」
ニーズヘッグ
「とりあえず夢かどうか確かめるか」
フレズベルグ
「ど、どうやってだ?」
ニーズヘッグ
「まず、痛みが有効とか……っ」
フレズベルグ
「こ、こうか……!?」
ニーズヘッグ
「いだだだだだっ!!? なんで俺の頭潰そうとすんだよ、マジで死ぬって!? あとこういうのは自分にやるもんだろ?」
フレズベルグ
「……いや、他人から与えられた痛みの方が、実感あると思ったのだが」
ニーズヘッグ
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ニーズヘッグ
「そっか。しばらくはフレちゃん成分があるんだな。前回はろくになかったからこの期に補充しとかねーと……」
フレズベルグ
「フレちゃん成分ってなんだ!?」
ニーズヘッグ
「次回、【厄災の姫と魔銃使い】第五部 五章「変わらぬ想い」。フレちゃん成分っていうのはフレズベルグの可愛さ養分って感じで、マジで癒されるやつ」
フレズベルグ
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クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
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